会員が選ぶ2021年ベスト5 選者:nagara

 SFじゃなくてもいいらしい。あと今年じゃなくてもいいらしい。

1.『同志少女よ敵を撃て』(2021・小説) 逢坂冬馬
 一つ目から非SF作品だけど、せっかくなので今年に出た作品を……。ロシアの農村に暮らしていた一人の少女が狙撃兵となり大戦を生き抜いていく様子を描いた一作だが、上官や戦友との人間関係・戦場の緊迫感・主人公の成長と変貌、そのどれをとっても濁りがなく高い水準でまとまっている。今年読んだ作品のなかでもっとも引き込まれた一作で、私の思うこの作品一番の魅力は「巨大な戦争に飲まれて、あるいは飲まれないように抗って変化していく人々」だ。主人公のとてつもない変貌がかくもなめらかに描写されているからこそ、ほかの人物の語られない変貌(あるいは不変な部分)に説得力がある。とにかく面白かった。

2.『Eliza』(2019・ビジュアルノベル) Zachtronics
 海外SFノベルゲー。カウンセリングAIと患者の間に立ち、AIのことばを伝えるだけの仲介役「Proxy」として働く主人公を描いた作品。ほぼすべてが現代と地続きの世界で、現代にも横たわる懊悩を前にカウンセリングの有効性・非力さをありありと目撃することになる。面白いのは「カウンセリングに喋ることばはすべて選択しなければならない」というところだ。もちろんAIのことばを一択で選び続けることになるわけだが、このシステムが主人公の抱えるもどかしさをプレイヤーに直接的に伝えてくる。「私はAIを無視し、自分の意志で喋っています」というのがいいのなら、いわれるがままに言うのがいいんだろう。

3.『人間たちの話』(2019・小説) 柞刈湯葉
 これが表題になっている短編集『人間たちの話』に収録されている。科学一筋で生きてきた研究者が姉の子を預かることになり、社会性の欠けた親と社会の犠牲になってきた子が一つ屋根の下で暮らす物語。テッド・チャンに代表される「技術ではなく、人間にフォーカスを当てる」というストーリーテリングに似ているが、本作は「すべては人間でしかないのだ」という諦観に似たテーマに、非人間を追求した結果として辿り着く。非常に短いながらも圧倒的な読後感があるのは、この作品がどうしようもなく人間の本質的な部分を捉えてしまったからなのだと思う。

4.『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』(2021・ビジュアルノベル) Nikita Kryukov
 このゲームをやる必要がある人間というのがこの世には存在して、そういう人間にこのゲームを配達するためにここに置いておく。

5.『攻殻機動隊 Stand Alone Complex』(2002・アニメ)
 言わずと知れた名作SFアニメ。オープニング映像が秀麗なことでも有名。身体のサイボーグ化や電脳化が普及した未来を舞台に、少数精鋭の特殊部隊の活躍を描いた作品。後の時代の潮流を知っている状態で見るパイオニア的作品にはいつも「二番煎じ感」がつきまとうものだが、この作品には展開の迫力や設定だけに頼らないキャラクターの魅力でこちらを飲み込んでくる勢いがある。2021年にこの作品を見ると「過去のみた未来の外れ度合い」が否応なく意識されるが、そこから見えてくるのは滑稽さだけではなく、現代のやるせなさ――言い換えるならば「未来の凡庸さ」でもある。FutureFunkというジャンルが未来であるように、攻殻機動隊もまた未来であり続けるのだろう。

番外編
『テロ、ライブ』(2021・映画)
 サスペンス映画としてかなり出来が良かったが、ここに入れるやつではない

来年の抱負:三体を読む

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