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エッセイ:ぜんぶ

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愛犬の話、ニューヨークの話、ランニングの話などなど、その時々の気になったことをつらづらと書いています。
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2022年9月の記事一覧

「ショートストーリー」:空の森①

無数が何やら安堵した様な顔で自分の部屋に戻っていったので、私は、テーブルの上に置いてあるiPhoneを取ろうと左手を伸ばした。 (無数君の話が気になる方はこちらから↓) その拍子に、右手にあった猫じゃらしがひばりに奪われた。美空ひばりに似たこの猫は8歳という、そろそろシニア猫に差し掛かったはずだが、非常ににすばしっこい。数週間前にアダプトした時は、”あたしゃ、人生に何の期待もしてませんよ。”といった風に、ケージの中で口をへの字にして身動きひとつせず、どっしりと構えていたとい

「小説」セントラルパークランナーズ(26歳・X性)#2

「で、どうだったのよ。」 アパートに戻るなり、素良(そら)が聞いてきた。素良は、一緒に生活する友達のようなパートナーのような、一言で言えば、世界で一番心地良い関係者だ。2年前に知り合い、ああ、こんな生き方が出来るんだ、と感銘を受け、生まれて初めて、素の自分を見せられるようになった相手。 そう、僕は、最近はカテゴリー分けされるようになった、アロマンティック・アセクシャル(他人に恋愛感情も性的感情も抱かないタイプ)ってやつらしいく、素良と知り合ってそれを自覚した。そんな素良は、

「小説」セントラルパークランナーズ(26歳・X性)#1

あれから(が気になる方は↓こちらから)一馬さんとよくセントラルパークで遭遇し、チャットランをするようになった。 一馬さんは70歳だそうだ。実はそう聞いても僕はピンとこない。55歳の母よりは歳をとっていて、83歳の祖母よりは若いのは分かるけど、父とは僕が9歳の頃に母と離婚して以来会っていないし、母方の祖父は高齢者になる前に亡くなったから、身近なかなり歳の離れた男性とのの接触が人生でかなり少なく、一般的な高齢男性がイマイチ分からない。だけど、そんな僕でも分かる。一馬さんは若い。