五十嵐大介『ディザインズ』読了

五十嵐大介の漫画『ディザインズ』の最終巻(5巻)が刊行されました。

五十嵐大介といってもピンと来ない人もいるかしれません。『海獣の子供』の作者と言えば「あー、あの映画のやつね」と思い当たる人もいると思います。

彼の漫画はなんといっても画力が圧倒的。自然や生き物の微妙な動きまで、コマから溢れんばかりの情報量で描きます。僕は『海獣の子供』を読み終えた時は、飲み込まれたみたいな感覚がありました。現代を代表する作家さんだと思われます。

そんな彼が『海獣の子供』の次に連載した『ディザインズ』は、『海獣』に比肩するどころか一歩進むぐらいの超傑作だと思います。

物語はハードSFです。遺伝子工学によって人間化された動物たちである「HA」(Humanoid Animal:人間化動物)。HAは軍事利用されるに至り、色々の人間の思惑が渦巻く中、紛争の火蓋が切って落とされる……。戦闘に特化したHAが争う中、クーベルチュール(カエルのHA)は、長い手足と、全身を覆う粘膜程度しか持たず、涼しい顔で戦いへ赴く。HAを産み出した天才科学者オクダは、いっそう生物の進化の禁忌を越えていく。紛争が苛烈になる中で、彼の視線の先にあるものは……。

みたいな話です。

さて、着目したいのはHAと言われる生き物たちが、どのように世界を感覚し、体験しているのか、ということを画にしている点です。

人間の姿をした動物であるHA(HAは半身半獣でなくあくまで動物だと、物語の重要人物のオクダは断言します)は、人間とは違う観え方で世界を観ています。

というのは、たとえば、人間の見える色の範囲は昆虫と違いますし、聞こえる音の範囲はコウモリと違います。違う色や音、肌感覚などを持った動物が体験する世界は、当然違う観え方をしているはずです。その世界の景色って、どんななのだろう。そして、その景色の中で、彼らはどのように生を過ごすのだろう。そういう、人間にとっては普通体験できない、異質な感覚と世界を画にしているのです。

また、HAにはヒョウ人間、カエル人間など、画的に成立するかしないか微妙なラインの、造形が危ういキャラクターが次々現れ、崩壊する一歩手前みたいな画面ばかりが続きます。それがHAたちの1人称の異質な感覚の世界と相まって、絶妙なバランスで成り立つ感じの、美しいこと。そしてそのバランスは不思議と崩壊しない。このバランスこそ自然なのか、と思わされるぐらいです。

物語のヒロイン的存在はカエル人間のクーベルチュールです。カエルは肌全体が粘膜で覆われており、ダイレクトに湿度や、音などを感知しているようです。その感覚から立ち上がる世界観は、五感でしか(!)世界を体験できない私たちとは異なる広がりを見せます(もちろん五十嵐さんはそれを画にします……)。

他者の感情や思念まで(空気中から)感じ取る、クーベルチュールの世界は、私たち人間が基本とする個人とか、自己同一性、社会のイメージとか、そういう概念が通用しない感じです。急に、自分の観ている世界が不安定に感じられるような感覚を覚えます。

動物たちの愛情は人間とちょっと違う感じがします。また、結構ためらいなく他の個体を殺すように見えますが、殺した他者への慈しみとか、死者への感覚的な近さなど、人間からは異なる感覚に思えます。それが不思議な安心感を感じさせます。「死んだら終わり」という観念はもしかすると、人間だけのものなのかもしれません。食べたり食べられたり、がむしろ殆どの生物の普通なのですから。

……と、長くなりつつ、よく分からない感想になってしまいました。読むのが早いと思います、『ディザインズ』。画と感覚が混ざりあっていく印象をご体験ください。

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