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みじかい小説#145『レース』

 ほどよく風をはらんだレースのカーテンが、さきほどからふわりふわりと舞っている。

 あたたかな日の光は、レースの繊細な花柄模様をすり抜けて、木目調の床の上に幾何学模様を描いている。落とされた光の粒の集まりは、よく見るとひとつひとつ、ぼんやりとした輪郭をまとってうごめいている。何やら不思議の生き物のような。そしてどこか不気味さを感じさせるような。

 よく考えると、レースの花柄模様を構成しているのはとても小さな無数の穴で、その穴ひとつひとつに布のぶんだけ厚みがあり、そこにはうっすら埃がたまっているのだ。レースのカーテンの穴ひとつひとつに、埃がつまっている。きっとレースのカーテンは雑菌の温床なんだ。

 おさない私は、それを想像しては、おそろしさを感じていた。

 だいたい、小さくて細かいものが密集したものは、どこか気持ちが悪いのだ。こういうふうに感じること自体を、巷では「集合体恐怖症」と呼ぶらしいのだが、なんでも、伝染病や有毒なものを避ける本能からきているのだとか。本当だろうか。どうでもいい。

 ミクロの視点で見てみると、ひとつひとつの大きな穴に、それぞれ埃がたまっている。それはなんて事の無い現象のように思える。けれども、それが無数に集まり一枚のカーテンという物体を成した途端、さらにそれが一見美しく見える花の模様をしているということが、かえっておそろしさを増すのだ。

 そんなことおかまいもなしに、太陽系の中心から降り注ぐ、重さを微塵もかんじさせない日の光は、レースの穴を通過してゆく。そして部屋の中に落とされた薄暗い陰の上に、流れるように無数の光の穴をあけてゆく。そこには当然なんの厚みもなく、けがれもない。ぼうと浮かび上がった床の上のわずかな埃にまで、どこか神秘性を感じるほどに。


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