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エッセイ:ぜんぶ

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愛犬の話、ニューヨークの話、ランニングの話などなど、その時々の気になったことをつらづらと書いています。
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#セントラルパークランナーズ

「ショートストーリー」:空の森⑩

妊娠したからなのか、最近、私はほぼ女性だ。 偶に、仕事中、ボーッと空を見上げた時などに、”僕”が頭をもたげる瞬間があるぐらい。そういえば、”ムラムラも無くなったなぁ、これも女性ホルモンの作用だろうか?”、と、まるで他人事の様に自分を観察する。 (最初から読みたい方はこちらから↓)  もう1週間待って、無数(かずなし)から何も言ってこなければ、1ヶ月後のアパートリースの更新を機に、私たちのこの関係も終わりにしようと告げるつもりだった。無数の収入なら、ここの家賃を一人で支払うこ

「ショートストーリー」:空の森⑦

平穏な日々というものは、必ず破られるものだ。 (最初から読みたい方はこちらから↓) それがいつくるか、いつくるか、とビクビク過ごしている人などほぼいないだろう。僕もその多数派に属していたというわけだ。 「あのさ、無数(かずなし)、私、どうやら妊娠したみたい。」 英語だと、Out of blue、日本語だと晴天の霹靂、全く違う人種から発生した言語なのに、その言葉が生まれた発想は似てるなぁ、なんて、全く違うことを思い浮かべる僕の脳は、どうやら、現実逃避をしているらしい。

「ショートストーリー」:空の森➅

ランニングから戻ってきた無数(かずなし)は、妙にスッキリした顔をしている。無数にとって、ランニングはヒーリングの役目も果たしている様だ。(最初から読みたい方はこちらから↓) 「ランチにパスタ茹でるけど、食べる?」 キッチンで鍋に水を入れながら聞くと、部屋から、「イエッス!多めで。」と元気な返事が返ってきた。 茹でている間に、ニンニクを刻み、玉ねぎを薄切りにし、鍋を取り出し、鷹の爪と一緒にオリーブオイルで炒める。途中、パンチェッタも投入し、お気に入りのトマトソースをドバッ

「小説」セントラルパークランナーズ(26歳・X性)#2

「で、どうだったのよ。」 アパートに戻るなり、素良(そら)が聞いてきた。素良は、一緒に生活する友達のようなパートナーのような、一言で言えば、世界で一番心地良い関係者だ。2年前に知り合い、ああ、こんな生き方が出来るんだ、と感銘を受け、生まれて初めて、素の自分を見せられるようになった相手。 そう、僕は、最近はカテゴリー分けされるようになった、アロマンティック・アセクシャル(他人に恋愛感情も性的感情も抱かないタイプ)ってやつらしいく、素良と知り合ってそれを自覚した。そんな素良は、

「小説」セントラルパークランナーズ(26歳・X性)#1

あれから(が気になる方は↓こちらから)一馬さんとよくセントラルパークで遭遇し、チャットランをするようになった。 一馬さんは70歳だそうだ。実はそう聞いても僕はピンとこない。55歳の母よりは歳をとっていて、83歳の祖母よりは若いのは分かるけど、父とは僕が9歳の頃に母と離婚して以来会っていないし、母方の祖父は高齢者になる前に亡くなったから、身近なかなり歳の離れた男性とのの接触が人生でかなり少なく、一般的な高齢男性がイマイチ分からない。だけど、そんな僕でも分かる。一馬さんは若い。

「小説」セントラルパークランナーズ(55歳・女性)

私の羽は折れてしまったのかしら。 5年程前までは、それこそ、”飛ぶように走る”と言われていたのに。 50歳を超えた途端、急に自分の身体が自分の身体じゃなくなったように感じ始めた。世間一般な言い方では、”更年期障害”というものなのだろう。ホットフラッシュ、倦怠感は日常的にあり、それはそれで辛いが、ランナーとして、一番キツいのは、走っている間の体温調節がうまくできなくなったことだ。 大して暑くもない気温のレースでも、1マイルを過ぎた頃には、体温が一気に上昇し、息が上がる。寒い時

「小説」セントラルパークランナーズ(45歳・女性)

あら、4時間切っちゃった。 夫に、”運試しに申し込んでみたら”と唆され、半分冗談で申し込んだNYCマラソンの抽選。幸か不幸か当たってしまい、4月から初マラソン挑戦・完走を目指して、それなりに練習してきた。でも、まさか、本当に初マラソンで4時間を切れるなんて思っていなかったから、ちょっとびっくりした。 でも、私よりずっとびっくりというか驚愕したのは、夫の方だ。夫は走り始めて3年目にサブフォー(マラソン4時間切り)を達成し、それをいたく自慢していた。専業主婦で夫から世間知らず

「小説」セントラルパークランナーズ(43歳・男性)

彼のガッツポーズを喜べない自分がいた。 半年前まで俺が彼にランニングなるものを教えていた。彼は、職場同様、俺のアドバイスに素直に従い、更に自分なりの工夫を加え、どんどん進化していった。俺の8つ下の会社の後輩・八代は35歳。奴の打てば響く肉体が羨ましい。そして、そんな風に感じてしまう自分が受け入れ難い。 「お、八代、やったな。遂に10キロレース、45分切りか。走り始めて、まだ、半年ですごい成長じゃないか。八代はランニングの才能があるから、もっと伸びるよ。」 だから、敢えて