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みじかい小説#158『雪の花』

 がたんごとん。

 車が揺れる。

 私は気がつくと、車の後部座席に寝転がっていた。

 上体を起こしてみる。

 するとアップダウンの激しい田舎の道を、車が進んでいるのがわかった。

 がたんごとん。
 それにつられて体もがたんごとんとはずむ。

 見ると運転席には誰もいない。

 おやまあ。

 がたんごとん。
 どこかで見た景色が広がってきた。

 そう、ここは蔵王ざおう
 どこの県だか知らないけれど、そういうことになっている。
 ここは、蔵王。

 車は、まるで意思を持ったかのように、私を蔵王に連れてきた。

 蔵王は一面の雪景色だった。
 車は石畳に着くと止まり、私は外に投げ出された。
 目の前には石の階段。
 なるほど、車ではもう先にゆけない。

 私は雪の積もった階段をゆっくりとのぼっていく。
 手を引きながら。

 誰の?

 分からない。
 女の子?
 男の子?

 どちらでもあり、どちらでもない。
 私はそれが、乗っていた車なのだと分かった。
 車はヒト型をとり、今私に手をひかれながら、一緒に石の階段を、ときどき滑り落ちそうになりながら、のぼっている。

「どこまでいくの」
 と私。
「さあ、どこまでかな」
 という返事。

 見下ろすと、もうずいぶん高いところまでのぼってきたらしい、眼下には一面の雪のなか、湿地帯に点在する宿屋のあかりが見える。
「お金、あるでしょう」
 彼(女)が言う。
「少しはね」
 と私。

「じゃあ、行こう」
 彼(女)は私に笑いかける。
「どこの宿もいっぱいだよ、きっと」
 私は不満げに言う。
「ゴールデンウイーク前だから、きっとすいてるよ」
 と彼(女)。

「分かった、じゃあ行こう」

 彼(女)の手をひく私は、いつのまにかアンドロイドになっていた。

 機械の二人はどこまでも一緒だ。

 


 ――昼寝をしていて、そんな夢をみた。
 メルヘンなんだかSFなんだか、よく分からない、とても幻想的で救われるような、夢だった。


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