【血統考察】オーギュストロダンのダービー勝利に思う、ディープインパクト直系でイクイノックスを作る方法・その①『優秀なベース・キタサンブラック』

つい先日、ディープインパクトのラストクロップにしてアイルランド産の海外馬であるオーギュストロダンが英ダービーを勝ち、ディープは産駒全13世代で全年クラシックレース制覇とかいうちょっと意味のわからない偉業を達成しました


ただ個人的にバケモノサイアー記録以上に強く印象付いたのは「レースで見せたオーギュストロダンの末脚がかなりディープインパクトっぽい」ということ
3ハロン近くかけたロングスパートはさながら大レコードを作った天皇賞・春でディープインパクトが見せたような脚ですが、意外にこうしたレースを見せる国内のディープ産駒はあまり多くありません

無論ロングスパートが強い馬は沢山いましたが、父ほどの強烈なものがあったかというと自分の中では微妙なライン
というのも血統面を考えればむしろ当然の帰結ではあって、ディープインパクトはサンデーサイレンスに欧州要素の強いウインドインハーヘアをつけて産まれた馬で、さらにそこへ欧州系の母馬を当ててしまうと日本では重く出過ぎてしまうのがネックでした
それ故に種牡馬としての集大成ともいえるコントレイルをはじめ、初期の代表産駒にして現時点の後継筆頭であるキズナなど、ディープの血統的成功パターンは米国要素の強い母系となっています
まだ暗中模索だった最初期の成功パターンであるジェンティルドンナも母方はどちらかというと米国に寄っている構成ですし、そうなるとディープ当馬のような後半長くキレもあるスパートを武器にするというよりは、もう少し米国的突貫力で前に行くタイプが多くなる
いちおうグランアレグリアやハープスターのような馬もいるにはいますが、そういう馬は牝馬に多く本領もマイル以下で、結局オーギュストロダンのような強烈なロンスパを日本の2400mで行う馬はほぼいなかったように思います
これはディープの孫世代が走り始めた今もあまり変わらず、今日の安田記念のようなソングラインなど、やはり短い距離の印象が強い

ただ面白いのはディープっぽい走りに比較的近いことができる馬が直系からではなく全兄ブラックタイドのラインからキタサンブラックを経て出てきたこと
そう、イクイノックスです

掛かり気味に捲くり上がっていった皐月賞や、最終直線で見せた強烈なロンスパの日本ダービーや天皇賞・秋、そして3角から既に一頭違う手応えで最後も止まらなかった有馬記念と、それぞれのレースっぷりがかなりディープインパクトっぽい(あくまでも個人的に)
これは血統背景を考えればわかりやすく、まずキタサンブラックがディープインパクト的なキレ味で勝負する馬ではなく、むしろズバ抜けた追走力で前に行ってアドバンテージを作り、最後は粘り込む馬というのが大きかったでしょう
キタサンの父・ブラックタイドが全弟であるディープに比べてスパートの瞬発力などで劣る一方、母系に入るサクラバクシンオーやオトメゴコロがスピードの基礎値と持続力を底上げした分、差し脚はないかわりに純粋な追走力と根性の怪物として出た
さらに良かったのは血統的に主流の血をほどよく外していたことでしょうか

サクラバクシンオー自体が中距離の種牡馬としてはそこまでメジャーではなくインブリードを気にせず済んだこと
さらにバクシンオーの父・サクラユタカオーは現在の競馬にも通じる血統の基本セット的存在であるテスコボーイに、これまた今でも重要な血となっている欧州Nasrullahの系統を母父に合わせたソツのない配合だったのが最初のポイント(テスコボーイは父・Princely Gift×母父・Hyperionで、今の日本中央競馬でもよく走っている優れた母方の父。そこにまた日本に適正のあった欧州Nasrullah系のネヴァービートを合わせた)
ただ主流×主流で飽和しかねないところをユタカオーは戦前の日本まで遡るような古い牝系を異系的に入れていたのが後々の配合的自由度へ伏線となって効いてきます

そして一番大きかったのは、血統面だけなら中距離馬にも出かねないバクシンオーが日本を代表する名スプリンターとして産まれ、その名に恥じない超スピードで国内の短距離路線を席巻したことでしょう
ディープインパクトは先述したように欧州的・ステイヤー的要素が強く、こうした馬は特に2023年現在の日本競馬において母方にスプリンターやマイラー的要素を差し込んでスピードの基礎値を上げるような配合が多くなってます(現役時代は短距離馬であったロードカナロアが種牡馬としては中距離戦線でも引っ張りだこなのはこれが理由)

↑例えばキズナの場合、母父に米国の優秀なスピードを持つStorm Catを置いて欧州的な緩さを引き締める形となってます。母母父もDamascusで米国系。キズナ産駒がダートでも走っているのはここが理由でしょう

キタサンブラックにおけるサクラバクシンオーは現在の配合リズム的にこの速力アップ役を果たしていると考えられ、しかも他のディープ後継種牡馬が世界的に主流の米国系快速馬でベーススピード補強をクリアしてるのに対して、血統の世界においては非主流的(特に米国血統が濃すぎない)で、5代以上遡っても異系たりえる日本の古い牝系も入ったバクシンオーで同じことをやっているぶん、さらにその子供世代(ディープから見ると孫世代)で配合する際に種付け相手をあまり選びません
実際にキタサンブラックの産駒には米国色の強いクロフネが母父に入ってもガイアフォースという芝馬として優秀な個体が早速出てる一方、キズナの場合は母父・クロフネだとテリオスベルのようなダートに行く馬が多い印象がありますし、欧州芝馬であるサドラーズウェルズ系のNew Approachが母父に入っても芝ダート両刀で走るバスラットレオンみたいな馬が出てきたりします

つまり種牡馬としてのキタサンブラックはブラックタイド(≒ディープインパクト)に短距離的スピードをかけ合わせながら米国的突貫力が強く出過ぎない、血統的にフラットに近い優秀なベースとなり得るわけですね

その上でイクイノックスの話に立ち戻ると、日本の中でも東京の2000m〜2400mあたりを豪快に後ろから撫で切る脚の馬を作る場合、逆算的に考えれば豊富なスピードとスタミナ量はある代わりにキレ味が薄いキタサンブラックには強烈な差し脚の母父が欲しくなるわけですが、問題はそのキレ味代表であるディープインパクトそのものを母父に持ってくるのが難しい点
さすがにキタサンブラック×母父・ディープインパクトはブラックタイド≒ディープインパクトの2×2でインブリードがキツイですし、双方の母方であるウインドインハーヘアを今更強調するのは配合的旨味が少ないように見えます
優秀なスピードを持つLyphard系のAlzaoはともかく、異系気味にスタミナを支えるBurghclereが出すぎると鈍重になってしまう恐れがあり、仮にやるとするなら母方のさらに下のラインで相当米国要素を強くして欧州的指向を引き戻さなければいけないでしょうし、そうすると結局求めていたはずのディープ的切れ味からは遠のくように思います。そんな都合のいい繁殖牝馬がそもそも少ないという問題もありますが……

じゃあディープインパクト以外のキレ味が強いサンデーサイレンス後継はどうかといえば、そちらも基本的な配合思想はディープと同じサンデー×欧州なわけですから似たような課題が出てくるでしょう
他の系統でキレ味を探しても、現役時代に凄まじい爆発力を見せたエピファネイアはサンデー×欧州のシーザリオで先程の課題に引っかかりますし、まだ母父として合わせるまで世代が進んでません

そこでイクイノックスの配合を考えた人が辿り着いたであろう馬がキングヘイローです

競馬ファンなら御存知の通り、サンデーを一滴も持たないうえに父母ともに優れた名血で、父のダンシングブレーヴは基本先行有利な凱旋門賞を前代未聞のキレ味で勝った実績があり、キングヘイロー自身も1200mの高松宮記念を後方大外ぶん回しで一刀両断したことがありますから、上がりの決め手がほしいキタサンブラックの相手にピッタリで、その結果生まれたのがディープインパクト的な差し脚を持ったイクイノックスになるわけです

じゃあディープインパクト後継でも同じことをすればいいんじゃないかと思うんですが、これもまた違うらしいのが血統の難しさ
ディープ後継×母父・キングヘイローは既にそこそこ頭数もいて走ってるのですが、ディープっぽい差し脚を持つ馬が多いわけじゃないのが現状です
わかりやすい例がキズナ産駒のディープボンドとウォーターナビレラでしょうか

ディープボンドは日本の古い牝系を異系的に持つというキタサンブラックの特徴に近い部分も持っているのですが、自身は先行してズブめに仕掛けて粘るタイプでイクイノックスとはまるで真逆です
これは母方のカコイーシーズやマルゼンスキーに呼応してキズナの米国色がかなり強く出てるんじゃないかと思いますが、それにしても特徴が正反対すぎる気はします

シルバーステート産駒であるウォーターナビレラもわりと似たような感じで、母方の奥にテスコボーイ系×ネヴァービートと、イクイノックス内のサクラユタカオーに近い血を持ち、さらに他でイクイノックスが内包しているRibotなどもシルバーステートやブライアンズタイム→マヤノトップガン経由で持っているにも関わらず、レーススタイルは前目の抜け出し。キレ負けしてる場面も度々目にします

勿論、この先ディープ後継×母父・キングヘイローの母数が増えれば強烈なキレを持った馬が出てくる可能性はあると思いますが、現状ではそうした再現に成功していないのも事実

というわけで次回は「キングヘイロー以外からディープの孫世代にキレ味を求めるにはどういう血が欲しいのか」という点について考えを進めていこうと思います

続く



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