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花と狼

 はた、と目があった。
 五分咲きの桜の下、まだ冷たい風を紛らわすように酒ばかりが進む。あらかた片付いた持ち寄りの料理は見事にひとくちずつ残って群島をなしており、食べようにもひどく手が出しにくい。
 ぱきっ、と小気味良い音が鳴って我に返った。車座の向こう側、相変わらず堂々と浮いている彼女が箸を割り、迷いのない手さばきですべての島をさらっていく。残った料理は漏れなく持参の容器におさめられ、綺麗に盛り付けて閉じられた。
「さ、飲みなおそ」
 つい、と僕の腕を引っ掛けて、彼女はすすんで群れを出る。僕の所在なさも見透かされていたらしい。孤高と評判の彼女の、余り物を捨て置けぬ性分に、僕は初めて親しみを覚えた。

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