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父と暮らす ⑧オオズワイガニ

日高沖で大量に獲れているというオオズワイガニ。オオというけどガタイは小さい。地元で一ぱい200円で販売したら大人気、というニュースをテレビで見た。インタビューに答える人が、「知人にも配るから」と大量買いしている。
 
先日、それが近くのスーパーにも並んでいるのを見かけた。でも私はもともとカニに関心がないし、身もあまり入ってなさそうなのでそのまま通り過ぎた。が、その日の夜また番組で取り上げていて父が熱心に見ているので、「オオズワイガニ、興味ある?」と訊いてみた。
 
「今日スーパーに並んでいたんだけど、小さいしと思って買ってこなかったの。お父さんが食べたいなら買ってくるよ」
「あっても良いんじゃないか」
 
あっても良い、とは食べたいということなんだろう、多分。でも翌日もその翌日も、スーパーで見かけることはなかった。花咲ガニや毛ガニなら売っている。カニが食べたいなら、こっちの方が良いんじゃない。
 
「あのカニはないけど、花咲ガニならあったよ。買ってくる?」
「…別に」
 
誰かが来るとか何かのお祝いとかならまだしも、何でもないときにカニなんてぜいたく過ぎるということらしい。多分6000円のカニは嬉しくなく、200円のが食べたいんだろう。数日後、やっと目当てのオオズワイガニが手に入った。
 
思った通り食べるところが少なくて、脚はともかく身の部分は1分で諦めた私。が、父は細かく分解し、ゆっくりちゅるちゅる吸っている。30分ほどかけて身を食べ終わり、「ああうまかった!」と言った。父の味の感想なんて、初めて聞いた。何を作っても、いつも無表情で無言で食べる人だ。そして
 
「脚は明日だ」
何ですと!
 
見ると、脚がまだまるまる残っている。本当に好きなんだなあ。私に食べられたカニは災難だったけど、父の方はカニみょうりに尽きるというもの(?)。この、ゆがいただけのものではなく、私が作る料理にも、いつか「うまかった!」と言わせたい。
 

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