『水星の魔女』1期に感じた“話の弱味”

年が明け『機動戦士ガンダム 水星の魔女』も無事前半クールの第1期放送が終了し、そのインパクトのある締め方からTwitterでも話題になったのは記憶に新しい
もちろん『ガンダムシリーズ』としては新規性のある設定や話の流れも多く、個人的にもそれなりに楽しんで見ていたんですが、一方で第1期段階ではストーリー面の要所にチグハグさを感じる部分も見受けられたのでここに書き散らしたいと思います

①陰謀劇と学園譚の分離

『水星の魔女』のストーリーは大雑把に分けると……

アスティカシア高等専門学園におけるスレッタ達を中心とした学園ストーリー
○ミオリネの父デリングをはじめとしたベネリットグループ内での陰謀劇

の二つがシークエンスとして並行していきますが、第一期はこの両筋の繋がりが薄いように感じてしまいました

まず前者の学園シークエンスにおいてはMS同士の決闘によるスレッタのホルダー資格防衛が主軸となるわけですが、劇中でもベネリットグループの上役からは決闘が特別重視されていないような見方をされており、総裁デリングの娘であるミオリネの立ち位置もせいぜい戦国時代の妻兼人質程度の扱いしかなされていません

決闘の結果が陰謀シークエンスに与える影響もあまり大きくなく、当初こそベネリットグループ内におけるエアリアルの容認などで関係はしていましたが、第1期終盤における陰謀シークエンス最大のフックであった「デリングを暗殺するか否か」には深く関与しておらず、あえて口悪く言えばこの二つのシークエンスはかなり分離していたように思います

※間接的にサリウスとシャディクが関与するかどうかには影響しているとは思いますが、基本的にヴィムがデリングを消したがっていることに変わりは無いですし、ガンダム技術への嫌悪があったとはいえサリウスもわりあいアッサリ暗殺に加担していたこと、株式会社ガンダムの設立(≒デリングによるGUND-ARM技術の部分的容認)が予想以上に容易だったことを考えると、決闘の結果はどうあれ時間の問題だったように思います

②ストーリーの分離に伴う主人公スレッタの浮き方

また、上述した学園パートと陰謀パートの分離に伴って、(特に終盤においては)主人公であるスレッタ自身も若干ストーリーから浮いた……より厳密に言えば陰謀パートのシークエンスに加担できてない状態にあったと思います
もちろん、ヒロインのミオリネとは紆余曲折を経て友達以上の関係を築いたり、学園の仲間たちの中で時たま予想外な行動に出る特異性も持っており、単体のキャラクターとして見れば十分魅力的な存在ではあるでしょう
しかし彼女が相互に影響を与える範囲はほとんど学園内のキャラクターに限定されており、そうすると先述のとおり学園パートが陰謀パートと分離気味にある関係から、陰謀パートには大きく関与しないということにもなります
実際最終盤のメインシークエンスであったプラントクエタでのデリング襲撃事件においても改修されたエアリアルの受領で向かっただけで、襲撃を受けたこと自体は彼女視点からすると“たまたま”であったのがその象徴と言えるでしょう
スレッタと陰謀パートを最も強く繋げられる役割を持ちつつ、最終盤でクエタに彼女らを呼び寄せるキッカケにもなったプロスペラが秘密主義者かつ襲撃事件に直接関与していないのも、終盤におけるスレッタの立ち位置を曖昧にさせている要因の一つになっていると思います

③ストーリー上における各メインキャラの断絶

さらに②で書いたスレッタというキャラクターの問題点を補強してしまっているのが「グエル、エラン(4号)を両シークエンスから実質的に断絶させたこと」でしょう

グエルはスレッタとの決闘以後、ジェターク寮から出て学園内でのストーリー……とりわけ各種決闘に大きく関与しなくなりますが、かと言って陰謀パートに関与していくということもなく、実質的には宙ぶらりんのまま話が進んでしまいます
最終盤への関与の仕方も本当に「たまたま居合わせた」としか言えませんし、彼の父・ヴィムがデリング暗殺の急先鋒であったことを考えると、スレッタと陰謀パートを繋ぐプロスペラ以外の重要人物になり得たかもしれず、第一期最終回での「自らの父をそれと知らず戦場で殺害する」というインパクトのある出来事もより強烈なものにできたんじゃないかと思ってしまいました

同じような理由でエラン(4号)を廃棄処分にしてしまったのも勿体なさを感じる展開で、彼の所属するペイル社を株式会社ガンダムの傘下に入れたことを考えれば、グエルと同じくらいにはスレッタ達と陰謀パートとの接続役を果たせたように感じます

④世界観全体の描写不足

この部分に関してはおそらく第一期段階では意図的でしょうが、ベネリットグループ外におけるGUND-ARM技術の扱われ方や世界情勢の描写がかなり断片的であったため、最終盤での“地球の魔女”の存在を視聴者側がどう受け取ればいいかわからず、先に挙げた問題点群と合わせて散漫な印象をより深める要因になってしまっていたように思います

アーシアン・スペーシアン間の対立関係もアスティカシア内部ではせいぜい一部の差別的態度にあらわれていただけで、『水星の魔女』世界全体でどの程度の扱われ方をしているかどうかは数分程度の描写しかありませんでしたし、そもそも学園での決闘は殆ど内部で完結している出来事、かつ陰謀パート自体もほぼベネリット内部の話ですから、第一期時点で“地球の魔女”が所属するゲリラ組織『フォルドの夜明け』は襲撃を依頼されたいち外部組織でしかなく、スレッタ達との繋がりも「GUND-ARMと“魔女”」という点にしかほぼありません。スレッタとミオリネが両者ともスペーシアンというのも、これに拍車をかけていたと思います

むろん第2期ではそこをより詳細に描写したいとは思うのですが、視聴者の視点では出てきた内容以上の予測ができないことも事実で、個人的にはもう少し情報量が欲しいところでした

⑤総評

とかなんとか細かいこと言いつつも、個人的にはそんな不出来な作品だと思ってません。そもそもロボットアニメなので戦闘シーンが良ければかなりの部分満足できますし(特にグエル戦はシリーズ通しても出色だと思ってます)、「やめなさいっ!」など強烈な印象を残したシーンも多いので第2期が待ち遠しいのも事実です

今回はまあ備忘録的な感じで重箱の隅をつついてみました。それでは

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