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読書記録 #20 『百年文庫・37・駅』

 今回は、別の本で紹介のあった短編が載っているという経緯で『百年文庫・37・駅』を図書館で手に取りました。

 この『百年文庫』はシリーズになっていて、漢字一文字を1テーマ1冊として、三人の短編を収録したものです。
 この『37・駅』には、ヨーゼフ・フロート、戸坂康二、プーシキンの短編三話が収録されていました。

 別の本で紹介してあった私の目当ての作家は戸坂康二だったのですが、アンソロジーと知らずに手に取った本作を、図書館で「あとがき・作者紹介」を立ち読みしてみたところ、ヨーゼフ・フロートという人はウクライナの人で、プーシキンという人は(聞いたことだけあった)ロシアの人とのことでした。
 おりしもウクライナ侵攻の真っ最中、これもなにかの縁というわけで、戸坂以外の作品にも目を通しました。

 戸坂康二の短編は殺人のないミステリー、軽い謎解きの話でした。
 新幹線に乗って大阪から東京まで行くことになった主人公が、車内で謎解きを行うという、見ようによってはほっこりとくる内容でした。
 ほんの20ページほどなので、隙間時間におすすめです。

 ヨーゼフ・フロートの短編は、とある駅長がある事件をきっかけに女性と恋に落ちて…という内容です。
 翻訳ながら読みやすく、すらすら読めてしまいました。
 以下、いいなあと思ったくだりです。

 電信機がいつもひっきりなしにかたかた鳴るのと同じように、ホームの屋根のガラスの張り出しを、雨が絶え間なくたたいていた。
(略)
 松明はぱちぱちばちばち音をたてながら、やっとのことで雨に耐えていた。

『駅長フェルメライアー』ヨーゼフ・フロート/渡辺健:訳

 プーシキンの短編のほうは、読む前に「あとがき・作者紹介」の方を読んでしまったので内容が頭に入ってきませんでした。
 というのも、このプーシキンという人物は、ロシア文学の基礎を築いた19世紀初期の文豪なのですが、その発想から時の皇帝に目を付けられ牢獄に入れられ、恩赦で自由の身になった後、37歳で決闘の末に重症を負い、その傷がもとで決闘の二日後に亡くなっているのですね。
 なんとも壮絶な人生で、もう頭の中がそのイメージで固まってしまって。
 こちらは少々劇場チックな訳でしたが、無事読了。
 でもやはりこういう歴史的意義のある文豪の作品はネイティブじゃないと味わえない領域であると実感しました。
 それでも、外国人としてその内容を垣間見えたのは翻訳家とその文化があってこそ。関わった方々に感謝の念を抱きつつ読み進めました。

 以上、『百年文庫・37・駅』の感想でした。
 このシリーズ、一冊がとても薄くて新書サイズということで手軽さもあり、シリーズを一巻から読み進めていきたいと思いました。
 こういった偶然の出会いがあるから読書はやめらません。


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