トレンド

Vtuberの「流行」が生まれる構造が欲しい

・なぜ流行が生まれにくいのか?

今回お話しさせて頂くことは数ヶ月ほど前。
ワシの頭に浮かび上がった、たった一つの疑問から端を発する。
「なぜこれほどVtuberのオリジナル曲があるのに、流行歌が生まれないのか?」

人気の曲がないわけではない
現在公開されているVtuberのオリジナル曲はいずれもクオリティ高く、キャッチーな曲から玄人好みな曲まで、実に多様なアプローチの中で次々と良質な楽曲が生み出されている。
再生数においてもめざましい数字を叩き出している動画も見かけるし、熱心なVtuberファンの間ではもはや常識となっている名曲もいくつか存在する。
なのに、それらが界隈の外の人々の間でも流行ったという事例はあまり記憶にない。

悲しいかな、ワシは音楽の「お」の字も分かっていないド素人である。
そんなワシの考える「流行歌」とは、
多くの人々に愛され、多くの人々に歌われ、そのジャンルを知らない人にも周知されている楽曲を指す。
Vtuberという生まれて間もない文化に対して、要求のラインが高すぎるように感じてしまうかもしれんが、ワシがVtuberの曲に寄せる期待の高さとはそのようなものであった。

ネット発のコンテンツから流行歌は生まれにくい、という前時代の決めつけは、既に「ボカロ」などの前例が打ち砕いているし、現に畑違いのVtuberの間でも人気のボカロ楽曲をカバーする動画は数多く見受けられる。もちろん彼らもその曲が好きだから歌っているわけで他人にあれこれ口出しされる筋合いはない。
機械音声であるボカロ曲に、人間の音声を乗せた「カバー」や「歌ってみた」から異なる価値が生まれる意義も存在する。
しかし、それらの意義は何もボカロに限定したものではない。全く同じ声を持つ人間がこの世に存在しない以上、楽曲をカバーする事は、それだけで本来の曲とは異なる価値を生み出していると言える。他の「歌ってみた」ジャンルを見てもボカロのみならず、商業音楽などのカバーなども当然ながら人気のコンテンツである。

ワシの疑問は、なぜその流れがVtuberオリジナル曲では生まれにくいのか
という一点に尽きる。

あるいは良曲だと思っているのはワシを含む少数だったという懸念も頭をよぎったが、クオリティー面で問題があるとはどうしても思えない。
現在も音楽シーンの第一線で活躍する本職の方々が生み出した楽曲も決して少なくはなく、そもそも前述の流行しているボカロ曲を生み出したクリエイターが携わった曲も複数、存在している。
個々の好みはさておき、この点において疑念の余地はないと思われる。
また、未だ周知されていないVtuberの中にも驚くべき才能が眠っている事も併記しておく。

では、知名度が足りないのか。
これについては半々ではないかな、と思う。

現在、Vtuberの活動範囲は実に多岐にわたっている。
ネットに限定したYouTube、VRライブに留まらず、単独リアルライブから、Vtuberが主題ではないライブにまで飛び込み出演を果たし、今年に入ってからは路上ライブまで行う意欲的な方々も出現するようになった。
音楽イベントの数が今年に入ってから一気に急増している事実は、熱心なVtuberファン、もしくはVtuber Newsをご覧の方にはもはや常識と言える。

音楽をメインとしているVtuberの活動は十分すぎるほどに行われている。
しかし現在、ネット上の知見できる範囲において、ユーザー側にそれらの楽曲が広く親しまれているか?と問われると、即答しがたいのも事実である。

誤解がないように断っておくが、全く反応がないわけではない。
彼らの活動は確かに実を結んでいて、Vtuberファンの間では次第に、様々なVtuberのオリジナル楽曲が浸透しつつある。
Vtuberのユーザー間では熱心に情報が交換され、多様なコミュニティーが築かれ、「V音楽」とでも呼ぶべきジャンルのファンが生まれ始めている。

この素晴らしいつながりをもっと盛んにするには何が不足しているのか。
クリエイター側は真摯に作品を作り続け、広める努力をしている。
ユーザー側も作品を愛し、布教し、広める努力をしている。
しかし「爆発的」とまで呼べる広がりは、今をもって存在していないように見える。

ワシは今、この業界に足りないものは、
これらの活動をもっと大規模に拡張する構造である、と考えた。
一言で言ってしまえば、「流行」。
現在のVtuber音楽にはトレンドを生み出す機構が存在しないのではないだろうか?

・流行がなぜ必要なのか?

ここまで書き連ねた事に対して、
「流行なんて必要がない」「そんな軽薄な流れはいらない」
という反対意見も当然、存在すると思う。
クリエイターに与えられる機会の平等を損なう事に不安を覚える人もいるだろう。
猫も杓子も同じものに乗る主体性のなさを嫌う方も少なくはない。

しかし「流行に乗らない」と「最初から流行が存在しない」には雲泥の差がある。
トレンドが生まれる事に関してはメリットとデメリットが存在するが、ここではひとまずメリットのみを述べたい。

流行」というものは実に凄まじい力を持っている。
そのジャンルのみならず、様々な分野に情報を伝播させる可能性を秘めている。

例えば昨今、女子高生とはとんと縁のないおっさんにも、若い女性の間で、「タピオカが流行していた」という情報は広く共有されていた。
駅前などでスマホを片手に立ち止まっている奇妙な集団を見かければ、「ポケモンGOで遊んでいる」程度の事は理解できた。

界隈の外に「Vtuberの事は知らないが曲は知っている」人間を増やすには、まずこのVtuber界隈の中で、誰でも知っている一つの大きな流行が生まれねば難しい。ワシはそう考えている。
ボカロに関する知識に乏しいワシですら、当時、ニコニコ動画のランキングを一見するだけで何の曲が流行しているのかは一目瞭然であった。
あの現象をVtuberの界隈でも再現できないだろうか。
ワシの着想とは、とどのつまりそのようなものであった。

・流行を目指して模索して頓挫する

当たり前ではあるが、流行を生み出す事は容易ではない。
また、Vtuber音楽のトレンドを生み出す機構が存在しない、と前述したが、生み出された音楽をより多くの人に拡散する機構が存在しないかと言われれば、それは大きな間違いである。

現在、REALITYで配信されている「ぶいおん!!」などに代表されるVtuber音楽番組や、プロアマ問わず様々なライターの手によるライブレポート、楽曲の紹介記事が今もネット上に続々と公開されている。
昨年から開催されている、激しい熱量を持ったV音楽イベント「VIRTUAFREAK」ももはや定番イベントと呼べる白熱ぶりである。
いくら流行が生まれてもそこに実がなければ意味がない。
これらはVtuber音楽を「文化」として根付かせるために必要不可欠なものである。

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流行とはこれらの確かな文化に比べて虚ろなもので、虚実で言えば虚に当たる。
ディープなファンではなく、広く浅く、Vtuber音楽への認知を増やすための活動。
故に、これらとはまた違ったアプローチが必要になる。

その中でワシに出来ることは何かないか、と考え、しばらく模索してみた。
所詮は一介のVtuberファンにすぎないワシの出来ることなど大したものではない。
さらに結果から言ってしまえば、この企ては途中で頓挫してしまったのだが、その計画は以下のようなものだった。

実はこの一、二ヶ月ほど、年内に投稿されたVtuberのオリジナル音楽を対象に、ユーザーからの投票を募って、その結果を動画として発表する、という企画を水面下で動かしていた。
平たく言うなら「みんなで選ぶVtuber音楽ベスト30」のようなものじゃな。
誰でも思いつきそうな企画ではあるが、クリエイターや当事者であるVtuberから企画するには少々難しく、なんの技能も責任も持たない身軽な消費者であるワシが提示できるトレンドとしてはこれが頃合いのように思われた。

しかし前述の通り、この企画は頓挫した。

まず投票に関する準備に始まり、その告知の方法やスケジュール、投票方法、エントリー漏れへの対応など基礎的なルールの設定。
投票で上位に選ばれた楽曲を動画としてまとめるには、それぞれの楽曲権利者様への許諾願いの連絡が必要となる。
Vtuber界隈には企業・サークル・個人が混在している為、この応答にもかなりの時間を要することが予想された。当然、返事すらもらえない可能性も考慮しなければならない。
また、このような催しに拒否感を示される方も少なからず出てくるはずである。
自分の知らぬ場所で勝手に投票が行われ、順位を決定したことへの不快感をもつ方の出現は想像に難くない。またこうした企画自体を好まれない方もいらっしゃるだろう。クリエイターのスタンスは尊重されるべきである。
楽曲の動画使用許可と同時に企画参加に対する是非も事後的にせよ、お訊ねする必要も生まれてくる。
使用拒否の返答を頂いた場合は文字のみを表示し、企画そのものへの参加を拒否された場合には除外させて頂き、順位を繰り上げ、繰り上げになった方へまた連絡すると言う工程が新たに生まれてくる。なので、完成までの見通しがどんどんつきにくくなっていった。
更に言えば、活動を停止し、現在連絡がつかなくなってしまった方の楽曲が入選した場合の対処も考えねばなるまい。あるいは最初から条件から外すべきなのか。
これらの問題に加え、過去にネットで行われた同様の投票企画で起きた問題も調べ、この企画でも同様の問題が発生したケースを想定したり、それに対応してルールの洗い直しも要求され、予想されるタスクがどんどん山積みとなっていった。

そして、計画を中止する事にした。
平時に運営しているVtuber Newsに忙殺され気味の昨今、その片手間で動かせる企画ではなかったことが芯から理解できたからである。
残念ではあるが無責任に企画を動かし、多くの方々にご迷惑をおかけするよりは賢明な判断だったと信じたい。
もし仮に他の誰かが同類の企画を立ち上げた場合、気軽にいちユーザーとして参加させていただく所存である。

・ランキングが生み出すトレンドの力

ランキングは時として忌み嫌われることもある。
その多くの原因は一つの評価基準を絶対の価値と思い込む事で、人々の間で無用なトラブルが起きる為である。
しかし、それでもランキングに抗いがたい魅力が存在するのもまた事実である。

テレビの情報バラエティなどでも「ランキング企画」は定番のものとして連発された今でもなおその人気は根強く、繰り返し同様の番組が放送されている。
「人気のラーメンランキング」などが放送されれば、ラーメンにさほど知識も興味もないワシでも何気なくそのまま見てしまう事もしばしばである。
上位の店ともなれば翌日には大いに繁盛する事だろう。

動画サイトという点で言えば、ニコニコ動画のランキングシステムもまた猛威を振るった一例と言える。
前述のボカロからひとたび人気の作品が生まれれば、ランキング上を同一のサムネが埋め尽くす現象は広く知られていたし、あるネタが流行ればそれと同様のネタを用いた多彩な動画がランキングを染め上げ、一つの流行を形作っていく構造はニコニコ動画隆盛の象徴的な光景とも言えた。

現在、Vtuberに関するランキングは、ユーザーローカル様のバーチャルYouTuberランキング、PANORA様のランキング記事、各配信プラットフォームのランキングなどが代表的なものと言える。
PANORA様の「週間VTuberランキング」を除けば、それまでの活動の積み重ねを評価したものである為、個々のVtuberの人気そのものを測る意味合いが強く、新たなトレンドは生まれにくいように思える。(思いがけぬ形で新たなブームが生まれてくる可能性はあるが)

今回の記事では「流行歌」から始まり、ここまでVtuber音楽の流行という観点で話を進めてきた。
そこでふと気になったのだが、Vtuber全体の流行やトレンドは現在、どうなっているのだろうか。
Vtuberの総数も9000人の大所帯ともなればそれぞれ文化や客層も違ってくる。
その中で同一のトレンドが共有される流れはどこから生まれているのだろうか。

・Vtuberのトレンドを支えるもの

さて、古腐った脳味噌を限界まで絞ってみて、今年2019年、Vtuberが発信してVtuberの間で流行したものをざっくりと思い出してみた。
他所から流入したトレンドを除いてこの場で思いつくのは、二つのゲーム。
マインクラフトの箱化」と「Project Winter」通称「雪山人狼」の流行である。

前者の流行は単発や個人のプレイで終わってきたマインクラフトに、企業やグループのメンバーに限定してプレイ環境を整え、共同サーバーの中に架空の居住空間を作り出す人気の企画である。
ただ、この流行は起点が非常に分かりにくい。
にじさんじサーバーが人気コンテンツとして認識される以前から「仮想マイクラ部」や個人グループによる協力プレイ配信は人気のコンテンツであったし、マインクラフトがそもそも人気のゲームであるために「どこから増え始めたのか」という点においては断定しにくい。
現在、主要企業と目されるグループのほとんどが同様の企画を運用している以上、一つの流行には違いないのだが、起点がどこであったのか、ワシには判断がつかない。

それと比較して、後者の通称「雪山人狼」の流行は非常に分かり易かった。
ワシの記憶違いでなければ、6月に行われたコラボをきっかけに爆発的に同様のコラボ配信が増加していった流れは実に鮮烈だった。
制作スタッフへのインタビューでもVtuberの存在が言及されるなど、その影響は大きかったように記憶している。

この爆発的流行はもちろん、配信を行ったVtuberそのものの面白さが起爆剤に違いない。だが、この流行を知った全ての人たちが元の配信そのものを最初から視聴していたのだろうか。
無論、リアルタイムで観られた人は限られているだろうし、その面白さを観たファンの口コミによる拡散も大きな役割を果たしたはずである。
その中で、ワシはTwitterやニコニコ動画に投稿された切り抜き動画の果たした影響も大きかったと考えている。

ここで念のため「切り抜き動画」について説明しておく。
切り抜き動画とは、配信の見所を編集で選りすぐり、短いまとめ動画として仕上げたもので、昨今、長期化しているVtuberの配信の中で新たな導線としての役割が期待されている。
Vtuberお手製のものからファンメイドのものまで、YouTube、Twitter、ニコニコ動画などで公開され、元の配信よりも再生数を稼ぐことさえあるほどである。
企業側もこうした流れに注目しているのか、最近、配信の切り抜き音声に独自の漫画を追加した動画「ぷちさんじ」がにじさんじ公式から投稿され、大きな話題を呼んだ。

試しにニコニコ動画において「にじさんじ」で検索をかけてみたところ、あまた存在するにじさんじ関連の再生数順の上位としては珍しい、ただの切り抜きとして、同コラボ内の「トランシーバー芸」の切り抜き動画が検索結果の上位として表示されていた。
余談だが、この切り抜きから派生する形で音声MADなども作成され、ランキング入りを果たした流れはまさにニコニコ的であった。

思えばVtuberブームの初期にニコニコ動画に投稿されていた「バーチャルyoutuberよくばりセット」シリーズなどはこの切り抜きの走りとも呼べる存在だったように思う。権利面で言えば多々問題のある動画だったが、ここからVtuberの存在を知った、という人も決して少なくないはずである。

切り抜き動画がランキングに上がったり、RT数を稼いで拡散される事により、より多くの人の認知を得ることができる。
より広く。より多くの人に情報を発信できる。
今後、ますます多様化が進んでくるVtuberの流行を支えているものは、これらの切り抜き動画なのかもしれない。

・ココスキの登場

切り抜き動画によって流行が生まれると仮定してみると、そこにランキングシステムを常設することでもっとその流れを促進できないだろうか。

メインのプラットフォームといえるYouTubeは、Vtuber界隈のトレンドを生み出すにはあまりに雑多で広大すぎるし、Twitterはフォローフォロワーのシステム上、拡散範囲が限定されすぎている。
最も条件に適していたように思えるニコニコ動画は、残念ながらネットの匿名文化に染まりすぎていて、Vtuberとの相性はあまり良くないように思えた。

多くのVtuber向け配信プラットフォームが誕生する中、Vtuber専用の動画投稿サイトが生まれてくれないものだろうか。もしそこにランキングが設置されれば、切り抜き動画もオリジナル曲の動画も全て内包することができる。流行の促進も流行歌の誕生も夢ではないかもしれない。
ぼんやりとそんな妄想していた頃にそのサービスは登場した。

Vtuber動画クリップサービス「ココスキ」である。
おめがシスターズが考案したとされるこのサービスは、誰でも簡単に指定された時間の動画を切り抜き、それを共有できる画期的なサービスだった。
ワンタッチでTwitterでも共有でき、おあつらえ向きな事にランキングシステムまで搭載されていた。

ワシはこのサービスを知って、小躍りした。
ココスキが上記の条件をほとんど満たしてくれるサービスだったからである。
あるいは、このココスキから新たなトレンドが生まれるかもしれない。そんな期待さえ持って、その経過を見守っていた。

しかし、ご存知の方もいるように、残念ながら「ココスキ」は一ヶ月ほどでサービスを終了してしまった。
想定していたほど反響を得られなかったのか。それ以外に何か理由があったのか。
素人考えながら動画サイトの運営の難しさを痛感させられる一事であった。

現在、ココスキのサービス終了を受けて、有志が同様のサービスである「Vスキ(旧名・にじスキ)」を始動させている。
ただただ、成功を祈るばかりである。

・最後に

しばらくの間、内々で考えていたことを片っ端から書きなぐってきた為に何やらまとまりに欠ける内容になってしまったが、ひっくるめて言いたいことは全て主題にある通りである。

ここまで何やら偉そうに根拠となるデータもなしに長々と書き連ねてきた訳だが、主観だらけのこの記事には、おそらく解釈違いや間違いが含まれているものと思う。
皆様にはこの記事を読みながら、「ここが間違っている」「ここは正しい」と頭をひねってもらい、そこから今一度、界隈の流行について考えるきっかけになってもらえれば幸いである。

そうして皆でもう一度、界隈がどうすればもっと盛り上がるのか。
流行を生み出すことができるのかを考えてもらいたい。

それこそが今、最もワシが求めるトレンドの一つなのだから。

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