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どうしてみんなPSOを見ないの?

# この記事は何のための記事

SEGA、ソニックチームが2000年にドリームキャスト用ゲームソフトとして発売した『ファンタシースターオンライン』のコラムを書き始めるにあたっての、筆者の心構えを書き記すと共に、ゲーマーとクリエイターにわかっていてほしいことの書き始め。

人々が大切なことを忘れてしまう前に。事実が歪に捻じ曲がらないうちに。

# 読み始める前の事前知識

・ファンタシースターオンライン(以下、PSO)は過去にSEGAが発売していたスタンダードなコマンド式RPG『ファンタシースター』をオンライン対応の3Dアクションゲームとして制作したもの。当時はプレイステーション2が普及していた背景もあり、日本では程々の知名度であったが、SEGAのグローバルな人気も手伝って世界中で高い評価を得ていた。

・シリーズものの新作をネトゲにして販売、という側面を見ればFF11、FF14やドラクエXのようなシリーズ展開が行われたと考えて差し支えない。SEGAにとっては自社IPを存分に起用した看板タイトルであった。

・ゲームキューブ版PSOの一部コンテンツにおいて理不尽なゲームバランスのステージ(※管理区チャレ)がユーザー間で物議をかもしたことがあるのだが、その杜撰な設計から生まれた新しい遊びがカプコン開発者の目に留まり、モンハン誕生のきっかけを生んでいる。(モンハンこそ至高のアクションゲーだと思ってるみんなはPSOに感謝せえよ!)

・後継作品として『ファンタシースターユニバース(PSU)』『ファンタシースターオンライン2(PSO2)』『ファンタシースターオンライン2ニュージェネシス(NGS)』などがあり、作品を経る毎にクオリティが下がってユーザーの不評を買い、みるみると人気が下降して「プレイしてます」と口にするのも憚られるようになってきた不遇なブランド。

・筆者はDC版のPSOをプレイして『人生が変わった』ユーザーのうちの一人である。以降、同シリーズのブランドを陰ながら支えるためにシリーズを買い続けて物販も可能な限り買っている。

# 本題回収

「どうしてみんなPSOを見ないの?」

オンラインゲームが溢れかえり、「どのネトゲが一番素晴らしいか」なんていう談義も生活の一部に溶け込んだ現代、ユーザー、クリエイターどちらにも今一度問いかけたい言葉。

PSOはオンラインゲームの黎明期に生まれた作品群のひとつであり、時期的にはラグナロクオンライン、メイプルストーリーなど「現代のネトゲの始祖だ!」と嘯かれがちなゲームたちのライバルにあたる。ちゃんと聞けよ、日本で最初期に作られた、しかもそれで世界中を席巻したオンラインゲームやぞ。しかも家庭用ゲーム機で。

「ライバルが少なかったからでしょ?」そんなんじゃない。「当時はネトゲってどういうもんかよくわかってなかった」いいや開発者はわかってた。PSOが何者かがわかっていないのはプレイ、非プレイにかかわらず興味を持たなかったユーザーと、PSOを軽視して確かめもせずふんぞり返っていたクリエイターだけ。PSOが日本で巻き起こした旋風はゲーム業界においては歴史的なムーブメントとして年表に名を連ねてよい事象のひとつであり、勉強不足の青二才が一言で片づけられるような浅はかなものではないのだ。

# 当時のSEGAが培ったUI・UXの大辞典

PSOがゲームデザインの中に落とし込んでいた”答え”は多岐にわたる。一人で遊んでも成り立つストーリーとそれに沿ったゲームシステム、複数人で遊べばもっと楽しみが広がるマルチプレイの意義、ゲーム画面の演出を阻害しないように配慮されたUI、ボタンが少ないゲームパッドでも手順が少なくなるように設計された操作性。各々の敵キャラクターに込められた”役目”と撃破の快感とのバランス。

それだけでも学ぶ部分が多いのに、極めつけは当時未成熟だったはずのオンライン向けの機能だ。外国語がわからなくても海外のユーザーと交流できるように入念に構築された自動翻訳付きの定型文チャット「ワードセレクト」、特定ユーザーに宛てたダイレクトメッセージや特定ユーザーを指定してのチャンネル移動、実質のフレンド登録と言える名刺の交換機能「ギルドカード」(名刺を凝って作るのも楽しい)、図形を組み合わせてLINEスタンプのようなグラフィックアートのやり取りを楽しめる「シンボルチャット」、当時にこれだけ詰め込めたか!と感服できるほどの機能およびUIが使いやすく丁寧に作りこまれている。オンラインゲームを企画・開発するにあたってこれほど良い勉強となる”古典”はない。

もちろん、当時のSEGAやソニックチームにとって初の試みとなる仕様は多分にあり、グラフィック上は武器が当たっているのに「MISS」と表示される回避率システムの賛否や、特定のプレイヤーをサーチしてジャンプできる機能によるストーカー問題、不正防止のための仕様が想定以上にプレイヤー側の被害を広げてしまった所持アイテム消失の問題など、そのすべてが手放しで素晴らしいとは言い切れなかった。だが、それを見越したうえで「国産メーカーが初挑戦したジャンルのオンラインゲームが一発目にもかかわらず世界中でヒットした」という事実は誰が泥をかけても覆ることのない事実なのだ。FF11と比べてどうだった、ROと比べてどうだった、じゃない。「初めて触ったネトゲが日本のPSOです、それは大変すばらしい経験を与えてくれました、今でも新作を待っています」という海外のユーザーが今でも腐るほどいるという事実こそが、今学ぶべきことが何なのかのすべてを物語っている。

忘れがちなことだがこれ、コンシューマだぞ。基本的にキャラの操作はゲームパッドのみだからな。キーボードとマウスでしかネトゲ語れない素人はゲームパッドだけで一通りの機能が利用できるネトゲを設計してから語れ。やってみろ、めちゃくそしんどいから。

# 今だけを見て「〇〇こそが至高」って言うな

近頃では「〇〇を超えるネトゲはない」なんていう文句で黒い砂漠やら、原神やら、もう画一化されてしまって面白みもないような課金システムなりUIなり攻略パスなりのオンラインゲームが軽々しく最新鋭のものだと評価され勘違いされている。たしかにグラフィックは最高峰だろう。ゲームシステムも数々の経験から好まれやすいものが生き残ってきたはずだ。そのうえで原神の制作会社であるMiHoYoなんかは日本の文化やコンテンツへのリスペクトも強く、海外が作っているからってそんなに悪いものでもないぞっていう主張にも正当性が出てきて、受け付けないほうが非常識だ非国民だ人でなしだ老害だといった過激な意見にも一歩引いた寛容なスタンスが望まれていることは間違いなかろう。だがな、中国や韓国の娯楽が日本の娯楽をベースに日本を超えるように発展してきたからといって日本の娯楽や文化やその発展の歴史が否定されるいわれなどどこにもないのだ。しかも不勉強な自国民によって。

上記の理屈はなにもネトゲに関してのことだけではない。ITの界隈ではやれXiaomiがAppleをコスパ的に超えているだの、Galaxyは世界的なシェアがあって日本企業は勝てないだの、イラストレーションやCGの界隈ではやれアズレンの絵がかわいいだの中国や韓国のアニメが日本のクオリティを超えてきただの何かと近隣のトピックを挙げて「海外がすごい、日本はオワタ」と豪語したい連中だらけだ。

彼らは隣国であるからこそ、昔から国交もあってあわよくば支配してやろうという裏の思惑もあってこそ、日本の影響を色濃く受けているのだ。なぜ彼らが悪意の有無を問わず日本の文化や資源や技術を奪うのか、それは日本から生まれた奇抜な発想や人心を打つ愛の溢れる思想、それを実現するだけの勤勉で献身的でクソ真面目な労働力、資産を持ちながらもそれを他人の施しのために使おうとするお人好しの性質、そういった他国からすれば「ありえねぇ」って思えるような日本人の凄さみたいなものが否応なしに目に入り耳に届き、最終的に「それほしい! それちょうだい!」となっているからこそ奪うのだ。暗に日本のほうがすごいって思っているからそれを真似するのだ。根本的な人間の心理として、すごくないと感じるものは絶対に真似しない。

彼ら隣国にとって、日本の持っている『心の資源』は国ごと丸呑みしたがるほどに羨ましく、慎ましく、疎ましく、強かで、そして甘美だ。その豊かな心から生み出されるドラマティックなファンタジー、英雄譚、ギャグとユーモア、恐怖と解放のエクスタシー、相手への無条件の愛や信頼から生み出されるもてなしとリスペクト、様々な独特の体験を日本は世界各国にそれこそガラパゴス的に見せつけてきた。それの成果の一例がマンガであり、アニメであり、一緒くたにされるのはしゃくながらもそこに並ばざるをえないゲームだったりする。少なくともアメリカの人々は日本の力作のいくつかに今でも感動を全身で表してくれる。日本は間違いなしにゲームで幾度も世界を変えている。

そんな歴史や文化や事実をまるで勉強せずに、ろくに自分の足元を見ずに、「〇〇のほうがすごいよ、面白いよ」とのたまったり、果ては他人の評判を元にして…でしかコンテンツを語れないような行為は愚行以外の何物でもない。原点を理解せずに派生を評論するな。そのような愚行を平気で行う覚悟があるのなら、せめて新旧含めて同じジャンルのゲームをかじって、知見を増やすぐらいのことはしてもらいたい。今だけを見て「これ最高」なんてApp Storeの一言レビューぐらいアテにならない意見だ。

数々のオンラインゲームに触れて、各国の世界情勢や経済的背景も知りながら、世間の憂いを聞き、他人が薦める海外作品の良さを研究し、PSOと並ぶような、全体的に高い品質を担保できているゲームを探してはいるものの、私はいまだにPSOを超えたと感じさせてくれる作品には出会えていない。後継作品に期待を寄せては、毎度毎度配慮のないUIやゲームシステムにイライラしつついつもこう叫ぶ。「お前らちゃんとPSOやったことあるんかよ!」と。

クドクドと説教くさい方便になってしまったが、この記事で話題に挙げているPSOは遊べば遊ぶほど「こんなところまで考えられていたのか」と驚かされる、骨からダシが出るようなゲームだ。このPSOには当時の「オンラインRPGに初挑戦だ」という地獄のようなオーダーに知恵と勇気と力で耐え抜いたソニックチームの人々の血と汗と涙がしみ込んでいる。それがまだNTTが「ブロードバンドってなんすか?うちはテレホーダイしかやってませんよ」と耳を疑うような言葉を返しそうな時代に作られ、SEGAという知名度の後押しがあったとはいえ一発勝負で一部の日本人や海外のゲーマーたちの心を打ち、世界中に熱狂的なファンを生み出したのだ。海外のプレイヤーと縁を結んだユーザーも知っている。ファイブ・スター・ストーリーズの原作者とチャットで交流を深めるような非日常な体験すらも一般人に与えている。スクリーンショットを公式のBBSで共有して評価をし合う、今で言うところのSNSの体験すらも与えている。これを奇跡と呼ばずして何と呼ぶのか。「FF11もそうだったよ」とのたまうならば、日本のネトゲが世界を動かしたという奇跡が同時に起こったこの歴史をなにゆえ1つに絞ろうとするか。この奇跡を振り返らずして、何が新進気鋭のゲームクリエイターか。何がオンラインゲーム最大手か。何がプロゲーマーか。世界に愛されるための秘訣がここ(PSO)に詰まっているんだぞ。知れよ。

# これからの心構え

私は長年PSOと付き合ってきて、作品に注ぎ込まれた多くのクリエイターの魂を見てきた。イラスト、CG、プログラム、UI、レベルデザイン、ストーリー、どれを取っても学びになることばかりだ。世の中では拝金主義に傾いて品質をあっという間にダメにしてしまう企業なり開発者なりが多い印象だが、それは生活の不安というキーワードで心が豊かでないユーザーと開発者が横に繋がっているからだと踏んでいる。彼らからは心の豊かな日本の丁寧なゲームは「それって金にならないでしょ(俺たちの不安を解消できないじゃん)」というポカンとするような言葉が返ってくることが多く、彼らには日本のゲームの丁寧な品質のスピリットは届かない。

ゲームは金儲けができるだけで金儲け専門の道具ではない。人生の余暇をより豊かに過ごすための「遊び」だ。ゲームクリエイターはどれだけ金を稼いだとしても、「遊び」が作れなければゲームクリエイターとして三流だ。三流が集まれば、その現場は傷の舐め合いと一流への嫉み、やっかみだけの落ちこぼれ官僚のような社会性になってしまう。私は拝金主義が広まるのは百歩譲っても、ゲーム業界が三流の集まりになること、三流が談合して人気があるように見せかけた駄作ばかりになることだけは受け入れられない。それが意味するところは、落ちこぼれ同士の醜い蹴落とし合いだ。そんな、糞面白くないハメ技上等のリアル乱闘ゲームを歴戦の本物のゲーマー達に見せるな。そんな哀れな醜態を晒すぐらいならゲームクリエイターなんて今すぐやめちまえ。

私がPSOに触れて学んだことは、どうやら多くのユーザーやクリエイターにとって”知らないこと”にあたるらしい。私は私の目的として、今後「日本のゲームを作っていくよ」っていう夢にあふれた子供たちや若手たちが迷わないよう、批判されようとも大切なことを書き残すようにしようと思う。

日本のオンラインゲームはまだ未成熟なのではない。これからなのではない。技術力がないのではない。ノウハウがないのではない。資金力やコネクションがないのではない。プラットフォームがないわけではない。最初に完成されていて、それを全員で無視しているだけなのだ。ちゃんと見よう。日本のゲームのことを。

2021/10/21 … 誤字と明らかに変な日本語になっていた箇所を修正

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