犬と人
これは好きな話だと、そう言い置いて書き出せば、この過敏なご時世、分からぬ人も多かれど、書き記すというような心で書くものである。
ある人の爺さまは、犬が好きな爺さまで、犬の肉も好きならば、犬飼ながら犬を食うという人であった。
山の暮らし、犬は猟にも必要で、けれど可愛がってたその犬も、年を取れば役に立たぬ、ある日、爺さんは手に棒を持ち、その可愛い犬を呼び寄せて、殴って殺して肉にした。
己を信じて来る犬の、頭を棒で殴るとき、そのときにはさすがに涙が出たと、爺さんはその後、事あるごとに語ったという。
人という、肉を食う動物の根源の、悲哀が真に込められたこの実話、心揺れるものであるが、やはり分からぬ人も多かろう、分からせることも無理だろう、無論、それを誇ることもしなければ、上等だとも思わない、ただいまの人の言う「命」なら、爺さんのように等身大のものでなく、実体のない巨大な何か、その何もない空間を少しでも、埋めて欲しいと願ってはいる。
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