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介護こそ難しいものはない……

父親が亡くなるまでに体験したことをこれまで書いてきましたが、これからはその番外編のようなものを綴っていこうと思います。

亡くなる半年くらい前から、体調を悪くした父親(おそらく熱中症が体調悪化の原因だったと思います。何度注意してもエアコン使わず猛暑のなかでいたので……)は、そこから急激に体力を失っていくんですが……同時に痴呆らしき症状も目立ち始めました。悪化してきた、というのが正確ですが。

体力がなくなると動かなくなるので、脳にも悪影響なんですよね。
家にこもる時間が長くなると、物忘れが激しくなったり、下の問題が悪くなってきました。

そのため介護サービスを利用することにしたんですが(介護関係の仕事をやっている友人に、「プロに任せるのが介護する方もされる方も絶対にいい」と口酸っぱく言われていたのでそこはすぐ動きました)、そのためには介護認定を受けねばなりません
介護認定をしてもらえるとお金の面でもサービスの面でもずっと楽になるので、これはもう絶対とった方がいいです。取るべきです

詳しくはプロの方がネットでも説明してくれてると思いますが、介護認定を受けるには大きく3つやることがあって、
1、役所に申請する。
2、お医者さんに「このひとは介護をうけるべきだ」という承認をもらう(痴呆がひどければ精神科、足腰が弱ければ整形外科、みたいに状態によってどの医者にお願いするかは変わります)
3、ケアマネージャーをみつける。
とありますが、役所から認定もらうまでに一カ月くらい時間かかりますし、相談もできるのでまずお役所にいくのがいいと思います。

そんなこんなで行政がやっている介護サービスを利用し、デイサービス(週に2回くらい朝から夕方まで介護のプロが預かってくれるのです。比較的気楽に使えるし、痴呆の悪化防止にもなるのでオススメ)なんかを使っていたんですが……

つくづく思ったのは、やっぱり介護のプロに相談するのが一番、ということですね。

やってみてわかりましたが、介護はめちゃめちゃ難しいです。

以前に某ナントカえもんさんが「介護は誰でもできるから給料も安い」みたいな主旨の発言をして炎上してましたが……(その内容の是非はここで敢えて触れませんが)
ボクの経験からすると、むしろ「介護を完璧にできる人顔などほぼいない」という感覚ですね。
いかに自分が優秀だと思っている人間でも、たぶんうまくできないでしょう。それほど難しいミッションです。

というのは介護って、やる前は下の世話したり、ぼんやりしている老人の相手をすること、くらいに漠然と考えていたんですよ。
実際にはそれらはほんの序の口で……ちょっと説明が難しいので言い方に語弊があるかもですが、「めちゃめちゃワガママな人間を、こちらが一切怒ることなく言うことを聞いてもらう」という作業なんです。

例えばボクの父親の場合。
父はお風呂が大好きだったので、湯舟に30分浸かるのが常なんですが、体力がなくなってくると自力で出られなくなりました。真夜中の2時くらいまでお風呂から出られない、といった状態になっていきます。
命の危険すら感じるようになったので、毎日ボクが湯舟から抱き起すことになりました。

で、「危ないから湯舟に入らない方がいい」「せめて10分くらいで外にでたら?」などなど解決策を提案してみるんですが……
そのたび返ってくる答えは「オレはちゃんとひとりで出られるから問題ない」「うるさい、ひとりで出来ているのに騒ぐ必要はない」でした。
結局まったく主張を曲げることなく、毎日長風呂してはボクが出す……という作業を最後まで繰り返しました。

こちらの言うことをまったく聞かないので、イライラしたものですが……実はこれ、父親の痴呆が進んでいて、本人は本気でちゃんと出られていると思ってるんですよね。

ここが介護の難しいところなんですが……こちらから見ていると普通なんで、すごくワガママなことを言っている、と思えてしまうんです。
逆に父親も本気で自分は問題ないと思っているので(風呂から出られない、という事実をすっかり忘れています)、ボクの態度に反感を持つようになるのです。

そうなるとお互いもっとイライラしてくるのですが……恐ろしいのはこちらが怒れば怒るほど、痴呆は悪化するのです。
上に書いたみたいに反感を持つからでしょうが……介護の現場で「絶対に怒ってはいけない」と言われているのもそのためですし、友人が「介護のプロに任せろ」といっていたのもそのためでした。
(ちなみに「介護のプロ」にもピンキリはあるみたいなので、そこはしっかり見極める必要はあります。施設のトイレやお風呂を見るとわかりやすい、とか……)

きちんと父親に説明しても理解はしてくれません。かといって怒ればもっと悪くなります。
こうした相手に、それでも長風呂しないようにするにはどうすればいいか? を考えるのが介護の仕事ということでした。
これ、めちゃめちゃ難しくないですか? 某えもんは理論だって説明するのが得意だと思いますが、そんなもん、まったく聞いてくれない相手を説得しなくちゃいけないんです。しかも怒るのはNGで。

で、これどうすればいいかというと……一言でいうと愛を注ぐしかないんです。
気恥ずかしいこと言ってますが(;^ω^)、実際にその一言が一番的確だと感じました。
具体的にいうと、ボクの場合はお風呂から出るときに父親を褒めました。よく頑張ったね、と。
すると明らかな変化があって、今までよりもお風呂から早くでることに前向きになってくれました。ほんのちょっとの違いのようですが、これでも明らかな変化だったのです。

結果からいうと父親はお風呂が原因で亡くなりました。もうちょっとなんとかできなかったのかと、悔やむ思いがないといったらウソになります。
ただ、風呂に入りに行く父親を止める手段がどうしてもなかった、というのが介護の難しいところで……。力ずくで止められたのかもしれませんが、そうすればさらに状態が悪化するだけです。なにより本人のためとはとても思えないので、ボクのなかでは消化することにしました。

話が少しズレましたが、介護職の方が痴呆の方を世話する難しさを、自分で体験して恐ろしいほど身に沁みました。こんなに難しい仕事はないです。

介護をやっていた友人によると、夜中になるとおしっこを廊下中に振り撒く方とかもいらっしゃるそうです。それでも注意しても効果ナシ、叱ってもダメ、な相手になんとかやめてもらうようにしなければいけないわけで。

今回の父の死を通じて、介護職の方へのリスペクトと、全国の介護で悩んでいる方の辛さが少しでもわかった気がします。
誰にでも起こりえることなんで、自戒の意味もこめて自分でもしっかり覚えておこうと思いました。

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