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【第一夜】空想ドーナツ屋

海岸線沿いの広場の一角に小さなたてもの。
クリーム色の壁に窓がふたつ。窓枠は木製で深い緑色。
屋根には黒い煙突がついている。
戸口は木枠のガラス戸で、学校の教室のような引き戸。今は開け放ってある。
近づいてみると甘さをまとった油のにおい。揚げ物の音。

入ると目の前には無数のドーナツが並んだショウケース。
2段ぞれぞれに載ったトレーの上に、ドーナツが敷き詰められている。
粉糖がかかったもの、チョコレートでコーティングされているもの、クリーム入りのもの、ベーコンやレタスがはさまったおかず系まで。
目移りしてなかなか選べない。

ここは島のドーナツ屋。


店内は照明がいらないぐらい陽の光に満ちている。南向き。
床はコンクリート打ちっぱなしでなめらか。
壁は外壁と同じクリーム色。明るいけれどひんやりする感じ。

ショウケースに向かって右隣にはアイランドキッチン。
大人の肩の高さぐらいまでアクリル板がついているけれど、フラットなデザインなので手元はよく見える。
清潔な水回り。よく乾いた布巾。
キッチンの横にはフライヤーがぴったり並べて設置されていて、揚げている場面こそ見えるようなセッティング。

キッチンスペースの真上には換気扇。
煙突の正体はこの換気扇の出口だったのかと、やっと合点がいく。

キッチンの後ろの壁には、もうひとつシンプルな調理台がつくりつけてある。
生地の発酵やトッピングの仕込みはこちらがメイン。
台の前に立った目線の高さの壁には横長の黒板。
買い物リストや取り置きのメモ、キッチンタイマー。

ショウケースの上にレジがあり、ここでオーダーして会計もする。
ドリンクは近くのコーヒー屋の粉で淹れるドリップコーヒーがメイン。
ケースの上にはフリードリンクが、DURALEXの小ぶりなグラスと一緒に置いてある。レモン水。
冬は手づくり感満載の陶器のマグカップでホットレモンを。

キッチンスペースに向かい合った壁に沿ってちょっとしたイートインスペース。
立ったままでちょうどいい高さの四角いカフェテーブルが2つ。天板は木製、脚は金属製。
横の壁には荷物を掛けられるようなフックが取り付けられている。

BGMはそのときどきだが、海辺のドライブにぴったり系の選曲。
「りんご音楽祭」や「森、道、市場」系のアーティストの曲。
ラジオがかかっていることもある。J-WAVEの文化人の番組とか。


海で泳ぐと消耗する。無性にがつんとしたものが食べたくなる。
浜から歩いてすぐのドーナツ屋の店内は半分外のような解放感で、水着での立ち入りにも寛容。
揚げたてを待つ間、自然光でまぶしいぐらいの店内でしばしぼうっとする。
まどろみながらこれから夜にかけての予定を立て始める。


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