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笑わない子?!

その少女に初めて出会ったのは、10年以上前のことです。某有名私立小学校に通っていたと思います。
「他の子供さんとは別に、学校の勉強をみていただけますか?」母親は何としても成績を上げたいという一心だったのでしょう。


私は、彼女の学校のレベルを考えて、他の生徒と一緒にすることはできないだろうと判断して、個別に対応することにしました。
決してできない生徒ではなかったのですが、テストはほとんど20点ぐらいだったと思います。
加えて有名中学入試問題のようなプリントの山の宿題、そしてまたテスト・・・。

そんな日々の中、自信のかけらもなくなってしまい、残ったのは担任の先生から、いや母親からの何も勉強してないというレッテルでした。
おちこぼれ、無口になり、うなずくことしかできなくなってしまいました。

何度も母親をよんで、学校が本人に合ってないということを話しました。このままでは勉強も学校も、何もかもが嫌になってしまうのでは・・・という事も。

しかしその母親は聞く耳を持たず、1年、2年と時間が経っていきました。
分数や少数が20近くならんだ計算問題が1日何十題も宿題に出され、何回やっても、答えがあわず、半泣きの状態で何度もやり直しながらという日々でした。

やがて小学校6年生の秋になりました。母親から電話があり、小学校の担任から、このままでは附属の中学に進むことができないので自らで私立中学を受験するか、地元の公立に進学させてくださいと言われたとのことでした。言葉を失うというか、目の前が真っ白になる思いだったことを覚えています。
ここまで来て、やはりこういうものなのだと現実を痛感しました。


12月、本人と母親と私の3人で、彼女に合う学校を探すために東京の私立中学を回りました。

3校目ぐらいだった思います。
B大学付属中学校のK先生の話の中に、この学校は勉強ができるということだけでなく、普段の生活や部活など一生懸命な人を評価して賞を出しますという言葉がありました。
塾に戻ると、本人がはじめて自分の気持ちであの学校に行きたいと言い出したのです。

それからなんと残り一ヶ月半の入試勉強が始りました。
この2年間には見たことのないような生き生きとした時間でした。きっと、どうしても入学したいという思いが幼い少女を頑張らせたのだと思います。


合格発表の当日私は、まるでライオンのように職員室を行ったりきたりで・・・・
その子が発表から戻ってきてそして初めて笑ったのです。

「先生、合格しました!」
と泣きながら・・・・・
  

その母親は「この子のこんな顔を見たことがありません。私はどこか間違っていたと思います。」
「あの小学校は、この子には合ってなかったということが今わかりました。」

そして、最後に「先生に出会えなければ、この子の人生はめちゃめちゃになったと思います。」

「本当に、本当に感謝しています。ありがとうございました。」
こんな風に言ってくれました。


私は特別な事をしたつもりはありません。
子どもでも大人でも、どんな人でも「笑顔をもって生きること」が一番大事なことではないでしょうか?


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