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箔の持つ“品格”が、パッケージの常識をくつがえす ーー 三原美奈子デザイン 三原 美奈子さんインタビュー

こんにちは、クルツジャパンのタナカです。

箔を使いパッケージを創作するクリエイターのまなざしから、箔の魅力や新たな表現、デザインを生み出す源泉に迫るインタビュー企画。

今回、登場してくださるのは、三原 美奈子さんです。三原美奈子デザインを設立し、パッケージデザイナーとして最先端の場で活躍されると同時に、「日本パッケージデザイン賞2023」の担当理事をつとめるなど、次世代のパッケージデザイナーの育成や、パッケージの価値を伝える教育活動にも力を入れていらっしゃいます。

パッケージデザイン業界を牽引する三原さんの原動力や、パッケージに対する思いをお聞きしました。

三原 美奈子さま/パッケージデザイナー。1969年11月大阪市生まれ、2歳から奈良市で育つ。現在は大阪市在住。京都精華大学美術学部デザイン学科VCD専攻卒業後、デザイン事務所を経て2010年8月、三原美奈子デザインを設立。

包む以外のパッケージの価値を伝え、育む

ー パッケージデザイナーとして、普段どのような取り組みをしていますか?

パッケージデザインの仕事をメインに、セミナーでの講演や、大阪パッケージアカデミーで講師も務めています。

デザインというと、まずはファッションやグラフィックが連想されますよね。誰もが毎日見ているはずのパッケージなのに、15年ほど前は「パッケージデザインをやっています」と言うと、「ラッピングですか?」と聞き返されたり、パッケージデザイナーについて知らない人ばかりだったり......。パッケージデザインが世の中の人に「伝わっていない!」と痛感していました。そこで、パッケージデザインを軸に、あらゆる世代にアプローチしたいと思い、ワークショップや展覧会、教育活動にも取り組んでいます。

ー パッケージを通して人々にアプローチする中で、印象に残っている活動は何ですか?

パッケージアカデミーをオンラインで開講したところ、北海道から沖縄まで、たくさんの応募がありました。最近は女性のパッケージデザイナーが増えていて、9割はスキルアップを目指す20代から40代の女性。「パッケージデザインについて詳しく学びたい」、「パッケージの仕事を受けられるようになりたい」という受講生に、制作を通じてパッケージの魅力を伝えています。

それともう一つは、2009年から取り組んでいる「パッケージイグループロジェクト」です。使い終えた食品の空箱を集めて造形物を作るワークショップなんですが、大阪市の芸術体験プログラムにも採用され、小学校でも実施してきました。家で集めたパッケージを持ち寄って、造形物を作ることで「牛乳のパッケージって青い色のものが多いね」、「このパッケージの箱って、こっちからも開くんだ!」など、子どもたちの中に次々と気づきが生まれるんです。

ポテトチップスのパッケージを見ながら、子どもたちに「ポテトチップスを作るのに、どれだけの人が必要でしょう?」と問いかけてみます。すると「じゃがいも作る人、運ぶ人、切る人、揚げる人、袋に詰める人、スーパーへ運ぶ人、フィルムを印刷する人、デザインをする人......」と、たくさんの人が思い浮かびますよね。

一つの商品を作るのに多くの人が関わっていることに気づき、「もしかしたら自分の家族も関わっているかもしれない」とパッケージを通して、働くことや商品を身近に感じるきっかけになるんです。遊びを通じて、マイノリティである「パッケージデザイン」の魅力や価値を感じてもらえたら嬉しいですね。

ー 10年以上、パッケージデザインの普及や教育活動に取り組む中で、人々のもつイメージの変化を感じていらっしゃいますか?

最近は、SNSでパッケージのデザインが拡散されたり、ニュースで注目されたり。「パッケージをみんなが気にして話題にしている!すごい!」と衝撃を受けることが増えてきました。「このパッケージ凄い、可愛いから買う」という、「パケ買い」も見られて、パッケージデザインが注目されるようになったことを実感しています。

箔の存在感が、デザインに奥行きや新たな表現をもたらす

ー三原さんの記憶に強く残る、箔を用いた制作物を教えていただけますか?

2021年にパッケージデザインの展覧会「パケクション New Normal やってみた展 」で発表した綿棒のパッケージに「A,MENBO」があります。

いろいろな色の紙を使い、紙に合わせて押す箔の色を変えました。筒も紙で制作して、断面に天金加工をほどこして強度をつけています。綿棒と言えば、簡易なプラスチック容器が主流ですよね。リフィルを使う習慣もないので、使い終わったら容器は捨てられてしまいます。

でも、綿棒はもっと可愛くなれる、おうち時間を彩る存在になれるはず。使い終わったら「ただ捨てるだけ」で終わらず、部屋に置きたくなる、かわいくて「もう一度詰め替えて使いたい」と感じるデザインを提案しています。

ー どんなことを表現したいときに箔を使いますか?

金の箔は、だれが見ても“高級感”を感じる素材です。以前所属していたデザイン事務所では、洋菓子のギフトパッケージに携わり、箔の使い方を学びました。たとえば、パッケージの箔にエンボスをかけると立体的に見え、ラベルの文字もたんに箔を押しているだけだと、角度によっては金が黒っぽく見えますが、エンボスを入れることで文字が丸みを帯びて、どの角度から見ても金だと判断できます。1990年代は、高級感のあるものを求め、贅沢に箔を使っていました。

そして、色の箔は「おしゃれだけど高いもの」という印象を与えますね。たとえば、「パケクション」で作った「餃子幸福」のパッケージにも3色の箔を使っています。チャイナタウンのネオンをあしらった“遊び”を感じさせるデザインを狙ったのですが、箔を用いることによって、“品格”が加わるんです。

ー 今後、パッケージデザインに使ってみたい箔はありますか?

効果的に使ってみたい素材に「透明箔」があります。箔を押すと、箔の下は見えないのが常識とされているけれど、そうじゃないところが透明箔のおもしろさ。箔が透過していることで、これまでのデザインと違うことができそうですね。

ー 次のパケクションのときに、透明箔を用いた制作の相談をさせてください!ほかにも、今後「箔を使った◯◯してみたい」、ということはありますか?

通常のパッケージには、紙やフィルムなどの資材が必要です。でも例外もあって、卵がパーフェクトパッケージと言われるように、果物の皮も究極のパッケージだと思っています。果物の皮をパッケージとして考え、箔を押すことができれば、新しくてインパクトがありますね。

ー 立体物なのでチャレンジングではありますが、皮や葉に箔を押すことができるかもしれません。シールを使わないのでエコですし、箔の存在感を出せますね。

旅で体感した異国の文化や日常が、次なる創作の源泉になる

ー 最後に、三原さんご自身がパッケージデザインに魅力を感じるようになったきっかけを教えてください。

大学3年生のとき受けたのが、パッケージデザイナーの池田 毅さんの授業です。それまで、ポスターの制作など平面の課題をこなしていましたが、もともと「立体が好きだな」という自覚もあって、消化不良を感じていたんです。池田さんの授業で、パッケージデザインの課題に取り組んで「すごくおもしろい!」と思ったことから、パッケージデザインを学び始めました。

偶然にも、友達のお父さんがパッケージデザイン協会に所属していて、「せっかくやから、いろいろな事務所を見たらいいよ」と、デザイン事務所をいくつか紹介してくださいました。就職したデザイン事務所に17年ほど在籍し、展覧会やワークショップにかける時間が増えてきた時期に、社長から「そろそろフリーで、時間に縛られることなくやってみたら?」と後押しされ、独立しました。「人のつながり」や「縁」が、パッケージデザイナーとしての今につながっていますね。

ー デザインのアイデアや意欲は、どのようなところから湧いてきますか?

旅が好きで、旅をしていると自分の常識が根底からどんどん崩されるんです。海外だと、スタンドパウチに入った牛乳が売っていたり、ラップは、箱がなくて中身の芯の部分だけ売っていたり。日本では見かけないですよね。

海外のスーパーでパッケージを見るのが楽しくて、日本には無いものを見つけて買って帰ってきます。異国の文化や日常を体感することで、「こういうものの見方があるんだ」とデザインをいろいろな視点から考えられるようになりましたね。

例えば、シャンプーを固形の石鹸にした商品のパッケージは、「今まで勉強してきたエコやゴミの問題についての知識を活かせそう」と思いながらデザインしました。

シャンプーと言えば、液体が主流ですよね。それを固形にすることで、水の使用をできる限り抑えることができます。節水になりますし、容器にプラスチックを使わないので地球環境にもやさしい暮らしができる、そんな日常を提案するという新商品です。

ー パッケージデザインを考える上で、環境への配慮が大きなキーワードになっているんですね。

すでに20年〜30年前から、「私たちはゴミを作っているんじゃないか」という懸念があり、パッケージデザイン協会でも定期的に勉強会をしたり、ごみの処理場やリサイクルセンターへ見学に行ったりしています。時代の変化とともに私たちデザイナーの意識も常にアップデートしていかないといけないですよね。

商品を包むだけではない、購入して、使って、捨てるまでの一連の過程を考慮して、パッケージのあるべき姿を提案することが、私たちパッケージデザイナーに求められていることだと思っています。


展覧会・ワークショップ・パッケージデザイナーの育成など、フットワークが軽く、海外でのリサーチも欠かさない三原さん。パッケージへの情熱と、常識にとらわれないアイデアにパワーをいただきました。三原さん、ありがとうございました😊


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