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#散文

デュラスは言った

「まだ書いていない本と一緒にいるのはつらいことよ」とデュラスは言った。 M.Duras。現在はモンパルナス墓地に眠る。閑静な公園みたいな、明るい美しいパリの墓地だ。 本名のM.ドナデューと刻まれた平たい墓石の上には、ファンからと思われる万年筆やペンが大量に供えられ、絶えることがない。いや、年々増えている。 日本ならば菊の花や、故人の好物を供えるところだ。 それが万年や筆ペンって。文章の上達を願ってだろうか。 それでは天神さま菅原道真ではないか。 学力上昇をねがって

はと

鬱屈。散歩をしていても、散歩に出ても、とげとげしているこころ。 うろついているうちにさしかかったのは、子供の遊具があるひろばの隅だ。柵の外に、白く動くものがある。生き物だ。ハトか。白は珍しいな。 小さなふくふくした生き物かそこにいるという思いは、ふっくらとした気持ちにさせた。 愛すべき生き物の存在ひとつで、こんなに救われるなんて。 すぐに気づいた。 ビニール袋だった。 がっかりした。 あったはずのいのちがそこにない感覚。 あるべきあたたかさが無機物だった空虚さ。