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あの頃に戻りたい、あの頃っていつですか?

「お母さんがもしその年齢や年代に戻れるとしたら、幾つに戻りたい?」

85歳の母に尋ねた。

コロナ禍以来、母とは週に1回、LINEのビデオチャットで会話をしている。確か、この質問は、母の誕生日前後にしたと思う。自分も偶に、考える質問だ。 いわゆる、”あの頃に戻りたい”という感情が沸き起こるのは、どの時代なのだろう?という興味と言っても良いかもしれない。多くは、自分が一番キラキラと輝いていた頃であろう。人によっては、高校時代、大学時代、もしくは、20代前半と、自分の容姿、体力、知力の衰えを感じず、明るい未来が待っていると信じられる年齢ではないだろうか。

だが、母は、「そうねぇ、60代かな。」と返答した。

「え?60代?お母さんのことだから、20歳前半っていうと思った。だって、モデル学校みたいなところに行ってたぐらい美容やファッションに興味あって、実際、お母さんの昔の写真を見る限り、きっとモテていたと思うし、楽しかったんじゃない?」

母の意外な答えに驚き、率直に尋ねた。ビデオ越しの母は、少し遠くを見つめ、思い出すような表情で語り始めた。

モデルポーズの母

「そうね、楽しかったけど、悩みとか、不安とかも沢山あって、苦しいから、戻りたいとは思わないわね。そんな若いからこその悩みとは違った子育ての悩みが30代、40代はあったし、50代はまだあなた達への金銭的援助や老後資金とかお金の不安に追われていた感じよね。でも、その頃に、おばあちゃんから、旅館の経営を任せられたお陰で、なんとか乗り切れたし、旅館の経営自体、お母さんに向いていたのね。大変だったけど、やり甲斐もあったし、楽しかったわ。時代も助けてくれたしね。そして、60代になったら、あなた達はもう独立してくれたし、旅館もうまくいっていたし、ああ、ようやく自分のことだけ考えれば良い歳になったわって、気がしたわ。60代はまだまだ体力もあるから、色んなところに旅行も行けたし、趣味にも打ち込めた。そう思うと、戻りたいのは60代ね。」

なるほどね。確かに”経験者は語る”、と言わざる負えない納得の説明だ。
そう言われてみれば、自分も若い頃を思い出すと、黒歴史と感じるぐらい無知で無謀で浅はかで、なのに自分本位に勝手に悩みまくって、苦しみまくって、辛くて仕方なかったな、と思い出す。自分の顔、スタイルに、いつも自分で何らかケチをつけて、落ち込んだり、はたまた、他人に褒められたら有頂天になって、勘違いしたりと、いやはや、ジェットコースターのような感情の浮き沈みに、どんだけ自分が振り回されたことか。若い頃は出会う友達も多いけど、その分の煩わしさも多い。それが、30代前ぐらいで、一旦、落ち着くが、今度は、結婚、出産という女性特有の周りからのプレッシャーが始まる。

40歳を超えるとそれはなくなるが、でも、老化へのあらがいという悩みが生まれる。
それも、50代になると、もう開き直りな気持ちになっていて、ある意味、最近は楽だな、と感じる。それが、60代になると、更に、楽になるのか。。。
それは楽しみだな・・・。

ビデオチャットを終え、母との会話をもう一度振り返ってみた。
その時、気づいた。

そういえば、私が30代後半というか、まもなく40歳になるって時、母に言われた言葉。あの頃、私はまた独身だった。(20代で一度結婚しているので、”まだ”ではなく、”また”ね)もう、恋愛するなんてことないだろうなぁ。きっと、一生独り身で生きていくんだろうなぁ、とうっすらと感じていて、まあ、それはそれで良いかな、と思っていたが、一抹の寂しさもあったと思う。そんな私に母は言ったのだ。

「40代は良いわよ。30代までとは違う恋愛が出来るわよ。」と。

一緒に人生の後半を過ごそうと思える相手との恋愛が出来る年代だそうだ。

「へー、そうかねぇ。それなら、それで楽しみだわ。」と半信半疑で、応えていたけど、内心、ちょっと40になるのが楽しみに感じていたっけ。

もしかしたら、母は私が次に進むステージが、悪くないわよって示唆してくれているのだろうか?私が絶望しないで、楽しく生きられるように。

いつもトンチンカンな言動で、周りを苛立たせる母なのだが、偶に、びっくりするぐらい神がかった発言をする。

実は深遠な人?いやー、ないわ。大抵、本人、自分の言ったこと、忘れているし。

でも、、、、もしや、何気に、私は母の策略に見事に嵌った人生を歩んでいるのかもしれない。。。

だって、実際、40代で人生の後半を過ごす相方と出会い、結婚したし。。。

ああ、恐ろしや、恐ろしや、母親とはかくなるものか。
でも、産んでくれて、ありがとう。
お陰様で、私は楽しい人生を生きているよ。
そんな風に思える、今日は、私の誕生日。









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