【リライト】逃げていた。だけど幸せだった。 #クリスマス金曜トワイライト
僕の時間はあの日あの場所で止まっていたけど、今日やっと動き出したよ。
約束していた24色の色鉛筆を君にやっと渡せた。
私の時間もあの日あの場所で止まっていたけど、今日やっと動き出した。
約束した24色の色鉛筆を君からやっと受け取ったnのだもの。
僕はあの日から色々と苦労したけど、今は仕事を楽しくしているし、食べるものにも困らない生活を送っているし、お気に入りの新しい赤い自転車にも乗っているし、家族も持てるようになった。
私もあの日から色々と苦労したけど、今は好きな絵を描いてるし、食べるものにも困らない生活を送っているし、自転車は苦手だからあまり乗らないけれど、私も家族も持てて、かわいい娘にも恵まれた。
僕は、ずっと見てみたい絵があって探していた、ずっと。
本当に偶然なんだけど、温かい色合いとタッチの画が載っている個展のお知らせのポストカードにずっと見てみたいと思っていた絵が載っていた。
私は、ずっと見て欲しい絵があって描き続けてきた、ずっと。
やっと個展が出来るところまできたよ、この個展のお知らせのポストカードが届くといいな。
白黒だった僕の中のその絵が完成したようで、ほんとに嬉しくてちゃんと見たかったけど、どうしても涙が止まらなくて、ちゃんと見ることが出来なかった。
ポストカードの彼女は優しく、そしてすこし悲しそうな表情だった。
僕と彼女は小学生のころ、同じ町に住んでいた。
僕は大嫌いな母親と住んでいた狭苦しい団地から逃げたくて自転車で公園に行くところだった。こんな時に限って、空は僕の気持ちとは正反対でどこまでも澄み切っていて青かった。
ガシャーン。
青い空に突然鳴り響いた白く鋭くガラスが割れ、飛び散る音。そして包丁を持って喚きながら追ってくる大人の女性から逃げるように団地から逃げ出てきたのが彼女だった、裸足だし、手には豚の貯金箱だけ。
僕は「早く後ろに乗れ!」と言ったときに、僕の中で彼女を乗せて逃げようって決まった。
一心不乱に、前だけ見て、日が暮れるまで海岸線の道を北にこぎつづけた。
夜になってることに気付いたから、近くにあった公園の遊具の中で寄り添った、すごく寒かったし、この先がとても怖かった。
僕にあるプランはばあちゃんちに行くことだけ。
翌日彼女の靴をホームセンターで買って、北へ北へとこぎつづけた。
僕を動かしていたのは後ろで座る彼女の体温だった。
何日も何日もこぎつづけた。夜は廃屋や漁師小屋で夜を明かした。
彼女とは色んな話をしたのだけれど、音声のない映像のように彼女が何を言っているのか僕にはも思い出せない。
でも、ひとつだけ鮮明に覚えていることがある。彼女が絵を描きたいなぁと言いだして、砂浜に流木で絵を描き始めたときのことだ。
彼女は大きな家を描いた。こんな家だったら温かいし、お風呂もあるし、楽しいよねと小さい声で言った。
僕はなんとも言えずに、お腹減ったねと変な返しをしたら、大きな家の台所でカレーの絵を描いてくれて、一緒にたべた。
ばあちゃんちにいったらさ、24色の鉛筆を買ってあげるからまた絵を描いてよ。約束だよ。うん。
僕は彼女と一緒に居られたらいいなぁと思ったのを今も覚えている。
この自転車で逃げ続けるのが一生続くなんて思ってなかったけど、少しでも長く彼女と一緒にこの赤い自転車で逃げていたかった。
翌日彼女は警察に保護された。
僕がフードコートのトイレに行っている間に彼女は数人の警官に囲まれていた。僕は遠くから見ていることしかできなかった。
あなたを助けられなかった、ごめん
空腹で、弱く、情けなく、頼りない僕は彼女をどうにかしてまた自転車の後ろに乗せて走りだす意気地もなかった。
彼女が警官に連れていかれるときに、彼女が振り返って僕のことを探していた姿が今も刺さっている。あの時、彼女は何かを言っていたようだったけど、僕は耳をふさいで強く目をつぶるしかできなかった。
眼を開けたときには、僕とは関係のない日常が目の前にあった。
僕はそれからば数週間かけて。ばあちゃんちにに辿り着いた。
あれから何十年も経ってから、彼女の絵にやっと出会えて、ずっと止まったままの時間が動き出した気がした。
優しくしてくれてありがとね、あたしなんかに。
彼女が警官に連れていかれるときに、多分こう言っていたんじゃないかなぁって思う。僕も彼女に対して優しくしてくれてありがとうって思っていたから、彼女にも同じことを言って欲しいだけかもしれないけど。
今日僕は、初任給で彼女のために買った古びた24色の色鉛筆を彼女の個展で渡すことができた。いまだに弱く、情けなく、頼りなく、意気地もないけど、やっと大人になれた気がする。
今日私は古びた24色の色鉛筆をあなたから受け取った。いまだに弱く、情けなく、頼りなく、意気地もないけど、やっと大人になれた気がする。
私の中ででやっと絵が完成した。ほんとに嬉しくてちゃんと見たかったけど、どうしても涙が止まらなくて、古びた色鉛筆をちゃんと見ることが出来ないよ。
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以下の池松さんのnoteをリライトしました。
追記
<なぜその作品をリライトに選んだのか?>
4本の中で私の中で一番エモかったからです。言葉に出来ない思いは強烈に心の奥に残るもので、その思いから解放される物語にしたかったし、原文を読んだときに映画のように色々な映像が流れ込んできたのがこの作品でした。苦労した2人には希望がある終わり方を迎えて欲しかった。
<どこにフォーカスしてリライトしたのか?>
心焦がすような強烈な体験がその後の二人に影響を与えているものの、二人の中には共通の思いがしっかりと残っているように書きたかった。
リライトって本当に楽しい!
この記事を読んでいただいたみなさまへ 本当にありがとうございます! 感想とか教えて貰えると嬉しいです(^-^)