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議会発言ではないのに懲罰対象?

ー情報公開請求を使って行政の問題点を解明する③

​草津町の町議失職に疑問を抱く

『リコール成立で群馬県草津町議が失職』との報道(注1)を見て驚いた。なぜなら、以前に除名処分を巡って草津町議会と新井議員の争いが群馬県に持ち込まれ、群馬県が議会の除名処分を取り消す判断をした記事を見たからだ(注2)。群馬県という第三者が議員除名の取り消し判断をしたのに、リコールで議員失職させるとは、ただごとではないと考えて調査を開始した。
 町議会議員リコールについてのマスコミ報道もあるから、「草津町議会 リコール」で検索すれば情報は得られるとは思うが、具体的な資料を添付しているかは不明だ。
 それなら草津町と草津町議会WEBを確認し、時系列を把握したほうが早い。不明な点は電話などで確認し、情報公開請求をした上で判断しようと考えた。
 草津町WEBに議会の項目があり、クリックすると「草津町議会だよりHarmony」が出てくる。令和2年(2020年)4月3日付臨時号(注3)に3月までの主な流れが記載されていた。

2019年11月2日、電子書籍『草津温泉 漆黒の䦣』(飯塚怜児著)発行。同年12月2日、町長不信任決議案が提出されるも否決。電子書籍で新井氏が語った内容が地方自治法、会議規則に反するとして新井議員の「除名処分」を求める懲罰動議が可決成立。12月9日に新井議員が群馬県知事に対し除名処分を不服として審査を申し立て。12月10日新井議員群馬県知事に審決が出るまでの除名処分の執行停止申し立て。2020年2月7日群馬県が審決処分が出るまでの処分一時停止を決定し、草津町議会に通知。2月10日、群馬県の通知を受けて草津町議会が新井氏復職扱いに。3月2日全員協議会。その際の発言が議会の冒涜にあたるとして議員辞職勧告決議。新井氏が応じないため懲罰。内容は出席停止。
 この経緯を見ただけで疑問がわいた。電子書籍の著者と新井氏を相手に批判された町長が告訴し、その判決が出ていないうちに、第三者の草津町議会が電子書籍の記載が虚偽であるとして議論するのは拙速だと思うし、電子書籍の中身とこれに関する議会でのやりとりに懲罰を2回も行って1回目は除名、2回目は辞職勧告決議。そして辞職勧告決議に応じないから出席停止処分。このようなやり方は、一議員に対する処分として妥当なのか。

草津町と町議会に情報公開請求

 このあたりを調べるには、やはり情報公開請求が必要だ。草津町議会のサイトで審議の録画をみることはできるが、議事録は公開されていない。正式文書扱いとなるのは議事録だろうから(注4)議事録も情報公開して確認。群馬県がどう判断したかも重要だから、その部分も請求しよう。そしてこれ以降のリコール関係書類も押さえる必要があると考え、草津町に電話をかけ、時系列について記載ない部分の確認をした上で2020年12月12日に草津町議会に15点、草津町に2点の情報公開請求を行った。草津町議会へは以下の通り。
1)2019年12月2日に提出された町長不信任決議案の全文及び決裁原義。2)2019年12月2日に開催された全員協議会の設置動議及びその議事録。3)2019年12月2日に提出された新井議員に対する懲罰動議及び懲罰特別委員会設置原義及び懲罰特別委員会の議事録4)2019年12月9日に新井議員から群馬県に出された除名処分の取り消しを求める審決申請書5)2019年12月10日に新井議員から群馬県に出された除名処分の執行停止書。6)2019年12月18日に草津町議会として群馬県に出した処分の一時停止を認めないよう求める意見書及び意見書を出す際の決定原義及び意見書を出すに当たって検討した議事内容が分かる文書。7)2020年2月7日に群馬県から審決が出るまでは処分の一時停止を決定した際の通知書及び群馬県からの通知を受けて草津町議会で検討した際の議事録及び配付資料。8)2020年2月10日、群馬県から審決が出るまで処分の一時停止との判断を受けて新井議員を復職扱いにした告示文及びその原義。9)2020年3月2日に開催された全員協議会の設置動議及びその議事録。10)2020年3月2日に提出された新井議員に対する懲罰動議及び懲罰特別委員会設置原義及び懲罰特別委員会の議事録。11)2020年3月4日付新井議員に対する議員勧告決議の全文及び新井議員に対する懲罰動議(出席停止)の全文。12)松島三郎氏及び成沢富夫氏から提出された『議員除名問題についての要望書』全文及び付託された議会運営委員会での検討資料及び議事録。13)2020年8月に群馬県から新井議員の除名を違法と認め取り消す審決書の全文およびそれを受けて草津町議会で検討した資料及び議事録及び新井議員に関する告示文及びその原義。14)新井議員の町内での居住実態を巡っての資格審査特別委員会の設置動議及び提出資料及び議事録及び解散に関する文書。15)2020年11月16日に告示された新井議員に対する解職請求の署名簿(署名人部分は除く)、直接請求代表者が誰か分かる文書。
 草津町に対しては1)新井議員に対する解職請求に関するポスター及び住民投票に関するポスターを草津町の施設に掲示することを求めた申請書及び許可書。2)上記ポスターおよび上記ポスターを草津町の施設に掲示することに関しての議事内容が分かる文書を請求した。

20210213_草津町議会議員新井祥子解職請求者署名簿 (4)_PAGE0001

(新井祥子氏解職署名につけられた解職請求の要旨)

議事録がまさかの「非開示」


 その後、草津町議会及び草津町から12月25日付で開示決定通知書が送られてきた。請求件数が多いので開示決定通知書が送られてくるのは年明けになると予想していたので、年内に開示決定通知書を送る姿勢はすばらしいと思ったが、中身を見て驚いた。

 草津町からは「公共施設にポスターを掲示することについて」のみが開示された。これは、予想の範囲だったが、問題は草津町議会である。議事録と群馬県の審決諸関係が「非開示」とされていたのだ。結局、町議会で開示されたのは以下5点の文書である。
 1)2019年11月29日付『草津町町長の不信任決議案』及び『理由書』。2)2019年12月2日付『新井祥子議員に対する懲罰動議』3)2020年3月2日付『新井祥子議員に対する懲罰動議』4)2020年3月2日付『「新井祥子議員に対する議員辞職勧告決議」議案提出について』及び『新井祥子議員に対する辞職勧告決議』及び『提案理由』。選挙管理委員会扱いとして5)2020年9月30日付『草津町議会議員新井祥子解職請求者著名簿』及び解職請求の要旨、生年月日と住所の一部を黒塗りで請求代表者及び住所の一部が黒塗りの請求代表者証明書。


 議事録の非開示理由として「複写及び電磁的記録公開はできませんので閲覧として下さい」との記載。議会議事録は公的文書であり、多くの自治体が公式WEBで公開している。私の議事録の請求期間は2019年から2020年3月だから議事録は文字おこしが済んで完成しているはず。それなのに草津町で閲覧しないと確認できないとは。閲覧する際に写真を撮れるのかと確認したら筆写のみという返事だった。筆写では時間がかかる上、公式文書にならないから判断材料として使うことは断念した。
 群馬県の審決書関係の非開示理由として、「他の地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」とする草津町情報公開条例13条5号(注5)を根拠とした。しかしながら私の開示請求から決定通知まで13日しかなく、他の地方公共団体、すなわち群馬県に対し「情報公開請求が来ているが開示して良いか」という第三者照会せず開示決定の判断をしている可能性が濃厚だと思われた。

群馬県にも情報公開を請求


 不服審査請求では判断が出るのはいつになるか分からないので、群馬県に対し情報公開請求をすることにした。金と二度手間だが仕方がない。
 群馬県に対し、2020年12月28日に3点情報公開請求をした。1)群馬県が草津町に出した審決が出るまでの処分一時停止を決定した審決書及び新井議員の除名を認め取り消しを求める審決書の全文。2)上記2つの審決を出す際の検討資料及び議事録。3)草津町から群馬県に対し審決書の公開を求める情報公開請求があった旨の問い合わせ文及び群馬県の回答文。
 この請求に対し、2021年1月12日付で開示決定がされた。3)は非開示決定。理由は「草津町から県に対し審決書の公開を求める情報公開請求があった旨の問い合わせ分が送付されたことがないため」。予想通り草津町は群馬県に対し第三者照会をせずに開示決定をしていたのだ。2)の議事録は不存在。理由は「執行停止の決定及び審決に当たっての検討に係る議事録は作成していないため」。群馬県WEBの自治紛争処理委員(注6)の議題を見ると会議は非公開の旨の記載があり、議事録を作っていない可能性もあるだろうと思っていたからこれは想定の範囲内。非公開部分は住所、年齢、印影等の個人情報部分だから問題はない。なぜ草津町は、相手に確認せずに非開示決定したのだろうか。


 草津町議会が新井氏に行った除名処分について審決決定が出るまで執行を停止する件は2020年2月7日付で決定。草津町議会、新井氏、群馬県自治処理委員に通知された。『草津町議会処分に係る執行停止について』に「1関係法律の規定、2当事者の主張の要旨、3県の判断、4結論」とあり、『議員の身分に係る処分の執行停止に関する判例一覧』も含め、議事録がなくてもどのような理屈で執行停止という決定に至ったのか推測は可能だ。
 2019年12月2日に草津町議会が新井氏に対して行った除名処分の取り消しに関する『自治紛争処理委員意見書』が群馬県知事に提出されたのは、2020年7月27日。事務局に電話で確認したところ、この意見書を出す前に2019年12月26日、2020年3月4日、3月25日、6月17日、7月1日、7月16日、7月21日と、7回にわたって自治紛争処理委員会議が開催されている。自治紛争処理委員の審理を踏まえ、群馬県知事による草津町議会が新井氏に行った除名処分を取り消す内容の『審決書』が出されたのは8月6日。
 取消しの理由は、1)2019年12月2日の本会議発言は議長要請で読み上げた物で新井氏が積極的に引用したわけではない、2)12月2日同日に行われた全員協議会での発言は他人の私生活にわたる言論ではない、3)電子書籍への告発文の掲載は議会外の行為であり懲罰事案に該当しない。だから草津町議会の見解は懲罰事由にならず、除名処分は違法であり取り消す。というものであった。

03-2決定内容(審決) (3)_PAGE0000

(群馬県が出した『審決書』の決定部分)

 法的根拠となる行政不服審査法52条1項は「裁決は、関係行政庁を拘束する」とある以上、草津町議会は群馬県知事が出した『審決書』に拘束されるはずである。この事実を隠すために非開示決定にしたのではないか。群馬県の審決の重みを理解していないから、草津町議会議長の黒岩卓議長はリコール請求代表者として「上毛新聞」の取材も受けることができたのではないか(注7)。

03-2決定内容(審決) (3)_PAGE0003

(裁決の拘束力として、「裁決は、関係行政庁を拘束する」とある)

このような態度は地方自治法や行政不服審査法の精神を逸脱する脱法的な行為であるとしか、私には思えないのだが。

注1ー佐賀新聞2020年12月6日付『リコール成立で群馬県草津町議が失職』
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/608781

注2ー産経新聞2020年8月6日付『除名処分取り消しを審決 群馬県草津町長と性交渉告白の新井祥子町議』
https://www.sankei.com/affairs/news/200806/afr2008060039-n1.html 

注3ー「草津町議会だよりHarmony」令和2年4月3日付臨時号
https://www.town.kusatsu.gunma.jp/www/contents/1485397209534/files/152-2.pdf

注4-草津町議会本会議中継録画配信には「この議会中継録画配信(映像および音声)は、草津町議会の公式記録ではありません。公式な記録(会議録)は会期が終了した概ね2~3ヵ月後から議会事務局で閲覧できます」とある。
https://www.kusatsumachi-gikai.jp/

注5ー草津町情報公開条例
https://www.town.kusatsu.gunma.jp/www/reiki/reiki_honbun/e247RG00000358.html

注6ー群馬県WEBサイト内。群馬県自治紛争処理委員
https://www.pref.gunma.jp/07/a4900341.html

注7ー上毛新聞2020年10月1日付『新井町議のリコールに有権者の6割が署名 選管に署名簿を提出』
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/244082 
この中で【リコール請求代表者の1人である黒岩卓議長は「有権者数の6割を超える署名が集まった。住民投票でも結果を出したい」と話している。】とある。

(出典『月刊社会民主』 2021年3月号。縦書きを横書きに変更に合わせ表記を一部変更。資料を追加した)

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