アナと雪の女王のハンス王子に思いをはせた話

 金ローで録画していた「アナと雪の女王」を数か月越しで観た。
 私は、ディズニー映画をほとんど視聴したことがなかったのだが、他のディズニー映画も観てみたくなるほど面白かった。とりあえず、劇場上映中の「アナと雪の女王2」を観たいと思い、映画館の検索をかけた。
 また、感受性が年々豊かになっているということに疑いを持っていたが、今回それが確信に変わった。まさか、扉越しのとアナとエルサの会話から涙するとは思わなかった。冒頭じゃん……。そのあとにも、船の転覆シーン。アナとエルサが言い争いをしてしまうシーン。最後のアナがエルサを……。会社で労働をはじめてから年々感情の波が激しいし、涙腺ももろくなった気がする。

 とても面白かった映画なのだが、私には一つ気になることがあった。映画の中でヒールとして描かれているハンス王子のことだ。彼のことを思うと、胸がざわついてしょうがない。

 まず、簡単にアナと雪の女王とハンス王子のことに関して説明しよう。

〈アナと雪の女王のあらすじ〉
王家の姉妹、エルサとアナ。触れたものすべてを凍らせてしまう“禁断の力”を隠し続けてきた姉エルサは、その力を制御できずに王国を冬にしてしまう。
雪や氷から大切な姉と王国を取り戻すために、妹アナは山男のクリストフとスヴェン、“心温かい雪だるま”のオラフと共に、エルサの後を追って雪山へ向かう。アナの思いは凍った心をとかし、凍った世界を救うことができるのか? そして、すべての鍵を握る“真実の愛”とは…?(ディズニー公式サイトより

〈ハンス王子〉
南諸国のハンサムな王子。礼儀正しく、身なりもオシャレ。エルサの戴冠式のためにアレンデールを訪れ、偶然アナと出会う。13人兄弟の末っ子で、兄たちから相手にされず、孤独を感じているところがアナとの共通点。意気投合したふたりは結婚を約束。アナが旅に出ているあいだ、彼が王国を守ることに。(ディズニー公式サイトより)

簡単に話すと、

アナとハンス王子は出会ってすぐに婚約する。その婚約が原因でアナとエルサは喧嘩をしてしまう。エルサは誤って王国を凍らせてしまい、さらには山にこもってしまった。アナはハンス王子に国を任せて、エルサを探しに旅にでることを決心する。道中であったクリストファの協力のもと、エルサと再会はできたものの、エルサと言い争いのうちに彼女の魔法を胸にうけてしまい、だんだん身体が凍りはじめてしまうことに。氷を解かすのは、真実の愛――すなわち、愛する人とのキスしかない!!!ということで、アナは国へ戻りハンスと再会を果たすのだが、ハンスはアナに「アナの国の王位を得るために、アナに近づいた。お前のことなんか少しも愛してなどいない。この国は俺のものだ!!(要約してます)」というようなことを云い捨てて姉妹を殺そうとする。

というお話である。つまり、ハンス王子は、アナをたぶらかし裏切る嫌な奴なのである。

 ただ、このハンス王子について、私は考えることを辞められない。だって、アナとエルサの物語のなかで彼のちょっとした言葉のはしや表情や仕草から彼のストーリーを読み取ることができるような気がするから。これから、書く文章は、私の妄言に過ぎない彼のお話だ。

 ハンス王子は、十三人兄弟の末っ子だ。公式のキャラクター紹介にあるように、兄たちは彼のことを相手にしなかった。兄弟のなかには、彼のことを無視する兄もいて、彼は自分を「透明人間」みたいだったとアナに話している。兄たちのそういう行為がまかり通ていたあたりハンス王子の両親も彼にそこまでの関心を抱いていなかったのかもしれない。
 あるいは、ハンス王子は、アナから国を任された際に、民衆に寄り添い慕われ、立派に統治を行っていた。おしゃれでハンサムで、王の素質がある彼を妬んだ兄たちによって、日常的にいじめられてきたのかもしれない。

 ハンスの願望は、ヒーロー的王様になって、民衆から尊敬されることだった。つまり自己肯定感が低いことや、他者からの愛情に飢えていることがうかがえる。そしてそのことに、自覚があったのだろう。それは、お城に引きこもらされていて姉から拒絶され、「愛」に飢えていたアナにつけ入ることができ、かつそのことを言語化できていたことからも推測できる。

 才能があるのに最後に生まれたというだけで虐げられ、王になれないハンス王子にとって、王になるということは、兄たちに対する恨みや怯え、今まで自分が感じていた劣等感や孤独感を克服するためなのではないだろうか。だから、ハンス王子は兄たちよりもヒーロー的で民衆に慕われるいい国の王にならなくてはいけなかった。彼は自分の居場所が欲しかった。

 アナとの会話において、ハンス王子はアナに同調しているばかりだった。 
 気が合うね。僕も同じ。
 そんななか、はじめて自分から話したのが、兄たちに虐げられていたという過去だった。もしかしたら、ハンス王子はアナに近づくために同情を買おうと考えたのかもしれない。しかし、アナはハンス王子に共感した。
 私も姉に無視されているの。
 そこから、ハンス王子とアナの関係は婚約まで一気に進む。視聴者には、二人は劇的な出会いをして愛し合っているようにしか見えない。そんな二人の関係が変わったのはエルサが山に籠ってしまってからだ。
 アナは、エルサを探すので国を守ってほしいとハンス王子に頼む。エルサが国を凍らせてしまったこと、いなくなってしまったのは自分が悪い、と。
 大丈夫!お姉ちゃんが自分を傷つけるわけがないわ。
 最初はエルサを探しに自分が行くと云っていたハンス王子は、少し考えるそぶりをしてから自分の馬をアナの貸して国の統治を始める。

 私は、ハンス王子はアナのことが好きだったのではないかと思う。少なくとも、アナも姉から無視されていると知った瞬間、ハンス王子はアナに対して、孤独を共有していたのではないかと思う。
 しかし、アナはエルサを探しに行ってしまう。姉が自分を傷つけることはないと言い切って。自分と同じ傷を持っていたと思っていたアナが、少しも自分と同じ傷なんて持っていなかったとハンス王子は思ったのではないだろうか。やっぱり自分を理解して共感してくれる人間はいないし、王にならなくてはいけない、と。アナに裏切られた、と。

 それからのハンス王子は冷徹だった。アナにかした馬が帰ってきて、彼女が死んだと思いきやエルサのところへ向かう。氷を溶かす能力がエルサにないとわかると幽閉して殺そうとする。
 そして、自分に会いに帰ってきたアナを殺そうとする。

 エルサとアナの姉妹愛の前に倒れたハンス王子は、うなだれて床に突っ伏した状態で十二人の兄のもとへ彼の罪状とともに輸送されていく。
 

 この物語のなかで、一番誰からも愛されず、しかし、一番愛が必要だったハンス王子は、結局最後まで誰からも愛されなかった。十二人の兄たちのところで帰った彼はどうなってしまうのだろうか。
 いつか彼が愛されれば。
 誰かが彼の凍りついた心を溶かしてあげられたら、と願わずにはいられない。

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