「桃栗三年、柿八年」の、その先にあるものを想像する日曜の話

農産物の直売所で見つけた桃の苗木に、近いようで遠い未来を想像させられた時の話。

農マル園芸吉備路 にて

 昨日は日曜日だった。一昨日の土曜日はコロナワクチンの2回目接種で、きのうはその翌日だった。せっかくの日曜日はワクチンの副反応で、のたうち回るうちにつぶれていくことになるかと思っていたのだけど…、実際のところそんなこともなく、普通に生活できた。なんとも、恐怖が先走ると、ろくなことにならないモノだ。

 それはさておき、つぶれるはずの日曜日がぽっかり空いた。だからというわけでもないのだけど、ちょっと遠出をすることにしてみたわけなのであった。

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 秋の農繁期もぼちぼち終了し、少しずつ冬支度をする時期に差し掛かってきた。賃貸一戸建ての我が家の狭い庭にも夏の名残がある。その夏の残骸たちを整理することにしたのは、そんな日曜日の朝のことだった。
 プラスチックの鉢が3つ。ナスとトマトと、キュウリを植えていた黒い鉢。残っていた土を掘り返すとミミズやアオハナムグリの幼虫やナメクジがたくさん出てきた。それらを取り除いて、残った鉢をみながら思う。

 さてさて、次は何を、育てようか…。

 近所のホームセンターで、チューリップの球根と、少し変わったユリの球根を買ってみた。これで来年の春と初夏の楽しみができたというものだ。そんなことを思っていたのだけど…。

 『チューリップは、かわいいプランターに植えたい』

 そんなことを妻が言う。わたしも、”まぁ、それもありか” と思った。”かわいいプランター” を求めて、少し離れた農産物の直売所”農マル園芸吉備路” を目指したわけなのであった。

桃の苗木

 野菜や果物、米、醤油や酒などの加工品まで、様々なものが並ぶ。それ以外にも、花の苗も豊富で、時期が合ってパンジーやビオラも多かった。

 そんな中に、わたしの目をひく、一角があった。

 60㎝程度の一本の木の棒が、小さなポットに刺さっている。これはなんだろうかと、覗き込むと、今年の夏の仕事が思い起こされた。

 それは、桃の苗木だった。「清水白桃」。

 今年の夏は、桃の農薬試験をした。普段はなかなか扱うことのない作物だったので、新しい体験が多く、面白かった。それもあって、”おぉ、自分の家で桃が採れたら、楽しいだろうな。” と、そんなことを想い馳せたのだった。

3~4年後のわたし

 札をみると、いろいろと説明書きがあった。まぁ、植える場所さえあればどうにかなりそうだなと、そんなことを思いながら…。

 ある項目に目が留まる。

 『果実の収穫まで、3~4年』

 そんなに先なのか…。桃栗三年柿八年とは、よくいったものだ。まぁ、それはそうだろうな、こんな小さな苗木を植えて、次の夏にどれほどのものがとれるというはずもなく。

 現実問題はそんなものだろう。

 とはいえ、思う。

 3~4年の後、自分は、どうなっているだろうか。

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 40歳を目前に、子どもらはもう小学校の中頃か。それ以外に、どんな未来があるのだろうか。自分は、世界は、どうなっているんだろう。
 生き馬の目を抜く世界。技術進歩に人類の理解が追い付かなくなる未来。いまある価値観がどんどん通用しなくなる未来。取り残される未来になるのか、それとも達観の世界に生きる時代になるのか。


 まぁ、本当に、未来が、描きにくくなったな。


 正直、30になって子どもが生まれた頃に「あぁ、これで、おれの人生、だいたいの見通し立ったわ」とか思ったものだった。いま思うに、全然そんなことはない。
 次から次へと、悩みが生まれてくる。それをがんばって打ち消したり、気がつくと消えていたり、そんなこんなを繰り返しながら、見通しの立たない時間を積み重ねている。

 3年先の自分を、どれほどの人が、リアルに想像できているのだろう。


この樹が、大きく育つ頃には。

 結局、その苗木を買うことなく、その場を離れた。実家の庭に植えることはできるのだけど、それをやってしまうと、世話したりするのが大変だったりするから、また今度にすることにした。(たぶん、買うことはないと思う。)

 といいつつ、まだ、未練はあるから、また来週にでも売れ残っていないか、様子を見に行きたいものだ。

 それはさておき、あの苗木をみつめたときの、ココロのモヤモヤは、いまも晴れることなく残っている。

 時間が転がっていくのを止められない。もどかしさがあった。


 この先、どうなっていくのかはわからないけど。

 わからないのだけど…。

 精一杯やった、と。

 自分の時間に満足できるような。

 そんな生き方を、積み重ねていきたいものだ。

 と、そんなことを思う。


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 日没の頃に降り始めた雨が、暗闇の中で音をたてる。

 こんな夜はなんとも、

 妄想と、妄執が。

 自分を埋めようと、

 しとしとと、忍び寄ってくるようだ。



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