【血統考察】オーギュストロダンのダービー勝利に思う、ディープインパクト直系でイクイノックスを作る方法・その②『イクイノックスの血統分解』


↑英ダービーにおけるオーギュストロダンの末脚がいかに凄まじいものだったかがよくわかります

↑前回はこちら

さて、①でディープ後継でディープ的なキレ味を作るのにただキングヘイローを入れれば良いわけではないということを軽く話しましたが、ディープボンドなどのディープ直系だけでなくブラックタイド産駒にも良いモデルケースとなる馬が一頭います

今も現役中のこのフェーングロッテンは、父・ブラックタイド母父・キングヘイロー、そして母母父にサクラバクシンオーがいるというざっくり見ればイクイノックスに近い血を持つ馬ですが、実際の走りはというと典型的な前粘り型で後ろから差し切るタイプではありません

ではなぜ構成が近いはずのフェーングロッテンがイクイノックスのような鋭いキレ味がなかったのか? 両馬の違いはどこに依拠しているのか?
まずは今回目標とするべきイクイノックスの血統を細かく分解していきましょう

イクイノックスの最大の特徴はやはり幾重にも積み上げられた大種牡馬・Mahmoudの血、もっといえばその母母である歴史的繁殖牝馬・Mumtaz Mahalの存在でしょう
日本競馬を変えた種牡馬であるサンデーサイレンスが4×5で抱えているのがMumtaz Mahalであり、現在も通じる瞬発的に切れる脚を支えているのがこの牝馬です
ディープインパクトとブラックタイドはさらに母父・Alzaoが持つMahmoudの5×5でこの鋭さをより強調しつつ、母母・Burghclereの持つ重厚なスタミナで中〜長距離を走る土台を築いているわけですね

だからこそ兄以上に欧州的なキレ味が強く出たディープインパクトは、種牡馬になってからは米国系の牝馬に合わせて特性を中和したほうが日本の馬場で走ったわけですが、キレの点で弟に一枚落ちるブラックタイドはあまり米国寄りすぎない内国産スプリンターのサクラバクシンオーを合わせることで調和が取れ、結果キタサンブラックを産むことになりました

この兄弟の種牡馬としての違いが如実に現れた例として、ディープ×サクラバクシンオーの代表産駒であるエントシャイデンがいます

バクシンオーではディープの欧州的重さを中和するに至らなかったのか、エントシャイデンは国内でリステッドこそ勝てるもののGⅢでは少し足りないような馬でした。しかしフランスはロンシャンで開催されるGⅠ・フォレ賞に参戦すると、2年連続で3着と大健闘することになります。日本では鈍めだった脚質がフランスではむしろプラスに働いたのでしょう

その意味でブラックタイド×バクシンオーのキタサンは絶妙なバランスの上に成り立っていたからこそ日本で走ったと言えますし、キタサン自身も父系由来のキレ味を完全に捨てたというわけではなく、母母・オトメゴコロ内にMumtaz Mahalのラインが複数存在するなど、後々活きる最低限の継続は行われていたりします

さらにその上でイクイノックスの母父・キングヘイローの配合も見てみましょう

この馬は現役時代からサンデーサイレンス直系のスペシャルウィークらとも張り合えるキレ味を持った馬で、唯一のGⅠ勝利も高松宮記念を大外から直線一気でしたが血統表を見ればそれも当然
キングヘイローは母父・Haloと父母父・Droneと母母父・Sir IvorがそれぞれTurn-to×Pharamond×Teddy×Mahmoudというかなり近しい血統構成で、これらの強烈なクロスによりその特徴が色濃く出ているわけですが、中でもHaloというのはサンデーサイレンスの父でもあります
つまりキングヘイローはサンデーサイレンスから別ルートでHalo的キレ味を強調した馬であり、ブラックタイド→キタサンブラックを経由し母父に合わせることでより明確に産駒へとキレ味を受け継がせる狙いがあるわけですね

しかしイクイノックス自身への仕掛けはこれだけに終わりません。なんと一番下のラインの六代母にあたるBelle de RetzはHaloやDroneも属するRoyal Chargerの父系直仔であり、Mumtaz Mahalの5×4のクロスまで備えているのです
ここまでの徹底したHaloのニアリークロスやMumtaz Mahalの重ねがけは執念すら感じるほどで、そこにバクシンオーやトニービンなど日本競馬に適合したスピードと持久力の血であるNasrullah×Hyperionをしっかり継ぎ足すことにより、現役時には逃げ先行馬だったキタサンブラックから瞬発力バツグンに後ろから差せるイクイノックスの誕生に至るわけですね

こうしてイクイノックスの配合を分析してから血統の近いフェーングロッテンを振り返ってみると、両馬の違いがわかってきます

フェーングロッテンは三代母のシンコウエンジェルがかなり米国色の強い血統になっていて、先行力の源はここにあると考えられます。牝系のヨーロッパ色が強いイクイノックスとは対照的で、そこがキレ味の差として現れているのでしょう

また、前回ディープ系×キングヘイローの例として挙げていた馬たちも見てみると、ディープボンドは全体的に米国的突貫力の強さを中和する欧州的な血が足りない気はしますし、ウォーターナビレラはサンデーサイレンスと同じ大系統の中でも少し趣の違うSilver Hawkブライアンズタイム系のマヤノトップガンで日本芝適性を補強しているため、キレ味とは別の側面が引き出されているように見えます

逆に言ってしまえば、ディープインパクト後継からイクイノックス的な馬を作る場合、Turn-to系やMumtaz Mahal的なキレ味を盛りつつ、米国色が強くなりすぎないようにすれば良いのでしょう(おそらくですが、Northern Dancerをあまり濃くしないのも重要なのではと思っています)

もちろんどこかでスプリンター・マイラー的な基礎スピードの底上げ要素も必要で、そこに米国系血統を使いすぎないというのがポイントですが、そもそもディープの後継種牡馬自体がキタサンブラックに比べアメリカンなスピードに寄せているパターンが多い点に気をつけてバランスを取らなければいけません

というわけで次回はこれらの点を踏まえて具体的にどういう血統構成になるのが良さそうかを考えていきたいと思います

続く


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