記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

完璧で不完全なぼくを愛してくれたのは(25時、赤坂で)

わたしはBLが好きだ。
もっぱらKindleでBLコミックスを漁る日々を送っており、一体自分はいまどのくらいの冊数を所持しているのだろうと調べたところ、なんと607冊に達しているらしい。600超えだと...。
「500冊記念~!」と騒いだ記憶はあるが、そう遠くない過去だ。あれからもう100冊も追加されて...ウッ頭痛が痛い。
趣味と呼べるものをあまり持っていないわたしだが、コレはそろそろ趣味と言っても許される域に達してきてるのでは?と最近では思ったりもしている。(別に量の問題ではないのだから普通に趣味だと言え)

沼に堕ちたきっかけはよく覚えている。
スマートフォンの機種変更を行った際に "Kindle Unlimited" が無料でついてきて、少女漫画と間違えてBL漫画をダウンロードしてしまったことがすべての始まりだった。
そのときのタイトルもしっかり覚えている。野花さくら先生の「ひねくれさくらに恋が咲く」だ。すごくかわいらしい内容で、これを言ったら怒る人もいるかもしれないけど、どちらかと言えば少女漫画寄りな印象だった。
「これって女性で描いちゃだめなのかな?」と不思議に思い、そこからいろいろなBLコミックスに触れるようになった。

BLにはいろんな魅力がある。

例えば、異性同士だとすんなり受け入れやすい好意や行為も、BLとなると同性ゆえのハードルや葛藤が発生して、ちょっと複雑な展開になったりする。そういう問題に、キャラクターたちが何を感じてどのように乗り越えていくかを見つめるのがたまらなく大好きで、わたしが5年もの間BLに没頭し続けている理由もそこにある。
「同性ゆえの、というなら百合でもオッケーなのでは?」というとわたしの場合はそうではなく、自分が女だからか百合だと生々しさを感じてしまうので、あくまでオッケーなのはBLだけだ。

バカみたいな顔をしながらもう少し語ると、「ぼくの表情筋は死んでいるので普段は全く笑いませんし怒りもしません。感情はどこかへ置いてきました」という顔をした攻めの表情が歪む瞬間、あれもわたしにとってご褒美だ。ほろっと涙なんかを流してくれたときには、心の中でBL先住民族たちによる激しいお祭りが開催される(ただの性癖)。

こうしてわたしは今日も、自分の預かり知らぬファンタジーの世界を楽しんでいる。

さて前置きが長くなってしまったが、今回は607冊読んできたわたしの一番の推しキャラを紹介しようと思う。【以下ネタバレあります】

わたしが愛してやまないキャラクターは羽山麻水(はやま・あさみ)という。夏野寛子先生の「25時、赤坂で」に登場する「攻め」だ。
2018年から出版され続けているこの作品はマジではちゃめちゃに人気があるので、商業BL好きで知らない人...いるわけないやんな?な??と、ここで全く無意味な圧をかけておくことにする。

作品の舞台は芸能界で、羽山(敬称略)は超人気俳優として今日も演技仕事に全力で取り組んでいる。
彼はモデルとしてスカウトされ芸能界へ足を踏み入れるのだが、大学時代に映画研究同好会なるものへ所属していたこともあり、後に俳優としての人生を歩み始めることとなる。
数年後、超人気俳優までに上り詰めた彼は、大学時代の後輩で密かに惹かれていた新人俳優の白崎(しらさき)と共演することになり...というストーリーだ。

羽山はほんっとーーーーに、自他認めるほどに顔が良い。顔面が強い。たぶん声も良いし匂いも良い(匂いはグッズの香水で嗅ぎ済み)。性格は少しひねくれている。

美しい顔をもつ羽山は、それを武器に生きてきたところがある。
「僕は 麻水が 何かを欲しがったり手に入れられなくて傷ついたりするところをみたかったなって」と友人から言われるくらいには、美しさを盾に超イージーモードな人生を送ってきたイケ好かない美男子野郎だと思われがちである。なんてかわいそうなんだ。

モデルだった母親からは「せっかくきれいな顔に生まれたんだから」と、自分を美しく見せるための所作を教えられてきた。
母親の人生においてもっとも重要なことは「美しさ」であり、息子に関しても彼の美しい顔以外のことにはとんと無頓着だった。羽山の読書感想文が優秀作品に選ばれたときも、冊子に載っていた顔写真を「よく写ってる」とは評価したものの、内容に触れることはなかった。そして、冊子は無造作にゴミ箱へ捨てられたのだった。
どうやらそのころ羽山家はとても大変な状況で、苦労を重ねていた母親は心(もしかしたらフィジカルも)を病んでいたらしい。

とにかく羽山にとって、美というものはありがたくも厄介なものだった。「みんな俺の顔のこと好きすぎない?」「…俺の顔がいいのは俺のせいじゃないんだけどな」と自分の顔の美しさをしっかりと自覚はしていたものの、それがまたコンプレックスでもあった。

「黙って立ってるだけで好かれるあの感じ
一番外側の包装だけ
やたら褒められるみたいな
たいした中身じゃないんだけど
知ってるのかな」

夏野寛子「25時、赤坂で」第4巻より

自分のことを大して知りもしない相手が、自分の上っ面だけを見て理不尽に責めてきたり嫌味を言ってきたり、またはそこに幻想を抱いてくる、なんてことはないだろうか?
わたしは何回かある。そしてたぶん、そういうグロテスクな感情や言葉をぶつけられる頻度が多いほうだと自覚している。地位も名誉も何も持ち合わせていないわたしですらそうなのに、羽山...お前...。
誰も彼もきっと多少は「周りの思い描く自分」と「自身の認識している自分」とのギャップで苦しむことがあると思うが、表舞台に立つ人間は特にその傾向が強いのかなと勝手に想像している。
キラキラと今をときめくイケメン超人気俳優の羽山と同じような感情を抱くのは畏れ多いが、「なんかわかるなあ」「同じ人間なんだな」と親近感を抱かせてくれるところが好きだ。

貪欲という言葉からかけ離れた、極めて無欲な羽山がどうしても手に入れたくなったもの。それが「演技仕事」と「白崎」だった。
大学の映画研究同好会で出会った白崎は、とても素直で実直な男だ。良くも悪くも思ったことを胸に閉まっておけずにすぐ口に出してしまう。自分の感情のままに生きており、周りに好かれようが嫌われようが一切気にしない。そんな白崎の様子を「心が むき出しでそこにあるみたいな」と、羽山は表現している。

自分というものを周りに見せない羽山の瞳に、白崎はとても魅力的に映った。

卒業後モデルの道へ進むことが決まった羽山に、「は?羽山さん演技仕事しないんですか?ありえねぇ どうかしてますね」と冷たくもキラキラした目で言い放ち、同好会内の祝福ムードをぶち壊したのも白崎だった。
おそらくその場にいたほぼ全員が「なんなんだあいつ」と怪訝に思ったはずだが、羽山は違った。
自分が内から生み出すものを見ていてくれて、それに好意を寄せてくれる人がいるということがこんなにも嬉しく心強いものか。
羽山は白崎のそのまっすぐな言葉を胸に、その後の人生を歩んでいくのだった。
お互い俳優として再会したあと、どうにかこうにかあって2人は晴れてお付き合いすることになるのだが、羽山は白崎の前だと比較的よく笑うし拗ねるし感情が豊かになる。それがまたイイ、見てて泣きそうになる。

わたしはキャラクターに恋をしたとき、その想いの深さや惹かれた理由などを深く分析するタイプではない。胸にはいろんな気持ちが募って爆発しそうになるが、言語化には相当な体力や気力を使うので「好きだな~」「尊いなあ」だけで終わらせるクチだ。趣味で頭脳を酷使するのが嫌いなので、いつも脳死状態でBLを堪能している。
…脳死状態のくせに感情は生きておりわーぎゃー騒ぎまくるので、大体いつも夫や友人を巻き込んでしまうのだが。どうもすんません。

それでも羽山の魅力を敢えて言語化すると、わたしにとって彼は「美しくて手の届かない遠い人」と「不器用で甘えんぼなその辺にいる兄ちゃん」が両立する、なんだかチグハグでいて輝いて見える愛おしい存在なのだ。
当たり前だけれど、きっと誰にだって多面性がある。羽山のチグハグさはわたしにとってすごく居心地がよい。

羽山。
ぴんと張り詰めた「美しくて完璧な」自分を、コンプレックスごと、不完全な自分ごとまるっと包み込んでくれる人に出会えてよかったね。
どれだけ愛しても足りないと感じられるような相手と出会えてよかったね。
自分とは違う人物を演じることを好きになれて、演じることで色んな気持ちを感じられるようになってよかったね。

わたしは今日も羽山に想いを馳せながら、2人の幸せをただ願っている。

どんなあなたも美しいよ。
何事もなくずっと幸せでいやがれ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?