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『みじかい小説』#148 とあるゲイのひとりごと

 俺は、自分がゲイであることを特別だとも何とも思っちゃいない。

 ただ、ゲイであることで、そうでない人よりかは、早くから性について考えることが多かった。

 なぜ俺は男なのか。なぜ俺は男が好きなのか。そんなことは考えたって仕方の無い事だ。なぜならそれは、なぜ俺は人間なのかを考えるくらい、意味の無いことだからだ。生まれついたからにはそう生きようと、俺は素直にそう決めた。成長する過程で、自分の性癖は少々特殊なのだということを自然と受け入れていった。それはそれで仕方の無い事だ。俺はそのように考えた。そして、そういう俺でも、満足のいく人生を歩むためにはどのような生き方があるだろうかと考え始めた。幸い、先人たちの働きによって、俺のような性癖を持つ者でも、こそこそせずに社会で生きていく術があることを知った。そういうわけで、俺は高校を出てすぐに、都会のゲイバーで働くことを決めた。

 ゲイバーというのは特殊な空間で、世間の求める「ゲイ」というキャラクターを皆で演じる場所だ。ゲイ仲間の客にはオネエ言葉で毒舌トークをかまし、ノンケの客には一定の距離を保ちつつ会話で盛り上げ、女性客には上から目線でこき下ろす。テレビで見るようなオネエキャラと若干似ているが、実は少々異なる。

 テレビで見るようなオネエキャラは、存外、世間に受け入れられている。なぜなら彼等は男性ではあるが、女装してオネエ言葉を使っているが故に、世の男性の脅威とは感じられにくく、女性に至っては同族嫌悪意識を抱くことなく女心を共有できる相手として受け入れられやすい。オネエの彼等も、その辺を分かっているので、男性のプライドを刺激するような言葉は避け、女性を啓蒙するような言葉を吐きがちである。そういう理由で、オネエキャラが発する言葉は男女どちらにも響きやすいのだ。

 同じ事をすると、おそらく俺達ゲイは叩かれる。なぜなら俺達ゲイは、見た目が男性の恰好をして男を恋愛対象としているが故に、世の男性に脅威と感じられやすい。そしてそもそも女性を必要としない恋愛観を持っているので、女性からは距離をもって見られがちだ。そういう訳で、世の男性からは忌諱されがちな存在である一方で、女性からは自分たちに脅威を与えない存在として逆に安心感を持たれゲイがひとつのキャラとして受け入れられがちではある。テレビでオネエキャラはよく見るのにゲイキャラがあまり見られないのは、そういう訳である。

 また、同じ事をして最も受け入れられにくいのが、女性である。なぜなら女性というだけで彼女は世の男性からは女性としての振る舞いを求められ、それから外れる言動をするとたちまち脅威としてみなされるからだ。それは女性についても同様で、彼女が期待される女性像を逸した言動をしようものなら、世の女性には同族嫌悪の対象として見られやすい。これが、世に物申す知的な女性がメディアでいっこうに現れないからくりである。受け入れられる女性といえば、男性の脅威にならない雰囲気をまとった女性らしい女性か、どちらの性からも距離を置いたピエロのような女性であることが多い。

 ここに、一種の男尊女卑の思想が見られるのだが、このことに気づいている人は果たしてどれほどいるのだろうか。

 と、深刻になるほど、この日本社会では白い目でみられがちなのでここまでにしておこう。いまどき、真面目に男尊女卑を考えるゲイなど、希少生物だろうから。ノンケの世界がどうであれ、俺としては、恋愛対象であるゲイが増えればそれにこしたことはないので、後続のためもあり、引き続きLGBTQの活動を続けていくだけである。

 そんなことを考えつつ、今日も俺はカウンターに立つ。

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