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新米フォスター奮闘記3:マライア⑤

「セントラルパークへ連れて行く。」

レスキューのインストラクションを破ることになるけど、この仔にはそれが必要な気がする。きっと、緑の中の芝生や土の上なら、きっとこの仔も安心して歩くはず。

私の取り憑かれた様な説得に、相方も仕方なく付き合うことになった。

うちからセントラルパークまで800メートル程度の道のりを、私が前を歩き、その後を相方とリーシュをつけたマライアがついてくる様にした。立ち止まりそうになるマライアに声をかけ、褒めちぎり、何とかかんとかセントラルパークに到着。芝生の上、土の上を歩くマライアの足取りが軽く感じる。リーシュを嫌がる様子もなくなった。

アパートに戻り、レスキューに事情を伝え、他にフォスターを代わってくれる人がいたら助かると連絡を入れた。相方にとってもマライアにとっても、そして、私にとってもその選択が最善だと判断したからだ。一番の理由は、「鳴き声」。上手にマネージ出来るまでどれぐらいの期間かかるか分からない。自分たちが”アパート追い出されるかも”と恐怖に追い込まれた時、この仔にあたらないとも限らない。それだけは絶対にしてはいけない。

自分たちはフォスター失格だ。それでいい、最悪な事態になるよりずっと。

レスキューは、その後、すごい勢いで代わりのフォスターを探してくれて、翌日月曜日の夕方に新しいフォスターさんにマライアを届けることが決まった。

🐕

翌朝、相方が出勤すると同時に、マライアを連れて、セントラルパークへ向かった。ラン友でありワン友のY実さんと愛犬ココちゃんと待ち合わせをしていた。レスキューの規定では、他のワンコとの接触も数週間禁じらているけど、マライアはすべてのワクチン摂取も済んでいるし、元々、この仔は6匹ぐらいの兄弟姉妹と一緒に育ってきた。急にその仔達と離され、全然、知らない車がビュンビュン通る大都会に連れて来られ、そりゃ、アジャストが大変だろう。せめて、自然がいっぱいの場所で、他のワンコと触れ合わせてあげたい。少しは緊張を解いてあげたい。

それと同時に、もう、私はフォスター失格なんだから、これ以上、失格もないしね。最後の半日ぐらい自分がやれることをこの仔にやってあげよう。そんな気持ちだった。

ココちゃんがY実さんに連れられてやってきた。ココちゃんは、私のことが大好きだ。いつも、見つけると飛びついてくる。

だけど、今日は、マライアがいる。

”何、この仔?なんで、私の黒リスといるの???”

と訝しさ満点な戸惑いをしつつ、それでも、人も犬も大好きのココちゃんは、マライアと遊んでくれる。マライアも負けずと戯れついてる。マライアの2倍の大きさのココちゃんにとって、マライアを転がすなんて容易なこと。あの私たちを苦しめた甘噛みも、ココちゃん相手では全く歯が立たない。逆に反撃される始末。

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戯れて、遊んで、歩いて、草の匂いを嗅いで、そよ風を感じて、少しベンチで休んで、そして、また歩いて。そんな3時間を過ごしたマライアは、午後すっかり良い仔になっていた。お座りだけじゃなく、”伏せ”もそして、”お手入れ”もほぼマスターした。

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”Tired dog is good dog(疲れたワンコは良いワンコ)”

という言葉がある様に、ワンコは疲れているぐらいが、家で問題行動をしないのだ。

ようやく満足気な顔でぐっすり眠るマライアを見れた。嬉しいなぁ。

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でも、ごめんね、昨日にそれが出来なくって。叱ってばかりでごめんね。

次のフォスターさんはどうやら経験豊かな人らしい。きっと、私たち以上にマライアを理解し、良い方向に導いてくれるはず。

夕方、会社を早退してきた相方と一緒にマライアを引き受けてくれたフォスターさんに引き渡す。

地面に置いたマライアが、すぐに私の脚の間に隠れる。心が痛む。

だが、心を鬼にして、リーシュを新しいフォスターさんに渡し、バイバイをして、立ち去った。

マライアから見えなくなるまで、振り向かず歩いた。

”マライアは、何も悪くないよ。何一つ悪くない。悪いのは、自分たちの力不足を分かっていなかった私たちだよ。”

と、ずっと心の中で唱えながら。

(おわり)




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