車椅子のベルト問題 Vol.1
ベルトで広がる世界
障害者手帳で車椅子を利用している方の多くはベルトをしていると思います。ベルトの目的は姿勢を保持することで、安全に車椅子に座っていられることと、できることを増やすことです。
例えば、体に力が入らない人の場合は、骨盤ベルトでしっかり骨盤を固定して、胸ベルトで体幹が横や前に倒れないようにします。ベルトがなければ、転落の危険があるので常に人の目が必要になりますし、自分で車椅子を操作することができません。体が安定しないので腕で何かをするとバランスが崩れて体幹が大きく傾いてしまいます。そのため、食事をしたり、本を読んだり書いたりということができません。
ベルトで骨盤と胸を固定することで、車椅子を1人で長時間利用することができますし、電動車椅子なら自分で操作することもできます。腕を伸ばしても体は安定しているので、自分で食事をしたり、本を読んだりパソコンを使ったり、様々な可能性が広がります。大学に進学し仕事をし、誰かを支援している方もいらっしゃいます。
介護保険の場合
このように非常に車椅子ユーザーの可能性を広げるベルトですが、介護保険の車椅子においては、基本的に使えないことになっています。ベルト=拘束というのが介護保険での常識だからです。そのため、体幹が不安定な人でもベルトを使わないケースがほとんどです。障害、介護保険両方の車椅子ユーザーと関わってきた私は、このとらえ方には疑問を持っています。
坂の多い街に住んでいる外出好きの方が、「外出する時、家の前の坂を下るのが怖い。坂を下る時だけでもベルトをして、安心して外出を楽しみたい」。これは実際にご相談いただいたケースで、ケアマネジャーさん、役所と相談して骨盤ベルトを装着して外出できるようになりました。「ベルトをするようになり、怖くなくなりました」と、本人も家族も、とても喜んでいました。
体幹が傾いてしまうという理由で食事や趣味や仕事ができない人が、体幹を安定させるベルトやハーネスを使うことで食事をしたり趣味を楽しめるようになります。友人と目を合わせて話せるようにもなります。本人の自由を奪うベルトは無くすべきですが、ベルトがある方が本人にとっては自由度が高くなる場合があるのです。
どちらが本人にとって幸せなのか? それを考えずにはいられません。
次回は、ベルト禁止が介助者に与える影響をお伝えします。
少々古いですが、厚生労働所の身体拘束ゼロ作戦推進会議のレポートです。
身体拘束ゼロに役立つ
福祉用具・居住環境の工夫
●「生きる意欲」を引き出す環境づくり●
平成13年6月
身体拘束ゼロ作戦推進会議 ハード改善分科会