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小説『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』

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不思議な「たまご」が三つの世界を繋げます♪ 主人公・理音とピアニストの兄がいる、「パイプオルガンがない世界」。 楽器を研究する女性・ミラマリアがいる「楽器が一つもない世界」。 …
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『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第1話 うちの「たまご」を紹介します

<あらすじ> 不思議な「たまご」が三つの世界を繋げます♪ 主人公・理音とピアニストの兄がいる、「パイプオルガンがない世界」。 楽器を研究する女性・ミラマリアがいる「楽器が一つもない世界」。 オルガンを愛する師弟がいる「全てのパイプオルガンが解体・撤去されようとしている世界」――。 実力派イケメン音楽家たちによる、世界をまたぐ「ピアノとオルガンの尊い協演」は果たして実現するのか。 音楽家たちと楽器の数奇な運命は? 今、乙女たちの推し活パワーが炸裂する! 華麗なるアンサンブ

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第2話 鏡の中の金髪乙女

「温玉ちゃんのばかぁーッ!! 鏡にAVなんか流さないでぇーッ!! しかもロリじゃん! 児ポ案件じゃん! 見つかったら捕まっちゃうし、わたしにその性癖はなーいッ!」  今日の日記ー。  いつも音楽動画を再生してくれるうちの温玉ちゃんが、突然わたしの部屋の鏡に裸の女の子動画を再生してくれましたー。 「清純な乙女の部屋になんちゅーものを! 早く、早く消して! 消さんかい!」  叫びながら、鏡にかけてあったはずの布を捜す。温玉ちゃんがすぐに消せなかったら、とにかくこれで隠す。

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第3話 わたしの最推しピアニスト

 香ばしい匂いが鼻腔に届く。  ジュワッと肉が焼ける、至高の音楽まで聞こえてきた。  間違いない。これは兄が奏でる、『ベーコンとソーセージのカンタータ』!  こうしちゃいられない。  ダイニングに一歩入りかけた足を、くるっと回れ右。  キッチンにいるのが家事代行の米原さんだったらジャージ・デ・パジャマのままテーブルに直行しちゃうんだけど、二ヶ月以上に及ぶ海外活動から帰ってきたばかりの兄にこんな姿は見せられない。  この時のために用意してあった服を着る。  清楚系の白ブラウ

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第4話 たまごとピアノと調律師

「おっ、理音が弾いとる! 珍しいな」 『塔』の演奏が、ダミ声にかき消された。わたしと音兄の二人っきりの時間が、五十歳過ぎのおじさんに突然ぶち壊された。 「えーと、目の錯覚でしょうか? 音道さんが、住人の許可もなしにリビングまで来てるという幻影が見えるんですが?」  すると、キッチンから音兄の声が飛んできた。 「ごめん、まだ言ってなかったっけ。俺が合鍵渡したんだ」  合鍵ィー! 恋人かッ! 「さっき連絡来たから、合鍵で入ってくださいって返信した。九台もあるピアノを調

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第5話 涙のピアノ・セッション

 今日は大学の課題を片付ける予定だったのに、急遽『ニュー・シネマ・パラダイス』をやることになってしまった。  確かに、音兄のスケジュールを考慮すると、今日のうちにやってしまう方がいい。 「音葉くん、帰国したばかりなのにごめんね。この人ってほんと、言い出したら聞かないんだから」 「俺は大丈夫ですよ。音道さんとのセッションはいつも刺激的で楽しいですし」 「そうそう、こいつがこれくらいで疲れちまうようなタマかっての」  むしろ、演奏前から緊張でガチガチなわたしの心配をしてほしい

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第6話 楽器のない世界

 夜、いつものように化粧台の鏡の前に座ったら、 『あんたってほんとギャップが凄いわね』  と、ツッコまれてしまった。  鏡の中からわたしを見てる、猫耳を付けた可愛い金髪美女さん。名前をミラマリアさんという。  二十歳のわたしより年下に見えるけど、実は二十八歳で、猫耳みたいに見えるヘッドホンは、実は翻訳機なんだそうだ。しかも自作とのこと。何それ可愛い。 「あはは、この前の気合い入ったカッコは『久しぶりに帰宅した推し兄を出迎えるための戦装束』で、今のカッコは『夢小説をバ

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第7話 雨の庭を歩く

 天気予報が外れて、今日は朝から雨が降っている。 「車出すし、このくらいの雨なら平気かな」 「運転なんてしても大丈夫? 手を怪我したりしない?」 「俺どんだけ運転下手なんだよ。理音は心配性だなー」  笑ってる音兄を見られるのは、今月は、明日で最後。  音兄は、明日から二週間、地方を回って様々な音楽イベントをこなす予定だ。  最近はテレビや雑誌の取材も増えてきたし、講師やアドバイザー、コンクール審査員の話なども来るという。  ピアニストの仕事は、ピアノを弾く以外にもたくさ

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第8話 ようこそ、新たな世界へ

 わたしの兄・川波音葉が、約二週間の予定で、地方のお仕事に出かけてしまった。  でも、寂しくないよ。  わたしには、毎日鏡で繋がっているお友達がいるから。  今日もミラマリアさんと、鏡の前で通話中。  前日わたしに起きた不可解な出来事について話すと、ミラマリアさんは眉間に皺を寄せながら厳しい口調でこう尋ねてきた。 『リネ、この通話のことは誰にも話してないわね?』 「はい、話してませんよ。ミラマリアさんに釘刺されましたし。こんな不思議な話、音兄以外に話せそうな知り合いもい

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第9話 巨大な楽器との出逢い

『こんばんは、鏡の中のお嬢さん。この教会に、何か御用ですか?』  眼鏡男子のドアップが、わたしに話しかけてる。  イケメンだ……。  ハッ、いけない。 「先生」の対応が優雅なイケメン過ぎて、うっかりトリップしてしまった。普通はリーネルトって人みたいな反応するよね。 「えっと、あの……用があったわけじゃないんですけど、実は……」 『あっ、これでは近過ぎですね。失礼しました』 「先生」は、どこかに鏡を置いて、そのまま少し後ろへ下がった。  ほんの少しクセのある亜麻色の髪と

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第10話 レヴィンのうきうきオルガン講座

 ひときわ大きな音が響き渡った。  和やかだったこの場の空気を、一瞬で切り裂く鋭い音。聴いたことがあるフレーズだ。  世界が強大な音に満たされる。教会の空気の全てが、奏者の指先から湧き上がり、わたしの意識に叩きつけられているような錯覚を覚える。  いかにも試奏らしく立ったまま弾いていたリーネルトさんは、フレーズの合い間にさっと椅子に座り、足を使い始めた。  高らかに響く序盤のフレーズの後、足の動きで、地の底から響き渡るような重低音が入る。さらに両手が、一つずつ重厚な音を

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第11話 パッサカリアの奇跡

 教会オルガニストのレヴィンさんが、わたしとミラマリアさんにオルガン曲を聴かせてくれるという。  お世辞を言うようには見えない助手のリーネルトさんが、「世界最高のオルガニスト」というほどの先生だ。一体どんな演奏なんだろう。 「そう言えば、レヴィンさんこそお時間大丈夫なんですか? わたしと会う前に、お二人で何かされてたんじゃ……」  無理はさせたくないので、はやる気持ちを抑えながら遠慮がちに訊くと、レヴィンさんの銀縁眼鏡の奥の瞳がより生き生きと輝き出した。 『ご心配には及

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第12話 教会記念コンサート、開演

 コンサートが始まる一時間前、わたしとミラマリアさんはそれぞれの鏡の前に集合した。 『リネ、どうしよう! コンサートに何着てけばいいかわからないよぅー!』  いつもはゆったりとした大きめTシャツを着てることが多いミラマリアさん。通話する場所がバスルームだから、どうしてもラフなルームウェアになっちゃうよね。  でも、今日はお世話になった二人の大切なコンサートの日。たとえ在宅でも服装はきちんとしたい。  特にミラマリアさんは、このコンサートをものすごく楽しみにしてた。 『

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第13話 鍵盤と弦、溶け合うコラボレーション

 コンサートの二曲目は、昨日も聴かせてもらったバッハの『パッサカリアとフーガ ハ短調』だ。  何度も繰り返す低音部のテーマと、高音部で展開する煌めくような音の波が、「これがオルガン音楽だ」と言わんばかりにわたしの脳に押し寄せてくる。聴くのが二度目だからか、昨日よりも自分の耳がオルガンの音色に馴染んで、「この音を聴きたかった」という懐かしささえ感じるようになった。  三曲目と四曲目は、ブクステフーデという作曲家の作品。  ブクステフーデは、一般的にはバッハほどの知名度はない

『空飛ぶたまごと異世界ピアノオルガン♬アンサンブル』 第14話 師と弟子の本音

『お二人とも、今日はありがとうございました』  いつの間にか、目の前にレヴィンさんがいた。代わりにリーネルトさんの姿が消えている。  レヴィンさん、笑ってはいるけど、昨日のような覇気がない。だいぶ疲れてるように見える。たぶん、コンサートを終えたからではなく、あんなことがあったせいだ。 『先程はお騒がせして――』 『そういうのいいから!』  ミラマリアさんの鋭い声が空気を一閃!  一体何事かと、レヴィンさんが自分の眼鏡をぐいっとかけ直した。 『オルガンがなくなるってどう