真冬のある日、俺たちは旅行のついでに某山中で滝行コーディネーター?みたいなおっさんに2人で1万円の料金を払って滝行をさせてもらった。

いきなり謎のおっさんが出て来たけど誰なんだ。俺もわからん。
滝行がしたすぎて頭がおかしくなっていた妻が「滝行」で検索して見つけたようだが怪しすぎる。

おっさんと同じバスに乗り合わせた他の滝行参加者いわく
「地元の人達に『また来たよアイツ…』って陰口言われてました」
とのことで逆に「やっぱ怪しいんだ」と安心した。

とりあえず参加者全員(俺たちを含めて5,6組いた)で説明や諸注意を聞き、女性は近くの小屋で、男性は河原で着替えた。ハゲを河原で全裸にさせるな。
俺はふんどしハチマキが似合い過ぎて、おっさんに「いつも(滝行を)やってる人みたいだね」と言われてちょっと嬉しくなってしまった。
ふんどしとハチマキがバチクソ似合うことは現代社会では何のアドバンテージにもならないが。

そして滝行が始まる。
滝がなんか小さくてかわいいから、やるのは2人ずつだ。
この怪しいおっさんがお経を唱えている間、俺たちはふんどしハチマキと白装束で滝に打たれ続ける。
おっさんがお経を唱え終わると俺たちが「イェイ!!!!」と大奇声を発して指で空を切る、という流れになっている。
これを3セットやる。
俺は普段インディーズで奇声を発してるけど、誰かに強制されて奇声を発するのは気が進まないな。

2,3組が滝に打たれ奇声を発するのを見届けた後、俺と妻の順番がきた。
ここの滝は遠目ではちいかわな滝にしか見えないから「チョロいな」と思ったけど、
実際に入ってみると、全然普通に水の勢いがヤバイうえにクソ冷たいし砂利とか小石みたいなのも落ちてきて痛いし中々イヤだった。

3セット目の終わり際、妻はおっさんがお経を唱え終わっていることに気付かないまま滝に打たれ震えていた。
俺は正気を保っていたので震える妻の肩を叩いて(終わったよ)と合図を出し、中くらいの声で「イェイ」と言って空を切った。

終了後、おっさんは「ふんどしとハチマキ集めといて」と参加者の1人にゴミ袋を渡し、さっさと河原から引き揚げていった。
俺たち参加者は「いや、お前が集めろや」と思っていたし、何なら普通に声に出して言っていた。

着替えて妻と合流すると、妻は唇を紫色にしてガタガタ震えていた。俺も震えていた。
これは結構ヤバイんじゃないのか?と思った。
幸い車で数分の距離に温泉があったので駆け込んだ。
お湯に浸かっても震えは止まらなかった。
そのまま震えながらお湯に浸かっていたら一瞬意識が飛んで、気づいたら1時間くらい経っていた。
結構ヤバかったんじゃないのか?と思った。

何とか震えが止まって温泉を出た俺たちは、あらゆる煩悩から解放されているような気がすることに気付いた。
山の木々が、川が、冷たい空気が、なんか車にへばりついてるよくわからんキモい虫が、すべてが美しいような気がする…

「とりあえずマック行くか」と思い立った俺たちは、車に乗り込み、最寄りのイオンモールのフードコートを目指した。

あれから2年くらい経ったけど、
「滝行よりはマシ」などと比較対象として使っているし、
「あのおっさんマジで誰だったんだ」
みたいなことを話したりしてウケている。

別にやる必要がないことを敢えてやるとウケる思い出ができる。
滝行オススメです。

終わりです。
ありがとうございました。

特に良い事は起きない