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手抜き介護 ㊿移住計画

10年くらい前、当時住んでいた札幌に両親を迎えようとしたことがある。はす向かいの家が引っ越したのを機に、そこは賃貸物件だったと知り、買い取ってここで暮らしたらどうかと思ったのだ。売る気があるかどうか不動産屋さんを通して連絡してもらったら、まずは見てみないかと返事が来た。

間口が狭く玄関先は軽が1台やっと停められる程度だが、入ってみると奥行きがあって意外に広かった。小さなリフォームを何度もしていて、壁も床も人に貸していた割に汚れていない。家主は、「掃除機が当たって傷ついたりしないように、コーナーにはプロテクターをつけている」とか、「このボイラーはまだ交換して1年10か月だ」とか、細かいアピールをした。

将来的に1階のみで過ごすようになっても、ここなら十分なスペースが取れそうだ。高齢者が見知らぬ土地に引っ越すのはリスクがあるけれど、2人とも友人はいないし(!)庭をやっているわけでもない。まだ70代の父は、むしろ喜んで敬老パスを使って新しい街をあちこち出歩くんじゃないかと思った。

両親に意向を訊いてみたら返事が前向きだったので、私も具体的な迎え方を考え始めた。物件は古く土地も狭いから、このあたりの地価から考えれば、まあ上限2000万というところだろう。でもこちらから持ち掛けた話だから、そこにいくらの上乗せがあるか。

ところが、10日くらい経ってようやく先方から提示された額は3500万! 交渉する気にもならないあり得ない価格で、即断った。ウチの親も残念がるというより、ちょっとほっとしたようなフシがあり、この話は終了した。

結果的に、そんな近くで暮らすことにならなくて良かった。当時は年に1度も会わないような関係だったから、細かい軋轢や歴史をうっかり忘れていた。自分の健康が保てないと、何も始まらない。ただ一つ良かったのは、我が家の外観を、向かいからゆっくり眺められたこと。「カッコいい家だよね」と、帰ってから夫と一杯やりながら盛り上がった。

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