著作権とは何か？

ピーター・セイント＝アンドレ氏の「What is Copyright?」の私訳文です。
意訳も有り、正確性の一切に責任は持てません。原文はこちら。
原文の著作権は放棄されています。
そして、本記事の一切について、ピーター氏に倣って著作権を放棄します。
最下部にライセンス表記があります、ご自由に盗窃してください。

著作権とは何か？
ピーター・サン・アンドル
　
　多くの知的問題について軌を一にする私の友人が、最近、自ら執筆中の本の原稿を送ってくれました。
彼は個人権の擁護者であり、政府の存在そのものに対して原則的に反対しています。なぜならば、政府の力は個人の権利を侵害せざるを得ないと主張しているからです。
そんな彼が、原稿の1ページ目に "Copyright 2007. All rights reserved.”（初版：2007年、全権利留保） と書いていたことに、私は驚いたものです。
　
　さて、そもそも著作権とは何でしょうか？
通常はそれは知的財産の一形態と考えられています。
しかし、それではさらに疑問が生じます。
そもそも「財産」とは何か？
果たして知的創造物は財産の一形態なのか？
もしそうなら、正確にはどのように定義できるのでしょうか？

　私たちは皆、物理的な財産に慣れ親しんでおり、知的財産の概念はそこから類推されて生まれたものです。
「財産(Property)」という言葉は、「自分自身のもの」を意味するラテン語(Proprietatem)に由来します。
所有権に関する人類学的、社会学的、哲学的な詳しい説明を読んだことはありませんが、所有権は人間の生活の中でほとんど原始的な現象であるようではあります。
最も古代の狩猟採集民でさえ、自分たちの独特の生活様式を追求するために、衣服、槍、ナイフ、斧、瓶、壺などの付属品や道具を必要としました。それらが個人で所有されていたのか、それとも集団（例えば血族や部族）で所有されていたのかは、この話では重要ではありません（ただし、当時のサバイバルは今よりずっと集団的なものだったと思います）。
当時の人々は、石や粘土などの拾い物に手を加えたり、木々を伐採したり、動物を殺してその骨や筋、皮を再利用したりして、これらのものを作っていました。
ジョン・ロックが数千年後に言ったように、彼らは現実の要素と「労働を混ぜ合わせる」ことで、ある物理的な物の形、位置、使用、完全性、存在そのものをコントロールするようになったのです。
このような物の製造にはある程度の作業が必要であるという事実は、その作られた物は自分の物であるという考えを浮かばせるようです。結局、自分の人生、時間、エネルギーは自分のものなのだから、自らが生きるために時間とエネルギーを費やして作った物も当然自分のものであるように思えるのです。「我のもの(Mine)」や「汝のもの(Thine)」という言葉がどの言語にもあるのは、それなりの理由があるからなのです。
　
　しかし、所有権には限界があります。
その制限にはまず現実的なものがあります。例えば、ケンタウルス座のアルファ星や空の雲、海の中の水のランダムである分子、私が統治し続けられないほど大きな土地（例えば、大陸全体）などは所有することはできません。
道徳的なものもあります。私は他人を所有することはできませんし（歴史的に見れば、奴隷制度が廃止されたのはごく最近のことなのではありますが）、ロックの言葉を借りれば、他の人々のために「同量・同質」のものが残らないほど多くのもの（例えば、大陸全体の農産物）を所有することもできません。
実存的なものもあります。 私は、酸素という元素（宇宙のどこにでもそれがあるかもしれない）、青という色（誰であれ、それを齎すかもしれない）、愛という関係（誰であれ、それを経験するかもしれない）、食べるという行為（誰であれ、それを携わるかもしれない）、「私」という単語（誰であれ、それを話したり書いたりするかもしれない）、これらを所有することはできません。
歴史的なものもあります。10万年前、人類はまだ農業を発見・発明していなかったので、1000エーカーの農地を所有することは無意味でした。
　
　つまり、伝統的に「所有権」は、個人またはグループがコントロールできる種類の物理的な物体に関係していました。即ち、身に帯びているか、運んでいるか、扱っているか、形を変えるか、乗っているか、囲っているか、巡回しているか、建てられているか、占有しているか、養殖しているか、収穫しているか、消費しているか、収集しているか、保管しているか、譲渡しているか、販売しているか、移動しているか、変更しているか、そういったことをしているものである必要があるのです。
勿論当然ながら、技術や社会の変化により、これらの方法で制御できるものの性質や規模は変化してきました。
しかし、私は、所有権の第一の意味は、基本的に対象物に対するコントロールの問題であると考えています。
　
　一方、アイデアはモノではありません。概念、洞察、発見、発明、創造物がどのように広がり、どのように使われるかは誰にもコントロールできません。そのため、物的財産のように、アイデアを独占的に所有、使用、処分することはできません。また、一度公開されたアイデアが広く普及しても、そのアイデアを生み出した人には何の害もありません。物理的な財産のように、アイデアを創作者から奪うことはできないのです。私が詩を作ってあなたに朗読し、あなたがそれを記憶したとします。その詩はあなたの脳の中に入っていますが、私の脳の中にも入っています。あなたがそれを記憶できるように書き留めたとしても、私には何の害もありません。私がそれをウェブサイトに掲載し、あなたがテキストを読んでいる間にそれがあなたのブラウザに（キャッシュとして）コピーされたとしても、あなたは私からその詩を盗んだわけではありません。もし、あなたがその詩を配偶者に朗読したり、友人にメールで送信したりした場合、私は損害を受けたのでしょうか？
いいえ、そんなことはありません。
　
　現実の、あるいは認識されている害は、あなたがその詩を自分のものとして見せびらかそうとするとき（だって私が書いたんだから！）、それを改変するとき、あるいはそのコピーを販売するとき、特に後者の方に生じます。この五〇〇年間、クリエイターとその代理人（殆どが代理人の方）は、これらの行為を防ぐことを目指してきました。そのための方法が著作権と呼ばれるものです。
　
　そもそも権利とは何か？基本的な権利は、生存権です。
あなたは自分の体、時間、エネルギー、思考、感情、選択、行動を所有しています。私は、あなたの人格を侵することなく、または力や詐欺によってあなたに害を加えることなく、あなたからこれらのものを奪うことはできません。私があなたの生存権を尊重するというのは、あなたの自己所有権が不可侵であり、あなたには（他人の自己所有権を侵害しない限りにおいて）あなたが思うように考え、選び、感じ、行動する自由があることを私が認めるということです。
　
　以上のように、人間は人間らしい生き方を追求するために、あるモノを支配します。このような支配対象を、個人（ひいては集団）が所有する「財産」と呼んでいます。このように、生命に対する権利の必然的帰結として、財産に対する権利も存在します。
自由で自発的な生産と取引によって、他人に暴力を振るうことなく対象物を所有するようになった場合、私は（その物を自発的に他人に譲渡するまでの間においては）その対象物に対する権利を持っています。私の同意なしに財産に手を加えたり、破壊したり、奪ったりした場合は、私に暴力を振るったことになり、財産に対する私の権利を侵害したことになります。
ここにおいても、対象物に対する私の財産権は、財産に対する私の正当な支配を認めるか否かが問題となります。
　
　しかし、物理的な財産が支配できるかのように、アイデアを支配することはできませんし、その必要もないということをご覧いただいていると思います。私のアイデアは、それを公開したり、他の人と共有したりしても、私から奪われることはありません。あなたが仮にそのアイデアを使ったとしても、私もまた、そのアイデアを使うことができます。
　
　しかし、著作権の背後にある前提は、あなたが私のアイデアを他の人と共有すると、私が損害を被ってしまうというものです。……少なくとも、経済における交流のうちにそれを共有する場合には。
　
　例えば、あなたが公の場で私の詩を諳んじたり、私の歌を演奏したりして、それに対して何らかの報酬を受け取ったとしましょう。それは恐らくは、旅費、少額の謝礼ぐらいのものでしょう。
あなたがそうしたことで、私に害がありますか？ 
私にはわかりません。然し恐らく、私はあの時間にあの場所にいることはできなかったでしょうから、あなたのせいでその分の金を私が稼げなかったわけではありません。実際、自由市場では、他の人々は私の演奏よりもあなたの演奏を好むかもしれませんしね！ 
私は自分の作品の演奏に特別な見識を持っていると思いがちなので、その事実を特に喜ばしく思わないかもしれませんが、あなたはあなたの演奏によって私の権利や人格を侵害したわけではありません。
　
　次に、私がインターネット上に掲載した書籍（例えば『イズム・ブック』）を、あなたがコピーして製本し、販売し始めたとします。
再び問いますが、私に害はありますか？
私にはわかりません。しかし理由は何であれ、私にはネット上に掲載したテキストから物理的な本にするための時間、エネルギー、集中力、お金、コネなどに欠けているのです。つまり、私は機を逃し、その機をあなたが利用したか、あるいは私が取る価値がないと思ったリスクを、あなたこそが取ったのです（何分、私はリスク回避型ですから）。
実際、私が自分のテキストから物理的な本を出版していたとしても、あなたは同じテキストから、より魅力的で、より本格的に販売され、より物理的な品質の高い本を出版するかもしれませんし、その結果、私の自作の本を上回るかもしれません。
さて、この場合、あなたは私の人格を侵害したり、財産を盗んだりしたのですか？いいえ、私はまだ完全で無傷ですし、自らが書いたテキストもまだ使用できます。
あなたが私の権利を侵害したと正当に主張できるのは、私が書いたテキストに基づいた物理的な書籍の出版を自然独占（産業全体の生産量を複数で生産するより単独で生産した方が、全体の総費用が少なく効率的な場合、競争が成り立たず、独占状態になることを指す）していることを証明できた場合のみです。しかし、自由市場においてでは、純粋な自然独占はありません。むしろ、独占は、他の企業が市場に参入するのを防ぐために政府が力を行使した場合にのみ存在します。
　
　実際、いわゆる著作権はまさにそのようにして生じたのです。
即ち、政府による独占です。
イギリスの初期の印刷者や出版者は、特定のテキストに基づいた書籍を販売する独占的な特権を求めて国(THE CROWN)へ働きかけました。結果、政府は、他の印刷業者や出版業者がそのような書籍を販売するのを武力で阻止することに同意しましたが、その条件として、保護された印刷業者や出版業者は、国王にとって大きな関心事に関して政府の代理人として振舞うことが求められました。
その関心事とは『好ましからざる意見の検閲』です。
　
　今までの話を要約した結論は、「知的財産は財産ではなく、著作権は権利ではない」です。
私には、あなたが私の詩を朗読したり、私の歌を演奏したり、私の音楽を録音したり、私のエッセイのコピーを販売したりすることを妨げる事のできる自然的、人間的、個人的な権利を持つことはできません……私がそれを公開した後には、ですが。
アイデアはコントロールできないものですから、それを公開するということは、私がそのアイデアに対するコントロールを放棄したことを意味します。いったん公開されてしまえば、世界中の人々が、それを読み、聞き、話し、書き、売買するのを防ぐ以外に、私はそれが広まるのを防ぐことはできないのです。そのためには、地球上のすべての人の思想と行動の自由に対する個人的権利を侵さなければならないのです。
そして、それは、人間の自由を重んじる者ならだれでも、到底受け入れられず、擁護できない立場であるはずなのです。

What is Copyright? by Originally written by Peter Saint-Andre, translated by Kuroyuki. is marked with CC0 1.0 Universal