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2023年新作映画ベスト10+個人的部門賞

今年ももう終わりです。毎年恒例、この季節がやってきました。

今回は順位付けをします。順不同でも良いんですが、僕が尊敬する方が仰っていた「順位をつけることに意味がある」という考え方に頷かされたので、なぜこの順位なのかも書けるものはできるだけ書いていくつもりです。

今年は自分の中で順位つけるのに結構迷いました。去年の1位は『窓辺にて』で即決だったんですけど、今年の1位候補は4作品ありました。日によって順位が変動していくような感じです。なので1位はもちろんですが、2〜4位はほぼ1位みたいなもんです。それだけ、体感去年より面白い映画が多かった!

ではまず10位から!

10位『ロスト・フライト』

(C)2022 Plane Film Holdings, LLC. All Rights Reserved.

10位枠は悩みました。インド映画の『PATHAAN パターン』か今作か。でもこっちを入れました。
とにかくテンポ感が良い。普通の映画なら物語自体が停滞してしまいそうな心情描写を省略しつつも、登場人物一つ一つの所作が気持ちを語っている点が素晴らしい。前半の飛行機パニック描写、後半の危険地帯からの脱出という二部構成で一瞬も気が緩む暇のない最高の娯楽映画でした。

9位『FALL/フォール』

(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

最初は「ベスト10からは外れるかな~」なんて思ってたんですけど、思い返した時に「今作より心かき乱される映画は今年あったか?」と考えて、やっぱり入れなきゃなと思い入れました。
高所恐怖症の自分には手汗が止まらなかったです。ただ単に高所からの映像を映して恐怖を煽っているだけではなく、細かな効果音が緊張感を増幅させるのが心臓に悪い。主人公たちがTV塔に上る理由も「アホだから」ではなく、トラウマ克服のための過程として描かれていたのも納得できる。二度と見たくないレベルの怖い映画ですけど、この怖さは映画館でしか味わえないので見て本当に良かったと思います。侮っちゃいけない映画。

8位『正欲』

(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

今作を入れるか、『わたしの見ている世界が全て』で迷いました。ただ『わたし~』は面白かったんだけど、良さを話すには複数回の鑑賞がいるなと考える映画なので1回の鑑賞でビビっと来た今作を入れました。
ベスト原作の映画化賞は今作に与えられると思います。既に原作が素晴らしいので、わざわざ映画化する意味あるのかななんて見る前は思っていたのですが、脚色が見事です。原作の持つ切れ味を損なわず、より希望溢れるストーリーになっていたのが好きでした。小説にはない、稲垣吾郎演じる寺井と新垣結衣演じる夏月のファーストミーツシーンが特に大好き。洗練された序盤の演出も含めて、映画化されて本当に良かった。

7位『ハント』

(C)2022 MEGABOXJOONGANG PLUS M, ARTIST STUDIO & SANAI PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED.

今作の持つ強みが韓国映画の強みだと思いました。こういう映画が見たいから韓国映画を見ている。しかもこの題材を世界的スターであるイ・ジョンジェが撮っているという事実もすごい。
実際の史実をもとにした社会性もありつつ、諜報戦がめちゃくちゃ面白い。誰が裏切り者なのかの緊迫感一つで物語が推進していく。そのアクションの楽しさだけでなく、序盤・中盤・終盤で登場人物たちの見え方が変わっていくような構成も良い。タイトルも素晴らしいなあ・・・。

6位『イニシェリン島の精霊』

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

この2023年に公開されて、より刺さるようになっている題材の作品。抽象的でありながらも作品の中に秘められた裏テーマみたいなものは観客全員が読み取れると思うし、メインであるおっさん同士のしょうもない諍いがその裏テーマを補強する。マーティン・マクドナーってやっぱり凄い。『スリー・ビルボード』も良い映画でしたけど、今作の方が映画作家としての才能がこれでもかとあふれ出ている。壮大なアイルランドのルックも良かった。

5位『別れる決心』

(C)2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

巨匠パク・チャヌクがここまでフレッシュな映画を撮るとは思いもしなかった。斬新な演出の数々に魅了され、間接的ではあるけれどもまっすぐ筋の通った情熱的なラブストーリーとして完成されている。「まだ進化するんですか?」と疑問を思わざるを得ない、チャヌク監督が新たなフェーズに突入したことを知らせる大傑作でした。

4位『フェイブルマンズ』

(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

当たり前のことを言いますが、スピルバーグしか撮ることのできないスピルバーグの自伝映画。映画という表現媒体が持つ光の側面と闇の側面を逃げずに真摯に捉えていたのが素晴らしい。数多のメガヒット大作を作り上げてきた彼だからこそ生まれる説得力。多少誇張はあると思いますけど、映画のために生まれてきた人なんだなというのが今作を見ると分かります。
本当は1位にしようかなと思っていたのですが、ガザ侵攻に関してのスピルバーグ監督の発言を聞くと「うーん…」と思わざるを得なくなり、この順位に落ち着いた感じです。

3位『レッド・ロケット』

(C)2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

清々しいまでのクズ人間が主人公。ある地点までは嫌悪感を抱きながら見ていたのですが、とある場面からクズ度が限界突破していって、そこからはもう楽しめるようになった作品です。クズなんだけど、主人公たち筆頭にほとんどの登場人物が自分の人生に全く引け目を感じていない。その前向きさがとても良かった。テキサスのカラッとした背景とマイキーの底抜けたバカさが比例しているような気がするのも魅力的。

2位『私がやりました』

(C)2023 MANDARIN & COMPAGNIE - FOZ - GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES - PLAYTIME PRODUCTION

フランソワ・オゾン監督、多作な作家でありながら様々なジャンルの映画を撮る監督ではありますが、自分の中ではハマる作品が少なかった。ですが今作は様々なレイヤーが重なって、短い作品ではありますが映画的快楽に溢れた作品でした。「これこそが映画!」と言いたくなりますし、仮に2023年公開映画が1本しか映画を見れない世界になったとしたら自分は今作を選ぶくらいにはハマりました。
舞台は1930年代なんですが、今作で描かれるプロデューサーから女優への性暴力は現代でも散々問題になっていますし、そういう意味での社会批評性がある。そしてとても鋭い。そんな重くなりがちになりそうな設定を軽やかにするコメディタッチの会話劇とゲームチェンジャーとして出てくるイザベル・ユペールの怪演。こんな映画をもっと見たい。

1位『断捨離パラダイス』

(C)2023「断捨離パラダイス」製作委員会

1~4位はほぼ同率と言いました。でも今作が1位である明確な理由はあります。なぜかというと、監督の知名度が圧倒的に2~4位のの人たちに負けているからです。
『私がやりました』はフランソワ・オゾン、『レッド・ロケット』はショーン・ベイカー、『フェイブルマンズ』は言わずと知れたスピルバーグ。今作を撮った監督は萱野孝幸。この知名度の差を考慮して今作を1位にしました。
ゴミ屋敷に住む住人たちのオムニバスを中心に、自分の中では理解できないものへの接し方を描いていたんじゃないかなと思いました。理解できないものを理解しようとせず簡単にレッテルを貼ってしまうSNS社会だからこそ刺さる。
そこに萱野監督のキレッキレの演出とセリフ回しが相乗効果を生み出し、手堅さと目新しさが見てて気持ち良かった。
今年は『ほつれる』の加藤拓也監督、『わたしの見ている世界が全て』の左近圭太郎監督など、既に頭角を現し始めていた日本の監督が更にステップアップして、その実力を確固たるものにした1年だった。その総括としても、今作を1位に据えたい。

という訳で、自分の2023年ベスト10でした。

ここからは個人賞。ライムスター宇多丸が毎年発表しているフォーマットを勝手に借り、そこから自分なりに部門をアレンジして発表します。あんまり評価していない映画も個人賞に入ります。

ベストガイ部門
『窓ぎわのトットちゃん』から、役所広司演じる小林先生
『ベイビーわるきゅーれ2 ベイビー』から、岩永ジョーイと濱田龍臣が演じる殺し屋兄弟
ベストガール部門
『市子』から、杉咲花演じる川辺市子
『私がやりました』から、イザベル・ユペール演じるオデット
最低(=最高)悪役部門
『愛にイナズマ』から、MEGUMI演じるプロデューサー原と三浦貴大演じる助監督の荒川
ベストラストシーン部門
『Saltburn』から、バリー・キオガンのラストのダンス
ベスト美味そうな飯部門
『ポトフ 美食家と料理人』に出てくる料理全て
ベスト劇中歌部門
『市子』ラストに杉咲花が鼻歌で奏でる”あの曲”
『aftersun』終盤で流れる、Queenの『Under Pressure』
『キリエのうた』終盤でアイナ・ジ・エンド演じるキリエが歌うオフコースの『さよなら』
ベスト貰いゲロしそうになった部門
『断捨離パラダイス』から、主人公が初めてゴミ屋敷清掃に行った時に吐くゲロ
『逆転のトライアングル』から、クルーを泳がせてたマダムがシャンパンで吐き気を抑え込もうとした後に吐くゲロ
ベスト舐めてたけど面白かった映画部門
『交換ウソ日記』
ベスト配役部門
『ほつれる』の田村健太郎
『怪物』の角田晃広
『怪物の木こり』の中村獅童
ベストパンフレット賞
『ポトフ 美食家と料理人』コースメニュー表に見立てたパンフレット
『古の王子と3つの花』

以上部門賞でした。

来年(2024年)の目標としては、自分は好きな映画を複数回見るよりも見たことない新しい映画を見ていきたいタイプの人間なのですが、来年は好きな映画を映画館で上映されているうちに複数回見に行くことに重きを置きたいなと思います。一つ一つの映画に向き合うにはそういう姿勢が必要なんじゃないかと、今年の終盤映画を見ていく中で思ったので、鑑賞本数を減らして好きな作品をじっくり紐解く1年にしたいです。

最後に、もっと頑張れパンフレット(=イマイチだったパンフレット)賞を発表して終わりにします。


もっと頑張れパンフレット賞
『マジック・マイク ラストダンス』(村山章氏のレビューは良かったけど、全体的に内容が薄い)

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