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みじかい小説#159『四月の燕』

 今日は午前中まるまる寝ていた。

 このごろは夜、なかなか眠れない。
 今日はそのぶんぐっすりと眠ることができ、不思議な幸福感とともに布団の中でのんびりと過ごしていた。

 そうこうしていると、いつごろからか、ガラス越しに雨の音が聞こえだした。

 私はのろのろと起きだし、13時過ぎ、遅めの昼食にごはんとみそ汁をかっこんだ。

 午後に入り、ふたたび2時間ほど布団にくるまる。
 なんだか無性にねむいのだ。

 春のせいかもしれない。

 そんなことを考える。

 15時になり、私は再び起きだす。

 もう布団には戻らず、その代わりに外出の準備をする。
 日課の散歩に出かけるのだ。

 雨のなか、傘をさして土手まで歩く。

 土手は四月のみどりでいっぱいだ。

 降りしきる細かな雨粒が、四月の土手を一気に香り立たせる。

 私は嬉しくなって思い切り空気を吸い込む。
 
 そのとき、目の端をかすめる黒い影――。

 ツバメだ。

 周りの家々の屋根ほどもある土手の道すれすれの高さを、ツバメが弧を描いて飛んでいるのだ。

 そんなツバメを珍し気に見ながら、私はゆっくりと歩を進める。

 そんな私の目の前、ほんの数メートル先の地面を、ツバメが横切って飛んでいく。

 私は黒っぽい服を着ていたので、なんだか仲間みたいだなと思う。
 おかしな想像に、思わず笑みがこぼれる。

 土手のかたわらには黄色い小さな花が咲いている。

 空は相変わらずの曇天。

 景色いっぱいの雨。

 いつのまにか、ツバメはいなくなっていた。

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