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草食アングラ森小説賞 大賞は狐さんの『マンソンは死ぬのだろうか?』に決定

 令和3年5月1日から6月1日にかけて開催された「草食アングラ森小説賞」は選考の結果、大賞一本・金賞一本・銀賞一本、評議員の個人賞各一本、ファンアート賞が下記のように決定いたしました。

【大賞】 マンソンは死ぬのだろうか?/狐

受賞コメント
 この度は大賞に選んでいただきありがとうございます! 『アングラ』というテーマで作品を書くなら救いのない話にしよう……と思って書いた物語が受け入れられるかビクビクしていたのですが、名誉ある賞を頂いて新たな自信になりました。
 主催の草食ったさんをはじめ闇の評議員の皆様、読んでくださって感想や⭐︎をくださった皆様に並々ならぬ感謝をしつつ、この言葉で締めさせていただきます。

 初めて大賞取ったぞ!!!!

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狐さんには越智屋さんより副賞のイラストが贈呈されます!構造を的確に捉えた素晴らしいイラストですね……!おめでとうございます!

【金賞】 となりの丸山さん/かねどー

【銀賞】 地獄、ぱらいそ、カルミン/いりこんぶ


【謎のイートハーブ賞】 便利屋マダラ/こむらさき

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【謎の白猫賞】 フランツの家/Veilchen(悠井すみれ)

【謎のポメラニアン賞】 悪趣味/ナツメ


【ジュージさん賞】

下に向かって暮らしていくの/草食った

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薬十夜/ささやか

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【ゐつぺゐさん賞】

偏愛メズマライズ/蒼天 隼輝

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【草くん賞】

我が身貪れアメイニアス/春海水亭

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 ファンアートをかかれた際は是非ご連絡ください! 掲載させていただきます。

【全作講評】

謎のイートハーブ
 こんにちは、主催のイートハーブです。皆様お疲れ様でございました。そして草食アングラ森小説賞にご投稿いただきありがとうございました! 全54作、おもいのほか集まって大変嬉しく思います!!
 そしてリスペクト&オマージュ先に倣いまして、謎の評議員お二人にも協力していただきました。謎の白猫さん、謎のポメラニアンさん、本当にありがとうございました!

 また、独自に講評をつけた評議員三名の合議で大賞を決定し、その過程もすべて公開します。
 以下からエントリー作品の講評です。
 また、ネタバレが含まれる講評もございます。ご了承ください。


1.俺の殺しがバレない理由/只野夢窮

謎のイートハーブ
 只野夢窮さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 キャプションにもある通りにとある殺し屋の話です。殺し屋、アングラとしていい題材ですね! とても好きです。
 こちらもキャプションにある通り殺し屋の関わった殺人における事例を(恐らく)時系列で並べている形です。これがたいへんわかりやすくて、読みやすかったです。三つ目でさっくりと落ちているところもたいへん好きです。
 でもこの三つ目、ちょっと物足りない感はありました。殺人依頼の理由が不明瞭だからかな、と思います。普段ミステリを好むためにホワイダニットが気になっちゃうんですよ……申し訳ない……。殺された誰かの遺族なのかな? シンプルに第三者として殺し屋を知っていて、害虫過ぎるから死んで貰おうと思ったのかな? と色々考えました。このように読後も後を引く感触を残そうと思われての終幕なのでしょうかもしかして……。
 殺し屋の視点で語られているわりに無味乾燥しているな、と感じたのですがこちらは最後まで読んでなるほど! と膝を打ちました。プラス、そりゃばれねえ! と納得する理由でした。
 実際の殺し屋のことはよく知りませんが、連続殺人犯などは自分ルール定めている手合いをちらほら見ますよね(創作も含め……)そのため設定もすっと頭に入ってきて楽しめました。乾いた雰囲気の文体が好みなので、さくさく読めて面白かったです。

謎の白猫
 淡々としていて非常にドライな、殺し屋のひとり語りのお話です。
 最初から最後まで主人公のスタンスがブレないところが非常にかっこいいですね。主人公の中に確固とした価値観があるので、殺人という重めのテーマながらそれに対する作中での動揺がなく、読み心地はライトです。ギャグシーンがあるわけでは無いのですが、飄々とした語り口故にどこか軽妙さがあるのも独特の魅力だと感じました。
 一方で、主人公が変化しないとどうしても物語としては弱くなってしまう部分があるな、とも感じました。いくつかのエピソードが出てくるので、どれか1エピソードにフォーカスしたり、あるいは最後のオチに繋がる伏線があるとよりドラマとして読み応えがあるかもしれません。
 とはいえ、作風的にあえてそういったドラマティック性を排除したかったのかな? とも思いました。主人公の「空っぽ」性と、物語が進展しない(変化を起こさない)作劇がメタ構造になっているようにも読めます。読み終わった時に、悲しいわけではないニュートラルな空虚さが胸に残る作品でした。

謎のポメラニアン
 語り手の殺し屋ですが、自らの主義に則って仕事を遂行するプロ意識が大変高い。依頼の理由は聞かない(深追いしない)だとか、命に分け隔てはしないとか。それら全ては題に示されるように"バレない"理由へと繋がっているのですね。
 創作ですから当然様々な依頼が寄せられることは可能なのですが振り幅がやや急(総理大臣のくだり)になっており、字数との比較で収まりをどの辺りに据えるのかがボヤけて見え、全体的なスケールのバランスを崩しているような印象を受けました。リアリティを無理に出す必要はないかと思いますがその世界に応じた現実味の均衡を保つことで話としての締まりはもっと良くなるのではないかと感じました。
 
"生きていればやれることは沢山あるだろう。"

 病める現代社会の中で期待されるダークヒーロー、それが見せる今世への一抹の憐憫が描かれた部分は大変印象的でした。

2.痰/尾八原ジュージ

謎のイートハーブ
 ジュージさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 伝染病に罹患したとある娼婦のお話です。こーーーれすごい嫌な話ですね、めちゃくちゃ褒めてます。危うくご飯食べながら読むところでした。
 早速褒めという前提で嫌な部分を話したいのですが、まずもって設定がいやらしいですね。下層の偏見を持たれる水商売でも最下層と思しき立場の女性が主人公、もう最悪です。まずい病気にかかっているのに治療もされず離れにぶっこまれ、客はたった一人だけ。その一人も正直、本当にいるのかどうか定かではないラインを守られている、最悪です。
 病気の症状で吐いた血混じりの痰で絵を描くくだりも汚くて最悪なのに絵が喋り出して悪夢度が増し、ここから幕切れまでの出来事が一番最悪で最高でした。凄いですね……いやほんと、井戸にアレした瞬間うわ……って声に出ました。最悪です、好きです。
 ジュージさんは掌編が本当にうまいなといつも思うのですが、こちらも例に漏れず面白かったです。出来事の整理整頓がお上手なのかな? 無駄な描写が散見されず、話自体が脳にすっと入ってきます。やばい女のやばさの表現も本当にお上手だなー真似したいなー! と思いました。
 とてもいいアングラホラーでした。真面目に嫌な話だな……。四十八(仮)というマジモンのクソゲーがあるのですが、中に「とろろ」というホラーがありまして、それを思い出しました。筒井康隆先生のお作だったかな? 興味があれば是非……こちらの「痰」と同じくらいおえええええ! なんですが……。
 面白かったです、ありがとうございました!

謎の白猫
「痰」というシンプルながら絶妙に嫌悪感を呼び起こすタイトル、そして「伝染病にかかったマーゴットは、これまで働いていた娼館の裏手にある、小さな掘っ立て小屋に移ることになった。」という書き出し、これだけでツカミが100点です。海外文学のような世界観に一気に引き込まれます。
 あまりマーゴットの内面に寄らず、客観的に出来事を描写していくスタイルは一種幻想的で耽美な印象を受けますが、それと汚物・病気ネタの取り合わせが良い意味でのミスマッチを生んでいます。
 アングラ要素としては、最後のマーゴットの「アンチ倫理」的な行いがそれに当たるでしょうか。
 さてこのキャッチコピーにもなっている「善いことをしたわ」ですが、これはわたしの読み取り不足だと思うのですが、マーゴットの中でこれが「善いこと」になるロジックがあまりわかりませんでした。わからなくてもいい気もするんですけど、おそらく復讐としてではなく真に善行としてこの行為を為したのではないかと思うので、マーゴットの感じている「善さ」を自分も感じたかったなと思います。
 あとは、「客」の存在を超自然的な存在と取るか妄想と取るかでジャンルが変わる作品だなと思いました。個人的には妄想として、ホラー小説として読みました。短いながらに重厚感があり読み応えのある作品でした。

謎のポメラニアン
 マーゴットの姿から俄にルイ17世の悲劇を見た気がしました。そこまでの酷い境遇ではないかもしれませんが、患う病を癒すこともなく、世間から虐げられて日陰に過ごす立場というものには痛々しさを感じずにはいられません。また痰といえばどうしても不浄を彷彿とします。ですが読み進めていくうちに、マーゴットにとってそれらの痛々しさや汚らしさがただただネガティブなものではないと分かります。寧ろ彼女がそこに見たのは夢や希望、或いは幸福とまで言ってしまえるような前向きなものです。客との対話を通してマーゴットは自らの内側に可能性を見出し、やがてそれは善行であったと誇りを持つまでに至る。
 結末に描かれるのは無。けれどマーゴットが死の淵に際して出会った数々の悟りはそのもっと先に魂を導いたのではないか、そんな余韻が残りました。

3.赤縄/神澤直子

謎のイートハーブ
 神澤さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 とあるSM緊縛クラブでの一幕です。情景スケッチのようなさらりとした描写が内容にマッチしていて、とても楽しくよませていただきました。縛り役のおじさん本当に気持ち悪いんだろうな……。でも気持ち悪いからMっ気のある主人公が余計に興奮したのかなと思いました。
 舞台の緊縛クラブ、そういった方面だと花と蛇くらいしかろくにわかっていないニワカなのですが、正統派アングラな題材選びでたいへん良かったです。
 ただ終わりがちょっと物足りないなとも思いました。起承転結の起承でぶつ切りされたような唐突感が否めなかったため、主人公がこの先通うようになるのかとか、もう一場面あると嬉しかったです。個人の好みではありますが……。
 動きの描写、主人公の心理描写の機微の表現がとてもお上手で、縛り上げられて吊るされてから一気に官能度が上がるところが一番好きでした。めちゃくちゃエッチでびっくりしましたね……起こっていることをそのまま文章におこす力がすごく高い作者さんだなと思いました。
 あまり馴染みのない界隈の話を読めてたいへん面白かったです、ありがとうございました!

謎の白猫
 緊縛モノです。個人的に緊縛は好きです。
 好きと言っても全然詳しくは無いのですが、実は一軒だけそういうバーに行ったことがあります。店の作りとか、だいたいこんな感じなんですよね。わたしもサンプル数1ではあるんですが、非常にリアルだと感じました。
 内容としては初めての緊縛体験記、といった感じで、縄をかけられるごとの恐怖と緊張、そして快楽を瑞々しく描いています。縛り手に「気持ちの悪い男」であるタケさんを持ってきたのも、緊縛の特殊性・非日常感を増しているように思います。
 これは個人的な事情が大きいですが、自分自身も体験したことがあるからこそ、単なる体験記にとどまらず、さらに物語的な発展があると更に面白くなるのではないかと感じました。
 例えば、このバーに集う人々の緊縛に限らない性癖とその人間模様なども見てみたいと思いました。
 主人公がSMの世界に足を踏み入れる第一話という感じなので、もし機会があれば続編もぜひ書いてみてほしい作品です。

謎のポメラニアン
 えっちいですね。SMの世界(本作では緊縛)はよくわかりませんが、神澤さんの文章からはさも見ているかのようなイメージが映像的に伝わってきました。特に後半は熱量の赴くままに勢いよく書かれたという印象があります。
 嫌悪感さえ抱くほどの醜男によって、なす術もなく開発されていく語り手は無力であり、それよりも勝る未知との遭遇を希求せずにはいられない痴態はまさに動物という感じがしました。アングラ版「野生の王国」。
 剥き出しのあれこれから徐々に熱が取り払われ、最後になっても醜男は醜男のままと意見を変えない小さな抵抗にいじらしさを見ました。

4.人形の妻/遠地 薫

謎のイートハーブ
 遠地さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 人形フェチの男と結婚した女の人の話です。こ~~~れすごいですね!? 面白いです。そもそもの文章力がたいへん高く、一度もつっかえず読み通せたことにまず驚きました。川で言うところのトラック(※突然やってくるめちゃうま小説書きさんの意)ですね……。
 フェチズム系統の倒錯としてもすばらしく、おおよそマイナーと思われる性癖を題材に据えつつ、幸福度の高い幕引きと、構成力もかなり高いです。人形が喋るな! と引っ叩くシーン、いつの間にかのめりこんで読んでいたので私までびっくりしちゃいました。無理言うなよ~! とツッコミまで入れてしまったのですが、耐える健気な主人公……。本当に凄いです、人間の描写も申し分ないです。
 二人だけの世界というもの、アングラ度が高いと個人的には思っています。任意の二人が抱える世界を理解できる人間、出来ない人間にざっくりわけられると思うからです。この作品のメイン二人が抱える、ないし閉じこもる世界観、たぶん全然わからない人のほうが多いんですが、無理矢理わからされて終わる感じ……いいですね……めちゃくちゃ面白かったです。
 本当に野生のプロを疑っています。でも二次の知り合い説も疑っています。ワンチャン越智屋さんだなとも思っています(違ったら無視してくださいすみません)
 カクヨムではまだ一作しか投稿されていないので、良かったらこれからもたくさん書いてください。

謎の白猫
 り、倫理……!
 なんでしょうか……個人的には非常に受け入れがたく、それゆえに強くアングラ色を感じる作品です。
「人形」として育てられた女がそれをコンプレックスとし、再度アイデンティティにする話なのですが、そのアイデンティティが常に他者からの承認に寄りかかっていることがまずゾッとするポイントです。
 更に彼女を人形扱いする人物たちは(当然のように)彼女を自分の思い通りに扱おうとするので、これはいわゆる搾取の構造です。
 で、このお話のおぞましいのは、傍から見ると大変に不健全な関係でありながら当事者は双方、特に被搾取側がそれを良しとして、満足している、というのが結果的にハチャメチャにグロテスクだなと思います。
 月経周りに関しては、血が出ることを厭うのにそれを口にするのは平気なんだ……と、実はこの男人形性愛じゃないのでは? と思ったりもしたのですが、自身の知覚より対象の状態を判断基準にしてるのかもしれませんね。
 序盤では部屋に置かれた人形への恐怖や、男が愛しているのが市子の外見に過ぎないということが語られているのに、終盤ではそれに触れられないのが、この段階ではまだその違和感を仮初めの幸福でごまかしているが、やがて破滅がくるのであろうということを予感させます。というか、そうであってほしいです。

謎のポメラニアン
 谷崎の『鍵』、或いは川端の『片腕』といった作品に似た偏愛の物語ですね。夫の二面性、俄かに狂気じみたピグマリオン的愛情は一般の常軌を逸していると言ってもいい。ですが語り手の妻には幼少より「人形」を期待されてきた背景があり、夫の愛情と願望を受け容れ可能な下地がある。愛の形はそれぞれとしながらもこの作品から汲むべきは微妙な違和感ではないでしょうか。市子の本音とも思える末尾の言葉、それが果たして市子自身の願いであるかどうかといった匂わせがあり、祖母からの名付け、不自由な脚、夫の愛などによって嵌め込まれた人生の中に物悲しさを覚える。その憂いによって耽美が完成する物語だと感じました。

5.マンソンは死ぬのだろうか?/狐

謎のイートハーブ
 狐さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!大賞おめでとうございます!!!
 謎のバイトに行くことにする男たちのお話です。ド虚無です。希望もなにもない、死しか待っていない、救いがあると思っているのか? そんな話です、めちゃくちゃ好きですね……。
 タイトルに使われているマンソン、そりゃ死ぬよと思いながらもそれが一番幸福なんだろうなと思い込むことぐらいしか、主人公には残されていない幕引き、たいへん好きです。いろいろあって、何も残らない。これって最高なんですよね。
 あとこう、主催を狙っていただいたんだとは思うのですが、男同士のクソデカ感情本当に好きなんですよね……。主人公の言うことだけは聞く親友、なんですか……? お前が一緒ならってバイトに出てきて、お前はまだ慣れてないからとドラッグ入りフードを主人公のぶんも食べて、愛が重いんですよ。かわいい。ラットなんか飼っちゃってるところも世捨て人になりきれていない雰囲気があって人間くさくてかわいいです。長髪ですか? 長髪でしたね、ありがとうございます。横で指折り始めるのももうすごくかわいくてですね、ナイスオーバードーズです。アンニュイな色気が文章だけで伝わってきました。生活力もなさそうで……かわいいな……好みのタイプです……。
 推しが死人になるの全然OKなので、開幕から死んでくれて助かりました。二人とも天国に行くじゃなく地獄に行くと思っているあたり、元々の素行も悪かったんだろうなーとか色々背景を想像できます。
 最後も本当に何も残らない、最高ですね! サルドルのかわいさに脳が死んでしまったので、まともな講評は白猫さんとポメラニアンさんに任せます。
 と、思ったのですが、大賞に推した理由を書いておこうと思います。実は黒髪長髪だからではありません。構成に引っ掛かる点がなかったこと、小道具の使い方が秀逸だったこと、タイトル・テーマ共に美しく回収されていたこと、作者の書きたかったものが明確で尚且つ描写できていたこと、キャラクター自体は使い捨てですが質感のある人物像であったこと、投稿が計画に則ってなされたこと、などなど。減点箇所がない上に加点要素が多くあり、また、美しく収まっている芸術点の高さも備えた作品でした。改めましておめでとうございます!!!
 すばらしい虚無&すばらしい長髪をありがとうございました、非常に楽しく読みました。

謎の白猫
「サルドルは5分前に地獄に落ちた。」
 はい100点~!! これは大変良い書き出しですね。「5分前」と「地獄」の温度差が大変に詩的でキャッチーさも充分です。
 全体的にとても完成度の高い作品です。まずはアングラ要素ですが、ドラッグ、非合法の仕事、見世物と複数の要素をきちんと必然性をもって組み立てています。
 主人公とサルドルの関係性、これも非常に魅力的です。BL、というわけではないのですが、単純な友情という言葉からはこぼれ落ちるほどのお互いへの強い思い、それがあえなくすれ違ってしまいます。タグにありますがまさに巨大感情ですね。
 そしてラットのマンソンと見世物として無意味な仕事をさせられる自分たちとを重ね合わせる構造。序盤でのマンソンの描写が効いてきます。ここから「マンソンは死ぬのだろうか?」をタイトルに持ってくるというのが粋です。
 ハードボイルドな筆致でウェットな巨大感情を描ききり、最後は虚無のバッドエンドへ。エンタメとしてのアングラのひとつの最適解ではないでしょうか。かなり良過ぎて講評が短くなってしまったのですが、とにかく読んでほしい、小説としての出来が頭ひとつ抜きん出いている作品でした。

謎のポメラニアン
 木賃宿みたいなイメージでしょうか『モンテ・クリスト』という名の居住施設や、ゲージに入った飼い鼠、監視下の作業場など散りばめられた退廃的な情景事物はそのまま世界観の縮図であり大枠としてある閉塞感が表現されています。この閉ざされた世界から生まれる発想は「どうこの状況を逸脱するか」であり、それは彼らの中で闘争なのですが、では勝利とは何か? 友人の選んだ(選ばざるを得なかった)道筋は果たして勝利と呼べるのか? その答えをこの世界観から生まれる発想で読み解くのが大変難しかったです。プロレタリア、アンモラル、ポストアポカリプス。呼び方はなんでも構いませんが「前を向くといった」行為の根本からしてその心情を理解するのは困難なのです。とはいえ我々が実際に今経験している終息の兆しが見えない暮らしにも些か重なる部分があって、終わり方を問うことには共鳴と同情を覚えました。

6.聖ノーレア女学院/@Pz5

謎のイートハーブ
 Pz5さんこんにちは! ご参加ありがとうございます!
 事故によりスポーツという存在証明を失った少女のお話です。これはすごい、めちゃくちゃ興味深く読ませて頂きました。
 まず一言所感なのですが、「箱庭アングラ」だと思いました。閉鎖的空間における倒錯、アングラなんですよね……。そして女学院。いい舞台設定だと思います、これで村とか城とか宗教団体だったら、なにかが違うんですよね。年齢かな? 思春期あたりのぐらつきがとても映える設定です。私が少女性に妙な幻想を持っているせいかもしれませんが……。
 情景が上手くて、たいへん詩的です。哲学用語などもちらほらと投入され、独立した世界観をお持ちでびっくりしました、中々出せる空気感ではない……すごい……。そこに投入されるボクっ娘に一瞬動揺したんですが、パンチを入れてもらったお陰で印象に残りました。転入生が一風変わった生徒に惹かれるという流れ自体は王道的で、安定感があります。
 あとこう、上手く言えないのですが「アングラ」でこの作品が出てきたのが私はとても嬉しかったです。間違いなくアングラだと思うんですが、犯罪らしい犯罪が特に出てこず、契りも同意の下で行われているため完全にハッピーエンドなんですよね。悪いことをせずにアングラが達成されているの本当に凄くて、私には絶対出来ないことなので、余計におおお!! と盛り上がりました。こちら本当に好きです……いいものを読めました、アングラテーマにして良かったです。
 5話目の来たな……という盛り上がりが本当に好きです! 「ボクは、場路さん、いえ、愛音さん、貴女と『契』たいな……」ここです。契解消の音と場面を見つめながらのこの台詞、すごくいいです! めちゃくちゃガッツポーズしてしまいました。
 ここからの6話目、最後の一文でたしかにホラーだ……という納得感も得られ、題材選びに文体がマッチしている美しさも楽しめて、たいへん貴重な読書体験をさせてもらえました。面白かったです!

謎の白猫
 冒頭は少し飲み込みづらいのですが、読み進めていくといわゆる女学校の「エス」のお話であるとわかってきます。「お姉様」ってやつですね。
 一見するとお耽美で美しい関係なのですが、「契」は解消システムもあって、その実態はよくあるくっついたり別れたりという話なのが俗っぽくて良いなと思いました。
 このお話で重要なファクターとなる「義肢」ですが、すみません、作中でなぜ「契」が「義肢」によってなされるか、その必然性を読み解けませんでした。主人公の愛音は理由があって義足なわけですが、学園の少女たちは健常な身体を「契」のために切断して義肢をつけます。相手との擬似的な身体パーツの交換かなとも思いましたが、「肉」と「ロゴス」が対比されているので(相手の身体パーツも「肉」なので)それも違うのかなあと……作中でキリスト教の異端視など宗教的な要素に触れられていますが、わたしがその知識と素養がないため読み解けないのかもしれません。
 こちらに関連して、物語の筋としては主人公が「向こう側」の価値観になるまでのお話なので、読者と同じく学院の価値観を持ち合わせなかった愛音がそれを理解するまでの過程をもう少し深堀りしてもらえると、より理解しやすいかなと感じました。
 とはいえ、最後は「こちら側」(理解しない側)にいる読者への呼びかけで終わっているので、あえて理解させない作りを意図しているのかもしれません。
 不勉強ゆえ理解の及ばぬ部分もありましたが、昭和初期の「エス」の価値観をメカニックな義肢と合わせたレトロフューチャーな世界観が最大の魅力となった作品だと思います。

謎のポメラニアン
 契りを交わし対となって共同意識を担保する。それがグロテスクとも呼べる物理的な形で行使される様はまさに「外側の価値観」で推し測ることはできません。それでも少女達は互いの想いを募らせ、その昂まりに呼応して躊躇いから解き放たれ新たなる価値観を構築する。
 冒頭でのやり取りに見る大枠の概説から、何やら特殊な装置によって施術がある。普通から言えばそう容易いこととは思えませんが、それがこの学院が持つ目的とその研究なのでしょう。またそれらの現実と通ずる箇所に少女達は接続しない。あくまで過程であって、彼女たちに重要なのはその後というわけです。印象的なのは度々現れる色への言及。ファッションといった言葉が出てきますが所謂その感覚で契りは交わされる。それはまるで狂信であまつさえ冒涜ではないかと「外側の価値観」は言いますが、罪の意識の先にこそ立ち現れる新世界が彼女達にとっての崇高な割礼儀式。もはや倫理などが物を言える領域にない境地に至ったかつて「外側」にいた少女。そこに抱くのが共感か、あるいは諦めかで読み口の変わる作品だと思いました。

7.UNDERGROUND SEARCH LIE/偽教授

謎のイートハーブ
 偽教授さんこんにちは、ご参加ありがとうございます! 前回覇者の偽教授さんですが、今回も投稿してくださって嬉しいです。
 風俗で働くフリーライターのモヨコちゃん(仮名)のお話です。これまずタイトルが某バンド名、各話タイトルが筋肉少女帯ないし大槻ケンヂで、その時点でアングラ系ロック!(個人差があります) となるのですが、内容もたいへん飲み込みやすい現代社会の裏側エンタメで相変わらず構成が恙無いな……と唸りました。
 ケンジ氏がいいキャラですね~~! この男、とても好きです。名前もケンジで、各話タイトルを見たあとだとちょっと笑ってしまいました。生でさせろ! 金ならある! 言うことを聞かせてみたい! とモヨコちゃんに散々イキったあとの聞いてくれよ~~という泣き言、満点です。小物キャラに求めるほとんどの要素が入っています。
 引っ掛かる箇所が一切なく、さらっと読み通せるので文章自体が本当にお上手なんだと思います。敢て何か言うのであれば、これは完全に私の趣味なので聞き流していただいて良いのですが、首絞めセされてるモヨコちゃんについては詳しく聞きたかったです。
 エンタメ要素が高くて、最後にはケンジも反省しモヨコちゃんも本を出せることになり、軽やかなエンディングを迎えて良かったーー! と読み終わることができました。
 偽教授さんはなんでも書ける方だなあ……面白かったです!

謎の白猫
 キャッチコピーを見て一瞬ドグラ・マグラかと思ったんですが、オーケンの方のモヨコですね。
 日本のアンダーグラウンドの総本山(知らんけど)、歌舞伎町を根城にするそこそこ頭の切れる女の元に、出来事が押し寄せ、そして去っていく物語です。
 本作の「アングラ」の捉え方・描き方は自分の感覚とかなり親和性があり、なるほどアングラだなと思わされました。猥雑さと軽薄さとでもいいましょうか。
 主人公であるモヨコ自身は作中であまり変化しないので、一見物語としては弱いようにも見えるのですが、実は「物語」の主人公はケンジ氏であって、モヨコはその物語を眺めているんですよね。巻き込まれてもいますが。
 言語化が難しいのですが、「アングラ」のいち側面として、「傍流」「じゃない方」みたいな要素もあると思っていて、じゃあケンジ氏の物語をそのまま描いたとして、それは犯罪物語なんだけど、「アングラ」かというと、まあそんなにアングラって感じもしないかなと思うんですね。それはモヨコ経由で聞きかじったケンジ氏の「物語」は「本流」だからです。彼の中では悲劇があり正当性があり……みたいな。ケンジ氏の物語では、モヨコは物語の終盤に登場する自分を救う女神的な役どころなんですが、それをモヨコの側から見て「なんかしょーもない話だけど最終的に金になったからオッケー」みたいな書き方をする、その斜に構えた切り口自体がアングラっぽくて良かったです。
 あと筋少はそんなに聞いてないのですが「あのコは夏フェス焼け」が好きです。

謎のポメラニアン
 これぞアンダーグラウンドという感じがしました。アウトローな雰囲気の中を単に内省で押し進む話ではなく、語り手の性質からくるルポ的な文章は流石の纏まりで、創作話にリアルもへったくれもないとは言え「彼女ならばこう書く」という予想のもとに出された文章にリアリティを感じました。ストーリーとしての起伏もシンプルで雑味がなく読みやすさも一入で、文字を目で追う心地よさがありました。
 清廉という言葉からは遠い世界でも一介の矜持を重んじるモヨコの生き様は清々しく気持ちが良い。彼女自身にとっては生きる術でしかなく至極当然な態度ですが、一部の人にとっては憧れる生き方ではないでしょうか。現に私には突き刺さった。かっこいい、とか言ってしまえばモヨコご本人は煙たがるんだろうな、たぶん。知らんけど。

8.月夜の下で響くのは、狼の鳴き声/あきかん

謎のイートハーブ
 あきかんさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 やばめの性癖を持った男と狼男の話です。狼男だったんだろうなという解釈をしたのでこう書きました。
 キャプションのアドンコの説明たいへんありがたかったです、初めて知りました。アフリカンカンフーナチス……? アングラエンタメ映画の香りがします……。
 語り手の性格や趣向がだいぶイカれていて良かったです。潔癖症の女の子に嫌がらせ続ける根性の悪さ、いいですね。頭のイカれたキャラクターが好きなので一目で気に入りました。
 勝手に男女だと思って読み始めたので突然のボイズラブに動揺してしまいました。しかも長髪の美しい男……主催を喜ばせてくださりまことにありがとうございます! とてもカワイイです、長髪の美しい男が血にまみれている姿は何回見ても興奮できるので助かりました。そして人外? なんですよね? 倍カワイイです、ありがとうございました。
 最後の一文を眺める癖があるんですけれど、こちらの作品の最後の一文、投稿作の中でも随一で好きです。「彼が私以外の誰かに歯を突き立てる姿を想像するだけで、激しい嫉妬に襲われるのです。」こちら、感情をあまり言語化できないんだけど嫌なもんは嫌という激情を感じました。とても好きな一文です。
 BL、長髪男、難解感情、遠慮ない暴力と、三千文字の中に詰め込まれてあって、個人的にはたいへん楽しめました。どこか幻想的な雰囲気もあり、とても好きな作品です。

謎の白猫
 主催特攻だ! 長髪イケメンのBL、謎のイートハーブさんが好きそうだなあとニコニコしてしまいました。
 シンプルなストーリー、そしてブレない語り手、見せたいのは語り手本人の狂気と、とてもまとまっていて読みやすかったです。わたしは講評の中で何度か「物語には変化が必要」みたいなことを言っているのですが、語り手の狂気を楽しむ場合には変化は必要なく、後半に向けて狂いを加速させていくのが良いですね。この主人公は初手からヤバさを隠さないのですが、サディストかと思いきや、予想外に忍羽に襲われても冷静にそれを受け止め、それ自体を好ましいものとして理解します。ブレないですね。忍羽が結局何者なのか全然わからないんですけど、主人公自身がその点に興味がないので、わからないままで問題ありません。
 アングラ要素について、主人公の過剰なSM趣味が当てはまると思うのですが、あきかんさんは「アドンコ」をアングラ要素に置いているのかな? と思いました。ただわたしはアドンコを知らないので、もしそこにこだわるなら作中だけでアドンコの特性やそれをモチーフにする必然性が伝わるようにすると、より独自性が高まるかと思います。
 この二人、異常者と化物でめちゃくちゃ釣り合いが取れてるので、言ってみればこれはハッピーエンドですね。末永くお幸せに。

謎のポメラニアン
 序盤は男同士の情事を描く作品かと思い読み進めるともう一捻りありました。ここで題名に立ち返るとなるほどとなるのですが、危険度で言えば語り手が上回るので、起きていることの過激さもまた語り手の言う「プレイ」の一環で、大枠としては序盤の筋から逸脱していない。最近やっているゲームのせいか「年齢指定版モ○スター・ハン○ーだ!」とちょっとよくわからない感想が生まれました。
 アドンコってなんだろ? と思い、少し調べてみるとガーナのお酒なんですね。媚薬の意味も含んでいるとあり、その後の展開を予感させる起爆剤だったんだなあ。


9.父なる海/蓮河近道

謎のイートハーブ
 蓮河さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 とある海辺の田舎で起きた怖い話です。キレそうなくらい面白かったので、本人を直後に詰ったのですが、ここにはまともに講評を書きます。
 まず起承転結の分配が完璧です。メインキャラのキャラ立ちも完璧ですね。なにが完璧って、ちゃんと名前が覚えられるんですよ。キャラ小説にならない程度に抑えつつもしっかり書き分けられていて、それぞれ独立しています。元々キャラや人物像の掘り下げを書くのが得意な書き手だとは知っているんですが、調整も上手いとは……。嫉妬で狂うかと思いました。
 蓮河さんは元々友人で、筆力が高いことも存じてますので多少厳しくしたいんですが、特にないな……。作品を拝見して毎回思うのですが、エンタメ系の映画を活字で読んでいるみたいなんですよね。キャラ性能や話の内容などが高密度で、バラけそうなところをかなり上手くまとめてあると思います。
 クズなりに罪なき子供を救った安倉のもとからまりんもいつかいなくなるんだろうなというバッドエンドの予感が非常にいいですね、アングラさが増しています。そしてバドエン示唆のはずなのに、人魚が綺麗に見えるせいで爽やかな喉越しになっているのが上手いです。この人魚絶妙に得体が知れない存在で怖いな……いい塩梅でした。
 引っ掛けのつもりはなかったのかもしれないのですが、人魚って言われてすぐ女人魚を想像したため、展開が意外で面白かったです。というか一万五千文字ビタでここまで詰め込まれてあったら文句のつけようもないんですよ。
 エンタメホラーの見本のような、すばらしい短編でした。きみの漫画も好きだが小説も好きなので、また書いてください。

謎の白猫
 15000字フルに使ったウェルメイドな物語です。
 まず作りが非常に端正だと感じました。短編だと(わたし自身も)あるワンシーンを切り取った形になったり、起承転結がはっきりしないものになりがちだと思うのですが、本作は構成がしっかりしていて、一本の映画を見たような満足感があります。
 どんでん返しのミスリードも巧みです。語り手が実はクズだったパターン、大好きなので喜んでしまいました。クズの一人称って独特の旨味がありますよね……。怪奇譚かと思いきやヒトコワ、だけど化物は化物で存在して……と畳み掛ける後半はホラーとして秀逸です。あと、根っからのクズのヤミイチと、小悪党だけど根は優しい安倉の対比もいいですね。
「怪異としての海」との間の子供、というモチーフは「リング」のオマージュでしょうか。
 アングラ要素はヤミイチや安倉の職業の部分にかかっているのかと思いますが、全体としてはアンダーグラウンドというよりアンダー・ザ・シーといった感じで、あまりアングラっぽさは感じませんでした。
 まりんにとって人間として生きるのと人魚の国で生きるの、どちらが幸福なのかは誰にもわからないので、希望と恐怖どちらも感じられるラストでした。

謎のポメラニアン
 めちゃくちゃ面白かったです。レギュレーション上限15,000字をきっかり使われているのも凄いですが、話の展開に無駄がなく描き切ってあるのも凄いと思いました。
 主人公の人間性は割と序盤で明らかになる言い回しがあるのでなんとなく顛末は予想できるのですが、安倉の活躍は意外でした。そしてこの二人の表情というか解像度が、話が進むにつれて徐々に逆転していくのも構造として面白みがあります。
 人魚の得体の知れなさ、不気味さに起因する恐怖心と人間同士のやり取りからくる厭な空気感が何とも言えず、ファンタジーの要素を持ちながらもどこまでも泥臭い人間模様がどことなく昔の良質な日本映画を一本観た後の気分にさせてくれます。

10.偏愛メズマライズ/蒼天 隼輝

謎のイートハーブ
 蒼天さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 とある店を経営する女性と出会って、のめりこむ男のお話です。これはすごいですね、アングラ度が他の追随をゆるさない勢いです。
 まずこの女性、倫理観がわりと壊れているのですが、性的趣向のせいでもあって、その性的趣向というのがかなりマイナー、アンダーグラウンドに属するものです。テーマ性もばっちりで、内容も濃い……。
 蜘蛛人間の描写が生々しくて凄いです。普段文章を映像や画像にしないのですが、なかなか見ない風袋なのでつい想像してしまいました。グ、グロい……。言ったことがあるかわからないんですが、私虫で唯一嫌いなのが蜘蛛なんです。へんな笑い声出ちゃいました。
 相手となる女性の描写がちょうどいいです。いそうでいなさそうでやはりいそうという絶妙さで、魅力的に映るんだろうなと読み手も思える按配です。これはこれで、最終的には二人の世界ですね。主人公のキャラを完全に食う濃さの相手役でしたが、蜘蛛人間のパンチが強くて最後には釣り合いがとれているのがお見事です。
 鼎の話を続けるのですが、ファムファタル描写、目を瞠るものがあったなあと思います。明らかにやばそうなのがわかるのに、聖母っぽさまで内包しているんですよね。つい縋ってしまうようなアガペを感じさせてくる……。縋りつつも、破滅しても構わないと尽くしてしまう。色んなファムファタルがいると思うんですが、一番タチの悪いタイプです。すごく好きです。
 もはや人間だった頃の自分を捨てる主人公、この決断具合に悲しいやら喜ばしいやら、不思議な気分になりました。でもハピエンだと思います。
 そうてんさんはいつもキャラのビジュアルを大切にされているように思います。脳で絵や画像をイメージして文字にすると仰っていた記憶があるので、その時点での解像度がものすごく高いのだと思います。シンプルに上手いんですよね……。面白かったです!

謎の白猫
 中間ピックアップでも書かせてもらったのですが、「アングラ」という言葉で真っ先に想起されるもののうちの一つに「身体改造」があると思っています。かなりハードルが高い行為といいますか……。自作用のネタ出しでも「身体改造」とメモしていたので、まずはこれをテーマに持ってきたところでテンションが上がりました。スプリットタンなどの一般的なものからサスペンション、眼球タトゥーとよりどりみどりです。実際に映像でサスペンションとか見ると「痛い~~~」となってしまうのですが、文章だといい具合に楽しめるのは発見でした。
 一種の非現実、おとぎ話的なセッティングでありつつ、主人公に「覚悟がない」という点がどうにも不協和音というか、この物語に「嫌な話」としての側面を持たせていると感じました。もともと死ぬつもりで、鼎にすべてを捧げると決めたくせに、いざ蜘蛛人間にされたときの主人公の反応がネガティブなものであるというのが、初読時わたしは意外に感じました。主人公は鼎が見る美しいものを見たいといいつつ、その実「美しい女」である鼎の方しか見ておらず、「鼎の見ているもの・彼女の美学」は見ていなかったんですよね。お前の愛はその程度か! って最初思っちゃったんですけど、じゃあその絶望や抵抗感がなくすんなりとハッピーエンドになっていたら、物語としては今ひとつ面白くないですよね。だから絶望の果てに身だけでなく心まで鼎に弄られてなすがままになるというのがこの物語のあるべき形なのかもしれません。

謎のポメラニアン
 社会から受けるストレスと自己卑下からヤケになった男が魔女と出会う話。メズマライズは催眠や魅惑、魅了といった意味ですが、主人公は魔女の意のままを受け入れてしまう。精神への攻撃には耐えられなかった彼が、身体改造つまりは肉体への攻撃について認めてしまうのはまさに盲目的な愛情の表れで、愛さえあればなんでもいいのかと言えば実際そうなのかもしれません。興味のないことには億劫で中々事が進まないということはままあることで、逆に自分が好いているものは「こうしている場合ではない」とどこかで分かっていても熱中してしまう。半ば自暴自棄になっていた主人公にとっては魔女との交流がそれであった。この人のために己が人生を捧ぐ、誰かを愛するためには自らの犠牲を厭わない、この境地に至るのは一つの人間としての今生命題。それが破滅を導くとしても意味、そして意義あるものならば幸福であるのだと。私はこれが意味のもたらす暴力だと思っています。置き換え可能な都合でしかない。それは本当の望みだったのかと彼に問うのは野暮かもしれませんが。


11.エアコンぶんぶんお姉さん/はさみ

謎のイートハーブ
 はさみさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 このような話です、と説明ができない話です。問題作過ぎて読みながら終始笑ってしまいました……アングラ芸人(?)で来ると思わないじゃないですか、加えて文章や構成、起こる出来事が前衛的過ぎてその意味でもたいへんアングラです。なんですかこの……? 困ったな、講評始めます。
 ガロという漫画雑誌があるんですが、それを小説でよまされている気分でした。展開が突拍子もなくて、すごい圧力で独特な世界観を展開されて、めちゃくちゃ目が回ります。改行も少なく、脳が理解を拒否するのかところどころ目が動かなくなるんですが、これ、文章を整えたほうがいいとか言えないかなと個人的には思います。むき出しの狂気というか……。この方向性のまま文芸方面に舵切れないかな? そんな印象です。
 文芸方向に~って書いてから思ったのですが散文詩的なのかもしれないです。最後が~という夢を見ました、で締められているので余計にかな……。ところどころに入ってくるボケのような文章が逐一面白いのがまた、かなりの良作だと思います。でも非常に好き嫌いがわかれるとも思います。よって、とてもアンダーグラウンドな作品でした。
 学術的に難しいとかではなく本当に意味がわからないんですけど、夢なら仕方ないなと納得もしました。エアコンぶんぶんお姉さん自体はとてもかわいいと思います。
 ほんと迷路みたいな小説でした。楽しませていただきました、ありがとうございました。

謎の白猫
 どう講評していいのか、正直わからないまま書き始めています。
 うーん、怪文書。怪文書としか形容できない何かです。謎の概念「こんねき」を中心に関係あることやら関係ないことやらがマシンガンのように語られる日記のような何か。しかしこれ、書いている人物の人格が一貫しているのかどうかもわかりません。語り手は作者と同じ「はさみ」さんという名のようですが……。
 本来、内容について触れるべきなのでしょうが、内容に対して理解が及びませんでした。力及ばず申し訳ないです。
 何の話をしているのかよくわからないのですが、よくわからないままになんとなくするする読めてしまう謎の筆力の高さがあります。いや……一応何かしらの一貫性らしきものがないわけではないんですよね……「こんねき」は不明な単語からオナニーへと意味を変え、4話以降は女性になっていますね。なんか女性に縁遠い、性に関して内向きのベクトルでずっとゴニョゴニョしている人の話のような気がしますが、定かではありません。
 言葉の圧に流される体験として、ハマる人にはハマるのかもしれない、怪作でした。

謎のポメラニアン
 ひたすらに好きでした。それ以外何か言うことありますか?
というわけで『エアコンぶんぶんお姉さん』ですが、こういう文章は破綻なのかそれとも地頭の良さなのかと考えてしまいます。こんなこと考えている時点で私はもう後れを取っているのだと思いますが、ただ狙ってかけるというものでもないですよね。読めるか読めないかのギリギリのラインを目隠ししてもなお臆することなく攻める姿勢、悔しいくらいに面白い。オチについても(と言いながらオチなどそもそもないのかもしれないが)それを言ってしまえば何でもありだろと普通なら言ってしまいそうになるところを納得させられるどころか美々しいとまで思ってしまいました。これは一種のラブレターですね。自分でも何を言っているのかわかりませんが、そんな(どんな?)読後感でした。


12.If you know the defeat, it ’s like half won/川谷パルテノン

謎のイートハーブ
 パルテノンさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 悪夢です。いやものすごく悪夢な話でした、洋画ホラーを一本観た感じというかホラーゲームを一本やった感じというか、とにかく悪夢でとても面白かったです!
 開幕から出てくるチャールストンが梟的なものの仮面をつけているのがすごくいいデザインで、これは……と思っているとあれよあれよと捕まり理不尽な目に遭い、そら地獄の釜の蓋が開くぞ! と手に汗握りました。チャールストン、ラスボス前にいるやけに強い中ボスの風情があって好きです。怪物変化シーンもめちゃくちゃいいですね! 蛆が皮膚を食い破って……のくだりの描写、性癖にかなり効きました。現実では中々見ないはずなのにリアルで、筆力が高いなと唸りました。
 前述のチャールストン含め、各キャラクターがかなり印象に残ります。マクダネルも回想にしか出てこないのに存在感があって、正しさを生きろという台詞がやけに胸に残りました。正しさとはなんだ? と読みながら考えましたが、全然答えが出せません。こうか? と思ったこともラスボスが写真抱いて泣きじゃくる姿を見れば違う……となりましたし、なんだか色々考え込んで楽しめる作品でした。エンタメ的でありながら深く考え込む仕様になっているのは文芸でもあり、多層です。
 パルテノンさんの文章、なんだかいつも安心感があります。個人的には読みやすいというか馴染みやすい文章で、一人称を多くよませて頂いてたんですが三人称も読みやすくて好きです。テンポもよくて、気付いたら読み終わっています。
 しかしほんと、この館に一体何が……? なぜこんなルイージマンション・レベルMAXみたいなことに……。謎がいろいろ残っているんですが、開示されないからこそのなんとも言えない読後感に繋がっていると思います。
 人を殺すのも生かすのも愛ですね……と訳知り顔になりました。けっこう解釈がわかれるような終わりで、個人的にはすごくいい含ませ方だと思います。ラザロ、強く生きていって欲しいです。

謎の白猫
 パルテノンさん、こういうのも書くんですね!
 ジャンルとしてはダークファンタジーになるかなと思いました。あとは暴力的な注文の多い料理店? ちょっと違いますかね。
 アングラ要素はラザロの過去の部分だと思ったのですが、全体として、地下(悪い現状)からの脱出、というテーマが織り込まれているように感じました。アンダーグラウンドそのものを見るのではなく、アンダーグラウンドから出発してその出口を見るというアプローチは、とても前向きでこれまでの参加作品とは異なった切り口だなと思います。結構人が死ぬし完全にポジティブってわけではないんですが、タイトルがまさにこの作品のメッセージ(というと語弊がありますが)を伝えていると感じます。敗北を知ればそれは半ば勝ったようなものだと。
 このお話、人ならざる化物が出てくるのでファンタジーだと思ったのですが、この存在が何者で、どういった経緯があったのか全くわからないんですよね。なので結構引っかかるといえば引っかかるかもしれません。ラザロの一連の思考・感情の流れにこのファンタジー存在が必然的に必要だったかというと……これは完全に好みの問題だと思いますが、もう少しリアリティのある設定のほうが飲み込みやすいという人もいるかもしれません。わたしはファンタジーに疎いので、むしろ「ファンタジー要素のこういう活用方法もあるのか!」と新鮮に感じました。
 ハードボイルドさとファンタジックな雰囲気が不思議に混ざり合い、最後には痛みを抱えつつも生きることに前向きな気持ちになれる作品でした。

謎のポメラニアン
 自作です。バイ〇実況観すぎ。

13.巫山の雲に誘われて/武州人也

謎のイートハーブ
 武州さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら少年同士の交流を書いたアンモラル小説です。いいですねえ! 私の普段いる業界ではモブレされるキッズというスラム街治安の作品が散見されるんですが、そのためもあり実家のような安心感のある掌編でした。ちょっと調べてみたら巫山の雲雨という故事があるんですね。夢の中で結ばれること、情を交わすこととコトバンクには書いてありました。
 武州さんの書かれる美少年は様々な美少年でいつも楽しいのですが、今回の稔くんはファムファタルじみた美少年で心が躍りました。のめり込んだら終了の運命のオンナ(男)、凄くいいですよね好きです。
 この二人で死体を埋めちゃうシチュエーションもすごく実家のような安心感でした!カプのために死んで土にかえるモブおじさん、私の親類のようなものなので退場に敬礼です。
 客体描写が大変お上手です。ともすると硬くて読みづらいと言われそうな文体だとは思うのですが、武州さんの考える美しい少年の客体描写には適していると思います。文の硬さが切実さ、雨雲のじっとりした恐怖、行く末の暗さを示していて大変良かったです。
 とてもいい古文BLでした。いい結末にはならないだろうという雰囲気もアングラさがあり、と面白かったです!

謎の白猫
 金、企業スパイにハニートラップといったアングラ要素を中学生の子供に託したという点が特徴的な作品です。
 美少年、お好きなんだな~と感じました。わたしは少年少女に対してあまり激情を抱かないタイプなので解像度が低いと思います。もっとこの辺の感度が優れていたらよりこの作品を深く理解できたのだと思うのですが……。
 地の文がかなり特徴的で、一般的な中学二年生の語彙ではないことがとても興味深かったです。これにはどういった意図があるのでしょう? 読み取り切れていないのであれば申し訳ないのですが……。タイトルなどから中国の故事を引用しているのはわかるのですが、少年の一人称語りで「袖手傍観」(白猫は人生で使ったことない)みたいな語彙が出てくるのはかなり個性的だなと思いました。
 語彙だけでなく、キャラクター自体も妙に冷めていると言うか、「企業同士の政治に利用されたのではないか」とか「いつか咎を受ける身だからせめてそれまでは一緒に」みたいな発想を持ってるんですよね……中学二年生という設定だけが妙に宙に浮いているような、不思議な印象です。もしかして、それこそ中国の故事のエピソードを日本の中学生に置き換えているとかなのでしょうか? 浅学ゆえそのあたりがわからず……。
 個人的に子供に対してこういう言葉を使いたくはないのですが、美少年の「魔性」が周囲を狂わせていく、そういった一種の頽廃を描いた耽美な作品でした。

謎のポメラニアン
 物語としてはシンプルです。目も奪われるほどの美少年に惚れ込んで暗部に誘われ平易な日々を逸脱する。ある種の傾城を描いた作品。面白いのは事が進む中でも結局のところ稔が何者であるのかがまったく見えないことです。対して語り手は義憤に駆られ手を汚すも、たどり着いた先は自らが下衆と断じた男とそう変わらない欲に忠実な動物になっていく。話が進むに従ってより顕になる者とさらに隠れていく者の対比がある。
 語り手の少年は語彙に富んだ人物で、一般的に学習塾に通うような年頃では「錦衣玉食」或いは「暴虎馮河の勇」などと、意味はそれとなく悟れても言葉にまでするのは些か度を超えている(どちらかと言えば彼こそ宮城谷昌光氏の読者ではなかろうか)。それはおそらく彼のインテリ気質をオーバーに示す事でやがて至る諦めにも似た破滅との落差の表現、ここにアングラを持ってきたのだろうと私は感じました。

14.下に向かって暮らしていくの/草食った

謎のイートハーブ
 逆よだかです。直喩でもいいよのために書きました。地獄で何が悪い(言いがかり)

謎の白猫
 主催による物理アンダーグラウンドだ!
 土を掘り進んでいく話ですが、語られる主人公の境遇もまた、日の当たらない、惨めなもの、と言っても良いかと思います。
 ですがそれはかなり一方的な見方といいますか、ある意味でこの作品は、反逆の、転覆の、攪乱の物語であると言えます。
 日の当たらない、日陰者、なんて言い方は、日が当たることを当然のように善/正の方に置いた価値観なんですよね。主人公は土の匂いの中でおだやかな心持ちになります。土をただ「踏みつけにする対象」と捉えるかどうかは単に見方次第なんですよね。
 鳥が高く高く飛んでいって、やがて燃えて星になるのと、土をどんどん掘り進んで、燃えたぎる核に触れて星の一部となるのは、スタートのベクトルが逆でも結果は同じなんですよねえ……その発想がなかったのでとても美しいなと思いました。
 よだかの星、子供のころに読んだきりだったので、講評書く前に青空文庫でちょっと読んでみましたが、本当にこの作品は「逆よだか」でしたね。
 この作品の美しさは美しさとして尊いままに、しかしながらいずれにせよ、爪弾きにされた者は空なり土の下なりの他の人とは違うところに居場所を求めないといけないというのは、たとえ本人が一定の幸せを得ていても切ないな、とも思います。いつか、どこにもいかないでそこにいられる日が来るといいなあ、なんてことも思ったりしました。

謎のポメラニアン
 目の不自由ゆえ、嗅覚と聴覚を頼りに生きる青年(少年?)の話ですが、一感覚が奪われた分その他の部分が研ぎ澄まされ、目で見ることよりも真理めいた何かに到達しているように思えました。ですが真実が見通せたとしても世に潜む卑しさや虚しさを知るだけで、それをどうにかしようと思っても語り手は孤独です。ですから根本的な力が足りない。またそれを弱点とされ突き放されてしまうところには哀切を抱かずには入れませんでした。その中で彼は詩を紡いだ。彼にしてみればただ思うままに発した語りでしかなくとも、生き様が深く皺を刻むように言葉の重みが積み重なってきます。鳥のにおいが好きだという言及に対して放てる言葉は皮肉にも重力に逆らえず、彼なりのもがき苦しむ様が滲み出る。鳥になれぬならとさらにさらに地下を目指すことが彼の生きる意味になる時、自然は彼を認め苦しみから解放する。不自由を越えた先に灯った赤い光が語りかける。残酷ではあるけれど命を見つめる熱のこもった詩ですね。


15.等身大の人形/歯痛

謎のイートハーブ
 歯痛さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、道路に落ちていた頭を拾った少年の話です。開幕のパンチが非常にいいですね、開幕一文目ですぐに落ちている頭との遭遇になるため、エ!? と驚き続きが気になって来ます。掴みの上手さが随一です。
 話の構造が変化球で、ここもかなり良いポイントだなと思います。どろどろした物語を抱え込んでいるであろう女性二人のどろどろについては最低限しか情報がなく、その外側、表の世界で生きていた少年が偶然で覗き込んだアンダーグラウンドという風情が絶妙です。
 雰囲気が歯痛さんが描かれている漫画作品に近くて、脳内で歯痛さんのイラストに変換して読むことが出来たのがなんだかお得で(?)とても楽しかったです。短い中に物語性がしっかり含まれてあり、致命的な瑕疵もなく綺麗に収まっていて、はじめての創作小説とのことですがまったくそうは感じなかったです。むしろ上手い……。
 読み落としたのかもしれないのですが、火事で死んだ彼女の頭がなぜないのかという謎のところで少し引っ掛かってしまいました。謎に解答を求めがちなのは悪癖なので気にしないでいただきたいのですが、もし本文を増やす方向で推敲するならこの辺りが掘り下げどころなのかなと思います。色々理由を考えられる今の状態もまったく嫌いではないので、参考程度に……!
 あと、個人としてはアングラの捉え方がたいへん好きです。表側から見た裏側、日常の中にある狂気をうっかり踏んでしまった少年の当惑と好奇心がすごくよくわかります。
 以前大きな世界の中で小さな歯車が噛み合っている話が好きだと仰っていた記憶があるのですが、こちらの作品からもそれを感じました。面白かったです! お暇があれば、是非また小説も書いてみてください!

謎の白猫
「電灯がチラチラと道を照らしている、そこには、頭が落ちていた。」
 書き出しツヨツヨ系の作品ですね! 全体としてもとてもまとまっていて、かつ優れた点の多い作品だと感じました。
 まず、「人形」というモチーフの使い方。導入部分に「子供は親の人形である」という話を入れているのがニクいですね。本筋に大きく関わってくるわけではないですが、そこから人形の頭を見つけるという話の流れがスムーズで素敵です。
 次に、主人公を傍観者の立場に置いたのも上手いと思いました。頭を拾ってしまっただけで、本来は無関係な人物。彼が偶然知り得た情報の断片から真実らしきものが浮かび上がる、というのは抑制が効いていてこの物語を単純ではなく深みのあるものにしています。
 そして江角と人形のモデルの女性の関係。これが作品の核になる部分かと思います。かなり濃いめの感情、執着を上述したように第三者の推測という形で見せます。主人公と会話していたときはそこまでおかしい人物に思えなかった江角の振る舞いと、結果としての事件。おそらく江角は彼女への想いを秘めていたのでしょうから、その秘めた想いの強さを見事に表現していると思いました。
 内容が良かったからこそ、少し気になったのは、アングラ要素はどこなのかという点と、字下げなどの書き方です。前者は人形? 生首? と考えたのですがあまりピンと来ませんでした。後者は、別に必ずやれ! ということではないと思うのですが、内容や表現が魅力的なので、三点リーダは二つ使う、改行ごとに字下げするなどの成形でさらに読みやすくなるかなと思いました。カクヨムには字下げ機能がついているのでぜひ活用してみてください。

謎のポメラニアン
 首。まあ、拾わないですよね。や、文句ではないです。私なら拾わないなと思った。拾えないが正しいですかね。
 少年の前に現れた突飛な光景、そこから少年の行動まで不可思議に突き動かされて、結果首を拾って持ち帰ることに。全体で見てみるとこの一連の動きには説得力があります。少年は親の思うように人生を送っている。自分は人形だと、それは決して自らの意思ではないと示しながらも道を外れない。立場や関係性からくる彼の無力感は不満の域を出ることが出来ないのです。そんな中で現れた首。人形だろうと気持ちのいいものではないでしょう。それを拾うことから見えてくるのは彼なりの抵抗でしょうね。背徳、或いは秘密を保持することで自らを支配する者に対し自分は彼らが手の届かぬところに行けるんだよなんて思いが見え隠れします。
 後半の部分は元来小心者である少年の常識を問うような筋になっていて、前半で獲得した幻想性をやや暴力的に剥奪した感じがして、カタルシスとなり得るには物足りなさを感じてしまいました。エラソーなことを言うようで申し訳ない気持ちもありつつ、首自体が少年に対してもっと強いメッセージを訴えかけていたなら五億点つけたと思います。

16.むつかしきもの/和泉眞弓

謎のイートハーブ
 和泉さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらアンダーグラウンドで生きる人間を書いたオムニバスです。アングラ文芸詰め合わせで、どこを開いても地獄があり、特に救いが……と思いましたが二番目の少女が自転車で爆走していくので、ここは少しほっこりします。
 ホームレスの女性、非行に走るチルドレン、オレオレ詐欺と非合法揃い踏みで大変楽しかったです。和泉さんはシンプルに文章力が高いので何を書いても面白いんですよね……私の好みの文体でいらっしゃるからでもあるのですが……。直喩でのアンダーグラウンドも拾っていただいてます。
 一話目がどこか散文的であるのが印象に残りました。和泉さんらしい筆致の段だとも思います(あくまで私の印象です)季節が変わって、三話目で詐欺の被害に遭った方がやってきて、一話目女性の姿はないと。この辺りが無常を感じるポイントで大変好きです。
 というかこの作品4千文字くらいなんですね!? そこに一番ビックリしました。様々な地獄を紹介されて一万文字くらい読んだ気分で文字数を確認したら4千文字。詰め方が本当にお上手です。もっと書いてくださってても喜んで読んだとは思うのですが、このくらいの方が飲んだ鉛が消化できない塩梅なのかもしれませんね。
 見える地獄(河川)と見えない地獄(暗渠)を色んな角度から切り取った良作でした。とても興味深く、また楽しんで読ませていただきました。ありがとうございました!

謎の白猫
 荒川沿いで交差する人々の風景のスケッチと読みました。ホームレスや貧困家庭などのいわゆる困窮した状況にある人々、あるいはそういう人々を搾取する側のそれぞれの描写です。
 物語と言うよりは本当にスケッチという感じで、悲劇も、日常も、悪意も、希望もただそこにあるという印象を受けました。先に提示される3つのエピソード、とくに1つめのエピソードと他の関連がちょっと読み解けず……もしかしたら何か見落としがあったらすみません。
 暗渠、というのが地下に埋まった河川のことだそうでこれがアンダーグラウンド要素かと思います。1つめのエピソードとエピローグで触れられていますが、東京に住む自分のような人間が知らず知らずのうちに、そういった悲劇を飲み込んで今日も流れる川の上に生活しているということでしょうか。
 連作詩のような印象だったので、なかなかコメントがうまくまとまらずすみません。個人的には厳しい状況でも学びに希望を持って強い生命力で進んでいる「約束」の女の子のエピソードが好きでした。悪意とそれがもたらした絶望の横でも、希望を持った女の子が力強く自転車を漕いでいるというのは一種の救いではないかと感じました。

謎のポメラニアン
 光さすところあらば、すぐそばには陰日向。日常とは表裏を持ち、どちらか片側に身を置いて、もう片方はまるで知りえぬ届かない場所だから人間いま生きる場所だけが真実だ。そんなことを考えていました。
 むつかしきもの難しいですね。弱者として切り離された世界で生きる人々、それでも自分は他とは違う。なぜなら幸せだから、幸せだったから。思いはそれぞれでしょうけれど他人のことはわからない。「東京」現実の都市名が出てくることに想像世界で終わらない重々しさがあります。
 こうして作中に生き、それぞれを語る人々には読者たる私にも見覚えがあり、それは今のところどこかで聞きかじった程度の他人事でしかありませんが、気を抜けば落ち入る穴はそこかしこ。妙な話、身の引き締まる思いがありました。冒頭の語り手がその語り口で流れを作るのですが、これが「荒川」のイメージと重なり合うのが綺麗だなと思いました。


17.渇望/惟風

謎のイートハーブ
 惟風さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら(個人的には)ストレート豪速球アングラ小説でした。ナイス倫理ゼロ、想像通りの嫌な方向にゴロゴロと話が転がっていき、いいぞ! という場面で終わりました。シンプル且つ受け取りやすい悪意、わかりやすくとてもいい掌編です。
 意図とは違うかもしれないんですが、私は涼子みたいなタイプがめちゃくちゃ苦手なんです。見た目とかではなく中身が。この、人の善意を信じている感じの自分も潔白そうな人間……。そういう、いわば相対的に善として書かれた女性が最後は最低な死を迎えるという、この方向性がアングラだと思いました。王道だと賢一は間に合うし、涼子と賢一は結ばれますよね?結ばれなくとも理解は深まっていたのかと思います。そうならなかったところが凄く良かったです。
 終わり方が殴り殺しました、ではなくあくまで遠回しの表現になっている部分が余計に虚無を感じて大変良かったです。突き放した三人称のおかげで淡々としており、どこか他人事のように語られるため、バッドエンドの悲惨さをより感じられます。
 個人的には受賞を狙えるレベルの濃い掌編であったと思います、面白かったです!

謎の白猫
 悲しみと、どこか優しさを感じる作品です。
 喧嘩稼業やヤクザっぽい雰囲気の賢一ですが、職業は探偵ということで、ここのさじ加減が今までの作品と異なり絶妙ですね。完全に向こう(アングラ)側というより、向こうとこちらの橋渡し的な、カタギの雰囲気・倫理観もあるところが、この作品の悲しさにうまく寄与していると思います。
 出てくる人物が、理解不能なまでにぶっ飛んでいるのではなく、理解可能なちょっとしたクズ、なんですよね。本来暴力的で最終的に殺人を犯す賢一はもちろん、世間体を気にして賢一にタダ働きさせる涼子の両親、しょうもないクズ夫、そして涼子自身も好感の持てる善人かというと、そんなことはありません。おそらく恋愛体質、というか依存体質に近く、自分に表面的に優しい男であれば誰でも好きになるような女性なんだろうなあと思わせます。
 起きている出来事は、言ってみればくだらないことです。くだらないことで、人が死んで、誰も幸せになりません。人間は愚かで悲しいなあと思わされました。
 読み終わって、4000字未満の作品であることに驚きました。ストーリーがしっかりドライブしていてこの文字数はすごいですね。作者の筆力の高さを感じました。

謎のポメラニアン

 渇望とは待ち望むことの度合いとして最も強いのです。その願いには切迫した状況があり、それが叶わぬということは何かしらの終わりを指す。作中にはいくつかの渇望が見られます。たとえば涼子。彼女は男女における一般的な幸せの形を求め続ける。しかしながらどれもが上手くいかないのは見る目のなさであると語り手は説明するのですが、そうではないような気がします。彼女は幸せになれないのではなく、幸せになりたいがために不幸を買う節がある。やり方こそ不器用を通り越して自傷の域に達していますが、涼子の渇望するものはまさしく賢一、語り手です。対して賢一もまた涼子の存在に救われてきた過去があります。彼女の言葉で彼は無闇な暴力を制することが出来た。社会に出てひとりの人間として生きてこられたのは紛れもなく涼子のおかげなのです。けれど彼女の真意には目を向けようとしない。ハイボールとカクテルへの言及がそれを物語っています。
 お互いがギリギリの部分で繋がってきた日々が涼子の失踪によって切断される。ここが賢一自身の渇望と向き合う転換点になります。賢一が本当の渇きを癒すためには金崎を許さなくてはならなかった。彼はその後の行いによって涼子に与えてもらったはずのものさえも手放す。残酷なことを言いますが彼もまた自分が蔑んできた他者と同じくひとりよがりな人間なのです。


18.飛空船アンダーグラウンド/中田もな

謎のイートハーブ
 中田さんこんにちは、ご参加ありがとうござます! ステータス完結済に変更してくださったあとでの講評となるため、投稿順で見ると少しずれ込んでおります。ご了承ください。
 飛行船にうっかり乗り込んでしまった子供の話です。上空を飛ぶものの中で行われる非合法な鬼畜行為、という上空・地下の対比がたいへん面白いです、興味深く読みました。
 上記に書いた通り完結済に変更時点での受理としたのですが、手違いで連載中にされている可能性を考慮して受理前に目を通しておりまして、その時点で中田さんに確認をしなかったとのは、まだ続きそうだと思ったからです。なので、完結済にしていただいてちょっと驚きました。この話をここで終わらせてしまうのはなんだかもったいない気がします。プロットの素描のような印象も受けました。
 主人公はあのまま死ぬのかもしれませんが、飛行船の中にいたキャラたちもモブのような扱いではなくちゃんと作られていたと感じたため、主人公死亡→飛行船乗員に視点変更→乗員側からの世界の様子など、広げようと思えばなんでもできると思います。
 設定が本当に魅力的なので、あと五千文字くらいは読みたかったなというのが正直な所感です。上限であった一万五千文字も容易に達成できる設定だと思います。乗員側の非道な雰囲気や、主人公たちをエサとしてしか見ていないところなど、キャラクターとしてとても好きでした。
 また、アングラというテーマで異世界ファンタジーはやりにくいだろうなと思っていたため、異世界ファンタジージャンルで来ていただけて個人的にはすごく嬉しかったです。これからも頑張ってください!

謎の白猫
 飛空船というアンダーグラウンドと正反対の、宙に浮いているものがタイトルに入っていて、目を引く作品です。
 実際に本文を読んでいくと……なるほど、アンダーグラウンド要素は吸血鬼たちが普段地下で暮らしているという部分でしょうか? ただ、それが説明台詞として登場するだけなので、正直なところ、あまりアンダーグラウンド要素は感じませんでした。
 無邪気な子どもたちが憧れの飛空船に足を踏み入れると実はそれは人食い吸血鬼の乗り物で……という、いわば物語の導入部分に当たりそうな内容です。キャラクターが4人いて、3000字で物語を展開させるのは結構難しいかな~と個人的には思いました。今回は上限15000字だったので、フルに使ってこの先の物語を描いてみても良かったかなと感じました。
 一方、かなり導入部分的な内容でありながら、しっかりと3000字に達している部分が優れていると思いました。というのは、各キャラクターに関して描きたいことがしっかりあると感じたからです(もしわたしがここまでの内容を書くと1000字くらいで終わってしまいそうです)。少年たちは生き生きと、吸血鬼たちはそれぞれ個性がありそうなので、なおさらこの先が気になります。ぜひこれを元に中編~長編作品化に挑戦してみてほしいと感じる一本でした。

謎のポメラニアン
 アンダーグラウンドが空を飛ぶ。この着眼点にまず脱帽しました。少年たちは好奇心によって日常を失いますが、その元凶たる闇の住人は確かに地下で生きる者なのに空を飛ぶ。ここでピンとくる人もいるかと思いますがそのような生態の動物を我々は知っている筈です。暗がりを好み、洞穴のような場所で暮らす空飛ぶ生き物。となれば飛空船に潜んでいた者達の正体は自ずと浮かぶのですが、なんというかモチーフとディテールの順列組み合わせが多彩と申しますかテクニックを感じます。
 短い物語なので奥行きは救いのないようなカタチで幕を引きますが、もし加筆される未来があるならまだリヴァは終わっていない。好みの話にはなりますが少年よ、もう一度目を開け、さすれば君は英雄だ。などとさらに背負わせたくなりました。

19.夢の話だよ/@kamodaikon

謎のイートハーブ
 @kamodaikonさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 タイトルのとおりに主人公が見る夢の話です。この夢、遠慮のないスプラッタ描写が延々と続いて非常にいいですね! とてもパンチがあります、好きです。剛速球のゴアアングラというのが所感でした、テーマ性がばっちりです。
 ここからどうなるのか? 夢とは言われているが本当に夢なのか? いや急にヤギとか出てくるから夢には違いないんだけれど虚構と現実の狭間を感じるな? と色々妄想を膨らませながら読みました。そんなつもりはなかったかもしれませんが、この夢か現かの曖昧さが不気味で、段々エスカレートする拷問内容も相俟って盛り上がっていく構成がとてもわかりやすく良かったです。
 ゴア描写に重きを置かれているため劇的な展開はないのですが、それが同時に人間の嫌さ、不気味さを増しています。
 拷問ではヤギが一番好きです。 めちゃくちゃ痛そうですよね。いや脳自体に痛覚はないんでした、じわじわ白痴じみていく様子がたいへん面白かったです。ハンニバルを思い出しました。
 最後はやってしまうんだろうな……という絶妙なところで幕切れとなるのも好きです。人間の悪性を感じます。いいアングラ小説でした、ありがとうございます。

謎の白猫

 世にも奇妙な物語っぽい! というのが第一印象でした。夢と現実、どっちがどっちかわからなくなりバッドエンドという物語は今や古典と言っていいほど型化されていますよね。
 そんな定番の型を使ったこの作品ですが、特徴的なのは夢に子供が出てきたくだりでしょうか。ここで主人公は動揺を覚えるのですが、その動揺がなんとその後に一切反映されないんですよね。通常であれば、この体験をきっかけに夢の中での暴力をためらうようになったり、現実で苛立ちを覚えた時に子供の夢を思い出してたじろいだりと、主人公の変化に繋がる(その先にはハッピーエンドもあるかもしれないし、改心しかけたところで絶望に落ちるかもしれない)ひとつのフックとして描かれそうなシーンです。これを不要なエピソードと見ることも出来ると思いますが、わたしは主人公が「一切救いようのない、どうしようもない人物」であることを強調しているように感じました。
 どうしようもない人物がどうしようもないままに最低な方へ進んでいくのをただ見ている、というのは、エンタメとして不思議な感覚です。カタルシスは得られないので、読者自身をモヤッとした気持ちにさせたいのであれば、その試みは成功していると思いました。

謎のポメラニアン
 ホニャララしないと出られない部屋、という話がありますよね。語り手はまさにこの中にいるのですが、それは誰かを殺さないと醒めない夢のことだけではありません。語り手を支配しているのは強烈なサディズムであり、夢はあくまでもストッパーでしかない。語り手のアンガーマネージメントはこの夢によって保たれておりますが沸点はあまりにも低く見えます。程度で言えば少し気に入らないことがあれば対抗感情は極端な殺意として現れ、たとえ夢であってもその行使は快楽の域に達しています。語り手が出なくてはならない部屋とはこの場合、怒りになります。ストレスの受け取り方、また許容の度合いは人によって様々ですが、語り手の怒りの程度は常に緊張しています。何度も明晰夢を見るうちに現実の自分と地続きになった(と読める)ような展開が終盤にありますが、はてさてこれは夢なのでしょうか。生きづらさみたいなものを覚えます。

20.悪い男/大塚

謎のイートハーブ
 大塚さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら汚職!ヤクザ!刑務所!と元気になるアングラが揃い踏みで大変楽しかったです。一度読んだ時に軽いメモをするのですが、「領域限定ファムファタル」と書いてありました。シンプルで深度のあるアングラ掌編ですね……とても好きです。
 なんといってもやはり岩角のキャラクターがいいですね! 大塚さんは文章そのものがたいへん整っていて美しいため、岩角の妖しさが殊更際立っています。肩口にかかるくらいの黒髪、最高です。刑務所をホテルのように思っているという描写が、岩角の内部を表した秀逸な文章でした。作品全体をつつむ空気の解像度が高い……!
 ひとつだけ気になったのがほぼ名前しか登場しないキャラが何人かいるところです。私の記憶力が蓑虫並であるせいで、出てくる名前が多く、混乱して何回か読み直してしまいました。あくまでこの掌編のみでの講評であるため……すみません。業原や名刺の三人あたりは名前を削ってしまったほうが、こちら単体での読みやすさは上がるかと思います。あくまでも好みですので参考までに……。
 宍戸と岩角の関係性が過去と現在でずいぶんと違う部分の表現がとても好きです! それゆえの「領域限定ファムファタル」です。過去には尽くしていたのですがそれは範囲内にいてしまったからこそ、一度出てしまえば効果はなくなり反動が起きる。岩角固有のカリスマ性とは恐らく「美しく花がある・何処か庇護欲すら感じさせる」のに「ゴリゴリのヤクザ」というギャップから生じるもので、そのギャップに魅せられのめり込んでしまったが最後下手をすれば死んでしまう、「運命の相手」と「悪」をわかりやすく内包した本当に魅力的なファムファタルだと感じました。キモくてすみません。
 キャッチコピーにもなっているヤクザのくせに愛とか言うな、とても印象に残るいい一文です。実ははじめは「ノワール」で出そうかと思っていたこともあり、待望の裏社会ものでした。わずか五千文字にぎっちりと詰められた世界観に設定、一粒で何度も味わえる良作です。とても面白かったです!

謎の白猫
 ど真ん中のアングラ、ヤクザがここでやってきました!
 約5,000字かけて描かれるのは、何が起きたかではなく、「あるヤクザの男が自分にとってどういう男か」なんですよね。ともすれば退屈になりそうな切り口でありながらとても読み応えがあるのは、作者の力量と、キャラクターに対する強い思い入れのようなものがあるのだろうと感じさせます。
 タイトルである「悪い男」こと岩角の魔性は、語り手である宍戸の目を通して読者である我々にまで伝わってきます。本作をいわゆるBLと呼ぶのは無理があると思うのですが、とにかく岩角がエロティックに描かれているんですよね。相手を越境させる何か異様な魅力、そういうものを伝えるために紡がれた文章だと感じます。
 ラスト、宍戸が現在舞監をやってるってところで「ええ!?」となったので(あまりにもそれまでの印象とかけ離れていたので)、短編として納得感を持たせるならそこの伏線があるとなお良しという印象はありましたが、些細な点かと思います。
 やりたいことにブレがなく、作品の魅力がストレートに伝わる一本でした。

謎のポメラニアン
 物語全体に得体の知れない気味悪さを感じます。キーポイントになるはずの「実際に起きたこと」が悉くボヤかされ、結果として多くの「死」だけが残っている。誰の仕業かは明白でも、どういった手段だったかは説明されない。ただワガママを貫き通せるだけのチカラを持った凶悪が人間のカタチをしているという印象。 
 社会通念として悪の立場にある岩角に魅入られ、また自らもいっときは心酔した元弁護士。彼が何故袂を分かち、価値観を変え、曰く「大人になった」のか。その辺りも明言はありません。こうして暗部が拡大し、語られぬ部分をアングラと読むことが出来るかなと思います。
 もう一本の筋として、岩角と語り手のただならぬ関係性があります。人間として通じ合った二人の仲が語り手の名前に暗喩されている。それを断ち切ろうとしてもそう易くはなく、幾ばくかでも安心を感じたいがために結局は片足を入れざるを得ない語り手の苦悩。このジレンマは何故かどうしてラブロマンスに見られるすれ違いに似ている気がするのです。

21.お菓子の家と子供たち/てふてふ

謎のイートハーブ
 てふてふさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら某童話をベースにしたアングラ童話です。アングラ童話!!講評での若干の自語り失礼するのですが、実は乙一先生の著作「暗黒童話」がテーマ「アングラ」発想の元のひとつになっておりまして、そのためアングラ童話が来た喜びがすごいです、ありがとうございます!
 はじめのほうは大体ヘンゼル~の話のように進むのですが、少年が出てきた辺りから雲行きが変わって一気に引きこまれます。裏を返せば、冒頭はもう少し削ってしまってもいいかもしれないですね。有名な童話であるため知っている人間のほうが多いと思うので……。個人的には捨てられる場面から始まってもいける気がします。
 捨てられた子供たちばかりの集落、すごくいいですね! 姥捨て山的な捨てられた老人ばかりの村の話をふたつほど読んだことがあるのですが、そちらを思い出しました。力がない、権力がない辺りが似ているのかな。いい設定だと思います。
 肉のスープの正体やお菓子の家の中に入るにはなど、細々と伏線もまかれてあって、最後のなんともいえない幕切れが味わい深くなっています。
 お母さんはお父さんを殺して食べていた→年齢が一番上になるとお菓子の家でお料理にされる→だからスープの味が飲み慣れた味→お母さんはお菓子の家で捕まって命乞いしている、というふうに読みましたが、違っていたらすみません……。
 絶妙な暗さと後味の良くなさ、まさにアングラ童話といった風情ですごく興味深かったです!

謎の白猫
 ヘンゼルとグレーテルを元にしつつ、物語の後半はオリジナルから大きく変わっている作品です。
 アングラ要素はおそらく人肉食の部分でしょうか? しかしながら、方向性はややダークにせよ、オリジナルのストーリーを鑑みると、本作は理不尽な状況を自力で打破するという前向きなテーマとも捉えられると感じました。
 時代的な要素や困窮した状況があったにせよ、捨てられた子供からしたらあまりにも理不尽です。オリジナルは「ここではないどこか」であるお菓子の家から財宝を持ち帰ったことにより幸せになる、つまり現実では幸せになれないがゆえの願望を反映したような物語ですが、本作ではきっちりと「ここ」=現実を取り戻し、自分を捨てたおかみさんに復讐をするという筋立てになっています。弱者が「ここではないどこか」で幸せになる物語の類型、個人的には胸糞悪いと思っていたので、このラストにはかなり溜飲が下がりました。
 一方で、お菓子の家の決まりごとはこのラストのためにややご都合主義的に作られているような感も否めませんでした。最終的に食われるとわかっていてなぜコミュニティが崩壊しないのか、よそ者が来たら年少者として仲間に入れるより食料にしら方が良いのではないのか……かなり疑問が残りました。
 タッチが童話調なので、あまり上記について詳しく説明しすぎても雰囲気が壊れてしまいそうなので難しいところではありますが、このあたりの疑問を意識させないように情報が整理されていると、より作品の面白みが際立つのではないかと思います。
 昔話をモチーフにしつつ、現代的な感覚もあるバランスの良い作品でした。

謎のポメラニアン
 どこかアゴタ・クリストフを彷彿とさせるような暗黒童話です。元ネタである『ヘンデルとグレーテル』といえば誰もが読んだことのあるような有名な童話で、こちらも翻訳される中で様々な改編があり、残酷であったり甘口になったりとエピソードとしては幅が幾らかあります。それからいえば著者が書かれた今作は結末など見ても概ね『ヘンデルとグレーテル』のままという向きがあり、このままでは評価が難しいと思われるのですが、目を見張るべきはこの描写。

"ヘンゼルに掴みかかろうとする少年を止め、グレーテルが何かを囁きました。

驚いた顔をする少年にグレーテルはにっこりと微笑みかけて……"

 お菓子の家を集落とする子供達がただ人の好いボランティアでないことは結末に習えます。それを踏まえてこの時のグレーテルの囁きはそんな子供達の一員である少年のモラル(或いはアンモラル)の理解を超えていきます。更には笑みを携えてみせるグレーテル、それはまさしく狡猾な悪魔のように、世における善悪を周知し明確な悪意を他者に差し向ける存在としてあるのです。ここに既存の『ヘンデルとグレーテル』とは大きく乖離した新たな残酷性が宿ってオリジナリティとなる。この発見には思わず両の掌を合わせて叩きました。

22.ニセモノJK援交日記/水辺ほとり

謎のイートハーブ
 水辺さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 もうJKじゃないんだけどJKのふりをしてお金を稼ぎ、推しのグッズを買う女性の話です。ものすごく面白かったです。タイトル通り日記形式というか、どんな客がいたかを淡々と紹介してくれているので、飽きも来ずに読めました。
 客メンツの中では圧倒的にMおじさんが大好きです。そりゃあ、こんな要求されたらドン引いちゃうよ……。でも頑張って叩こうとする主人公と、もっと強く! ちゃんとやって! と発狂するおじさんの対比が好きすぎて何回も読んでしまいました。気持ち悪いおじさん好きなんです……おじさんじゃなくてもいいんですが、アングラな性癖を急に出してくる存在、とても好きです。
 一方的に話をされるのはゴミ箱にされてるみたいでムカつく。この一文が非常に好きです。私自身にも共感があるんですが、それと共に主人公の自尊心みたいなものが見えて、とても印象に残る一文でした。
 この話どうオチがつくんだろう? と思っていたのですが、尻切れトンボでもなく、良くも悪くもなく、現実的な終わりを迎えて驚きました。靴占いで今後どうするか決めよう!→飛ばしたローファーが河に流されていって駄目になる。この流れが下手に肯定も否定もしておらず、いい締め方だったと思います。
 自分の意思があんまりないようなふらふらした思考での叙述が逆にリアルで、一人称ながら客体的な存在感がありました。良い掌編でした、面白かったです。

謎の白猫
 うーん……虚無です。虚無が描かれていると感じました。
 女子高生と偽って援助交際する19歳の独白ですが、主人公があまりにも空っぽです。援交の動機は推しアイドルのグッズがほしいからなのですが、その割にその推しのこともほとんど出てきません。脊髄反射のような、ほとんど思考を介さない誰でも言いそうな感想を抱きながら、大きな喜びも嫌悪感もなく、ぼんやりと安値で身体を売る彼女。
 これが彼女の個性として描かれているのか、それとも世代的、時代的な何かへの皮肉として描かれているのかまでは読み取れなかったのですが、彼女のその空虚さこそを描きだすための3000字だと思いました。
 彼女本人の語りとして描かれるので難しくはあるのですが、その空っぽさを介して作者が描き出したいこと、をもう少し強く押し出しても良いのではないかと感じました。先程も言ったように空っぽさを皮肉っているのか、それとも空っぽであるがゆえの切なさというものが主題なのか……「推しのために」でどこまでも自分を捨てられてしまうことを狂気として捉えているのか? フィクションとしては、ただ彼女の空虚さを追体験するだけではなく、もう一つ別のレイヤーの視座も含まれていると、より読み応えが上がるのではないかと感じました。
 彼女は最初から何も変化せず、やめたほうがいいと言いつつもきっとやめない、もしくは別の方法でお金を稼いでいくんでしょうね……。

謎のポメラニアン
 推しという観念は時に罪だなあと思わせます。取り繕われた飾りを剥ぎ取ってやれば、言い方は悪いけれどただ無骨な集金システム。そうと知ってか知らずか輝いて見えるものを愛さずにはいられないとは悲しい性であります。
 言葉の端々から彼女が身体と心をすり減らしていく痛々しさを感じつつも、推しによって際の際で保たれる意義からかそこまで憂鬱には見えませんでした。
 ラストの殊更意味もないような天気占いが儚くあれど、雑多な日常や靄のかかった憧れとは距離をおき、本物の彼女自身を映し出す鏡のようでどこまでも美しい描写でした。

23.迷迭香/灰崎千尋

謎のイートハーブ
 灰崎さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらファムファタルに傾倒してダメになっていく男の話です。ルビがありがたすぎて読んでいる間ずっと感謝をしていました。悲観的にペシミスティックとルビが振ってあったりするのがまた、雰囲気によく合っています。大正浪漫というか……時代設定に合った文体にもされていて、灰崎さんはすごいなあ……と感激しながら読みました。
 好みによる話になってしまうのですが、ユリエは私のファムファタル解釈からは外れていました。受け手の好みに合わさった容姿・性質になるのだとわかるのですが、それゆえに読み手としては掴みどころがなく、ファムファタルとしては固有の魅力・本質にあたる「相手に合わせた変容」自体に相手がわけもわからず魅力を感じ傾倒していなければ、運命の女とは言いがたいのではないか。そのように感じました。相手の好みに合わせて変化するという点だけ抜けば、理想の女ではあるが運命の女ではないように思います。ファムファタルが有する意味不明のカリスマ性に着目している系オタクなのでどうしても気になってしまいました……。
 ただ上記は私のオタク気質が招いただけのお気持ちに過ぎず、瑣末な話です。手への執着を高精度で書き出した官能的な描写が特にすばらしく、作品全体を包む雰囲気がうっとりするほど幻想的で、夢か現か妄想かという境界を上手くぼかした良い掌編だと思います。面白かったです!

謎の白猫
 ファム・ファタールもの、そしてミイラ取りがミイラになる蟻地獄ものでもあります。
 これはいわゆる妖怪譚のたぐいとして読みました。ミヤコもしくはユリエという女はヒトではなく、相手の願望を反映し、廃人になるまでその生気を搾り取る怪異であると。
 増殖しないので根本的には違うのですが、伊藤潤二の「富江」の雰囲気も感じました。男の自我を崩壊させる怪異という点で似通って感じたのかもしれません。
 真面目だったはずの友人が堕落してしまった経緯が、主人公本人の体験を通して明らかになっていく展開はすっきりとまとまりがあります。レトロな文体が現実と幻想のあわいを描いた作風にマッチしていると感じました。
 一方で、これは完全に好みの問題だと思うのですが、女の容姿が美しいものに変わる(厳密には主人公が最初の容姿を記憶していないので「変わる」ではないのかもしれませんが)というのは、「美しさ」というわかりやすいものに価値を置いているぶん陳腐に見えてしまう側面もあるかもしれないと思いました。主人公のコンプレックスを受け止めたり、造作なくシェイクスピアを引いてみせる知性だったり、そういったものを中心とした魅力の造形が強くあると、レトロながらに新鮮な面白さが一層深まったのではないかなと感じました。
 ただ、「容姿が固定しない」というポイントが女の「怪異らしさ」を担保していることもまた事実なので、やはりこの設定で良いのかもしれません。読み手の中にも「百合絵」が根を張ってしまうような美しい怪奇譚でした。

謎のポメラニアン
 出会ったときの百合絵は語り手曰く平凡な容姿の女、とのことですが彼女自身言葉遣いには品があり、会話だけを追うと艶やかな女性像が浮かび上がってきます。また友人を色情に溺れさせた責任を取らせにきたと言いますから、実態はわかりませんが何かしら魅力ある人と想像できる。ただ偽名でのやり取りなどからも察するように百合絵の実像は通底してぼやかされて見えます。結局彼女が語り手の友人にどのような害をもたらしたのか具体性については中々に見えてきません。そういった実像を伴わない前半があり、二度目の出会いに入っていく。ここでは不可思議な現象があり特に理由も説明されぬまま語り手とのやり取りは進行していく。以前の百合絵とは違い、語り手にもそれは美しく映るのか彼自身が惹き込まれることで前半よりも百合絵という存在の持つ意味が見えてきます。果たして彼女が何者かは想像するしかありませんが、語り手は結果として友人に起きたことを追体験することになり骨抜きにされてしまう。
 物語の基盤が筋立てよりもイメージ描写に置かれているように感じました。意味を問うよりは随所の表現に惹かれる感覚。百合絵の正体などについてサスペンスに読むことももちろん可能ですが、官能的なイメージの勢いを感じとるほうがより没入できる作品ではないかと思いました。


24.地獄、ぱらいそ、カルミン/いりこんぶ

謎のイートハーブ
 いりこんぶさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 とある女性の半生が女性視点で語られた地獄です。いいですね~~! とても好きです、容赦のない虐待にやばいこと言い出す大人の相手しなきゃいけない状況、非常にいいです。カルミンがアイテムとして本当に秀逸ですね。鼻にぬける薄荷の含まれた、お菓子なんだけど甘さだけではないこのアイテム、作品全体の色合いにもなっている気がします。エメラルドグリーンの地獄。
 いりこんぶさんの文体は、なにか文学の匂いがします。食物を筆頭にしたアイテムの解像度が高いことも理由のひとつなのだなあとこちらの作品で思いました。一人称の丁寧語で淡々と進むため、余計に物悲しくなってきますね……。舞台設定によって文体を変えるというよりは、舞台設定を自分の文体で作りこむ技に長けてらっしゃる印象です。
 これは猫派の私が招いた誤読なんですが、猫ちゃん関連の最終話でしばらく解釈に悩んだ経緯があります。実家の猫ちゃんは足の裏で甘踏みされてマジで喜ぶのでわかる~!そういうとこある~!となってしまい…。猫苛めはアウトだから評価を下げるようなことはもちろんないですが、こういう誤読がありました報告として書きました。これは同時にそれほど同期していたという事実でもあるので、のめりこませる魔力のある作品なのだと思います。
 カーストで下位に位置する生き物であれば……という思考に至った(のに悪意もなさそうな)主人公には十字を切らせていただきました。地獄が地獄を呼ぶ展開、なんの救いもなくてアングラですね……とても好きな流れです。
 冒頭で延々聞かされていたよくわからない話を最後に持ってくる構成がたいへん好きです。
 ぱらいその意味、きっとわかっちゃいけないんでしょう……。仏陀は苦行を重ねた末に苦行には意味がないと仰いましたが、そこに至るには苦行を重ねなくてはいけないわけで、点棒積み上げるために試練があると思いこまなければ生きていけない、ということでしょうか。
 色々考える話でした。読後も引き摺ったという意味では随一です。興味深くよませていただきました、ありがとうございました!

謎の白猫
 純文学です。随想録といった趣で、伝わってくるのは息苦しい閉塞感です。
 タイトルがとても素晴らしいと思うのですが、地獄はその名の通り、主人公の家が地獄であり、ぱらいそは秀悦さんの話に出てくるParadise(天国)なのですが、これを信じた先にあるものもまた、姿の異なる地獄であるとわたしには思われました。この中ではカルミンの薄荷の涼やかさだけが、唯一確からしい清浄に近いものであるように感じられ、しかしそれも製造終了となりこの世から失われ……という、徹底した救いの無さがこの作品には溢れています。
 アングラの解釈として、こういう表現は危険を孕んでいるとは思うのですが、生まれによる逃れられなさ、本人の意志と関係なく地下に生まれついてしまったもの、というような着眼点なのではないかと思いました。そういったものをドライに、しかし澱が溜まるように描けるというのは相当なものだと思います。自分は中流階級の小市民という自覚があるので、もしこういったものを書こうとしたら、どうしても外側からのいやらしい視線がにじみ出てしまいそうです。
 主人公は結局、猫を虐めて一人ぼっちで過ごしています。それ以外に行き場のない人の、行き場のなさを繕った言葉が「ぱらいそ」であると、そう思ってしまうわたしはやはりどうしても彼らを外側から偏見の目でみることしかできないのかもしれません。とても完成度の高い作品だったと思います。

謎のポメラニアン
 子供時代の不遇を静かに語る様には不思議と憎しみが感じられない。哀切の類いは伝わってくるのに恨み節というようなものは一切と言っていいほどない。父は畏怖として、母は気高さとして語り手に強さを与えているように見えました。語り手が見ているものは一般的な豊かな生活ではなく貧しさが顕著な暗い世界ですが、そんな中でも彼女の洞察力には目を見張るものがあり、貧しいながらも色濃く映る景色です。汚泥の中で決して埋もれることなく小さな喜びを探す様が健気で、辛い現実に一筋の光を与えています。親戚の男性もどこか聖人的で、彼の御用聞のようなことをやっているうちに自然と主人公にも神性が宿ったのかなどと想像しました。
 タイトルにある地獄とは寧ろ大人になってからが如実であるように見えます。可哀想な猫なら飼ってもいいと思えた、この言葉は重くるしく罪深い。今や彼女にとって地獄こそが居場所であり、他人ならば嫌悪するような世界を敢えて作り出しています。ここでようやく過去に憎しみを抱かないのではなく、過去の生活が彼女にとっての「ぱらいそ」だったことに気付かされる。抉られました(スタオベ)。

25.となりの丸山さん/かねどー

謎のイートハーブ
 かねどーさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらとなりに住んでいる女性にパーティーの誘いを受ける主人公のお話です。面白い!!! 一読した感想がこちらでした。すっごく面白いです。そして凄い。
 まずなんですが、アングラというテーマをかなりストレートに使った上で、全然暗くないのが凄いです。もちろん暗い話は大好物で、バッドエンドも主食なんですが、アングラテーマで乱交パーティーを題材にしてこの爽やかさ、誰にでもできることではありません。少なくとも私には無理かな……。
 ところどころ、フフッとなるシーンが挟まっているのが本当に憎いです。これがきっと爽やかさに繋がるコツのひとつなんでしょうね……。それでいて話の筋もかなりしっかりしており、となりの丸山さんがパーティーに誘ってくれた真意が終盤には提示され、ここで「かわいい……」となってしまう、うーん面白い。本当に面白いです。なんのストレスもなく読めて、いい話だった! 好き! となりました。ライトさを意識して出せる、この明るい感性がとても強いです。
 キャプションに書いてあった「ラノベ版の愛の渦」、かなりの精度で達成されていると思います。乱交パーティーの様子も、読み込んでみるとある程度リアルに描写されているんですよね。それでも残る爽やかさ、読みやすさ。
 すごいなあ……。テーマを消化しつつ、やりたかったことも達成し、さらっと読み通せる文章の上手さ、何も言うことはないです。かねどーさんの作品をもっと読んでみたいです。

謎の白猫
 もうね、めちゃくちゃ好き~~~!! 5億点です!!
 何が5億点なのかというと、まず「アングラ」という要素の使い方が最高です。わたし自身もですが、アングラというテーマを与えられた時、「普通」ではないものを対象化し、そのアングラと呼ばれる何かの方に視線を向けてしまいがちだと思うのですが、この作品は「アングラ」を介することで「普通さ」をほうを際立たせるという、少なくともわたしは想像出来ていなかったアプローチをしています。これは地方から上京してきた主人公の眼差しとシンクロしていて、「東京」や「アングラ」(この場合は乱交パーティー)を「自分とは違う、特別なモノ」と思っているところから始まり、そういったカテゴライズから次第にその中の個人にフォーカスが移っていくという、正統派の青春モノ、ボーイミーツガールものの骨子となっています。
 もう一点素晴らしいのが、出てくる人がみんないい人ということ! 出てくる人がみんないい人の物語、大好きなんですよ。なぜなら悪人を出すと物語が簡単に転がるからです。善人だけで物語を転がすのは難しいのですが、本作は先述の通り、主人公の認識がAからA'へ変化する、という部分で物語を担保しており、その変化内容も「特別視していたものが実は普遍的で好ましいものだった」というもののため、丸山さんだけでなく、ミカさんもコウジさんも全員良い人で、とてもほっこりした気分になりました。
 丸山さんのトンチキ不器用っぷりが本当に可愛いですね……登場人物全員に幸あれ! 

謎のポメラニアン
 乱行パーティーは特殊な現象といって差し支えないと思うのですが、それに参加する人たちからおしなべて漂う「ひとの良さ」はなんなのかなと。倫理や貞操観念が破綻してこういった事態になるのではといった想像力を破壊していく平和の園。乱行パーティーを団子パーティーと聞き違える、その素朴さが全編に染み渡っており、語り手の男の子はこの特殊な経験を通して都会を(誤解して?)勉強してゆくわけですが、スレていくわけでないのがまたいいですね。丸山さんは丸山さんで偏ったモノの考え方とか天然ぽくって可愛らしい。率直に言ってあなた達、変だよ!……変だけど……まあいいかと、彼らの優しさに絆されて此方も優しい気持ちになる。秘境の、人目を避けて潜む妖精達の住処……アングラです。


26.少年たちの夢/おか

謎のイートハーブ
 おかさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 娼館で働く少年たちのお話です。少年、声変わりというあたりでもうアア……となります。BL愛好者なのでショタが体を売っているものもいくつかは読んだことがあるのですが、愛好者なせいで忘れていました。アングラですね、この設定って……。今更ですが……。
 主人公自体に毒気がなくて、友達に淡い恋を抱いている描写が繊細でドキドキしました。恋と断定できないような輪郭のあいまいな雰囲気がとても上手いと思います。
 それでまた友達が……直ぐ死んじゃって、しょんぼりしている間に声変わりの話題で、どんどこ駄目そうな方向に話が転がっていってすごく不安になってきます。すみません少し嘘です、悲劇好きなので手に汗握っていました。
 しかしこの、悪趣味な主催ですが終わり方が本当に綺麗でびっくりしました。死んでしまって終わり! ではないところに、作者さんの拘りや優しさのようなものを勝手に感じ取りました。
 あと、けっこう色んなキャラが出てくるのですが、役割がちゃんと与えられて尚且つ書き分けができているため、混乱せずに読めました。地力がある作者さんに思います。
 ラストシーン、本当に綺麗で予想外で、ハッピーに終わったのがとても印象に残りました。夢が叶う瞬間、何回見ても気持ちいいものですね。面白かったです!

謎の白猫
 地下室に閉じ込められ、身を売って生活する幼い少年の儚い初恋のお話です。
 ろくに教育も受けず、何も知らず、ただ言われるがままに春を売って、最終的には文字通りの意味で「身体を売る」ことになる哀れな運命の少年ですが、そんな環境でも人を愛する気持ちは芽生えます。
 主人公の少年の一人称で話は進むのですが、少々気になったのは、作者の認識と主人公の認識の相違です。主人公はその境遇故に無知という設定なのですが、作者はここで起きていることをすべて把握しています。そのためか、作者の視点でわかっていることの描写のあとに「僕は頭が悪いからわからないけど」というような一言が添えられ、それが非常に説明的というか、取ってつけたような印象になってしまってもったいないと感じました。キーワードになってくる「結婚」も、そんな概念とは切り離された場所で生活していそうな主人公がポジティブな意味づけで使っているのがやや唐突に感じます。主人公にとって「結婚」が「相手と一緒にいること」であるという定義付けになったエピソードがあると、よりこの物語が生き生きと輝いてくるのはないかと思いました。
 最終話はタイトルの通り「夢」(死ぬ間際の幻覚)なのでしょうが、ある意味美しいハッピーエンドであると感じました。

謎のポメラニアン
 地下に閉じ込められた少年たちはその時点で先の未来も閉ざされています。商品としての価値が失われれば文字通りバラ売りされてしまう。卑劣な大人の欲望のために人生を消費される彼らを助ける者、それは彼ら自身です。生死の概念を越えて「夢」に希望を託す。その命は儚くとも屈強であり、シャルナンは死を恐れることなく友と一緒に在り続けることに喜びを覚えます。ここでようやく邪悪なしがらみから解き放たれ、彼は地下で夢見た理想に辿り着く。自らの犠牲を伴った悲しい顛末と見ることもできますが、シャルナン自身はそれよりもこの境地に辿り着いたことが幸福なのであって読者は何もできない。経済格差が生む悲劇の連鎖、どんな憐れみも綺麗事にしかならない中で彼らの想いだけが煌々と輝いている。


27.猫を被って生きる/そのいち

謎のイートハーブ
 そのいちさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、猫の社会を描いたコミカルな短編です。こーーれ面白いですね! 我々人間からすれば、人間以外の生き物の世界はすべてアングラと言えるかと思います。着眼点が本当にいいです、そのいちさんの発想は毎回面白くて、投稿してくださってうれしかったです。
 私は圧倒的猫派なため、猫ちゃんがにゃーにゃーしている図を勝手に妄想してもだえ転がりました。とくにトニーことまめ太ちゃん、カワイイですねえ! ちょっとイキっているところも最高にカワイイです。きっと家中を走り回るタイプなんだな……食器棚の一番上で寝ていたりするんでしょう……あまりにもカワイイ。ありがとうございます。
 猫我慢、毛玉でも吐き出すような顔、猫ダミ声など、独特の猫関連ワードが出てくるところがすごく面白いです。こうやって細かくコミカルポイントを積み上げていったあと、シリアスな描写に入り……オチで綺麗に落とすという。読んでいて楽しい作りになっていました。ババア、めちゃくちゃ好きだしすごく気持ちがわかるんですよ。猫はカワイイので……無限にカワイイので……いっぱいいるとうれしくなっちゃう……。
 ブルーノもまめ太もマーティンも無限に猫かわいがりしたいです。さらっと読み通せて猫がカワイイ、すばらしい現代ネコドラマでした。面白かったです!

謎の白猫
 白猫は猫派です。
 いいですね、おとぎ話のような猫たちの世界でありながら、フォーマットはマフィアの抗争でしっかりアングラしていると思いました。イタリアンマフィアですね。
 野良ネコをマフィアに見立てたのがまず上手いと思いました。野良というキーワード、たしかに言われてみればアングラみがあります。キャラクターや台詞もきっちりマフィア的なそれで、可愛らしい猫とのギャップが効いています。
 ストーリー的にも、家ネコになりかけていたブルーノがどうあがいても自分は家ネコに収まれない、野良ネコ=マフィアである自分を捨てられないというハードボイルドな展開になりかけたのに、最後は「ババア」が全部持っていくという。猫たちの世界だけで完結させずに、ある意味メタ存在的な飼い主を登場させることで、人を喰ったようなこの設定のコミカルさが引き立ちます。
 緩急がしっかりしていて、コメディのセンスも抜群だと思いました。細かい言葉がすべてネコ仕様に変わっているのにもクスリとしました。

謎のポメラニアン
 ネコ社会における闘争、そこからはみ出した負け犬ならぬ負け猫ブルーノは、一匹の家ネコに出会い……。
 なんでしょう。彼ら野良猫はきっと本気で命のやり取りをやっているのでしょうけど可愛らしさが前にきます。物語の筋としては王道で、一匹狼が人並みの生活に憧れながら、それを許されない闇社会の存在があり、弱さを人質に取られて再び対峙する。それを猫でやってるわけなんですが、ここで絶対的な(暴力的とも言える)力の働きがあります。「ババア」です。彼女には猫の言葉がわかりません。故にネコ社会の掟もしがらみも関係ないし、全ては等しく「猫可愛い」に辿り着く。なので猫同士の喧騒もババアに発見されてしまえばそこで試合終了です。若干捻くれた見方をするとババアのせいで野良猫は葛藤を覚えます。家ネコとしての生き方には野良では味わえないメリットがある。そこにドラマが生まれる。マーティンとの対峙も野良だった時とは違ったものになってくる。
 (私の)読み込みが足らず、最後の描写はよくわからなかったのですが、猫同士のやりとりが人の言葉でありながらネコチャンしてて可愛かったです。


28.便利屋マダラ/こむらさき

謎のイートハーブ
 こむらさきさんこんにちは、ご参加ありがとうございます五億点…………。
 こちら便利屋のマダラさんと、複雑な関係にある主人公が対立するある謎の話です。ほぼ上限ビタなのですが、内容は文字数以上に詰まっている素晴らしい短編でした。キャラ設定もよく、構成もわかりやすく、謎の解明にアングラな界隈の描写に切なさの迫る幕切れと、キャラクターを立てたエンタメ小説のお手本になるような話です。なので、私がとやかく言うようなことはありません。
 というわけでこの先マダラさんか静さんのことしか喋りません、すみません。
 タイトルにもなっている便利屋のマダラさん、最高ポイントしかないんですよ。まず黒髪長髪、五億点。いいよぉ、というちょっと軽薄さすらある気だるそうな雰囲気、五億点。バキバキに入ったボディペイント五億点。もう十五億点なのでやめますが、どうしてこんなに最高に好みの男を生み出してくださったんですか? こむさんの存在に感謝します。マダラさんは素晴らしいキャラです、あまりにも好みで一回目の読みでは内容が全然入ってきませんでした。人を狂わせる性能を持っています。
 あらゆるところにバキバキにペイントされている長髪イケメンマダラさん、静兄様との関係性も倍最高で動揺しました。妄想と偏見の入った曲解なんですけれどこれは静さんがマダラさんに頼んでこのようになっているだけでそこにはこう、なんだろう、一口では言えないような感情と状況が横たわっているように思えてきて、家族全員が静さんのことを忘れても肉体を使用しているマダラさんは忘れることはないのか……と思うだけで情緒が死にました。静さんもめちゃくちゃ好みで助けてほしいです。話し方が……タイプ……。
 黒髪長髪とBLはそこそこ投稿いただいていて、私は元気に天邪鬼なのでこうも狙われると逆に目が厳しくなってきたりするんですが、そこを遥かに超えて完封試合達成という風情で、こんなの嫌いなわけないんです。好きです。連載化したら泣きながら死にます。マダラさんも大好きですし静さんも本当にかっこよくないでしょうか。マダラさんが開幕女とよろしくやっているところも最高でした……女を抱いている描写が映える黒髪長髪は国宝です。
 ここまで読んでいただきありがとうございました。五億点越えて百億点です、ありがとうございましたありがとうございます……。

謎の白猫
 アングラというテーマ的に現代ドラマが多い印象でしたが、本作はがっつりファンタジーです。先に謝らせてほしいのですが、白猫はファンタジーの消化酵素が著しく少ないので、読み落としや誤読が多いかもしれません。ごめんなさい。
 怪物使いの家系の長男の身体を乗っ取っている怪物と、兄を慕う妹のコンビが怪物の絡む事件を解決するという、シリーズものになりそうな設定のお話です。
 かなり要素が多く、どうしたら兄が元に戻るのかという大前提の問題、そして妹の友人が呪われたという問題が並行して進んでいきます。前者のウエイトが重く、後者が薄めだったのですが、短編としては後者のエピソードを重くしたほうが収まりが良いのではないかと感じました(アングラ要素も後者にかかっていると思ったので)。
 こむらさきさんのツイートを拝見していたので、もともとはもっと長いお話だったのを知っているのですが、たしかにこのストーリーは15000字では厳しいよな……というのが正直な感想です。やっぱりシリーズものとして、前者の問題は時間をかけて解決していきつつ、各話で後者のような依頼を解決していく、という話が見たい! と思ってしまいました。兄との思い出や斑との関係性も回を重ねて描写していったら、ラストの兄のことを忘れるという展開もよりショックで切なくなるかと思いました。シリーズものの後半のお話という感じでした。
 とはいえ相当削っているのにストーリーに破綻がありませんし、キャラクターが生き生きとしていて流石です。シリーズ化期待してます! 

謎のポメラニアン
 キャラクターの造形が非常に高く、さも漫画を読んでいるかのようにその表情をイメージすることができます。作中では憑き物であるマダラと依り代である語り手の兄という性格を持った所謂二重(多重)人格の活躍が描かれますが、古くはジキルハイドに始まり、最近では『呪術廻戦』の虎杖と宿儺、『鬼滅の刃』の我妻善逸、少し前だと『多重人格探偵サイコ』の雨宮一彦のように同一の肉体を共有する複数のキャラクターの魅力は「らしさ」みたいなものを語りつつそれを超越できる自由度の高さにある。ギャップというやつです。
 肉体の主人格である成井静は作中で殆ど発言しませんが、妹の沙羅がマダラを否定的に説明することで浮き彫りにするやり方にも筆者の表現力の高さを感じます。キャラクターが魅力的な一方でストーリーも押し負けず、ミステリやホラーの要素を絡ませた王道で、これだけの設定があれば何作もシリーズが書けてしまう質の高さがあります。一端の帰結を迎えた本作ですが、視点を変えてマダラや静の内省などからも見てみたいと思わせてくれる作品でした。

29.フランツの家/Veilchen(悠井すみれ)

謎のイートハーブ

 すみれさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらナチス政権化のドイツにて、フランツという少年にスポットを当てた歴史小説です。面白い! とても面白いです。ドイツ語のルビが内容にもマッチしており、文章から空気感が伝わってきました。本当に面白い……微BLというタグからの期待値を遥かに超える満足感でした。
 まず一万文字以内で綺麗に起承転結がおさまっており、たいへん読みやすいです。世界史まったく詳しくないのでちゃんと理解できるか不安だったのですが無用の心配でした。主人公が少年であることも、読みやすさに一役かっているように思います。
 この短い中に「転結」まで綺麗に入っているのが本当にすごいなと感嘆しました。フランツの家にやってくる「客」の正体、ふわっと予想はつきつつも、そこから転がる「フランツの思惑」。これが本当にいいですね! とても好きです、なるほど微BL……。
 BL要素としてもおいしくいただけました。がっつりBLではなく思春期の揺らぎと言いますか、憧憬の混ざった慕情がこの結果を生んだという、ラストに繋がるための布石にもなっていたため余分な要素と思わせない描き方で本当に仕事が丁寧です。
 短編・掌編って何を捨てるかの書き方が重要なのかなと思ったりします。その点ではすみれさんは本当に卓越されていて、お上手だなあと嘆息しきりでした。
 アングラ要素の読み取りを忘れて読み込んでいたので敗北しました。でもナチス政権化での「客」のあれこれ、確かにアングラ要素です。ビターな読後感も好きでした、面白かったです!

謎の白猫
 とても素晴らしかったです。複雑な感情、割り切れない状況を説明的になることなく身に迫るかたちで描き出しています。語るのも蛇足という感じがしますが、なんとか講評をひねり出していきます。
 まずはテーマ解釈ですが、アングラの側から描いた話でも、アングラを眼差す話でもないのに、これ以上なくアングラ(地下)の人々の存在が重要となっている話というのがなんとも絶妙です。地下の個人ではなく、「地下=フランツの見えないところに人が居る」ということがフィーチャーされています。その着眼点の独自性の高さたるや。
 そしてこの物語にとても高い価値があると思うのは、「他者から見た善行」が当事者の周りにどういった影響を与えていたか、という想像力です。現代から振り返った時に、フランツの両親の行いは紛れもなく善なるものと言えるでしょう。彼らのような人は歴史において絶対に必要だったし、その善性は覆されることはありません。しかしながら、息子フランツからしたらどうでしょう。誰に彼が責められましょう。両親には「ユダヤ人を救う」という大義がありますが、フランツが「家族からないがしろにされた」というのもまた事実なのです。そんな当たり前のことに気付かされました。
 この部分だけで充分に成立していそうな物語ですが、ここにフランツの淡い恋心が重なります。それが過剰にならず、むしろうまく絡み合って美しい和音を奏でているのだから圧巻です。家に居場所がないフランツにとって、迷いがなく、裏がないディートリヒの存在はまさによりどころ、Mein Heimだと感じられたことでしょう。それを得るためにフランツは両親を売り、哀れみを買うように振る舞いますが、この一種の浅ましさのようなものが嫌悪感につながらず、むしろフランツのこれまでを考えれば当然であり、だからこそディートリヒに惹かれたのだと一層納得感が増しました。
 書ききれない細かい描写にも素晴らしい点が多数あり、未読の方はぜひ一度読んでほしい作品です。

謎のポメラニアン
 歴史に見るユーゲントの行末は悲惨なものです。大戦で劣勢になるや、十分な訓練も受けぬまま兵として駆り出され戦禍の中で死んでいった10代の若者たち。時流の赴くまま流されるしかなかった組織の表れとしてフランツなる少年の物語が映し出されます。彼自身の不満や憂鬱は彼の中では饒舌でありながらそれらは表明されることもなく、彼自身の意思に見える両親を党に告発したことさえも、元を正せば歪んだ規範のなせる決断で、たとえそれがディートリヒを想ってのことであってもどこか機械的な所作に映る。我が家の匂いを期待しながら、最後には他人でしかない家にそれを見る。残酷な言い方をすれば個を見失った存在でしかないフランツです。彼の年頃でまともな判断がつくのかはそれまで得てきた見識に左右されると感じますが時代背景的にも「何が正しい」かを「一個人が判断する」というのは難しい状況だったと想像します。子を想えばこそ打ち明けられなかった両親達の秘密も皮肉なことに少年の心を疎外してしまう。フランツがこれで良かったと久しく思えたその背後は暗く深い。

30.右目/@peraneko

謎のイートハーブ
 @peranekoさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらニューハーフ同士の夜(キャプションより)の話です。興味深くよませていただきました。エロいかも、とキャプションに書いてあり、運営からの通達を少し恐れていたのですが大丈夫そうで安心しました。
 一度読み通しての率直な感想は、衝動を押し込んだような三千文字だ、です。感情描写がとても強く、なにかしら訴えかけられているような気分になりました。タグにも悲恋とあり、どう捉えると適切なのか悩みましたが講評なので読んだまま伝えます。
 上にも書いたように感情描写が強く、視点人物の慟哭が文字越しに伝わってきました。場面としては情事に及ぶ一夜だけであり、長編~中篇の一篇だけを切り抜いた味わいもあります。人間の人生を書くと小説になるのでそのためかと思います。
 タイトルの意味がわからなかったのが申し訳ない部分です。アングラ要素としては、マイノリティと呼ばれていた方々をメインに据えたお話であることかなと思いましたが、それ自体がほっといてくれというような感情も勝手に感じました。
 つらい夜もたくさんありますよね。人間同士殴り合いながらわかっていくしかないのかもしれない、とは私自身が持っている人間への感想ですが、それで上手くいくようなものでもないので、とても難しいなと思います。
 感情の圧を多大に受けた掌編でした。作者さんにしか書けないなにかがあるのだろうなと思います。私がなにかしらの発散に文字を書いている人間なので、その意味では共感に似たものを感じました。よませていただけて良かったです。

謎の白猫
 ネットで出会った相手とのセックスに関する随想録といった作品です。とはいえ相手の描写は極端に少なく、基本的に自分語りという、非常に内省的な文章であると感じました。アングラ要素はワンナイト的なセックスという部分でしょうか?
 過去に具体的に何があったのかわかりませんが、主人公は非常に自分を低く見積もっており、それでありながら相手のことはあまり考えていない傲慢さも持ち合わせています。そのことにも若干自覚があるようで、「私は彼女に配慮するフリをしながら、選択肢を絞り、あるときには意図的に誘導して、少しずつ距離を縮め、会う日程を調整した」というフレーズなんかはなかなかお目にかかれない真に迫った感じがありました。
 実際に会ってみたらセックスに対して求めることが双方で違った、というのはトランスだろうとシスヘテだろうとよくあることなんじゃないかなーと思うのですが、主人公は大きく絶望し、絶望したそばから意に沿わない行動を無意識に取っています。この辺、わからなくもないのですが、うーん、とにかくこの主人公は自分勝手で気持ちの高低が激しいなあという印象を持ってしまいました。
 小説としては彼女のその勝手さや不安定さを形作るエピソード、物語というものがほしいなと思ってしまいました。それがないと日記を読んでいる感覚に近く、本人にとっては筋が通っているのだろうけど、読み手には今ひとつ遠く感じてしまうかもしれません。
 言葉の感覚が鋭敏な方なのでしょうか、ときおりハッとする表現がある点が魅力的でした。

謎のポメラニアン
 話の熱量や生々しさに圧倒されながら読みました。これはひょっとすれば当事者の声ではないかと勘繰っている私がありました。ひとりの人間の物語として見た時、読後感は切なさとなって湧き上がります。
「好き」という言葉が作中で持つ意味によって浮き彫りになる語り手の渇きと孤独が痛切でした。どうして題が『右目』なのかを考えてみましたが左目は過去、右目は未来を見るなどと言いますし、この解釈があってるのかは定かではありませんが、語り手の心情は切ないながらも前向きに括られているところに「その先」をイメージ出来ます。
 "朝というよりも昼に近い硬い光"という表現が印象的で好きですね。


31.よいこのよふかし/秋永真琴

謎のイートハーブ
 秋永先生こんにちは、ご参加ありがとうございます!
 前回時間切れになっていたことを気にしてくださっていたようで、たいへんに恐縮です。喜んで読ませていただきました!
 不眠症の男の人が過ごす夜と、表には出せない趣向を持った人の話です。どこかほんわかした平仮名のタイトルに反して、出てくる人間がすごく非合法……。なのに、秋永先生の端整な文章で繰り出されると合法のような気がしてくる不思議さ。四千文字台。色々びっくりすることが多くてドキドキしました。小説がうまい人は小説がうまいです……。
 構成としては二話構成、表と裏のような書き方です。必要な描写に絞って書かれてあり、キャラクターも数名出てくるけど混乱することもなく読めます。
 個人的に一番うまいなー! と膝を打った部分は主人公の特性の描写です。なんでこんな相談役みたいなことしているんだろう? と思う隙もないくらい入っていたので、一番最後でああなるほど! とすっきりしました。だから色々やっていたんですね……。
 アンソロジーに寄稿された作品と同じ世界線だと後程先生のツイートで知りましたが、まったくそうは感じさせない書き方もお見事でした。
 千秋さん、とても好きです。というよりは私が一番わかるのは千秋さんかなと思いました。暴力が好きなんですけど暴力したいわけじゃないというか、傷つけるために暴力したいわけではないんですよね。なので、主人公が応えられる人間だったら、と千秋さんに思いつつ、口にしなかった場面が妙に沁みました。このほんのりブロマンスも凄く好きです。
 秋永先生のアングラが読めたので私もきもちよく眠れます。夜のお供にも適した掌編で、とても楽しく読みました。ありがとうございました!

謎の白猫
 私事ですが、まさに寝付けず朝になってしまった日にこの講評を書いています。
 さて、不眠症の探偵が高校時代の友人の依頼を解決するお話です。深夜営業のバーで個人的に依頼を請け負う探偵というのと、依頼人のマイノリティな性癖、そしてチンピラグループとヤクザという複数のアングラ要素をうまく組み合わせている上、ほのかにBL風味の味付けまでしてあってとても美味しいエンタメ作品だと思いました。
 特に好きなのは、千秋というキャラクターの人間像です。性的興奮を得るために暴力が必要ということと、本人の人間性が切り離されていて、おそらくそういう性癖の持ち主だからこそ、千秋は平素は良い人間であろうとしているのだろうということが感じられました。主人公の「本当にいいやつが、そういうふうに生まれついてしまうから、苦しむのだ。」という言葉がそれを端的に表しています。
 千秋はこのとおりですし、チンピラ少年たちはカツアゲなんてしょうもないことをしていますがおそらく彼らもそういう生き方しかできないのかなあと思わされます。主人公は人を助けますが、それは自分が眠るため(なぜ不眠症になったか不明ですが、自分に価値を認められると自分を罰さなくていい、眠ってもいいということなのかなと邪推しました)ですし人は殴ります。すべての登場人物が善とか悪とか割り切れない人間臭さを持っていて嫌いになれない、そんな魅力のある作品でした。

謎のポメラニアン
 小説について、作品そのものを語る場合、面白いとかつまらないと言うことはあっても上手いとか下手とかそういう言い回しはなんとなく避けているのですが、それでもこの秋永さんが書かれた作品のようなものに出会うと「うめぇ」とため息を漏らしてしまいます。特別何がそう思わせるのかは難しいところなのですが、例えばシンプルに纏まりがよく、無駄な修飾が一切ないと感じさせる言葉の選び方。深読みなど所詮は邪推と思わせる可読性の高さ。端的に言って「質」の高さ。そういった要素が組み合わさってため息が漏れる。もうここまで来るとあとは何を言っても蛇足にしかならない気もしますが好きだったところを幾つか挙げると、滝口の千秋に対する印象、真木のイニシアチブの取り方、大前とヒスイの関係性、滝口と不眠症などなど。それらについて語りすぎないことのバランスが絶妙で読者として完全に踊らされた気分です。かといって不快ではなく読書の心地良さを教えてくれるんだからもう凄いですよね。なんも言えねえ。


32.南柯の夢は月明かりの下/ぷにばら

謎のイートハーブ
 ぷにばらさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、とある男性が妻と娘を大事に守りながら生きている話です。超好きでした、いいアングラ……!
 まず開幕のスタートが大変いいですね! 小指を噛み千切るところから始まるこのパンチ力。そしてこの指を噛み千切る癖にもしっかりとした理由があり、伏線となっているところもお見事です。一万五千文字という上限を生かし切った、読み応えのある短編です。
 南柯の夢、はかない夢や栄華がむなしいことのたとえなんですね。内容に合ったタイトルで、読み終えてから確認すると一層胸に迫るものがあります。
 随所随所、上手いポイントがあるなあと感嘆したのですが、伏線によって展開を想像させつつも最後まで引っ張っていく筆力自体がまずもって素晴らしいです。リョナ欝描写もお上手だ~~! 好きです。特に陰茎を噛み切るところが好きです。
 少し話が変わるのですが、主人公に指を噛み千切られた男が「本人にそのつもりはないんだろうけどかなり嫌なやつ」である点が面白かったです。俯瞰してみると(精神状態含め)まっとうな人間が本当に少ない。両親くらいかなと思いつつ、その両親もどうかな……甘受が良いとも思えないので、判断が難しいです。
 指なし男さんは主人公が特殊な環境下で過ごしての現在だと知って優しい方向に豹変しますが、これがもう、私の感覚だと本当に嫌なんですよ。褒めております。結果として伏線回収の役に立っているところも含めて嫌です。このキャラの使い方が本当に上手だと思いました。
 超個人的に言えば、誘拐監禁おじさんの描写もとても好きでした。死んでくれて良かったです、推しに手を出すおじさんは有罪なので……。面白かったです!

謎の白猫
 グロテスク、という意味ではわたしは本作がこれまででもっともグロテスクに感じました。小指を噛み切るなどの描写というより、徐々に明かされる主人公の誘拐された過去や妹が受けた酷い仕打ち、これも描写というよりその設定が「容赦がない」という感じです。読者を不快にするように作ってあると思うのですが、しっかり不快になりました。
 もう一つの骨子である「アカリ」の存在のミスリード、序盤はすっかり騙されました。中盤から「おや?」となるので意図的な情報開示かと思います。母親がテレビで見ている「シャッターアイランド」(タイトルは出ていませんが)も伏線ですね。
 これ、話がえげつないのでスルーしてしまいがちですが、兄妹間の近親相姦的な愛情自体もかなりアングラというか、作中に「私とお兄ちゃんとこの子、あとはお母さんとお父さんが(中略)一緒に暮らせたら、とっても幸せだったと思わない? 」という台詞がありますが、両親の気持ちになってしまい素直に首肯できなかったです……まあ娘が殺されるよりはなんぼもマシですが、しかしなあ……。
 小指噛み切られた兄ちゃんがまさかのネジ外れてる系のいいヤツで笑ってしまいました。主人公の語り口も軽めではあるんですが、それは狂いの表現としての軽さなので、兄ちゃんの謎の元気さにひとときの癒やしを得ました。

謎のポメラニアン
 子煩悩な夫、優しい妻、無邪気で可愛い娘。絵に描いたような幸せの日常を目の当たりにしながらも少しずつ覗く薄暗さ。それに引っかかりながら読み進めた結果、私が吐いた言葉は「勘弁してくれ」でした(笑)。
 まあ内容的にはネタバレは避けた方が良いと思うので深く言及しませんが、ある意味期待を裏切らない展開です。その持って行き方には唸った。絶叫マシンが滑走に向けて上昇するかの如く、持ち上げて持ち上げて一番上に達してから落とす。これが人間のやることかよぉおお!ってやつですね。仄めかしがきっちり回収されていてアングラ要素もわかりやすく、それでいて読ませる筆致は流石といったところ。ユメちゃんの「道路?」がひたすらに可愛い。


33.地下に眠る/ドント in カクヨム

謎のイートハーブ
 ドントさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらアイさんとマコトさんによる愛の軌跡です。まずグロテスクという映画を思い出したんですが、全然違いました。すごく褒めたいので先にラストの話をします。
 ラストでアイさんマコトさんから視点が変更され、おお! と思いました。二人とも死んだところで終わらないのがこの小説のうまみだと感じたためです。最後は非合法な目的のための地下室をコンクリで埋めてしまおうと話をして終わる、非常にいい幕切れです。終わり方の好き度が随一でした。
 アングラをこれでもかと拾ってくれたと主催は受け取りました。まず、アイさんマコトさんが延々繰り返す暴力行為、もとい純愛行為。場所が地下室という点。最後には非合法なまま埋め立てるという決断。最後に出てくる二人も裏社会、暗闇で仕事をする立場という造詣。アングラですね……とてもうれしいです。
 個人的になのですが、アイさんとマコトさんが攻防を繰り返しているところが好きです。SMって一口に言えないようなところというか……。さん付けしているところで既に奇妙な敬意を持っているんですが、事切れた二人が幸せそうだったとき、私でも嫌になっちゃうだろうなと思いました。
 それでこの、嫌になっちゃう理由が上手く言い表せないんですよ。正解になっちゃいけない仕事の正解を見せられた気分というか……。ああ嫌だなこれ、私褒められるべきじゃないんだけど、満足されてしまったし、それ自体がちょっとうれしいのが本当に嫌だな、が直情的な所感です。
 間違いなく純愛だと思うんですけど、しっかりとアンダーグラウンドでした。キャプションにロビンソンの歌詞が書いてあるのも嫌になっちゃうな……とても面白く、また、のめり込んで読みました。ありがとうございました。

謎の白猫
 ある奇跡的な相性のカップルの、愛の交歓の一部始終です。
 別作品に触れて恐縮ですが、「よいこのよふかし」ではものすごく難しいことだと描かれていた「暴力性愛を分かち合えるパートナーを得ること」を為し得ている二人の話なんですね。それだけでもうかなりハッピーなお話です。
 実際、描写こそ暴力的ですが、描かれている内容はあるカップルのイチャつきです。互いの言葉には愛情と気遣いがあり、行為と台詞のギャップが一種コミカルですらあります。
 個人的に乳首が切り取られたり刺されたりするのがなぜかめちゃくちゃ痛くて苦手で、白石晃士監督の「グロテスク」を見たときも自分の乳を押さえて右往左往してしまったのですが、今回も同じく右往左往しました。乳首はいかんて……。
 さて、本作のほとんどは暴力の描写なのですが、これは少しでもそういうヘキの素養がないと若干長すぎるように感じるかもしれないなと感じました。わたし自身はあまりそっちの感度が高くないようで、並行して何かの情報開示があったりすると、ヘキがない人間でもよりエンタメとして楽しめると思います。
 あとめちゃくちゃ細かいんですけど、最後の笹川とジッチャンの取り分、たったの400万ぽっちで、1回300万取れる部屋を閉じちゃうの割に合わなすぎない!? と余計な心配をしてしまいました。
 とはいえそんなのは些末なことで、本編の高い熱量と反比例するような、冷えて乾いた、切なさが印象的なエピローグでした。

謎のポメラニアン
 もう笑うしかありませんでした。評議員たる者、一作一作をフラットな気持ちで読まないとと思いつつ投稿順に「アングラ」を読んできて、私も人間ですから前後はやっぱり意識してしまうわけですが、ここにきて突如始まったなんでもアリの地下格闘技にはもう笑うしかなかったんです。
 登場人物のカップルはフェティシズムの極地とも言うべき「癖」の強さがあり、その天秤に命をかけてしまう。あくまでも性行の延長にある戯れがどう見ても戦闘です。「痛いよ!」とか「イッテエ!」が殺伐とした暴力の応酬の中で人間味を醸すというかなんだか間抜けで良い。痛みを常識的に理解しながら腕力には歯止めが効かないあたりどこかで狂っちゃったんだと思うんですが、人間ここまで野性的に欲望を解放できると幸せなのか。
 エピローグ的に綴られた笹川とジッチャンの会話は沸騰した物語を少しずつ冷ましてくれます。ジッチャンの言葉の一つひとつが「わかるよ」と共感の嵐。マジでショックです。でも幸せならオッケーです。

34.アキハル the legendary true poppa/神崎 ひなた

謎のイートハーブ
 神崎さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 何やってんだよひなたァ!!!! とまず言いました。これは……アングラゴリラですね? 開幕からギアが6速で、いや戦犯が若干私なのはわかっているんですが爆笑を禁じえませんでした。一番ドライブっているのは恐らく筆者なんでしょう。何やってんだよひなたァ!!!!
 まずルビ芸が極まっています。いきなりステーキに始まりムーンウォークやゲイム? や……。救済麻雀ってナニ!? と思った次の瞬間にはロン、俺。などと始まって展開にもルビ芸にも振り回される時間が続きました。
 でも行われていることは確かにアングラなんですよ、殺人麻薬怪しい宗教と……それをルビ芸とリリックと韻を踏むことにより、なんだこれ……!? 会場のバイブスに身を任せたほうが楽になるのはわかっているんですが講評するので脳が壊れるかと思いました。
 いやでも、アングラを前衛芸術と仮定した場合、こちらの作品はとてもアンダーグラウンドなんですよ……。ゴリラが理性的に喋り始めてもそれ以外が既に異次元なので普通に受け入れてしまう、この状態がもう理解不能で白旗宣言です。それでまた俺たちの戦いはまだまだこれからだエンド、理解放棄して笑うしかなく、 アングラゴリラここに極まれり。
 最後にジャンル確認して現代ファンタジーだったことにも爆笑しました。どのジャンルになっていても爆笑したと思います、お手上げです。参りました。ありがとうございました!

謎の白猫
 なんだこれ……と言いたいところですが、ぶっ飛んだように見せかけて、実は端正に練り込まれたウェルメイドな作品だと思いました。
 ルビ芸については他の評議員が触れてくれると信じて、内容の方に触れていきます。
 開幕ゴリラなんですが、これは伏線ゴリラであって、本編は2話からです。と同時に、本作が(ある意味)音楽モノであることや、主人公アキハルの独特なキャラクターの紹介としてもきちんと機能しています。
 本作、全体で1万字に満たないのですが、その中で複数のエピソードが順に展開されていきます。さながら1話10分程度のアニメシリーズを見ているかのようです。この情報処理が上手い。ルビに情報量取られてそうなのに、たった2000字の2~3話で「救済麻雀編」が終わります。敵対組織の紹介とアキハルの実力の開示回ですね。ついで「真紅の袈裟編」これは1話1600字です。上位敵との苦戦、仲間を得るエピソード、ここで伏線ゴリラを回収です。箸休めのアキハルとゴリラの過去回想編を挟み、それぞれの動機を読者にしっかり理解させます。そして「鴉・最終決戦編」できっちり決着し、第2シーズンに続けられそうなエピローグ、「メランコリーだゼ」の決め台詞できれいに締めています。……いやすごくない?? この文字数でここまで展開させつつ混乱させないの、ある種の魔術ではないでしょうか。
 また、個人的にゴリラの知的で冷静なキャラクターがめちゃくちゃ好みでした。
 あまりの勢いに「アングラってなんだっけ?」となる感は否めませんが(ドラッグがアングラ要素と理解しました)、それをひとまず置いておいてもかなり面白かったです。

謎のポメラニアン
 80年代終盤から90年代初頭にかけてのティーンエイジストリームに染まりきった作家として芽生える小栗虫太郎。そんな概念があったなら今作の『アキハル the legendary true poppa』を執筆していたかもしれません。作品の売りとしてあると思われるルビ芸ですが私個人の意見としてはやりすぎです。途中から何も入ってこないよ! とはいえ「いや。これは素の俺(トゥルー)だ」で笑ってしまったのも事実。なら仕方ないかと本筋を読んでいきますが、要素的には様々なものが詰め込んである中でストーリー自体は巨悪を仲間と共にはっ倒すといったシンプルなものです。主人公アキハルには正義がありプライドがあり、そのために傷を負ってでも獲得せねばならない理想がある。そこには気持ちいいほど葛藤のない真っ直ぐさが備わっていて正直なヒーローだなと思いました。そんな真っ直ぐな主人公を補強するのが理知的なゴリラなんですが、まあ森の賢者だから一理ある。
 ストーリーの実直さから察するに「アングラ」というテーマには悩まれたのかなという印象を受けますが、この令和にこれだけ「ノリ○キ」をこすり倒せたならそれはもうアングラと言っていいんじゃないでしょうか。


35.悪趣味/ナツメ

謎のイートハーブ
 ナツメさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、とある趣向の男性を取材するライターのお話です。いや~~面白い! めっちゃ面白いです。ナツメさんの小説は作りこまれているというか、考えこまれているなといつも思います。今回もじわじわ嫌な予感を積み上げつつ読者にも切っ先を突きつけてくるようなお話で、巧みな構成に合わせての描写力、さすが二冠王は違う……。
 タイトルを見た瞬間へへ……すみません……とまずなりました。アングラをテーマに出す主催、悪趣味なんですよね。その辺りも突いて来られたのかなと思いつつ、読み進めてみるとナツメさんの好みと思われるパーマの男に笑顔になりました。ヘキの見える描写、好物です。好きだな……伊勢さん……穏やかで頭も良さそうで……私も好みのタイプです。
 伊勢さんの趣味はなんなんだろう? と興味を惹かせながらの展開描写、非常に良いですね! そして趣味の場のなごやかな雰囲気、推せる~! となりました。特にこう、たまにはおっきい肉を! と自分の足をばっさりいく決断、非常に好きです。趣味のために(人に迷惑をかけない範囲で)なんでもできる人間、私一瞬で好きになっちゃいます。一番に食べたいからと部分麻酔であるところも共感できました。
 それと同時に、趣味の場から外れて具合が悪くなっている守屋の描写も素晴らしいです。理解外のなんらか、拒否反応が出てしまうのが人間というもの。うっかり吐いて伊勢さんに突き放される守屋を糾弾しきれないのもまた、読者の業……。悪人ではないために、余計に。
 最後の一文がすごく効いています。伊勢さんに悪趣味って言われては、筆をバキバキにするしかないです。私ナツメさんの他の作品で好きなものがおもキスにシュレディンガーと、より構成の卓越さを感じられる一万文字越えの作品が好みなのかもしれません。超面白かったです! 

謎の白猫
 ギリギリになってしまい本当に申し訳ありませんでした!!!!!!!!!!!! 自戒と性癖を込めました。

謎のポメラニアン
 「悪趣味」とひとえに挙げてみても、辞書で引いてみれば幾つかの意味合いを含んでいることが分かります。一つは趣味自体の品のなさ。作中で言えば伊勢くんにかかってきます。またこれとは些か異なる言い回しとして、人の嫌がることをやって喜ぶ様というのもあり、小説全体ではこちらの意味合いが強く、かつ守屋自身にかかってくるのが構造としておもしろい。
 ただ擁護というほどでもありませんが守屋が伊勢くんに見た人柄もまた嘘とは呼べず、守屋の人間性を見抜いての行動とはいえ、「そういう人」に見えないと思わせる素振りの伊勢くんもそこそこいじわるです。関係性を丁寧に描写されていて、思惑こそ複雑な奥行きはあれどお互いの立ち位置はわかりやすい。目の前で物理的に起きているアングラよりも、本質を見透かされるかのような居心地の悪さにタイトルの意味が生きてくる。私もここまで書くからには誤解を省みず言いますが筆者たるナツメさんも相当な(ここで文章は途切れている。謎のポメラニアン、その後の消息を知る者はいない……)

36.ファスター・アンダーグラウンド/藤原埼玉

謎のイートハーブ
 藤原さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらキャプションにもある通りの暴力、セックス、ドラッグ! なノワールBLです。エンタメノワールアングラでした、題材的には藤原さんの得意ジャンルなのかな? 開幕ポエムが効いており、耽美さもありつつの暴力描写にキメセク三昧、モブレもあるよ! とアングラアソートでたいへん楽しかったです。
 キメセクの小説とかよく読むので(二次創作で)手叩いて喜びました! キメたあとの虚脱した雰囲気や、罪悪感にさいなまれるような心情などが好きです。
 それに伴った、主人公のめんどくささがすごく面白いです。めんどくさいなこの子……と読みながら思えるくらいに細かく描写されていました。藤原さんはキャラ描写力が高いなといつも思います。裏を返せばキャラ性能を剥ぎ取っても読みこませるなんらか、というのが伸びどころなのかもしれないですね……。あくまでも私の所感です。
 ところで関西弁の長髪男、ドラッグディーラーという立場も含めて好みすぎて暴れました。めんどくさい男のためにヤバそうな男を殺害して、一緒にどこへでも逃げてくれる……いい男過ぎませんか!? 惚れてしまう。これはいい攻め黒髪長髪ですね……私は攻めの黒髪長髪も大好きです!
 当初はテーマを「ノワール」にしようかと思っていたこともあり、ピンポイントな舞台設定で楽しかったです。カクヨムじゃなかったらメイン二人のアハン描写が……と唇を噛みました……。面白かったです!

謎の白猫
 ど真ん中のBL作品です。わたしは商業BLを通ってないのでイメージでしかないですが、なんとなく商業BLってこんな感じそうだな~と思いました。
 とても感覚的なものでうまく言語化できていないかもしれませんが、「受け」「攻め」の設定ががっしりしているというか……ゲイカップル(カップルではないか)というより「BL」という感じのキャラクター付けを感じました。なんでかな……藤生が輪姦される展開とかかもしれません。
 世界観も、日本の新宿というリアルな設定でありながら、どことなくファンタジー的、あるいはアニメ的とでもいうのでしょうか? そういった独特の世界観を感じました。この辺の解像度が低くうまく表現できないのですが、ある種美化された? あるいはキャラクタライズされた? 登場人物たちはリアルさのしがらみから解放され、クライマックスの劇的なシーンを生き生きと演じていると感じました。
 その中で少し気になったのは、藤生が出版社から書籍化の打診を受けたくだりです。見落としていなければ、藤生が小説を書いているという情報は7話で初出だったかと思います。これまでそういった素振りがなかったのでかなり唐突に感じました。序盤で小説を書いているシーンや、直接的でなくても何か創作しようとしている素振りがあると、藤生のキャラクターにも深みが出てより良いのではないかと思いました。
 ラストは駆け落ちエンドで、追われる身ではあっても二人の行く先には希望があるハッピーエンドでした。

謎のポメラニアン
 自己卑下が激しく厭世的で、ヤク漬けのため幻覚持ち。そもそもこんな男に殺し屋なんて出来るのか? いいように利用されてやりたくもない殺人をクスリのためにやめられない。どうしようもない主人公ですが一縷の希望に見えるものとして麻薙の存在があります。麻薙は恋人的な役回りですがそれに加えて保護者、もっと言えば聖母的な側面がありここがミソで、藤生は奴賀の支配によって現状を脱せないのではなく、麻薙の許しによってそれを維持しようとするのではないかと思いました。心理として否定には反発を感じるものですが肯定には甘えたいものですよね。ましてや自己管理能力に乏しい藤生のような人物ならなおのこと。支配の方向に働く力から解放された藤生の苦難はここからという感じがします。希望に見えると書いたのはこういうことで作中自体はハッピーエンドとして描かれていますが残された課題も多く、そこにアンダーグラウンドが成立するんだなと。


37.0番線の最終電車/ラーさん

謎のイートハーブ
 ラーさんさんこんにちは、ご参加ありがとうございます! お伝えしたかったのでいい機会とばかりにここに書くのですがコーム・レーメ大好きです。偽物川大賞おめでとうございました!
 こちら、オカルトが好きな友達と噂話を試しにいく話です。ホラーというジャンル指定の通りに怪奇現象が起こり、最後は……。ぞっとしたところでスパンと切れて、とても面白かったです。
 地下が舞台だからアングラ、正解のひとつです。前回の信仰森のときもそうだったのですが、主催のスタンスは一貫して「貴方の思う○○が読みたい」なので、こちらはまさしくアングラ小説です。
 地下鉄、排気の臭いや薄暗さ、やけに響く足音など、人がいないと本当に怖いですよね。その背筋からじわじわ上ってくるような怖さがありました。
 特に、窓にしか乗客が映っていないところが良かったです。しかもこっちを見ている……嫌ですね! すごく良い描写だと思います。
 ところどころの情景描写がたいへんお上手だと感じました。先述した窓もそうですし、電気が一区画ごとに消えていく描写も好きです。助かった、と思わせてからの消灯と共に小説も終わって、あとに残るのは後味の悪さと読者の無力感……。
 すっきりとまとまった、良いホラーでした。アングラ都市伝説に吸い寄せられた人間の末路……。面白かったです! ありがとうございました!

謎の白猫
 本イベントではオカルトホラーは意外と少なかったですね。異世界に行く方法+異界駅といった、2ちゃんねる系怖い話では定番の要素を二つ組み合わせた作品です。
 これはシンプルにわたしが世間知らずなのですが、「0番線」という存在を初めて知りました。あるんですね。9と3/4番線みたいなやつかと思いました。
 さて、オカ研の女の子二人が、最初はにぎやかにオカルト検証に向かいますが、実際に0番線の最終列車に乗ってみると、様子が一転、怪奇現象に見舞われます。前半をあえてコミカルに描写することで、現象が起こったときのギャップをうまく演出していると思いました。はしゃいでた人がマジになると怖いですよね。駅について一旦安心させて、もう一度恐怖に突き落とす手法もニクいです。
 欲を言えば、やはり先行するエピソードが多いジャンルではあるので、もうひとつこの作品のオリジナリティがあると、唯一無二の作品になると感じました。特に怪異の描写は、やはり似たものをどこかで見たようなものになってしまいがちなので、既存のパターンとすこしズラした表現や、印象的な言葉などを使うと、オリジナリティを演出しやすいかと思います。
 そういう意味では「出口がない地下鉄駅」というのはめちゃくちゃ嫌だなと思いました。ぜひまた怖い話を書いてみてほしいです。

謎のポメラニアン
 序盤のほのぼのとしたやり取りから一転、乗車した途端に始まる不可思議な現象。終点に辿り着いてからの疾走感は凄まじくあれよあれよで怪異に取り込まれていく。最後はテレビの電源を落とすようにプツンと途絶えてそこからは想像の余地、といったように大変スピードのあるホラーでした。電車というモチーフが全体的なイメージとして、またこのスピード感に落とし込まれていて構造的にも巧みを感じます。
 怪異に対してはもう少し意味や理由を問いたくなりますが、得体の知れない不気味さは十分にあり、序盤の会話によって印象付ける「好奇心の愚かさ」みたいなものへのしっぺ返しと考えるのがいいのかななどと思いつつ、わからなさもまた余韻となって味わい深かったです。

38.ギルドノワール/ももも

謎のイートハーブ
 もももさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、モ、モンハン……アングラモンハン!? アングラモンハンでした、私は嘘を言っていません。タグがモンスター/ハンターとなっているのにフフッとなりましたが内容はフフッでは済まないアングラ模様で、楽しくよませていただきました。
 ギルドノワール、完全にヤバめの裏組織でテンションが上がりました。モンハンの裏側と思うと余計です、絶妙にありそうなラインなんですよね……。帰ってこないハンター絶対いる、私にはわかります。三乙しました。
 構成が少しミステリ、謎解き風になっているのが非常に読みやすかったです。私が普段ミステリを栄養にしているため、謎の死に方をするハンター、その周りに付着した金の泥、内部解明が進んでいない遺跡と、謎が散りばめられており、とても楽しかったです。
 ニゲルも臭いなお前と思っていたらやはり臭くて、異世界(モンハン)世界に足されたミステリ要素に主催は大満足でございました。針が出てくる仕掛け怖すぎました、古代文明は謎につつまれている……。
 そして最後! ちょっと! もももさん! とでかめの声が出てしまいました。これは……男男クソデカ感情ではないですか……!? 不意打ちだったため動揺しました。BL要素を見た目では匂わせない小説にBL要素があるとこんなに動揺するんですね、これを書いているのが六月一日なんですが一気に覚醒しました、その点においても感謝を……。
 異世界ファンタジー、アングラと相性が悪そうだと思っていたのですが、そこを突破してのアングラ一狩り、とても楽しんで拝読しました。ありがとうございました!
 
謎の白猫
 おそらくこれは巷で人気のモンスターをハントするゲームのオマージュではないかと思うのですが、いかんせんわたしはゲームをやらないので、その知識は全くなしで進めます。
 わたしはファンタジーの消化酵素がなく、読むのに毎度一苦労するのですが、本作はすんなりと世界観に入っていけました。居酒屋でくだを巻く中年男やその愚痴の内容が、妙にリアリティがあるというか、世界観が全面に出ているのではなく、そこにいる人の普遍性みたいなものがうまくファンタジー世界との橋渡しをしているような、そんな印象です。ファンタジー耐性が高い人はいきなり世界観をドーン! と提示される方が良いのかもしれませんが、わたしのようなタイプにはこういったどこかリアルな描写がある方が好きです。
 本編ですが、ギルドノワールの研究者との話と、水没林での調査の話があり、短編としての主題は後者だと思うのですが、その割に前者に2話割かれています。おそらく、最後に明かされる主人公から研究者への執着が作者の描きたいことなのではないかと思うのですが、なぜそういった感情を持つに至ったかを描けるほどの文字数がないので、思い切って水没林でのエピソードに振ってしまった方が収まりが良かったのではないかなと思いました。
 世界観がしっかりしているので、主人公と研究者の話をベースにしつつ、様々な場所へ調査へ赴くという短編連載形式の作品に向くのではないかと思いました。

謎のポメラニアン
 モン○ンパロディかなと思ったら二次創作でした。ただし元ネタよりも「死」というものに対して踏み込んでおられる。かつミステリ的な要素もあいまって、下敷きこそ○ンハンですが読み口としては『インディー・ジョーンズ』や『COBRA』に近い印象を受けました。
 「ギルドノワール」というオリジナル設定も暗部ぽくてワクワクします。一般のハンターにはまことしやかに噂され、まるで言いつけを守らない子供への脅し文句のようになっていて都市伝説的な裏設定を彷彿とさせる。
 当事者である主人公が組織の実態を説明していくわけですが、主人公の性格を見るに噂されるような殺伐とした雰囲気はないんだ……と思っていたらギルドノワール云々以前に!ってとこで笑ってしまいました。私自身、予備知識(バイアス)もあってフラットには読めなかったかもですが、特に二次創作として受けとめなくとも前述したミステリ感など楽しめる要素は多分にあると思います。

39.GUNS & SMOKERS/鍋島小骨

謎のイートハーブ

 鍋島さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら煙草を吹かして銃を使う魔女のお話です。この魔女さんである逆宮終子さん、めっちゃかっこよくて大好きです! その周りを埋めるキャラクターも魅力的かつ厚みがあって、造詣が上手いなあ……と感嘆しました。
 また、現代における魔女の取り扱いが面白いと思いました。私は魔法的な、ファンタジー的な知識がドラクエくらいしかないのですが、ファンタジー要素が現代ドラマにしっかり噛み合っていたので読み通せました。銃が狙ったところに当たる仕様すごくいい……。
「魔女と呪い子、魔性と腹黒が、暴力とクスリと怪異に煮に蕩かされながら一所に集まる小さな地獄なんだよ、ここは。」この一文が凄く好きです。ヤクザもアングラであれば魔性の女もまたアングラになり得る素材、更には怪異の正体は元人間ですべては業の招いた事件と、すべてがぱちぱち繋がっていく様子が楽しいです。
 この魔性、かなり嫌なタイプの魔性ですごく好きです。清楚ビッチファムファタルと呼んでいました。清楚そうなのにヤクはやってるわ力がないですって顔ですぐ人の後ろに隠れるわと自堕落を体言しているのに魔性ゆえに人がほうっておかない。このキャラに魔女が諸々言い放つところが最高に痺れました、私、暴力やら悲惨な展開が好きなわりに勧善懲悪なので……。
 最後は呪い子を弟子にして終わりですが、まだまだ続けようと思えば続きそうな内容で、その点でも鍋島さんの作り込みの深さを感じ取れました。ファンタジーアングラエンタメ、とても楽しかったです!

謎の白猫
 ヤクザと魔女という珍しい取り合わせのお話です。
 上限近い字数の作品なのですが、その中で特に話の緩急の付け方がとても巧みだと感じました。3話と5話が終子と如實の出会いを回想したエピソードなのですが、このパートが内容だけでなく、文章のリズム感も本編と異なります。マシンガンのように勢いよく推進する本編と、ゆったりたゆたうような回想でメリハリがついており、全体の読み心地が非常に良かったです。
 一方で読むのに苦労した点でいうと、登場人物が多く、更に魔法に関するロジックなど、把握しなければならない情報が多い点がありました(魔法に関しては白猫のファンタジー適性が低いせいも大いにあるかとは思います)。石川や長谷井といった人物はメインストーリーの中では名前しか登場せず、さらに困難として配置されるのが、長谷井の悪意だけでなく茉弥の魔性と問題行動(+恩を仇で返す言動も)と、この15000字からはみ出る部分が多いなという印象でした。個人的には、短編では話の軸や超えるべき課題は一つに絞った方がまとまりが良いかと思うので、このお話は長編向きだなと感じました。
 ちょっとしか登場しない石川もかなりいいキャラの予感がしたので、終子・如實・石川の三人が活躍するシリーズを読んでみたいと思いました。

謎のポメラニアン
 過去エピを散りばめ仄めかしつつ現在進行形の関係性を補強してく書き方、私も好きでよくやるんですけど、鍋島さんの『GUNS & SMOKERS』はそれが丁寧に構築されていて、気がつけば逆宮や如實の人物像や関係性がすんなり入ってきます。素晴らしい。
 人物の描き方は全般的に鮮やかだと感じたのですが、私は特に石川が好きになりました。序盤中盤と名前だけが登場してイメージを形成していくのですが、作中に実物として初登場する際に両手でバニラシェイクはもう愛すべき人なんですよ。一癖二癖とある登場人物たちの中にあって割と良識派なのもいい! 
 魔法使い達の活躍、まだまだ見ていたいなあ。

40.ブラキッシュ ウォーター/山本アヒコ

謎のイートハーブ
 アヒコさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら炭鉱夫として働いている少年のお話です。圧倒的底辺である少年が主人公になっているため、開幕からなんとも言えず不穏な空気が漂ってきます。とても好きです、というより私はアヒコさんの淡々として硬質な文章が好きなんですよね……。
 筋だけ引っ張り出してくると、貧困な少年の下克上成り上がり物語という、言ってしまえば手垢のついた筋書きではあるんですよね。たぶんどう味付けするかって話なのですが、この作品は後半に予想外のひっくり返しがあり、それが効いていると思います。目の色とかそういうことかあ……と納得できました。
 あくまでも私の所感なのですが、けっこう唐突に終わったというか、相手との抗争まではいかないのかってちょっとびっくりしました。入れちゃうと一万五千上限に収まらないのはわかるので、難しいところなのですが……。面白かったのでもっと先まで読みたくて……。ひっくり返しからがより面白みがあると感じたので、うーん、とても難しいのですがやはり中篇・長編向きの題材だったかもしれないですね……。
 ギャングに入ってからのゾッタくんの動向がかなり好きです! ちまちまとサファイア掘りをしていた頃に比べてあまりにも輝いています。ピッケルがそのまま武器になっているところもいいですね、親殺しの道具がメイン武器、アングラ度が高いです。
 ちょっとネタバレになっちゃうんですが、銃を持てるとなったときに、持つために指の間を裂く描写がすごく良かったです。そうだよな、裂かなきゃいけないよね……アレですもんね……。
 ギャング系ファンタジーアングラ、面白かったです! ありがとうございました!

謎の白猫
 貧困にあえぐ少年がチャンスを掴んでギャングに入り、一人前の男に成長していくといった物語です。
 ゾッタの成長譚としてはひとつの区切りを迎えつつ、種族同士の衝突という面では「俺達の戦いはこれからだ!」といったところで話が終わるので、このあとにゾッタの話か、あるいは魚鱗族の別の人間、はたまた狼牙族側の物語など、更にストーリーがいくらでも続いていきそうなポテンシャルのある作品だと思いました。
 この話はおそらく意図的に一つのミスリードが仕込まれています。序盤では我々と同じ人間だと思っていたゾッタやバイスたちが、実は魚が進化した生き物であったということですね。この点ですが、個人的にはあまり効果的に機能しているように感じませんでした。「ネズミの焼ける匂い」などの伏線はあったものの、彼らがいわゆる人間ではないことが明らかになったことで、これまでの景色がガラッと一変したり、謎が一気に解けたりするわけではないため、思い切って最初から彼らの種族の描写を入れても良かったのかなと思いました。
 もう一点気になったのは、説明部分が多く、ストーリーの進むテンポがやや遅い点です。情報がストーリーの中で自然に読者に伝わるようにエピソードを調整すると、さらに引き込まれる物語になるかと思います。
 とはいえ、説明が多くなってしまうのはそれだけ設定が作り込まれているということだと思います。骨太な世界観が魅力的な作品でした。

謎のポメラニアン
 貧しさの解決として暴力を選んだ少年がギャングの道を志し、抗争の渦中へと身を投じていく。
 若干気になったのは中盤で主人公達の属性に関する設定が明かされる部分です。特殊な属性をこの世界では「人間」と称すること自体無理筋ではありませんが、序盤の流れから終幕に向けて、この設定に関するエピソードだけが継ぎ接ぎのように浮いてる印象でした。また虐げられてきた者達がやさぐれてアウトローに転じることは心情的に理解できますが、そこから一族解放を背負って立つみたいな志しに繋げるのは理由と行動がチグハグな気がします。それであるならば、作中における「ギャング」の意味合いにも寄りますが、過程の説明が足りないのではと感じました。文章としての勢いは感じます。設定も面白いと思う。だけに繋ぎ目にもう少し丁寧さがあればと思いました。長編にしてみるというのも一つアリかなと。

41.架け橋/@yuichi_takano

謎のイートハーブ
 @yuichi_takanoさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、昨今至る所で目にする話題で、私にとってはけっこうセンシティブなもので……。不適切な表現などしていたらすみませんとはじめに置いておきます。
 他の投稿作でもあったのですが、LGBTQをマイノリティ=アンダーグラウンドでテーマを捉えたお話です。レズビアンを公言している(させられている?)女性が主人公で、タイトルのように架け橋的な活動をしています。
 色々考えるところはあったのですが、この主人公の秘書である西井かよ子さん、嫌に書かれたキャラでとても興味深かったです。妙な言い方かもしれないんですがこの立ち位置のキャラを「嫌だな」って思わせる書き方ができるの凄いと思うんですよね……。
 この「かよ子さん」の嫌なところを挙げるんですが、まず主人公自体がうんざりしているので、一人称であるために読者もつい同調してしまう点、同調していなくても明らかに「愛が重い」タイプの人間である点、主人公の軽率な言動が原因とはいえ過去の約束に超執着する点などなど……すごく嫌です。とても褒めています、本当です。このキャラが相対的にもう一人の相手役を際立たせています。
 この主人公はあえて振るのであればパンセクシャル・アセクシャル・アロマンティックあたりなのかなと思います。でもそんな枠組みに意を唱えたい女性が主人公だと読んだため、余計な分類ですね……。文章の組み方が流暢で、キャラクターの描写も目的のある丁寧さを保持した、非常に読みやすい作品でした。

謎の白猫
 LGBT当事者としてメディアにも取り上げられる若い経営者が、自分のそういった持ち上げられ方に違和感をおぼえるようになって……というお話です。
 こちら、2点難しい点がありました。1点は、そもそもセクシャルマイノリティはアンダーグラウンドではなくないか? ということ。マイノリティ(数が少ない)とアングラ(例えば隠れている)って似て非なるというか、少なくともわたしは全く関連付けて考えていなかったので、ちょっと面食らってしまいました。これに関連して、セクマイ=アングラと言い切る主人公をポジティブに描いているのか、それとも嫌な人間を一人称で見せる手法で描いているのかもやや悩んだのですが、個人的には後者の印象が強かったので後者で読みますね。
 偏見にとらわれているのは誰よりも自分自身ということが皮肉に描かれていると思いました。そもそも彼女がなぜ「レズビアンである」と書いたのかよくわからないんですよね。当時本当にそういう自認だったのか、それともそれが「ウケる」と思って書いたのか。素直に前者に読めないのは、学生時代にかよ子に告げた断り文句の件があるからです。いずれにせよ、なにより「レズビアン」であることを特別視しているのは主人公だと思いました。
 それは彼女が同居人と出会ってからも実は本質的に変わりなく、そもそも彼女が「気づき」を得たのは、同居人が彼女にとって「カテゴライズが難しい人間だったから」なんですよね。彼女が「個人」を見ている描写は少なく、徹底して「定義」や「カテゴリ」あるいは「アンチカテゴリ」を見ています。
 この辺、すごくリアルだなと思いました。よくいる~! こういう人! 過渡期によくあるバックラッシュ的な、すごく現代的な現象を取り上げた着眼点が鋭いと思いました。

謎のポメラニアン
 若干時系列が分かりにくかったのですが、結末から冒頭の謝罪会見に通じていく感じでしょうか? なぜ謝罪会見をしなければならないのか、私も読んでいて理解できませんでした。公開している日記に関してメディアの注目を集めていたとはいえ、私人がプライベートな立場を表明して謝罪に追い込まれるというのは所謂炎上ってものなのか? この辺はジェンダーがどうとかいう以前に不自然ではと思ってしまいました。読み足らずなら申し訳ないです。
 枠組みという言葉に示されるように、人は分かりやすさを求めるものですが、現代社会においてそれを指し示す的確な言葉がないこともままあり、そういった部分と期待されるキャラクターから生まれる摩擦みたいな描写のリアリティには共感しました。主人公の内省は中立というか当然ながら本人に寄り添うもので、そのテリトリーを保持したいならば架け橋通信は枷となったのかもしれません。ですがアンダー、或いはオーバーとそんなものを妙に意識しない社会のために上げねばならない声があるというのもまた然りで、負けじと矢面に立つ彼女から人間としての強さが伝わってきて胸が熱くなります。

42.ゲーム『残酷劇物質』の件について、調べてみました。/五三六P・二四三・渡

謎のイートハーブ
 五三六Pさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、疾走した姉を探してパソコンを調べる弟の話です、が、内容はほとんどが姉のパソコンからアクセスしたブログ記事になっております。この形式はアングラ森で初めてだったため、構成自体にまず目がいきました。
 設定のパンチ力、作り込み共にかなりの深度です。そしてアングラ要素も色々拾ってくださっているというか、アングラサイトからアングラゲームから実際のアングラ事件・体験談などと盛りだくさんで、暇をする暇が一切ありませんでした。面白い……。
 五三六Pさんは一万上限だと窮屈そうだなと前回少し感じていましたが、やはり一万を越えてからが輝く作者さんだと、今作で到りました。本当にのめり込んで読んでいたので、虚実のあわいというか、作中作と実際の出来事がじわじわ融合していって現実にも侵食してくるさまが、自分の背後にも忍び寄っているように感じられて戦慄しました。自分もまたスマホ・パソコンなどで作品を読んでいるため、余計怖かったです。入れ子構造って言うんでしょうか……突飛にも思える話にリアルさが付与されているゆえの恐怖、最強の筆致だと思います。
 これは指摘というわけではなく、全員が持っている悩みだとも理解している上での気になった点なのですが、五三六Pさんは伏線・伏線回収・全体の構成に意識を持っていかれているからか、誤字脱字の類が比較的多いような気がします。お話の作り込みが深くてのめり込んで読んでいるぶん、ふとした誤字が目立ってしまうのかなと……。いくらでも誤字は生えてくるので本当に指摘ではなく、ただどうしても相対的に意識が持っていかれるため、一応書かせていただきました。
 ツイッターでほとんどウィキの知識ですというようなことを仰っていたのですが、それでもきっちりと調べてブログ内容に反映していらっしゃるのは素晴らしいです。内容に溶け込んでいるため付け焼刃には感じませんでしたし、作中作となるアフターダークガールズ・残酷劇物質自体もかなり設定が盛りこまれており、また、蛇足ではない扱いとして綺麗に昇華してあったと思います。アングラ的なリョナ系要素がブログ形式だとこういう映え方をするんだなと勉強にもなりました。
 個人的に五三六Pさんの作品が好きなので、今回も参加してくださってとても嬉しかったです。終わり方も、薮蛇になってミイラになる無情エンドが好きなのでいい虚無のまま読み終われました。
 とても面白く、興味深く読み込めて、作り込みも随一の秀作でした。ありがとうございました! お気に入りの一作です、大好きです。

謎の白猫
「いかがでしたかブログ」の形式を用いたやや実験的な作品です。
 これ、すごく難しくて、まず2、3話で展開されるブログ記事、ここがめちゃくちゃ好きです! 形式こそ悪名高い「調べてみました! ~~いかがでしたか?」形式ですが、内容はとても充実しています。どちらかといえば出来の良いゆっくり解説くらいの内容感です(東方未履修だけどゆっくり解説はよく見る白猫)。
 設定の緻密さもすごい。オリジナルの同人ゲーム→そのアングラ二次創作サイト→そこに投稿された二次創作ゲーム→その実況。めちゃくちゃありそうだけど、これらの設定を全部いちから作ったと思うと凄まじいです。オリジナルにあたる『アフターダークガールズ』が実在の偉人をモチーフにしている話で、ジョン・ハンターなど本当に知っている名前が出てくるところでグッとリアリティが上がって面白いです。本当にこのゲームありそう。
 当然内容はずっと解説になるのですが、実際に何か炎上があった時にこういった経緯をまとめたものを読むのが好きという下卑た趣味があるので、なんの苦労もなく読むことができました。さらにコメントで意見が分かれる様子や、そのコメントをブログ著者が拾って皮肉るところなんかも、とても細かいながらフェイクドキュメント的なリアリティを増しています。
 一方、このブログ部分が好きすぎるせいか、1話と4話の語り手パートはやや物足りなく感じてしまいました。姉と同じ道を辿るというのは、やはりこの『残酷劇物質』の独自性に比べるとあまりにありふれているように思えてしまい……。
 ただ、本当にこの緻密な設定には感動しました。このブログ形式で非実在の炎上事件を取り上げる作品、もっと読みたいです!

謎のポメラニアン
 ノリ大和なる人物によって書かれた解説記事の部分。モキュメンタリーとは少し意味合いが違いますが、さもありなんと思わせる熱量が凄まじく、この界隈で創作してみたいとまで思いました。多用される実在しない創作群が取ってつけたかのような雑なものではなく立体的な説明の補強によって存在感を放っている。ノリ大和すげえなオイと、現実に至っては五三六Pさんの手腕に感服します。
 反面、背景のストーリーとしての姉の足跡を追うという筋には温度差を感じてしまいあまりのめり込めなかった感はある。とはいえ設定小説の真髄が詰まっており、想像世界を描きたいという方はどうすれば「ダサくならない」かの参考になると思います。
 追伸:水をさすようなのですが、エルロイの名前が出てるので『L.A.コンフィデンシャル』のことかと思いつつ、いきなりの「農協?」で人知れず笑ってしまった私です。敢えての狙いでしたらすみません。面白かったです。

43.あるいは最後の晩餐/佐倉島こみかん

謎のイートハーブ
 佐倉島さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら濡れ衣で殺されかけている主人公と、殺そうとしている拷問官のお話です。こ~~れめっちゃ好きです! 私はミステリが好きなのですが、完全にその味わいでした。脳がたいへん喜びました!
 ミステリ要素もなのですが、メインキャラが二名というのも文字数と舞台装置にあったいい数だと思います。二人のやり取りだけである程度の関係性も推察できるし、キャラの描写がお上手です。
 あとはやはりご飯が美味しそう……。都合上異物混ぜても良さそうな料理を検索していたことがあるので、個人的にわかる! というラインナップでした。とくに主人公が食べたふた皿、わかります。
 何度も言いたいのですがミステリ要素が本当に本当に良かったです! 出題パート・推理パート共にしっかり書かれており、尚且つキャラ同士の掛け合いの妙で退屈もさせない素晴らしい出来映えでした! 私は推理できるわけでも毒に詳しいわけでもないのではえ~~すごい! と感嘆しきりでした。
 推理のためにできる質問の内容が、読者の裏をかくような意表をついた質問で、ここが特に良かったです。ミステリってそうなんですよね、ロジカルな推理ものでも単純に消去法するだけではない、発想力というのが探偵役には付与されているものなんですよね……すごくわかります。とても好きです。
 キャラも本当に良かったな~~! 二次創作の同人ブックがあったら完全に買っている組み合わせでした。馬酔木さんがとにかく好みの黒髪長髪で、たいへんかわいかったです。最後が爽やかなのも良かったし本当に面白かったです、ありがとうございました!

謎の白猫
 アングラグルメ作品だ! そんなジャンルあるのでしょうか。
 ヤクザの跡目争いと拷問官というめちゃくちゃアングラなお膳立てでありながら、なぜだか児童文学のようにサクサクと読んでいけます。
 極限状況ではあるのですが、主人公が冷静なタイプで、かつ2日間何も食べていないという設定にしていることで、味の描写が無理なく出てきます。これが美味しそう。食事の描写にかける本気度が読み取れます。ちなみにわたしは辛いもの好きなので麻婆豆腐もトムヤムクンもどっちも好物です。食べたくなっちゃった。
 謎解き部分についても理屈がクリアで、主人公の質問の意図もしっかり機能していてストレスがないです。ただ、わたしが無知なだけかもしれませんが、毒の性質を知らなかったので自分では正解を導けませんでした。特別な知識がなくても、読者も謎解きに参加できるような作りだと、より楽しみが増すのではないかと思いました。
 鬼島が食べる前に「いただきます」と言っているのがいいですね。最初から最後まで作者の食への愛情が伝わる良作でした。ごちそうさまでした。

謎のポメラニアン
 殺伐とした拷問タイム。やってることは狂気の沙汰ですが、キャラ立ちの良さからかどこかコミカルな安心感が漂います。骨組みは推理劇。思考の読み合いはどこか『嘘喰い』や『LIAR GAME』のそれを思い出させます。なんといっても馬酔木のキャラクターがいいですね。主人公にしてみれば生きるか死ぬかのイニシアチブを握られたクソッタレですが、彼自身に言わせれば公平なジャッジメントであり、鬼島にはしっかりとチャンスを与えています。そしてきっちり報復を受け容れるあたり(ここでニヤニヤしちゃう)が憎めない愛すべきクソ野郎でした。
 鬼島がこの馬酔木と共闘する形で敵対派に潜む悪意と対決する、みたいな展開で続編も書けそうですね(期待のまなざし)。


44.我が身貪れアメイニアス/春海水亭

謎のイートハーブ
 春海水亭さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、美貌だけが取り柄だと自認している男性の話です。この一文で本当に説明が終わってしまうんですが、それだけではないので凄いんですよ。本当に凄いですね!?
 とてもびっくりしました、作者さん自身ツイッターで仰ってましたが、「美貌」の部分を任意の単語に変えて読める仕様になっています。「イラスト」「小説」「スポーツ」「知能」etc 自分がこれだけはと思っている得意分野を当てはめて読めてしまうため、背後から空隙を刺された気分になるないし、自分の話だと思って読めてしまいます。怖い、五千文字程度である事実も怖いです。
 純文学のタグをつけてらしたのでその体で読み進めました。私は文学・文芸にはまったく詳しくありません。読む音楽みたいなことだと認識しているのですが、こちらの作品はしっかり理解できるわかりやすさを備えている上で、文学性も織り交ぜています。それがまた凄いなと……。文学わからないマンにもわかりやすい文学、とても間口が広いんだと思います。
 アメイニアスというのはナルキッソスに呪いをかけてくれと神に頼んだ男性のことだと思うんですが(ある程度省略意訳しています)ナルキッソスは主人公、アメイニアスは伐崎として額面通りに読み切ったところでタイトルに戻ると、意味不明な辛さで喉が詰まる感じがあります。
 視点は主人公から一切ブレないのに、読者たる私は伐崎側に立っていました。たぶん、私にはこれしかないという何らかがなく、なにかが突出した人間に仮託し続けている人生だからだと思います。そのためこれは、なりたいものになれなかった人間と、なにものかになった(ように見えているだけにせよ)人間を消費する人間、両方に刺さる構造になっているのだと感じました。上手い……感嘆しました。個人的に文学・文芸ラインでひとまとめにした作品群の中で、こちらの作品が最も私には刺さりました。
「俺の美しさを愛そうとする人間は何人もいたが、俺を愛することができる人間は誰もいなかった。」この一文が特にいいです。ナルキッソスを鏡に置いているはずが、自分すら自分を愛していないという虚無感。現代が孕む多角的な虚無はとてもアンダーグラウンドなのだと思います。代替ばかりの虚無、現代社会はディストピアに近付いていってるのかもしれませんね。
 間違いなく純文学BLでした。作者さんの書きたかったものも伝わってくるような濃縮された五千文字、非常に面白かったです。うーーん好きだな……好きです、めちゃくちゃ長くなってしまった。いいものをよませていただきありがとうございました!

謎の白猫
 この作品、不思議なパワーがありました。どうも心に引っかかるところがあり、講評というか感想、しかもおそらく誤読であろうという感想になってしまいます。ただ、読者に強烈な想いを引き起こさせ、読者自身の内面と混ざりあった誤読を誘発する作品は、それだけ優れていると思っています。
 さて、わたしが本作品に記載がないにも関わらず強烈に感じてしまったことが一点あります。それは、おそらく主人公は、自分で思っているほど美しくないに違いない、という奇妙な確信です。なぜなら、美しさは知性なしには認知できないことを読者であるわたしは体験として知っているからです。もちろん、別にブサイクではないのでしょう。学校でそこそこモテるくらい、同人で自慰動画に課金する人がいるくらい。逆にいうとたったその程度の美しさ。それしか拠り所がない。彼の世界は開かれていないので、彼の中で彼は美しく、それは甘やかな果実に例えることも可能ですが、ひとたび世界が開かれれば、その例えすらも不釣り合いである現実が待っていることでしょう。
 もう一つ考えさせられるのは、何が彼をこうまで腐らせていったかです。顔がよくてあとはからきしダメ、という人間でも、それこそ女のヒモでもなんでもやっていけている人は多くいるでしょう。親も携帯の契約をしてくれるくらいなので、完全に放置されていたわけでもなさそうです。高校にも通っていて勉学に触れる機会もありました。対人恐怖的な症状はありそうですが、発達障害というわけではなさそうです。何が彼を堕落させたのでしょう。先述の知性――知識ではなく、ヌースとかロゴスとか言われるアレ、それを彼はなぜだか持っていない。それは誰の責任なのでしょうか。どこまでの切実さのない、薄っぺらな彼。でも多分、こういう人間は居るのだと思います。わたしには絶対に描き出せない人間の姿でした。

謎のポメラニアン
 自分は人間になりたかった、それが駄目なら人間を辞めたかった。この一節が深く突き刺さってきました。破滅を悟って生きるとはどういう感覚でしょうか。他人が羨んだり求めたりするものを、それも少々の努力などでは埋められない天性のものを得ながらずっと満たされない自己。
 ハッキリ言います。クソめんどくせえ! お前のナルシズムなんか知らんがな! 持ってないものでもそれを求めようと努力することのほうがよっぽど美しいですよ! などと言ってくれるような友達がいたら普通に大丈夫な人生だと思いました。
 人生が腐る匂いは甘い香り、無茶苦茶カッコいいですね。主人公はこれまでまともな人間関係を築いてこなかったんだと察しますが、であるがゆえに激しい自己陶酔から生まれる表現力だけは羨ましい限りです。なんだかんだでカッコいいよキミは元気出せ。


45.フレンチクルーラー・ミニマル・ゲリオン/和田島 イサキ

謎のイートハーブ
 イサキさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、ある終わってしまった物語の回想と残滓です。読了後のメモに「いつものイサキさんじゃない」と書いたのですが、金閣寺やアナル日本酒のイメージが強いせいです。フィズィ・アランを思えば、いつものイサキさんでもあります。
 純文学でした。別作を持ってきて申し訳ないのですが、我が身貪れアメイニアスと二連続での純文学BLで、アメイニアスが現行の虚無・慟哭を描き、フレンチクルーラーが過去の、本当に今更取り返しのつかない物語を自戒を込めて時効だと話してくれる、そんな風にとりました。
 プロローグがとても効いています。読み手だけに聞かせてくれていると錯覚するようで、思わず背筋を正しました。わかるようなわからないような、本当にあった出来事だとは理解しつつもあまりに遠くて黒歴史というよりは棘歴史と言いたくなるような、じくじく痛む感情が丁寧に綴られている上での色褪せつつも鮮烈なままの過去の描写の数々に、うーーーん、とてももぞもぞしました。褒め言葉なのですが伝わらない気はします。言語化が難しいんですこの感覚……。
 主人公のちんちんを揉みしだくおじさんの使い方が秀逸でした。わりと気持ち悪いし、そこそこ下卑ているし、不快感がつい込み上げる造詣なのですが、それをひっくり返すタイミングが美しいです。気持ち悪いおじさんだけどこれがおじさんの精一杯だったと現れたときに、どきりとしました。居酒屋のちゃちな寿司が精一杯のおじさん、と考えれば物悲しい、とても空しい。主人公がおじさんへの理解へ到ったのは成長の証で、同時に過去への決別だったのかなと思います。
 私は実は、イサキさんの百合系統も好きですが、この作品のような「静」側の和田島文学が好みです。静と言いつつ文体自体はリズムもよくコミカルさも失われずすらすらと読めるので、キャラクター性能の違いかなと思います。
 とても面白かったです! 面白かったというか、悲しかったなあ……寂しいなあ……お疲れ、みたいな気持ちになりました。いい作品でした好きです、ありがとうございます。

謎の白猫
 純文学です。
 イサキさんの百合文学は何本は読ませていただいているのですが、それらとは明らかにテンポが違う、というのがまず第一の印象でした。「~金閣炎上」などではとにかく前方に向かって推進する力、内から迸るものを吐き出さずにはいられないというような熱量を感じるのですが、本作にはそういった馬力のようなものが存在しません。むしろ、ひどく冷静なまま、心の奥底にしまったものの端っこを爪でカリカリとひっかき出して、ちぎれないようにそろそろと引き出し、綻んだ部分をごまかすように多少の嘘も交えて……というような、後ろ向きなベクトルが本作全体を支配しています。それゆえに語りのテンポは必然的に緩やかになり、訥々と起伏なく続いていきます。
 内容に関しては、アンダーグラウンドを彼岸に置き、マージナルな立ち位置をフラフラと揺れているという、そういった内容だと読みました。小指の欠けたおっさんは主人公から見れば彼岸の人間で、でも誰しも自分が「あちら側」だとは思っていないんですよね。「こちら側」であることを疑わないか、「あちら側」との境目にいると思うか。おっさんは前者、主人公とMさんは後者だったのでしょう。
 そのマージナルな状態というのが、絶妙に身に覚えのある質感なのが白眉です。これは偏見ですが、思春期に本気じゃないのに同性と性的なニュアンスの曖昧な関係を持ってしまうの、女性にありがちなイメージでした。ピアス開けるオタクも女性のイメージですね。でも10代の頃男性オタクの友人がいなかったので男女問わずそういうものなのかもしれません。なんか、あるんですよねそういう、思い出すとどう考えても「変」なのであんまり思い出したくないけど、当時はなんとなくそういうものだった奇妙な時間が。
 主人公がごまかしながら爪で引っかきだしたそのなんか無いことにしたいような過去の話が、読者のそれも一緒に引っ張り出してしまう、妙に居心地の悪い、そんな作品でした。

謎のポメラニアン
 私も音楽はボンジョヴィから入って、なんやかんやでリカルド・ヴィラロボスなんかを行ったり来たりしてた人間なのでちょっと友達になりたいなと思ってしまいました。
 和田島さんが描き出す語り手には毎回既視感を覚えつつ答えが出なかったのですが、今回のこの「想い出を振り返る」といった形式によって答えが出ました。『フォレスト・ガンプ』だ。テメエの人生をテメエのナレーションで語る大河ドラマ。和田島さんの語り手にもこういった性質を感じる。とても写実的に、時にはそんなことまで語らなくてもと思うことまで包み隠さず語り尽くす。そうやって全部を伝えきられるとなんだかどうして感動しちゃうんですよね。
 エピローグの物寂しさが尾を引いてまったくノスタルジーって奴ぁ……いい話でした。

46.出来損ないのロードムービー/ヨシカワ

謎のイートハーブ
 ヨシカワさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、とある男女が海を見に行くお話です。小説を初めて書かれたとのことでしたがまったくそうは感じませんでした。
 とても丁寧に物語が流れていき、バラードの終わりのようにするっと幕切れを迎えて、肩の力を抜いて楽しめるリーダビリティーのある掌編でした。
 キャラ同士の掛け合いがとくに良いなと思いました。わざとらしくもなく、こういう二人組がどこかで海に向かってそうだなあ、というリアリティがありました。
 一応講評ですし、これからも書かれると思うのでアドバイスめいたことも挟んでおきます。物語内の起伏自体はとても緩やかであるため、読者が物足りなさを感じるのであればこの点かと思います。カバーの手法はいくらでもあるのですが、上記に挙げたようにキャラクターがとても良いと感じたため、二人のキャラ像を掘り下げると、深度が増えつつも超展開・波乱万丈に振ることなく起伏に繋がるかと思います。好みにもよるため、参考までに……。
 劇的な変化があるわけではないけど、あくまでも日常の一部として起きたちょっとした遠出程度の話なんですけど、最後の最後にまったくなんの変化もないわけではない、と提示される部分に作者さんの優しさのようなものを感じました。いい塩梅だと思います。
 海に来てみて、もう少し感動するかと思ったけどそうでもなかった、という明け透けな感想に微笑みました。この辺りがリアルなのかな、私も海をはじめてみたときデカイ! 以上! という感じだったので、すごくわかるなと共感しました。
 初めてでこの出来映え、本当にすごいことだと思います。是非これからも色々書いてみてほしいです。投稿ありがとうございました!

謎の白猫
 はじめての小説ということですが、はじめてで5000字超えの作品を完結させているのがシンプルにすごい!
 内容としてはキャプションにあるとおり、海を見に行くお話です。ヤクザの使いっぱしりというにはかなりヘビーな殺人という仕事、町を出たことがない少年、彼がはじめて町を出て海に行く……という、仕立て方によってはドラマティックにもできそうな題材ですが、本作はかなりあっさりしています。
 外に出たって海を見たって、人はそうすぐに変わるもんでもない、という一種斜に構えたようなスタンスは、小説にするのが難しかったのではないかと想像しました。やはりわかりやすい出来事や変化という要素が物語を牽引するのには重要になってくることが多いと思います。敢えてそういった、例えば町を出られないことに関するトラウマ的なエピソードや、海を見たことに感動して主人公になにか明確な変化が起こるというような物語性を排除して、日常の延長にある若干の変化を許容する態度への変化、程度に抑えたのは、なかなか勇気ある決断だと思いました。
 一点だけ気になったのが、同じ人物のカギカッコが連続する箇所がある点です。わたしが不勉強でそういう書き方もあるのかもしれませんが、一般的には同一人物の台詞は一つのカッコに収めるか、もしくは相手の台詞や地の文を挟んだほうがより混乱がないと思います。
 はじめてとは思えない着眼点や出来だったので、ぜひまた小説を書いてみてほしいと思いました。

謎のポメラニアン
 小説を始めて書かれたとあり、であるならば凄いと思います。思い返してみても私自身はこれだけの文量を筋立てて書くなんて初めから出来なかった。筆者のヨシカワさんは日常的に文章に触れてこられたのかなと想像します。
 裏社会の稼業につく二人という背景があって、それが「海に行こう」となって動いていくお話ですが、海にたどり着いてからのカイ君の正直なリアクションに表されるように、殺人やヤクザといった言葉が出てくる冒頭こそあれど基本物静かな会話劇という印象でした。何か大きな事件が起こるでもなく淡々とした日常が低くもなく高くもない温度で語られる。確かにこの静けさにロードムービーっぽさがある。変に要素を継ぎ足さず、二人だけの範囲で描いているのも個人的には好印象です。これからもどんどん書いていってほしいですね。


47.変形!!大型自動二輪者 金田雷電太郎!!大合体!!/ポストマン

謎のイートハーブ
 ポストマンさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、なんて紹介すればいいんだろう……タイトル通りのお話で、トンチキに分類されるコメディ小説だと主催は捉えました。そしてはじめに謝りますすみません! 正直に言ってあまりわからなかったです……。ザボーガーっていう特撮を遥か昔に観たんですが少しそれを思い出しました(とはいえ遥か彼方なので然程覚えていません……)
 仮面ライダー一年分をがっと大胆に凝縮したような印象を受けました。疾走感が素晴らしく、メインの二人にもさまざまな過去があり、最後は再度力を合わせて敵を倒す、という王道的な展開がとても熱いです。
 難読というか、これで読み方あってるかな……?と思うキャラが多数いたため、ルビをふると可読性があがるかと思います。私がわからなかったと言ってしまった理由もけっこう難読人名・固有名詞などにありまして、読み方合ってるかな……? と都度止まってしまったためです。
 勢いのある面白いパルプ・フィクションだと感じたので、読み飛ばされてしまうともったいないなと思いました。謎の魔法陣が浮かび上がって胸から剣を出すところなど、「ウテナ!?」となってすごく面白かったので……。
 自分の身を犠牲にしたハッピーエンド、熱い終わりです。ご参加ありがとうございました!

謎の白猫
 なんでしょう……小学生向けのマンガ、もしくは特撮モノ? という印象を受けました。そのあたりのリテラシーが全然無いので、あまりちゃんと読めていないかもしれません、すみません。
 設定がなかなか複雑で、情報量もアニメワンクールやってきた最終回(2週で前後編でやるやつ)くらいのボリュームの内容でした。
 いわゆるお嬢様口調のキャラがゴリゴリに戦ったり、人造人間のキャラや合体など、とにかく要素てんこ盛りでかなりコミカルでありながらストーリーは骨太、という難しいことをやろうとしているのではないかと思いました。わたしにもう少しリテラシーがあればこの面白さを取りこぼさずに読めたのかもしれませんが、話を理解するのにいっぱいいっぱいになってしまい……。
 おそらくやりたいことに対しては最適解なのではとも思うので野暮ですが、短編としてはやはりポイントを絞ったほうがスッキリするかなという印象がありました。ラストシーンで銀城の心境を語るのはかなり急な印象だったので、短編として完結させるならヘカテーと雷電太郎の話に絞っても良いかもしれません。
 かなり設定が練られているので、長編としてリライトしてみても良いのではないかと思いました。熱量のすさまじい作品でした。

謎のポメラニアン
 和式のトランスフォーマーとガンスリンガーお嬢様の愛憎入り混じるバトルものかと思いきや、どんどん新キャラが出てきて、最後には「え? キミの物語だったの?」という感想を持ちました。
 男の子のオモチャ箱みたいな印象があり、そこから目についたものを取り出し、戦わせて作る人形遊びのような世界観。このように、いろんなキャラクターが出てくるのは図鑑を眺めるようで楽しいですが反面字数の問題かそれぞれの要素がとっ散らかっていて目が滑るところもありました。焦点を絞ってストーリー自体をコンパクトにするか、或いはレギュレーションブチ破って10万字やっちゃいましょう!

48.アンダーグラウンド核シェルター餃子事変/@dekai3

謎のイートハーブ
 でかいさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、ほぼタイトル通りのお話です。飯テロ小説です、上手くいえないんですが独特の雰囲気があって、読んでいてとてもほっこりしました。好きです。ちょっと童話・寓話っぽいところもいいですね!
 AI様じゃなくてコンピューター様と呼んでいるところが非常にほっこりするポイントのひとつです。人間ではなく人類と呼んでいるところもたいへんかわいくて、絶妙なワードチョイスです。わざとらしくない間のとり方がお上手な印象がいつもあります。
 人類たちの中にまざっている「コンピューター様……いい……」の人が好きなんですが、人類の台詞のオチ担当としてとても高い精度を誇っていると思います。ちょっと作者さんっぽいなとも思いました、なんとなくの所感ですが本当にいいと思っているのが伝わってきたため……。
 各種餃子の説明が逐一細かく、これは本当に飯テロ小説ですね……。アンダーグラウンド(物理)にした場合、閉鎖的ディストピアが書きやすいように思うんですが、こちらの作品は悲愴感が一ミリもなく人類はみんなコンピューター様が大好きで、コンピューター様もかわいくて、人類とコンピューター様の噛み合わなさが非常にいい塩梅のちぐはぐ感を生み出しており、なかなか出せる雰囲気ではないなあと唸りました。
 地力の高さを感じるとともに、でかいさんがお持ちのロボットの女の子が好きというヘキも溢れ出ている良作でした。面白かったです! ご馳走様でした。

謎の白猫
 アンダーグラウンド要素を「舞台が地下」で秒速で回収して、あとはひたすら「コンピューター様」の愛らしさを描くことにすべての情熱を注いだ怪作です。
 怪作と言いましたが、とても読みやすく、ちゃんとエンタメしていて面白い作品です。まずツカミがバッチリですね。いきなり「餃子」と「コンピューター様」のダブルパンチで読者の興味をグッと惹きつけます。
 地の文は三人称の敬語で書かれていて「蜘蛛の糸」みたいな感じなのですが、この地の文が全然フラットじゃなくてコンピューター様を全肯定するスタンスなのも笑えます。作中に「コンピューター様……いい……」の人も出てくるので、作品の内外からコンピューター様への崇拝が伝わってきますね。
 このコンピューター様の造形も本当に良くて、人類はなぜか地下で生活していてコンピューター様に管理されてはいるのですが、コンピューター様は人類のことを心底慮られているので、人類もこの状況に根本的には不満がないんですよね、ディストピアに見せかけたユートピアです。
 あと、登場する様々な餃子の知識や描写もしっかりとしていて、コンピューター様と食事への愛情を感じられるのもとても好ましいと感じました。
 好きなものに全振りした小説ってやっぱり何か独特な良さがあるんですよね。これを読んだ翌日わたしは餃子を食べました。ごちそうさまでした。

謎のポメラニアン
 人類にとって神の如きコンピューター様。
「「「可愛すぎます!!!」」」
 すみません。取り乱しました。名前からだけだとどうしても機械的な印象を受けるし、バグったように餃子万華鏡を推薦し続けるコンピューター様ですが、言動の端々から滲み出るポンコツ美少女感は何なんですかね? 
 コンピューター様は終末の人類に対してあれこれとお考えになっておりますが、人類の敬いも相当可愛いです。コンピューター様の爆裂餃子丼に疑問を抱きながらも最終的にはコンピューター様最高!! になる民草。ポンコツしかおらんのか? といったツッコミはさておき微笑ましく読みました。たまに発言するコンピューター様性癖マンにめちゃくちゃ笑った。餃子に対する見識が若干広がりました。ありがとうございますコンピュータ様!!

49.地下の星/乳歯

謎のイートハーブ
 乳歯さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら腐れ縁のバンドマンと地下アイドルが酒を飲んで駄弁っている話です(キャプションより)
 開幕から出会い、すぐさま相手の見た目描写を挟む恙無いダッシュにある程度書き慣れている印象を受けました。そして絶妙にバンドマンっぽくて、すぐに想像が出来たところからも、筆力の高さがうかがえます。
 関係性の微妙さがとても良かったです。腐れ縁とキャプションにある通り、恋愛への発展性はほぼ感じず、どこか悪友のような、一定のラインでの気の置けなさを感じました。
 私が私生活において聴く音楽がロックに偏っていることもあり、終盤にかかるバンドマンの近況告白の場面が一番好きでした。雰囲気や心の機微などの描写にとても光るものを感じ、観察眼に長けている上にするりと読み通せる筆力もお持ちなので、完成品を重ねていけば一次創作もばんばん書けるようになるのではないでしょうか。それだけの地力があると個人的には思います。
 これからも二次でも一次でも、たくさん書いてくださると嬉しいです。ありがとうございました!

謎の白猫
 久々に再会した高校の同級生と酒を酌み交わす、日常の一コマを切り取った作品です。
 主人公は地下アイドルを、再会した森田はバンドマンをやっていて、お互い元交際相手とも友人関係。森田の元彼女は結婚をしていて、でも音楽をやっている二人の先行きは決して明るいとは言えず、バイトをしながらなんとか好きなことをやっている、という、絶望しきってはいないけどまあ少しは自虐にも走るよね、みたいな温度感がリアルで解像度が高いと思いました。
 とはいえ今の活動にやりがいを見出している主人公に対し、森田のバンドは解散してしまい、かなりがっくり来ている様子。ここで、主人公は「今の森田をこのまま何の約束もない状態で帰してはいけない」、つまり最悪森田が自殺するのではないか、という懸念を抱いていますが、個人的にはやや飛躍を感じました。自殺の懸念→それを自分との活動の約束で拭う、という部分をクライマックスに持ってくる場合、もう少し森田を掘り下げてほしいなと思いました。文字数にも余裕があるので、森田視点のシーンを入れるか、再会してからバンド解散を告げるまでにもう少し時間をかけると、より森田の絶望が真に迫って来るのではないかと思います。
 私事ですが、天パの男が性癖なので、ストレート長髪に埋め尽くされたこのアングラ森で森田のルックスはひときわ輝いていました。ありがとうございます! 

謎のポメラニアン
 違う席の飲み会の会話を盗み聞きしたような気分。アマチュアバンドマンと地下アイドル、そのプライベートは当然といえば当然ながら普通です。会話も近況や色恋についてと他愛ないもの。夢というよりは趣味の域を出ない、どこかで見えている限界に対して後ろを向きすぎないところに好感が持てます。企画のテーマから物騒な話や影を落とす作品の多い中で、今作は前向きで爽やか。ゆえにこの他愛いなさがより印象的に映ります。

50.シャグシャグ/宮塚恵一

謎のイートハーブ
 宮塚さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら社会の裏側であることをしている二人のお話です。完結が間に合われて良かった〜〜〜! ありがとうございます。
 アウトローの描写がすごくお上手です! カーマーンも軽薄っぽいのにどこか可愛さを感じる造形で、主人公たる龍之介の相方として大変申し分ないとても良いキャラです。二人の掛け合いが軽妙で楽しく、次々目が進みとても楽しく読み進められました。
 一方で龍之介がですね、はっきり言ってしまうのですが、多分実は◯◯だったという捻りが、この「次々目が進んで楽しかった」気分に水を差してしまっていました。なので、実は◯◯だったとひっくり返されても驚きがなく、その意味でももったいなく感じました。
 この作品だけで言うのなら、一話目ラスト辺りで◯◯だともう明かしてしまい、後半でのひっくり返しはない方が良いのかなと。シャグシャグというものの開示だけに転結を使ってしまった方がタイトルが映えると個人的には思いました。
 龍之介が釣って制裁を加え、ダークウェブに載せるという流れがすごく好きです。このダークウェブがたいへん合った設定になっているなと思います。外道の歌のようというか、勧善懲悪も好きですが毒を以て毒を制する、アングラにはアングラをぶつける骨組みが大変素晴らしいです。
 アンケート制度で制裁の有無を決めているのも、匿名だろうが一蓮托生という現代snsへの風刺的小気味良さを感じ、また、特に正義を持ってやっているわけではない部分が、すごく現代に即した思考だと思いました。
 これはテキーラウルフの時にも思ったのですが、中編〜長編にも対応出来そうなくらい設定が作り込まれているので、やろうと思えばこのまま連載できそうなところが魅力です。
 色々言いましたが楽しく読ませていただきました。カーマーンが本当にいいキャラだったな〜〜〜! 面白かったです、ありがとうございました!

謎の白猫
 ダークウェブものですね! アングラといえばダークウェブ、誰か書くかなあと思っていましたがここでやってきました。
 まず構成がスッキリしています。人物紹介、出来事の起こり、実際の実行、種明かしとキレイな4話仕立てで読むのに全くストレスがありません。解決する事件も難解さはなく、ただ胸糞悪い悪者をきっちり成敗して痛快です。謎の言葉「シャグシャグ」の種明かしも残っているので、事件自体はこのくらいあっさりしている方がバランスが良いですね。
 少々気になったのは龍之介の性別に関するミスリードです。たしかにミスリードはされるのですが、話全体に対してあまり大きく効果を発揮していないように感じました。おそらく龍之介はGIDではないかと思われるので、シャグシャグの活動のために自分の本来の性と合致しない身体を利用するというのはかなり不快指数が高いというか、痛快さのノイズになってしまう気がします。裏稼業やってるんだし手術しないのかな、とかも考えちゃいました。
 キャラクターでいうと、カーマーンの飄々とした喋り方がかなり好きです。カーマーンの存在でこの作品の読みやすさや、作品自体の愛嬌がぐっとアップしているように感じました。

謎のポメラニアン
 繁華街のよろず屋ふたりが織りなす悪党退治劇。
 読み違えていたら申し訳ないですけれど龍之介が身体的には女性、カーマーンは男性なのかなと読めました。素朴な疑問としてミスリードを誘うカタチで性別を描き分けたのはどうしてなのかなと思いました。何もわかりやすさだけが正義というわけではないですが、小説の展開としてどれほど重要なポイントなのかが他の描写から読み取りづらい。これが漫画、或いは映像となれば伝わり方も違ったやもしれません。
 ダークウェブでYouTuber的なことをやるコンビはキャラクターとしても面白いですし、二人を通して街全体の様相が浮かび上がるといいなあと感じました。そういった意味で新庄やアカリのディテールやポジションは街の輪郭を少し投影していて、彼女達について語っている部分とかとても好きです。

51.薬十夜/ささやか

謎のイートハーブ
 ささやかさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、自分の夢を売り物している薬物漬けの女性の話です。構成がまずもって非常に面白いですね! 夢の段と現実の段がわかれていて、各話タイトルでどっちなのか察せる仕様が優しいです。好きだな~~! 構成もさることながら内容も面白かったです。アングラデパート玉手箱でした。
 薬で見る夢の場面がとてもささやかさんらしい作風に感じました。少々ぶっとんだ独自の描写が光っていて、すべて文字化けの段はぎょっとしましたが、ただでさえ意味不明な夢が薬によって更に意味不明になっている雰囲気が出ていると思いました。変換したら歌詞になるのかな…?(試しに文字化け変換に入れてみたんですがわからなかったため…)
 またこのほぼ文字化けの段、本体もじわじわダメになっているのだろうなとも感じられました。実際どんどんダメになっていて、一話ごとに増幅される不穏さに惹き付けられます。
 夢はけっこう、楽しいというか生首スポーツなどアンモラルコメディさもあって比較的ブラックユーモアな笑いとしてとれるんですが、現実がそれに比べてとにかく悲惨で、このギャップもまた面白いと思った点です。なんの救いもなく、本人はヤク漬け。とても好きな対比構造です。
 名前だけ化けている段の夢、たぶん夢というか過去の記憶を見ている感じなのでしょう。そこからの転落、迎えるバッドエンド共にとても好きでした。色々なことがあって、何も残らない。これは最高なんですよ。チャカさんが本当にお兄ちゃんなのかどうか、真相自体は隠されているのも解釈の余地があっていいなと思います。
 とても好きな作品でした。すごく面白かったです、間に合ってくださってよかった! ありがとうございました!

謎の白猫
 ダークな夢十夜、薬物によってもたらされるカオスな夢と、その夢を作らされている女性の物語です。
 先に謝っておくと、わたしはこの作品の読み方があまりよくわかりませんでした。一応、「夜」とついた章で何が行われているかは理解できていると思うのですが、「夢」の各章はまさにカオスな夢という感じで、それらが並べられた時に何が現れるのか、どういった物語が紡がれるのか、見出すことが出来ませんでした。読解力が足りず申し訳ありません。
 なのでこれは的外れな話だったら読み飛ばしていただきたいのですが、もし「夢」はただ顧客に提供される「作品」をそのまま読者に見せているのであれば、「作品」それ自体を楽しむことと「薬漬けの眠り姫」の悲惨な境遇を見せられることが矛盾する感覚があり、読み方に困ったという点があります。物語の構造上、「眠り姫」の境遇に比重があると思うので、「作品」を見せることでその悲惨さを強調する効果はあると思うのですが、それにしては「夢」の分量が大きすぎるように感じました。
 それぞれをバラバラに見ていった場合、特に印象に残ったのは「夢 楽しい」です。これはやっていることは酷いのですが、描かれている「気づきの瞬間」がすごくフレッシュでこちらまで強制的に理解させられるようなパワーがありました。
 また、「夜 中毒」にある、吐瀉物に薬が残っているかも、と思う場面、こちらのシーンの想像力も白眉です。そんなこと思いつきませんでした。薬モノであんまりリアルとか言って褒めると逆に失礼じゃないかと思うんですけど、中毒者の思考をトレースしたような素晴らしい一節だと思います。

謎のポメラニアン
 夢というものは元来とりとめのないもので、非常識の世界です。夢が芸術として抽出され嗜好品として具現化できる世界で夢が掌編として次々に描写される。意味を持つか持たないかのぎりぎりの境界(中には破綻しているものも)を読者はその世界の好事家と同じく眺めることになるのですが、ここで思うのが夢の芸術性(そんなものがあるとすれば)は「残らない」ことに担保されるのだなと。これらの夢が本筋の「私」が見ているものなのか、全く他人のものかはわからないけれど、少なくとも自分が見ていない夢に商品的な価値が成立するのかは甚だ疑問で、それがましてや危険な薬物の齎すものだとすれば趣味嗜好の世界は業が深い。
 最初と最後の語り手には夢と現実の境目が失われつつあり、その断片で語られる家族の描写が何を伝えようとしているのか今も考えています。


52.京都裏三条の奴ら/夏木郁

謎のイートハーブ
 夏木さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 読み終わってみるとまさにタイトル通りの話でちょっと笑ってしまいました。俺の性癖を見ろ〜〜〜〜〜! とばかりに様々な要素を盛り込まれていて、とても楽しく読ませていただきました。
 九州弁黒髪長髪男は投稿作の中で初めてだったのでおお!となりました。九州弁もいいですね。しかも三十代、熟れてるなー! 年下の相手をペットよろしく可愛がっているところもよかったです。とても好きです。
 キャラクターとしては視点も務めるバーテンさんが本当によくできた造形だと思いました。程よく二人と他人でありつつ、バーテンなので色々な客を見ていて不自然もなく、本人自体も癖のない好青年という印象で、第三者視点の推しカプ小説に求めるすべてが詰まったキャラクターでした。視点人物ですが、あえてナイスサブキャラと呼びます。ナイスサブキャラ賞を差し上げたいです。
 後半から特に、飛び交う金額の桁がおかしくて手叩いて笑ってしまいました(そういう意図じゃなかったらすみません)すっごいこう、懐かしい味がしたんですよ。タワマンの攻めとか、受けをオークションで競り落とす攻めとか、そういういにしえのBL要素を勝手に嗅ぎ取ってしまいました。
 昔を思い出してなんだか若返りました。人様の性癖を顔に押しつけられるのはとても楽しいですね、面白く読ませていただきました。ありがとうございました。

謎の白猫
 本イベント唯一の「ラブコメ」カテゴリでの参加作品です。
 裏社会というたしかにアングラな舞台でありながら、全体的に軽快でまさにラブコメBLといった印象です。裏稼業という意味より、キャラの属性としての「ヤクザ」という感じですね。
 古き良きBLの世界というのでしょうか、闇オークションとか(わたしはそれを通ってないのですが)かなりファンタジーよりなヤクザの世界観をしっかりやりきっています。
 ストーリーのメインはミミと非羽のラブコメだと思うのですが、個人的にはバーテンダーを語り手として語られる裏三条の設定に魅力を感じました。「ジョン・ウィック」シリーズのような、実際には無いだろうけど裏社会にこんな場所があったら面白いな、かっこいいな、という世界観の魅力が、特に1~2話に詰まっていると思いました。「場内での薬物禁止」の掟なんてまさに、ですよね。
 作者さんの意向と違うとは思うのですが、バーテンダーの彼を語り手に、裏三条に出入りする色々な裏仕事の事情を語るようなお話もぜひ読んでみたいと思いました。

謎のポメラニアン
 京都が舞台なので使われる単語が華やかですね。それが全体をファンタジックな雰囲気に押し上げてくれます。ヤクザ社会を描きながらも血生臭さのようなものはほぼなく、マフィア要素は「裏三条」をイメージしやすいようにラベルの働きをしていると感じました。マシンガンとタイマンで素手で勝てるのも許される。
 情景描写が豊かで、料理に着物、また一場面一場面が映像的に立ち上がってくるので読みやすさもあり。
 オークション、相手より多く金を積むといったシンプルの極みみたいなゲームですけど、そのシンプルさゆえに勝負に見るキャラクターの動きがわかりやすく痛快さを醸し出してくれています。

53.無法中毒者/白木錘角

謎のイートハーブ
 白木さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらは架空のスラム街(比喩)で繰り広げられたアングラのお話です。雰囲気がありました。荒廃した空気感がとても上手く出ていたと思います、すごく好きな雰囲気です。
 私は元々気に入ったキャラでないと名前が覚えられないのですが、こちらの作品は人数も多く横文字名ばかりで、敢えていうのなら苦手なキャラ数で早々に記憶することを諦めたのですが、話が段階ごとに転がっていくのでさほど問題にはならず、最後まで楽しんで読むことができました。地力が高い作者さんなのだと思います。キャラ自体の造形も良く、しっかり書き分けられていると共に、不必要な立ち位置のキャラはおらず、取捨選択が上手い印象です。
 けっして善人ではない男が、利害の一致や噛み合いによって、結果的に(ある側面では)いい行いをした。この部分が一等好きです。正義でやってはいないけれど確実にその人の信念による結果が効いていて、無法地帯が舞台であっても爽やかな読み口になっていました。
 また、アウトロールという呼び方が小洒落ていていいですね! 投稿作の中では文字数も多い方かと思うのですが、さらっと一気に読み通せました。面白かったです、ありがとうございました!

謎の白猫
 退廃した都市で運び屋という裏稼業に従事する男と少女の物語です。
 タイトルにもある「無法中毒者」、アウトロールと読ませるその設定自体が面白いと思いました。講評のどこかに、アングラには「じゃない方」のニュアンスを感じる、と書いたのですが、その「アンチテーゼ」としてのアングラをこのテーマに込めたのだと理解しました。法や秩序、ルールに「逆らうこと」自体が価値になってしまっている、ルールが180°変われば無法中毒者の行動も180°変わるということですよね。
 物語の軸は少女たちの決意と出発の物語であるようでいて、実はネロークという無法中毒者の楽しみのために過ぎなかった、というのも小気味良いです。
 少し気になったのは、冒頭から未知のカタカナの名前が大量に登場するところで、わたしは固有名詞を覚えないタイプなのでそこで少々つまづいてしまいました。特にこの一文、「マフィアによって支配された無法の都市ナツラ。それがネロウの巣の名前である。」ですが、ネロウというのはネロークの誤字でしょうか? この時点でネロークの名前が明かされていないこともあり、ネロウが人名かどうかもわからない中で、「巣」が比喩表現なのか、それとも未知の生物のそのとおりの「巣」なのか、結構混乱してしまいました。未知の単語を出す際にはそれが人やモノ、場所など、何を示すのかを最初に明示してもらえると、とても読みやすくなるかと思いました。
 一方で「アウトロール」を初め、ドラッグの名前など、名付けのセンスが非常に優れているとも感じました。こういったディテールが作品全体の世界観を豊かにするんですね。

謎のポメラニアン
 善人だと思ってきた人物の素顔を知った時の感情、好物なんですよね。もっと絶望してくれていいんですよ(闇のスマイル)。
 SFやファンタジーにはセオリーとして世界観の説明は必須です。あえて隠さなくてはならない場合もありますが、それでも読み手のわからないものを無視してはいけないのです。ですからオリジナルの世界についてはもう少し設定を明るみにしていただけると読み手としては助かります。
 「アウトロール」のセンスは素敵ですし、私なんかは名付けが苦手なんで羨ましいなあと指を咥えてしまいます。前を向いて立ち上がったふたりのその先も見てみたいですね。

54.ドキュメンタリー・ブルーフィルム/不可逆性FIG

謎のイートハーブ
 不可逆性FIGさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらブルーフィルム、平たく言ってAVを撮影する仕事についた主人公のお話です。描写力が安定して高い作者さんであるため、一話目の映像描写がとても綺麗です。電子機器ボコボコにするのいいですよね、見るよりやりたい派ですがとても気持ちがわかります。
 一話目で大体の把握ができるので、AV撮影の前にたくさん食料があるという説明で身構えられる仕様もたいへん優しいです。いやーこれエメトフィリアでしたっけ、世の中には色々な趣向がありますよね、興味深いです。撮影シーンの描写にすごく拘りを感じて、同時に解像度も高く、視点人物の叙述の通りに、映像的な美があると感じました。
 ひとつ気になった点があって、意見もわかれるとは思うのですが、美しさのある芸術点の高い(と思われる)AVって、その性癖をガチで持っている方のオカズにはならないのではないでしょうか。例えば自分は捕食動画がオカズになり得るんですが、意匠を施されているとそれはもうオカズではなくアニマルムービーというか、映像美を楽しむ短編映画に変化しているかなと。特殊性癖AVではなくアングラ芸術Vと言えばいいかな……。
 最後に主人公がNTR性癖のようなものに目覚めていて、ミイラ取りがミイラに……となりました。とてもいい終幕でした、ありがとうございました!

謎の白猫
 いわゆる特殊性癖を扱ったマニアックなアダルトビデオ撮影に携わる青年の語りです。
 この作品は語り手、慧佑、茉凜の三人が主な登場人物なのですが、誰が主人公かと言われると、誰なんだろう? となる不思議な感覚があります。物語の定石からいって、未知の世界に触れて一番変化しそうなのは語り手なのですが、彼の変化はあまりに消極的で、どちらかというと「適応」という感じがします。慧佑の独自の哲学が徐々に開示されていきますが、それは主に彼自身の台詞のみで伝えられ、言葉以上のことはあまり表現されていないように見えます。すると、この作品が一番くっきりと表現しているのは、茉凜の空虚でありながらどこまでもすべてを呑み込んでいきそうな存在感だと思いました。人から定義されることにすべてを預けた存在、というのは、現代的な価値観では決して良いものではないと思われがちですが、そういった常識を無効化する突き抜けた魅力が彼女にはあると思いました。
 とはいえ、語り手の彼は茉凜や慧佑の行いをラストでも「悲しい」と断定します。個人的には彼がこのような世界を「悲しい」と断じる理由が読んでいてあまりしっくりと来ませんでした。もしかしたら、そうやって「悲しさ」を積極的に見出して性的興奮を得るという彼の性癖なのかもしれません。
 7,000字ほどの作品ですが、半分以上が映像や撮影現場の描写に割かれているため、おそらく本題である慧佑や茉凜たちの内面についてがすこし物足りなく感じてしまいました。フルに字数を使って、彼らについて深堀りしてもらえると、自ずと語り手の価値観も見えてきてより深みを感じる作品になりそうだと感じました。

謎のポメラニアン
 作品そのものの話からは少し逸脱しますが、ここまで参加作を読ませていただきながら、最後も濃いの来たなあと感慨深い気持ちに浸りました笑。
 ブルーフィルム、つまりインディーのポルノ映画ですよね。文章の調子も映像的です。性癖の中でもだいぶ特殊だと思うんですが、女性が電子機器をひたすらぶっ壊すジャンルみたいなものに名前とかあるんでしょうか? ともあれその描写は写実的で、表現力の高い作者さんですね。
 撮影の部分はドライブ感があって楽しく読める分、内省の部分はどこか沈痛で、ノーマルを遠ざけようとした結果が特殊なポルノというのは些か短絡的な発想に思われ共感し難い語り手かなと思います(かと言って共感は必須ではないでしょうね)。慧佑さんの撮影、映像、ひいては性癖に対する拘りのディテールは興味深かったです。


◆選考会議議事録◆

謎のイートハーブ(以下ハーブ):お集まり頂きありがとうございます! では早速会議を始めましょう、議長を務めますイートハーブです。気になることなどありましたら随時仰ってください。

謎の白猫(以下白猫):よろしくおねがいします!

謎のポメラニアン(以下ポメラニ):よろしくおねがいします。

ハーブ:では大賞選考を行います! 各自、これこそがアングラ大賞だと思われる三作を挙げてください。アングラの解釈については各自評議員に委ねます。

白猫:私からいいですか?
・マンソンは死ぬのだろうか?
・となりの丸山さん
・フランツの家

 この三作でお願いします。するっと決まりました。

ポメラニ:私は
・父なる海
・むつかしきもの
・地獄、ぱらいそ、カルミン

 こちらでお願いします。

ハーブ:実は十作くらい候補があったんですよ。越智屋さんの絵で見たいで三作抜き出しました。
・我が身貪れアメイニアス
・ゲーム『残酷劇物質』の件について、調べてみました。
・マンソンは死ぬのだろうか?

 この三作です。
 ……ということは、マンソンは死ぬのだろうか? が二票ですので、大賞とさせて頂きたいと思います。よろしいでしょうか!

白猫:異議なしです!

ポメラニ:異議なしです。

ハーブ:では決定します!草食アングラ森小説賞大賞は「マンソンは死ぬのだろうか?」です、おめでとうございます!!

白猫:おめでとうございます! 推しなのでうれしい!

ポメラニ:おめでとうございます!

ハーブ:では金賞銀賞を決めたいと思います。ポメさんの推しが父なる海むつかしきもの地獄、ぱらいそ、カルミンで、白猫さんの推しがフランツの家となりの丸山さんで、私の推しが我が身貪れアメイニアスゲーム『残酷劇物質』の件について、調べてみました。ですね。
 うーん、じゃあ推しの中から最推しをひとつ選んでください。私は
ゲーム『残酷劇物質』の件について、調べてみました。にします。

白猫:えーとじゃあ、となりの丸山さんでお願いします。

ポメラニ:私は地獄、ぱらいそ、カルミンを推します。

ハーブ:ではこの三作で決選投票しましょう。三作の中から推しをふたつ選んでください。私は残酷劇物質となりの丸山さんにします。

白猫となり丸山さん地獄、ぱらいそ、カルミンで!

ポメラニ地獄、ぱらいそ、カルミンと、となりの丸山さんでお願いします。

ハーブ:了解です! では集計すると、となりの丸山さん三票地獄、ぱらいそ、カルミンが二票なので、金賞丸山さん銀賞カルミンにしたいと思いますがいかがでしょうか?

白猫:異議なし!

ポメラニ:異議なしです。

ハーブ:ありがとうございます! では金賞「となりの丸山さん」銀賞「地獄、ぱらいそ、カルミン」で決定いたします、おめでとうございます!!

白猫:おめでとうございます!!

ポメラニ:おめでとうございます!

ハーブ:ではでは個人賞を……。白猫さん、どうでしょう? 推しがフランツの家のみですが個人賞にしますか?

白猫:! いいんですか! やったー! 大賞候補三作、本気の推しなので「フランツの家」を個人賞でお願いします! あらゆる要素的良さがありました。好きです。

ハーブ:了解です!フランツ、私も好きです。
  私は言うまでもなく「便利屋マダラ」を個人賞にします。最高でした。最高の黒髪長髪イケメンが完璧なのに二人もいるんですよ!? 致命傷です。

ポメラニ:www 私は……もし良いのであれば「悪趣味」を推したいのですが……。

白猫:え! ほんとですかやったーーー!

ハーブ:もう全然オッケーです! 私自体悪趣味最後まで候補に入れてました。

ポメラニ:伊勢くんがとても良かったです。では、私の個人賞は「悪趣味」でお願いします。

白猫:うれしい!

ハーブ悪趣味すっごい面白かったですよね。講評にも書いたんですが、私白猫さんの少し長めの、シュレディンガーやおもいでのスイートキスなんかがすごい刺さるんですよ。
 あとこう、この場を借りてお二人に謝罪を挟みたいんですが……。

白猫、ポメラニ:? はい

ハーブ:私のせいで黒髪長髪男過多になっていて本当にすみませんでした……。評議員は私だけちゃうで!? ってなるぐらいには……黒髪長髪だったため……。

白猫:wwwwww BLも多かったですねえwww

ポメラニ:大賞の「マンソンは死ぬのだろうか?」もBLではないですが、男同士の感情が要素として組まれていましたね。

ハーブ:そうですね、そこも刺さりました。
 ではこのまま、ちょっとした雑談というか、受賞作や個人的に好きだった作品などの話でも……。

白猫:受賞作品の良かったところすごく喋りたいです!
 マンソンは死ぬのだろうか、投稿がはじめだったのにずっと私の中で残っていました。すごく仕上がりが高かったし、BLほどいかないブロマンスもよかったんですよ。

ポメラニ:ねずみの描写が世界観になってて、そこから最後に戻るのが綺麗でしたね。

ハーブ:脳死感想で申し訳ないんですが、サルドルがエッチ過ぎるんですよ。

白猫:www いやわかります、エッチでした。

ポメラニ:www 言葉の使い方も岩窟王(モンテ・クリスト)やらタイトルのマンソンも含めて、閉塞感を演出するのが上手かったです。

白猫:アングラっていう要素をうまくあわせているのがすごく上手だったし、やっぱり頭ひとつぬけていたなって。ポメさんの仰るようにマンソンの使い方が本当にうまい。

ハーブ:短い中できっちりまとめてある、手腕を感じる作品でしたよね。越智屋さんの描くマンソン超みたかったので、願いが叶ってよかったです。
 このまま受賞作の話しましょうか、次は「となりの丸山さん」

白猫:なんかわかんないけど面白かったー! ってなりましたw

ハーブ:wwwww 私も似た感じなんですよ、なんでこんな面白いの!? って。

ポメラニ:やってることは乱交パーティーというアングラだけど、主人公の視点は極めて常識的で、そこが他の作品との差別化されていて上手くバランスがとれているなと。

白猫:人間性と趣味はちがう、ここがしっかりしているところも高ポイントでした。舞台が極端だからか、善になるポイントが人間性で。

ハーブ:嫌な気持ちになるキャラひとりもいなかったですよね、さわやかな読後感……。投稿タイミングも絶妙だった印象です。

ポメラニ:主人公が地元にたびたび言葉投げかけるのも良かった部分です。成長も語り口から読み取れて。純愛としても抜き取れる作品でした。

白猫:心あったまっちゃったな……丸山さんもかわいくて……。

ハーブ:かわいかったですよね……うまくいってほしい……。
 次は銀賞の「地獄、パライソ、カルミン」
 ひとりだけ推してないみたいになっているので先に弁解なんですが、文芸ラインとしてアメイニアスカルミンか悩んでアメイニアスにした経緯があるので、私もすごく好きな掌編です。

白猫:私もいいなって思った作品のひとつです。いい地獄で、読みやすかった。

ポメラニ:おかあさんぐらい優しくても良かったのになって……抉りながら刺さってきました。読んだあと思わずカルミン製造終了日調べちゃった。

ハーブ:wwww なんとなく好きそうだなって思ってました。

ポメラニ:ええ、エアコンぶんぶんお姉さんも未だに好きです。

白猫:wwwww

ハーブ:私が所見から便利屋マダラを絶対私のものにすると思っていたのと似てますね! すっごい好きで、とにかく好きでですね、マダラさんの造詣も静さんのクールさも、同じ見た目で正反対のイケメン黒髪長髪は卑怯なんですよ!!!

ポメラニ:wwww 僕に黒髪~はあれですが、物語性がとても高かったですね。

白猫:私は静さん派でした! 好きです。

ハーブ:完全降伏腹見せです。最高だった……連載してください。いくらでも絵を描きます。

白猫フランツの家、ドイツが個人的に思い入れがあって、ドイツ成分での加点もありました。

ポメラニ:歴史系、唯一でしたよね確か。

ハーブ:確かそうです。こちらもシンプルに面白くって、小説がうまいひとは小説がうまいんだなって……。微BL成分も、このくらいの按配がいいですよね。

白猫:そうなんです、いい作品でした。

ポメラニ悪趣味、ほんとに好きですよ。車種とか気になってしまった。伊勢君のキャラクターが本当に良かったです。

白猫:うれしいです!わ~~い、伊勢君、私の好みのタイプです!

ハーブ:私もすごいすきです伊勢くん。料理うまそう……。

ポメラニ:うまそうですよね、ディティールも凝っている。

白猫:ありがとうございます! やったーー!

ハーブ:そういえば話がちょっと前後するんですが、異世界ファンタジーがさすがに少なかったですね。そらそうよっていうテーマですが……。

ポメラニ:4,5作でしたか。アングラでファンタジー難しいでしょうね。

白猫:短編として書くのも難しいんだろうなって思いました。ファンタジー慣れがあまりなくてけっこう飲み込みに苦労するんですが、その点でいうともももさんのギルドノワールすごく上手だなと思いました。
 入りがとても綺麗で、モン○ンがあまりわからなくてもすっと頭に入ってきました。短編で異世界ファンタジーを書きたい人のお手本になりそうです。

ハーブ:私もあまりファンタジーがわからないので下手なことが言えない……。ホラーと文学も私あんまり拾えないので、その辺りを白猫さんポメさんに投げようと思っていた説あります。
 その文学ラインのほうで一番わかりやすかったのが我が身貪れアメイニアスだったんですよ。このくらい要素が整っていると頭に入ってきます。

ポメラニ:今回評議員をやらせていただいて感じましたが、わかりやすいというのは本当にいいですね。

白猫:確かに、アメイニアスのわかりやすさは抜群でした。
 ポメさんが推してらしたむつかしきものも文学ラインですよね。

ハーブ:和泉さんの文体がただただ好きです私は。あと地獄詰め合わせという感じで好きです。

ポメラニ:出てくる台詞の幻想さがとてもいいと思いました。日常の表裏の、裏側の視点と東京という土地柄、華やかさと惨さが同居している上下の対比が素晴らしいです。

白猫:荒川が舞台装置なの、すごくわかると思いました。

ハーブ:イサキさんのフレンチクルーラー・ミニマル・ゲリオンも文学ラインですよね。私、メモに「いつものイサキさんじゃない」って遺言みたいに残してました。

ポメラニ:境界線ギリギリで危ない橋も渡りつつ、それでも生きていくみたいな。金閣寺etcとは違いますが、感情の機微の掬い取りはやっぱり和田島さんです。

白猫:百合のときと雰囲気違いますよね。スピード感がまず違っていて、すごく面白いなと思いました。それでなんとなく身の覚えのある感じの表現が上手いです、だらだらよくないこと続けちゃう真理というか。

ハーブ:なに書いても面白いからなあ……。
 好きなのでゲーム『残酷劇物質』の件について、調べてみました。の話をするんですが、五三六Pさんやっぱり上限一万突破してからが真価のような気がしました。設定を毎回すごく作りこんでらっしゃるし、前回窮屈そうだったのでよかったなって。世界観とアングラの詰め込み方が好きです。

白猫:ブログ形式の、ブログの中身本当に面白かったです。あそこだけずっと読んでいたかったです。

ポメラニ:私も間のブログ、好きですね。それで、この小説は投稿作の中でもかなりオリジナルな感じがありました。

ハーブ:もうすっごい、のめり込んで読んでました。五三六Pさんの作品好きなんですよね……。

白猫:個人的には前後の話ももう少し知りたかったから、あと一万文字くらい読みたかったです。上限一万五千だから無理なんですがw

ポメラニ父なる海、すごくシンプルに面白かったなと思って推しました。

ハーブ:私は身内なので逆贔屓(採点を厳しくするの意)発動してますが、それでも尚面白かったです。とても悔しい。

白猫:主人公が圧倒的なクズで喜んじゃいました。

ポメラニ:w 主人公と安倉の表情の対比というか、この二人の立場が段々と逆転していくような構図がすごく上手いと感じました。

ハーブ:蓮河、きっと喜びます。
 他私の身内っぽい方で言えば、人形の妻等身大の人形です。どっちも普段は漫画描きさんかな……。

白猫:ハイブリッド怖い。

ポメラニ:等身大、短くまとまっていて冒頭のパンチもありました。

ハーブ:妻のほうは確定ではないんですがたぶん越智屋さんです。大賞絵師の。えらい上手いの来たなって思ったんですが、なんか知ってる味がして……。

白猫:www 身内と言えば、悪い男地下に眠る、私の前からの知り合いなんです。大塚さんとドントさん。

ポメラニ悪い男の岩角、すごくカリスマ性のある悪者だって伝わってきます。得体の知れない気味悪さを感じて、そこに面白さがありました。

ハーブ:文体自体が好きなので文章がうまい! となりました。
 地下に眠るはねえ、私めっちゃ好きなんです。リョナラーなので加点に次ぐ加点です。

白猫、ポメラニ:wwww

ハーブ:どっちもサディストっぽいのに、相手の要求に応えてM側もやっている部分に愛を感じました。ほんとたぶん、S側って相手が大事じゃなかったらそうそうM側をやらないと思うんですよね、だからこれは深く愛し合っている……などとサディストが申しております。

ポメラニ:青森の救世主の印象が強いまま読み始めたので、ギャップに驚きました。

白猫:青森! だいすきです私も!

ハーブ:前回の綿棒賞ですね。私もめっちゃ好きでした。
 大体このくらいですかね? 他になにかあれば……。

白猫:飯テロ枠のアンダーグラウンド核シェルター餃子事変あるいは最後の晩餐、すっきりして読みやすかったです。どっちもご飯がおいしそうだしコンピューター様がかわいい。

ポメラニエアコンぶんぶんお姉さん、あんなに綺麗な夢オチはないなって……。あと偽教授さんのUNDERGROUND SEARCH LIE、安定しているなと。

ハーブ:前回覇者、構成がシンプルに上手いですよね。読んでてストレスがない。ミステリ読みの悪癖が度々出ちゃって、つまりこうでこうでこうなのか!? って整合性求め始めちゃうんですよ……。主催やるには致命的な悪癖だな……。

白猫:偽教授さんの作品、モヨコのキャラクターもすごく良かったです。したたかで生命力があって好きでした。

ハーブ:いいキャラでしたよね。私も好きです。
 ではけっこうお話したので、この辺りでお開きにしようかな……ア! なにか宣伝などあれば是非!

ポメラニ:うーん、特にないです!笑

ハーブ:え!? そんな 了解しました……本当にいいんですか!? アントーニオとか……。

ポメラニ:アントーニオは開くとモンハンばかり出てくるので大丈夫です!(戦略的撤退)

ハーブ:そんな…… お聞きしつつ私もないんですが……強いて挙げて最推し長髪の出てくる作品くらいで……。(江神二郎をすこってください)(登場キャラ関西弁ばかりで最高)

白猫:わたしツイキャスでも宣伝しようかと思いましたけどお二人とも特にないなら恥ずかしいからやめよかな……笑

ハーブ:そんな……あっ!性癖・裏性癖選手権のリンク貼ればいいんでした!
 こちら現在開催中の自主企画で、私も僭越ながら携わっておりますのでご興味あれば!
【10文字から】第三回性癖小説選手権【4万字まで】  
裏性癖小説選手権 通称『地雷小説選手権』

ポメラニ:いやいや、遠慮なさらず白猫さん!だったら僕もモンハンブログ貼ってもろて!
 こちらです! アントーニオの肉一ポンド

白猫:気を使わせてしまってすみません! 最近全然配信してないんですけど、昔のライブ履歴があるため……。では改めまして!
 たまに思い立ったように怖い話とか雑談の配信をしてるんですが、ライブ履歴にある「ポストに変な手紙入ってた」ってやつは結構頑張った一人芝居風怖い話なので良ければお暇つぶしにぜひ〜
 こちらからどうぞ!! ツイキャスライブ 

ハーブ:モンハンブログもツイキャスもポメラニさんと白猫さんの真骨頂が垣間見れる素敵なところなので、是非リンク先をクリックしてください!
 それではお二人とも、長丁場本当にありがとうございました!お疲れ様でした~~!

白猫:いっぱいしゃべってしまった。お疲れ様でした、楽しかったです!ありがとうございました!

ポメラニ:ありがとうございました、楽しかったです。


企画概要→草食アングラ森小説賞
中間ピックアップ→三人で中間ピックアップ麻雀
後半ピックアップ→主催のソロピックアップ


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