さようなら
出会いも、別れも 白神喜美子
四月八日花祭りの日、四谷の福田屋で最後の昼食をしてから、今年で三十二年になります。
平成三年の一月二十九日の夜、貴方は逝かれました。私は三十二年間、華道でよき師、よき弟子に恵まれ、鋏一つで、つつましく生きてきました。
勲章や、たくさんの文学賞を身につけた人は、私のなかに生きている人ではないと、眺めていました。
私の願う人は無冠の人でした。
いま、貴方は世俗のすべて、自らの構えから解放され、明るい笑顔で、
「自由になれた。いいなあ!」
と、伸び伸びしているのでは──。
貴方との十六年間に得たものは、大きいものでした。
出会いも──。別れも──。
ありがとう。
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