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みじかい小説#144『花びら』

 どこからともなく迷い込んできたひとひらの花びらに寄せて、トーコは言葉をつづりだす。

「もしもし亀よ、亀さんよ」

 花びらはトーコが肘をついている長机の上にひらりと落ちる。

 そしてそのまま、動かない。

 薄い黄色みを帯び、表面に細かな筋をたたえているその小さな花びらに、トーコはしばし、魅了される。

「どうしてここにいるのかな、君は」

 トーコは花びらをじっと見つめる。

「他のきょうだいはどうしたの」

 花びらはすんとも言わない。

「君はひとりなの」

 すると花びらは、かすかに揺れた。

「そうなの。あたしもひとり。同じだね」

 トーコはそう言うと、ひょいと花びらをつまみあげ、そのまま開いていた本にのせた。

「一緒に、おいで」

 トーコはそう言うと、優しく本をぱたりと閉じた。

 花びらの形は、そうして永遠に、トーコの中に刻まれた。

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