【血統考察】オーギュストロダンのダービー勝利に思う、ディープインパクト直系でイクイノックスを作る方法・その③『逆算的に考える配合』

↑前々回と前回


さて、このnoteでは前二回を踏まえて「ディープインパクトの後継種牡馬で具体的にどういった配合を行っていけばイクイノックス的な馬が出てきそうか」を考えていきましょう

おさらいとしておくと、今記事でいう「イクイノックス的な馬」というのは適正距離2000m〜の中距離を主戦場とし(なので基本は牡馬想定)、中盤まで後方待機しながら終盤は大外に持ち出して、東京競馬場なら直線一気、中山・京都競馬場あたりなら3角〜4角から捲くり気味に上がって捻じ伏せるといったイメージの大物馬を指します

そのため注意点として……
▲マイル以下の距離のみを走る、あるいは勝つにしても2000mがギリギリ
▲逃げや先行粘り込み、道中捲くりで3〜4角先団に取り付く脚質
▲差し型でも極端にスパート距離が短い

といった馬が出てきそうな配合はあえて外します(前回挙げたディープボンドなんかが好例)

●種牡馬から考える

○キズナ

現状のディープ後継筆頭といえばやはりキズナでしょう

ただ産駒の走りを見ている人ならわかりますが全体的にキズナ母方のStorm CatDamascusが強く出るようで、相手の繁殖牝馬にクロフネやフジキセキなどの米国色が強い肌馬を合わせると一気にダート馬や短距離の先行馬になる可能性が高くなります
ただ本質的に欧州色が薄めという意味ではキタサンブラックとそこまで大きな差はないと思うので、キタサンと相性の良かった繁殖牝馬はキズナとも合うでしょう

実際、イクイノックスの母であるシャトーブランシュからは21年にキズナを付けた産駒が産まれており、ガルサブランカという名で育成も順調に進みデビュー間近とのこと

兄にはイクイノックスは勿論、父・キングカメハメハのヴァイスメテオールも芝の中距離をキレ味鋭い脚を発揮しているということもあり、このガルサブランカも期待したい一頭です

他にキズナの中で今回のテーマに合致しそうな配合モデルはアカイイトでしょうか

ディープ系と合わせる母父として優秀なシンボリクリスエスにしなやかさとスタミナ色十分な母方のラインが合わさることで、2021年のエリザベス女王杯において最終コーナーで後方から捲くり上がって勝つという祖父・ディープや父・キズナの現役時代を彷彿とさせる走りを見せてくれました
スピードを底上げする血が足りない感はあるものの全妹であるエニシノウタも後方から鋭い脚を伸ばすタイプで、つい先月2勝クラスを勝ち上がったところですし、同配合で牡馬の大物が出てくればディープっぽい馬が出てくる可能性は十分あるように思えます

○コントレイル

キズナのようなディープ×米国系配合の後継でいうとコントレイルも血統面でいうと近しいタイプの種牡馬だと思います

キズナと比較したときのコントレイルの強みは、母父が米国系の中でもパワーや先行力を主張しすぎないFappiano系のUnbridled's Songという点
キタサンブラックが持っているテイズリー(Lyphard)Grey Sovereign系(キタサンはトニービン、コントレイルはCaroから)の血を母のロードクロサイトから受け継いでいるコントレイルは、他のディープ後継以上にキタサンブラックと近い特徴を持ち合わせている気はします

なので合わせる相手もキズナ同様にシャトーブランシュのようなキレ味とスタミナを兼ね備えた馬にすれば、ディープ的な大物が出てくる可能性は上がるでしょう

↑シャトーブランシュではありませんが、既に母父・キングヘイローの産駒も

また、キズナと合わせるとダートに転びやすくなってしまう母父・キングカメハメハの牝馬に配合しても芝向きの馬が出てきてくれる望みは大きそうです

キズナ×キンカメで芝中距離を走っているアームブランシュのような馬も、コントレイルからはより沢山出てきてくれるかもしれません

○フィエールマン

個人的に今回のテーマで注目しているディープ後継としてフィエールマンがいます

自身のタイトルとしては菊花賞+天皇賞(春)を2連覇とステイヤー的に見られそうな戦績ですが、天皇賞(秋)でも2着に来るなどキレ味勝負でも良い脚を見せています
そもそも走ったレースの総数が少なく中距離適性を証明し切る前に引退した印象なので、ジャパンカップなんかでも好走していた可能性は十分にあるでしょう
なんなら産駒の中で一番ディープインパクトらしい走りをしていたのは個人的にフィエールマンだとも思っています

血統的にもフィエールマンの母方は主流種牡馬があまり入らないヨーロッパ系のスタミナ型と他のディープ後継には見られない特徴があるので、母父に米国寄りの主流スピード種牡馬を入れやすいのも利点

一番わかりやすいのはこうして母父にスプリンターであるロードカナロアを据える形でしょうか
サンデーサイレンスのクロスでキレ味の血も補強しつつフィエールマンに足りないマイル・スプリント的な速さを足す設計で、現代競馬の鉄板である中・長距離馬×スプリンターと配合リズムは◎
ロードカナロアとサンデー系の中距離的相性は既にアーモンドアイという超一流のサラブレッドが証明してくれているので、それをよりディープらしさのあるフィエールマンで瞬発的な速さを持った中距離馬に仕立て上げるわけですね
競走馬としての仕上がりが遅くなる懸念はありますが、その場合は適宜早熟性のある米血が強い他繁殖に当てるなど微調整していけばいいでしょう

それ以外でもキズナやコントレイルといったディープ×米国系の後継種牡馬界のメインストリームとは全く違ったアプローチで考えやすい種牡馬なので、産駒のデビューがとにかく待ち遠しいです

●繁殖牝馬から考える


○母父・シンボリクリスエス

繁殖牝馬から考える上で中距離馬を生産するのに今最も重要なのはシンボリクリスエスでしょう
非サンデーサイレンス系の中では日本競馬においてキングカメハメハに勝るとも劣らない中団からの強い競馬を行えた一頭で、Royal Charger5×5とキレ味に繋がる血を持ち、父系としてもエピファネイアという大物を輩出している実績があります

ディープ後継との相性も既に証明し始めていて、キズナの項で紹介したアカイイトのほか、同じ父×母父の組み合わせではマイルGⅠ馬を複数勝しているソングラインも出てきました

スタミナが足りるかどうか、突貫力が勝って先行馬になるかは母母の血統次第になりやすい問題はあるものの、流行のニックスということでバリエーションも豊富ですしディープ的な大物が出てきやすい下地はあるように思います

○ソニンク牝系(Machiavellian)

イクイノックスのキレ味がキングヘイローを経由したHalo的特徴の増強というのは前回話しましたが、それの一端となるキングヘイローの父・ダンシングブレーヴは体質的問題で日本に輸入されてきたわりに産駒の数があまり多くありません

そこでサンデーを使わずHalo的キレ味を強調するためには海外から同じ特徴を持った血統の馬を持ってくる必要があり、既に多くのブリーダーがHalo(あるいはDrone、Sir Ivor)持ちの繁殖牝馬を日本に持ってきています

中でも今最も大物を出す活力があるのはソニンクに遡る牝系でしょう

当馬に始まる牝系からは先に挙げたソングラインのほか、ロジユニヴァースディアドラなどGⅠを含むJRA重賞勝利馬が多数出てきており、直近では青葉賞を勝って今年のクラシック世代の遅れてきた大物かと期待されたキタサンブラック産駒・スキルヴィングも産まれています

ディープ的な馬が出てくる素質はしっかりしている牝系なので今後も注目していきたいところ

ちなみにソニンク牝系以外でもこの系統の鍵となっているMachiavellianの血は年々注目度が増してきており、他にも目立つ繁殖牝馬としてハルーワスウィートもいます

もともとHaloを抱えるGlorious Songの名牝系出身ですし、Halo的側面を持ったRed Godの血もあり、さらにそこへMachiavellianも乗っかる形なので今回のテーマにはピッタリ
ディープインパクト自身との相性は既にヴィルシーナ・ヴィブロス姉妹がこれ以上無いほど見せつけてくれてるわけなので、ディープ後継との配合も気になるところ

また、そのほかにもジャパンカップを海外馬ながら2年連続で好走したGrand GloryなんかもMachiavellian持ちで、既に社台ファームが購入して日本で繁殖に入っています

↑Machiavellian以外にもAlzaoとLight of Hopeの3×3という全兄妹クロスでキレと持続力が強調されていて、ディープ系と合わせたときの爆発力を期待せずにはいられない血統

こうしたMachiavellian持ち血統は今後も要チェックです

○母父・ドゥラメンテ、エピファネイア

ちょっと先の展望でいうと母父・ドゥラメンテエピファネイアにも注目せざるを得ません
両者ともサンデーサイレンスが3代の位置に入り、どちらかが母父にいる牝馬とディープ後継を合わせるとサンデーの3×4と無理のないクロスが出来ますし、この条件を満たすキレ味の強い種牡馬という点でドゥラメンテとエピファネイアに並ぶ内国産馬はいないでしょう

ドゥラメンテはエアグルーヴを経由して持続力やスタミナを支える血が多く、サンデークロスを作りながら中・長距離馬を生み出す土壌は強固ですし、エピファネイアはサンデー以外にもHabitatBold ReasonなどHaloと脈略する血があり、キレ味を増強する下地は十分
どちらも全体としては欧州寄りの血統なため、やはりキズナやコントレイルなどの米国寄りディープ後継との相性は高いでしょうし、自身に合わせられている繁殖牝馬の質も高いのでより大物が出やすくなっているでしょう

他に挙げた例よりはもう少し未来の話になりますが、こうした繁殖牝馬への期待も高まります

●余談

○Tourbillon系

日本ではサンデーサイレンスの輸入を切っ掛けにHalo的なキレ味の時代が到来したわけですが、その直前の時代でそれに近い役割を果たそうとしていたのがTourbillon系の血統でした
日本における代表例が輸入種牡馬として活躍したパーソロンで、その代表産駒にシンボリルドルフがいますが、さらに特徴的だったのはルドルフの息子であるトウカイテイオー

母方からも執拗にTourbillonの血を重ねたテイオーは大サンデーサイレンス時代直前におけるしなやかさの権化であり、この両系統は互いに異系ながらキレのあるスピードを強調し合える関係だったと思います
(実際にテイオー×サンデーの産駒は少ないながら優秀な勝ち上がり率を誇っていましたし、同じパーソロン系のメジロマックイーンステイゴールドとの組み合わせからオルフェーヴルゴールドシップらを輩出しました)

惜しむらくは日本も含む世界的なTourbillon父系の衰退が先んじて始まっていたことで、今現在狙って配合するには残っている産駒があまりにも少ない……

数少ない馬の中からレーベンスティールのような片鱗を見せつける個体も出てきていますから、尚更絶対数が多ければと夢想せずにはいられません

↑日本の主要血統と若干合わせにくいため今回のテーマでは種牡馬のピックアップから外したリアルスティールですが、母父・トウカイテイオーのように異系かつ日本的キレ味を持った馬との組み合わせならレーベンスティールのような産駒が出てくるのも血統の面白さと儚さ

ただ希望が一切ないわけではなく、ディープインパクト産駒にしてドクターデヴィアスを通じTourbillon的特徴を色濃く受け継いでいるグレーターロンドンが種牡馬となっているので、案外こういったところからディープインパクト的大物が出てくるかもしれません


○ウオッカ

同様にサンデーサイレンスを介さず異系的に日本向きのキレ味を発揮した馬でいうとタニノギムレットがいます
配合される相手の都合もあり、種牡馬としてピックアップする際はシンボリクリスエスに譲る形になりましたが、繁殖牝馬として面白かったかもなあと思える馬が1頭いました

それこそがウオッカ。2000年代以降にサンデーサイレンスの血を持たずここまで鋭いキレ味を発揮していたビックネームも他にいないでしょう

配合的には欧州色の強いバランスかつHail to Reasonを持ち、最低限サンデーサイレンスに通じる血もあるので、彼女がまだ生きていればディープ後継との子供が見たかったという競馬ファンは少なくないでしょう
今回のテーマ的にも異系として機能する日本の古い牝系テスコボーイ、Grey Sovereign系の血統が入るなどイクイノックスに通じる部分が散見されるのでまさに最適

ただオーナーの意向もあり種付け相手の殆どがFrankelSea The Starsだったためか、産駒からは日本適性の高い大物は出てきませんでしたし、孫世代においてもディープ的傑物を輩出できるかは微妙なラインだと思います

唯一Invincible Spiritと配合されて産まれ、既に繁殖入りしている牝馬・タニノミッションには昨年キズナが付けられており、今回のテーマに合致する馬が出てくるとしたら彼女からかなと思うので、今後の産駒も含めじっくり見守っていきたいですね


●最後に

今回のテーマは「ディープ後継でイクイノックス的大物をつくるには」というものだったので中距離〜長距離寄りの配合を考えていきましたが、今の配合トレンドはマイル〜2000mともう少し距離が短い想定がされやすいですし、ダート路線の整備も伴って長距離を狙える血統にする意味はハッキリ言えば薄いです
種牡馬としてのキタサンブラックは得意レンジが幅広いため、イクイノックス的な配合ができたのはむしろキタサンだからという面は大きいかもしれません。下手に他の種牡馬で代替しようとすると、のっぺりと野暮ったいだけの産駒が出てくる危険性はあります

なので今回想定していた配合は、今の潮流からは少し外れたものであるということはくれぐれも覚えておいてください

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?