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格ゲー界にも銀の弾丸はないが、火薬ならある

「銀の弾丸など無い」というフレーズを耳にしたことがあるでしょうか。元々は英語の表現ですが、プログラミング界隈の論文で有名になったそうです。

wikiより引用
〜原論文は英語である。日本語では『銀の弾丸はない』と、翻訳されることもある。ブルックスは、「銀の弾丸」(Silver Bullet)として、魔法のように、すぐに役に立ちプログラマの生産性を倍増させるような技術や実践 (特効薬) は、今後10年間(論文が著された1986年の時点から10年の間)は現れないだろう、と記載した。〜

単語の補足
〜銀の弾丸(ぎんのだんがん、英: silver bullet)とは、銀で作られた弾丸で、西洋の信仰において狼男や吸血鬼などを撃退できるとされ、装飾を施された護身用拳銃と共に製作される。〜

「〇〇に『銀の弾丸』なんて無いのさ……」って言いたくなりますよね。カッコいいから。

実際、これを意識した論文をいくつか目にしたことがあります。使いたくなる気持ちは分かります。「銀の弾丸の作り方」とか「銀の弾丸は存在した」とか。現状を解決する特効薬があるのか無いのか、そんな内容です。

銀の弾丸の行方

ニュアンスとしては「問題を解決するような画期的なモノ」を銀の弾丸に例えています。医学の歴史を辿ると分かりやすいかと思います。「この薬さえ飲めば全ての病気が治る!」という万能薬に憧れ研究していた時代がありました。夢のような話ですが、大なり小なり、あらゆる分野で現状を良くするための特効薬を求めてしまうのが人の性なのでしょう。

科学が進んでいない昔の話だろう、と思っていますか?私は現代でもさほど変わっていないと思います。例えば感染症が流行った時、総理大臣が変わった時、あなたが昇進した時、試験勉強の合否を待っている時……何か全てが上手くいって欲しいとか、これさえ乗り越えれば良くなるはずだとか、そういう感覚ありませんか?

それは、無意識に「銀の弾丸はどこかにあるはずだ」と思っている状況に近くありませんか?

冷静に考えれば、全ての事象の因果関係はバラバラなわけですから、一つ上手くいけば全て解決するなんてことはまず無いはずです。しかし人間はどこかで「お金があれば全て解決するんだ」とか「この会社に就職さえできれば人生は良くなるんだ」等と、無いはずの銀の弾丸を求めているのではないでしょうか。

銀の弾丸の『レプリカ』

前置きが長くなりました。私は格闘ゲーム中毒者です。今回は「私も格ゲー初心者の頃、勝つために銀の弾丸があるはずだと思っていたな」と気付き筆を執りました。格ゲー初心者の方々へ、思考の足掛かりになれば良いなと思った次第です。

ついでに、格ゲー界隈、eスポーツ界隈を盛り上げようとしている方々や、逆に憂いている方達へ話題を提供できたら幸いです。

私が格ゲー初心者の頃、銀の弾丸を発見した!と感動した経験があります。ファジージャンプです。格ゲーをやらない方にも伝わるように一言で表すと「ちょっとズルできるテクニック」です。

格闘ゲームの駆け引きは、よくジャンケンに例えられます。ガードは打撃を防げるが投げに負ける……と、俗に言う三すくみが発生します。

このジャンケンで例えば「相手がパー✋を出した時だけチョキ✌️に変化する最強のグー✊」があったらどうでしょう。ズルいですよね?それがファジージャンプというテクニックです。かなり雑ですがイメージで大丈夫です。

約20年前、当時○○生だった星川少年はある強豪格ゲーマーの大会動画を見て感動し、その人がいるインターネット上の掲示板でこのテクニックを学びました。その強豪プレイヤーが後に「対空が出なくてもなんか強いプロゲーマー」「クソキャラ列伝シリーズ」等で有名になるとはこの時は知る由もなく…。好きなセクシー女優についてレスをもらえたのがとても嬉しかったです。

最強のグー✊を知った星川はひたすら練習しました。これがあればジャンケンしなくていいじゃん、と。負けたとしても「今のは最強のグー✊を出すのを失敗しただけだ。もっと練習するぞ」と、この魔法のテクニックを毎日のように練習していました。

格ゲーを理解している方ならお気づきでしょう、この最強のグー✊だけでは勝てません。

理由はいくつかありますが、最大の誤解は「最強のグー✊を出した相手を倒せる魔法のパー✋」が存在したということです。(ファジー潰しってやつ) つまり星川少年は、最強のグー✊を出すのに失敗していたのではなく、相手から「こいつ最強のグー✊ばっかり出してくるから魔法のパー✋を出すか」と読まれていたのです。

銀の弾丸だと信じていたモノは、駆け引きの中では手札の一つに過ぎなかった。万能薬では無かったのです。星川少年はひどくショックを受け、感動しました。「格闘ゲーム、面白すぎるだろ…!」と

駆け引きの真髄

例えば「ジャンプボタンを連打してずっとジャンプしていれば勝てる」というゲームがあった場合、正解行動はジャンプ連打になります。そのゲームは面白いかと言うと、クソゲーと言われるでしょう。

人間同士で対戦するゲームは尚更です。「特定の行動だけしていれば勝てる」なんてものが発見されればすぐに直されるか、誰もやらなくなります。私を含め、なぜ多くの人が格ゲーや対戦系のゲームに夢中になるのか。そこには駆け引きの面白さと「特定の行動に勝つ手段がある」という要素が大きいのではないでしょうか。

例えばジャンプ攻撃が強いゲームでは、当然ジャンプ攻撃を選ぶ回数は増えます。そして相手のジャンプ攻撃を読めていれば対空攻撃という手段で勝てます。この様に、あらゆる場面で高速ジャンケンが発生しています。

攻撃中も、守っている時も、お互い離れて一見安全に見える場面でさえ、ジャンケンが発生しているのです。それに気付いた時の感動と興奮が、1人でも多くの方に伝われば嬉しいです。

駆け引きの中で、手札の種類は重要になります。しかし、これだけやっていれば勝てる、という銀の弾丸は無かったんです。

プロゲーマーさえ誕生すれば、というあの頃


ゲーム外でも、銀の弾丸は存在しませんでした。私がゲーセン住民としてなんとか生きていけるくらいの戦闘力を備えた頃、格ゲー界隈にプロは存在しませんでした。有名なプレイヤーは全国にいましたが、大きな大会で優勝してやっと賞金が少し出るか出ないか……そんな時代です。

「格ゲーで食っていける世界になったら楽しそうだ」「プロゲーマーなんて金にならないから無理だろ」「格ゲー強い奴が尊敬される世界があってもいいだろ」色々な声が飛び交います。

賛否ありましたが「プロゲーマーが生活できる世界」がある種の理想像であり、そんな世界になれば自分達も肯定されるはず。ある種の銀の弾丸幻想だったように思います。

ウメハラさんを筆頭に様々な頑張りがあり、コミュニティは栄え今のプロゲーマーの立場が出来たのは感慨深いです。素晴らしいことです。

しかし今でも「強さがだけが評価されるあの頃の純粋さが無くなった」「対戦の熱量が下がった」「プロゲーマーはタレントやストリーマーになってしまった」と嘆く層もいます。あの頃憧れた夢の世界が始まったはずなのに。

その人達はきっと、銀の幻想を見ていたのでしょう。

火薬があれば銀の弾丸は要らない

万能薬は無いですが、病気は治せます。メカニズムを研究し、理解し、治療方法を導き、解決策を確立させてきました。

狼男や吸血鬼を倒せる銀の弾丸は幻想かもしれませんが、例えば1000発の鉛玉では倒せないでしょうか。火炎放射器、ミサイル、レーザー、ガス、etc…現代科学ならば、何かしらの有効な手段を見つけられそうです。

きっと格ゲー内の駆け引きも、外のコミュニティも、それ以外のあらゆる事象に言えることだと思います。結局我々は一つ一つ事象と向き合い、苦しみながら原因を突き止め、試行錯誤を繰り返していくしかないのでしょう。

その為には熱量……格好つけて火薬に例えましょう……火薬があれば、解決できると思っています。火薬だけでは解決しない問題も、加工したり、別なモノと組み合わせることで人類は様々な困難を乗り越えてきたわけです。苦労も苦痛も伴いますが、現状の改善はできるはずです。

貴方が持っている火薬で、貴方は何をしますか?何かを作りますか?壊しますか?持ち寄って大きな火にしますか?誰かを守りますか?

人生って、自分の中にある火薬を何に使うかって話に着地しそうですが、なんか尊大な話になりそうなので切り上げましょう。なんか燃やしてやろうぜって話です。

格ゲー、やろう。


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