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エッセイ:ぜんぶ

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愛犬の話、ニューヨークの話、ランニングの話などなど、その時々の気になったことをつらづらと書いています。
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2022年10月の記事一覧

「ショートストーリー」:空の森⑩

妊娠したからなのか、最近、私はほぼ女性だ。 偶に、仕事中、ボーッと空を見上げた時などに、”僕”が頭をもたげる瞬間があるぐらい。そういえば、”ムラムラも無くなったなぁ、これも女性ホルモンの作用だろうか?”、と、まるで他人事の様に自分を観察する。 (最初から読みたい方はこちらから↓)  もう1週間待って、無数(かずなし)から何も言ってこなければ、1ヶ月後のアパートリースの更新を機に、私たちのこの関係も終わりにしようと告げるつもりだった。無数の収入なら、ここの家賃を一人で支払うこ

「ショートストーリー」:空の森⑦

平穏な日々というものは、必ず破られるものだ。 (最初から読みたい方はこちらから↓) それがいつくるか、いつくるか、とビクビク過ごしている人などほぼいないだろう。僕もその多数派に属していたというわけだ。 「あのさ、無数(かずなし)、私、どうやら妊娠したみたい。」 英語だと、Out of blue、日本語だと晴天の霹靂、全く違う人種から発生した言語なのに、その言葉が生まれた発想は似てるなぁ、なんて、全く違うことを思い浮かべる僕の脳は、どうやら、現実逃避をしているらしい。

「ショートストーリー」:空の森➅

ランニングから戻ってきた無数(かずなし)は、妙にスッキリした顔をしている。無数にとって、ランニングはヒーリングの役目も果たしている様だ。(最初から読みたい方はこちらから↓) 「ランチにパスタ茹でるけど、食べる?」 キッチンで鍋に水を入れながら聞くと、部屋から、「イエッス!多めで。」と元気な返事が返ってきた。 茹でている間に、ニンニクを刻み、玉ねぎを薄切りにし、鍋を取り出し、鷹の爪と一緒にオリーブオイルで炒める。途中、パンチェッタも投入し、お気に入りのトマトソースをドバッ

わたしのレスキュードッグ

ミルキーが死んだ。 私がニューヨークに住み始め、10年経ち、生活が安定した時に飼う決断をした初代わんこ。マンハッタンの狭いアパートで、シングルマザーで育てられる様、飼いたい犬ではなく、飼える犬として、ロングヘアーチワワのミルキーをブリーダーから買った。そのミルキーと過ごした13年と10ヶ月が、2016年12月に終わった。 その2年前、私は乳がんを発症した。会社を半年間休職し、治療に専念することになったが、長い時間アパートのベッドで過ごす私の側には、常にミルキーがいた。そんな