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金環の術

 人差し指と中指。揃えてくるりと円を描く。金色の軌跡を引いて、空がまるく切り抜かれる。
「久しぶりだな」
「うん、ごめんね」
「いや」
 そばに行けない、さわれない。ただ顔を見て、言葉を交わすだけ。そもそも世界の成り立ち、ことわりが違う。出会えたこと自体が奇跡だ。
 なかなか魔法の使えなかった私が、水たまりに写った彼を見つけた。驚いてすくい上げたら、金色の光が右手に宿った。これが私の魔法。
「使える術は増えたか?」
「ううん、これだけ」
「力は、大事だぞ」
 そういう彼は深く傷ついているように見えた。魔法のないその国では、もう長いこと戦が続いているという。
 他のどんな力もいらない。ただ、今そばに飛んでいけたらいいのに!

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