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『夜明けのすべて』2回目を副音声付き上映で見た話

『夜明けのすべて』の2回目を見た。

素晴らしい作品だったので、元々1回目を見終えた時から2回目を見ようと考えていたのだが、ライムスター宇多丸のムービーウォッチメンの中で、今作が副音声付きの上映をやっているとの情報を得たので、スマホにUDcastのアプリを入れて鑑賞に臨んだ。

(ちなみに2回目の鑑賞にあたって、本作のパンフレット、『夜明けのすべて』と同日公開の『瞳をとじて』に掲載されていた「濱口竜介×深田晃司×三宅唱 特別鼎談」、Webサイト"かみのたね"にて掲載中「特別鼎談 三宅唱×濱口竜介×三浦哲哉 偶然を構築して、偶然を待つ──『夜明けのすべて』の演出をめぐって」<http://www.kaminotane.com/2024/03/05/25508/>などを参考に鑑賞しました。)

心配性なので、「見てる途中にワイヤレスイヤホンの充電が切れて音が流れてしまったらどうしよう」とか「音漏れしてたらどうしよう」なんて考えて気が気では無かったが、周りにもヘッドホンしてる人とかもいるのを見て少し安心した。

結果、最後まで滞りなく副音声付き上映を見ることができました。
この映画、本当に作り込まれてるなと感心するような裏話ばかりで驚きます。そして緻密な作り込みとは相反する奇跡のような撮影の裏話エピソードに感動。特に山添と渋川清彦が育てている子供がフリスビーをやるシーンの太陽の出方とか、聞くと凄いなと感心させられる。

主役の2人も洞察力が高かった。上白石さんが指摘していた、山添が加湿器をセットするシーンを見て「1日の終わりですからね」と言っていたのは確かになるほどなと思わされたし、松村さんも三宅唱の過去作との比較などを語っていたりして、頭の良さが伺える。

自分が現在進行形で軽めのパニック障害を発症し、その治療にあたっているため初見時は山添に感情移入しながら、作品のメッセージに勇気づけられ感動した。
しかし今回はコメンタリー付きで見たせいか、割と俯瞰で見ることができたし、何より「自分が過度に感情的に見てただけで、大したことない映画だったらどうしよう」という不安を完全に拭い去ることができた。

以下、2回目の鑑賞で感じたことをネタバレ有りで書くのでご了承ください。

「光と闇は紙一重」

今作の後半、栗田社長の弟のメモとラストに藤沢さんが天気雨に打たれるシーンで「光と闇は紙一重である」ということを示し、勇気づけるようなメッセージとどこか「他人事のようにさせない、だからこそ他者にも自分にも優しく生きてみよう」みたいな意味合いがあったと思うが、2回目を鑑賞して割と最初の方から"紙一重"な要素が多かったと思う。

山添と藤沢の関係は2人とも大胆に行動を起こすがゆえに緊張感が漂うもので、ふとした弾みに悪い方向へ進んでしまう可能性がある。
1番の笑いどころである散髪シーンも、最初パニック発作が起こったかもしれないと最初思うが結局は山添の爆笑だったり。
今作で数多く出てくる坂道だって、登る時は体に負担を強いるものだが、下りは少し楽にアシストしてくれるものである。

などと言った要素が、前述のメッセージ性を強調するものとして数多く出てきていた印象があった。

地震の描写

地震の描写があったけど、これはパニック障害やPMSに代表される"自分ではコントロールしようのないもの"をより身近に伝えるために描いたものだと思った。

画面構図

『瞳をとじて』のパンフレットで、三宅監督がビクトル・エリセの人物配置と舞台設計に関して論じられていたが、それを踏まえてみると今作もそのパンフに載っていた論考と通ずるような演出があったんじゃないかな? と考える。
藤沢さんが山添のアパートに初めて行くシーンで、お三方がコメンタリーで仰っていた、2人の関係性が広がるきっかけとなった「なんで薬を探してるって分かったんですか?」みたいな一言を問いかける場面が終わるまでは画面に奥行きがない。でも藤沢さんが「もしかしてなんだけど、パニック障害?」という場面は一転してアパートの通路が背景となり、奥行きが広がる画面になる。ここが彼らの関係性の広がりみたいなものを感じさせる演出なのではないかと、素人ながらに気取って考察してみる。

以上が2回目の鑑賞で感じたことでした。

あと2回目の鑑賞で自分なりに驚いたのが、原作小説固有の要素である、藤沢さんが胃腸炎か大腸炎か何かになって入院するシーンが映画版にもあると思っていたんだけど(ちなみに原作を読んだのは1回目の鑑賞前)、描かれないままエンドロールに突入したので「あれ?」となったが、それはやっぱり今作が原作のニュアンスを壊さずに作られたことの証明だと自分は思った。
だって、上白石萌音が病院で寝ているシーンとか、松村北斗がテレビカードを買うシーンとかも普通に脳内に画が浮かんでいたのに出てこないものだから、結構ゾッとした。

という訳で、今年のベスト1位は『夜明けのすべて』で確定だろうし、副音声上映も好きな映画なら積極的に見たいと思えることが分かったので、良い経験でした。より作品に愛着が持てるようになるし、イヤホンで副音声を聴くので映画への没入度が高まる。

『夜明けのすべて』が好きな人はぜひ副音声上映もチェックしてほしい。

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