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必要な材料をすべて土俵に載せた上で議論してこなかった神宮外苑再開発

ー2013年に行われた神宮外苑風致地区の区分変更を具体例としてー

マスコミの報道を見る限り、神宮外苑の再開発について行政は都市計画審議会や建築審査会での「議論」、住民説明会や公聴会の開催やパブリックコメントなどを行っており、一連の手続きに関し法的な問題はないとの立場のようです。確かに神宮外苑地区の都市計画決定について、議論の中身は別にして都市計画審議会で議論をしたうえで決定してきたというのは事実です。

しかしながら、行政の手続きには重大な問題があると私は考えています。それは神宮外苑地区の都市計画を決定する際に議題に挙げてしかるべき点を、無視をして議論をさせていることです。その実例として都立明治公園となった都営霞ヶ丘アパートに都営霞ヶ丘アパートに都市計画決定と神宮外苑地区地区計画変更に整合性がない点について、様々な場所で示してきました。(注1)

今回、説明するのは神宮外苑の風致地区の区分変更に関してです。神宮外苑の第1種市街地再開発事業に関連して、風致地区の区分変更について、ようやく世間一般の人が気がついたようですが、そもそも神宮外苑の風致地区の区分変更がされたのは2013年です。

なぜ、断言できるのかと言えば、そのことを記した具体的な証拠文書があるからです。その文書は『明治神宮内外苑風致地区におけるS地域の指定及びこれに伴う審査基準の策定について(照会)』と『明治神宮内外苑付近風致地区における区域区分の変更及びこれに伴う風致地区条例に基づく許可の審査基準の策定について』の2つの文書です。(注2)

まず、『明治神宮内外苑風致地区におけるS地域の指定及びこれに伴う審査基準の策定について(照会)』に関してですが、内容は神宮外苑地区地区計画が2013年6月に決定されることを見越して、神宮外苑地区の風致地区の区域の一部をS地域に変更する案を策定し神宮外苑の風致地区における審査基準を作ることについて、この当時の風致地区の変更区域の行政区である渋谷区と新宿区に対して意見を聞くことを記したものです。平成25年3月27日に起案され、平成25年3月29日に決定されています。

「神宮外苑地区地区計画が平成25年6月(予定)に決定されることに伴い、別添案のとおり、地区計画の区域の一部をS地域に変更し」と記載されている。

次の、『明治神宮内外苑付近風致地区における区域区分の変更及びこれに伴う風致地区条例に基づく許可の審査基準の策定について』は渋谷区と新宿区から意見が出なかったことを受けて、神宮外苑地区にある風致地区に新たにS地域を指定し、『明治神宮内外苑風致地区におけるS地域の審査基準』を策定したことを示したものです。

『明治神宮内外苑付近風致地区における区域区分の変更及びこれに伴う風致地区条例に基づく許可の審査基準の策定について』

そして、上記の事実は渋谷区と新宿区と、都立明治公園を所管する東部公園緑地事務所にも通知されています(25建公公第104号)

東京都建設局公園緑地部長が東部公園緑地事務所長に通知した文面(案)

なお、文書は平成25年5月1日に起案され、平成25年6月24日に決定されています。

で、神宮外苑の風致地区の区分がどのように変更されたのでしょうか。『明治神宮内外苑付近風致地区における区域区分の変更及びこれに伴う風致地区条例に基づく許可の審査基準の策定について』のp20の資料を示します。

左の現況が2013年以前の神宮外苑地域の風致地区の区分。右は2013年の神宮外苑地区地区計画決定に合わせてS甲とS乙を指定する

左側の現況と書いてあるのが2013年の神宮外苑地区地区計画決定前の神宮外苑地区の風致地区の区分を示しています。A区域、B区域、Ç区域に細かく分かれていますが、S区域がなかったことが分かります。これが右側のS指定後になると新たにS区域が作られたことが分かります。この図では、どのあたりがS甲区域とS乙区域になるか分かりにくいので明確に書かれた資料を示します。

『明治神宮内外苑付近風致地区における区域区分の変更及びこれに伴う風致地区条例に基づく許可の審査基準の策定について』のp8の「明治神宮内外苑風致地区S区域の区分図」をご覧ください。

「明治神宮内外苑風致地区S区域の区分図」

新国立競技場周辺がS甲区域(都立明治公園霞岳広場、四季の庭)に東京都体育館周辺と都立明治公園こもれび広場及びJSCのテニスコート周辺がS乙区域に指定された様子が分かるでしょう。

で、S甲区域になることでどのような変化が起きるのでしょう。

『明治神宮内外苑付近風致地区における区域区分の変更及びこれに伴う風致地区条例に基づく許可の審査基準の策定について』のp7を示します。

再開発等促進区が緩和要件であることが分かる

「別表(2(1)ア関係)」です。緩和要件として「再開発等促進区」と書かれていますね。2013年の神宮外苑地区地区計画決定の際に使われたものがそのものズバリ再開発等促進区です。(注4)再開発促進区を使うことで高さ制限や建ぺい率の緩和が認められる道が開かれました。

これまで説明してきたように資料だけでも2013年の都市計画審議会で認められた神宮外苑地区地区計画決定と神宮外苑地区の風致地区の区分変更は極めて関連した形で計画されていたわけです。

にも拘わらず『明治神宮内外苑付近風致地区における区域区分の変更及びこれに伴う風致地区条例に基づく許可の審査基準の策定について』は都市計画審議会の資料として一切添付されていません。

神宮外苑地区地区計画を決定した『第201回東京都都市計画審議会』は平成25年5月17日開催に開催されています。

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/.../toshikei201.htm

先ほど示したように『明治神宮内外苑付近風致地区における区域区分の変更及びこれに伴う風致地区条例に基づく許可の審査基準の策定について』の起案は平成25年5月1日ですから、大部分の資料は都市計画審議会の資料として添付してそれを元に議論することが可能であったにもかかわらず。

権力監視をモットーにしているらしいマスコミは、なぜこのような具体的事実を発掘したうえで、「東京都は神宮外苑地区の都市計画の変更に関する法的手続きに不備はない旨の主張をしていますが、都営霞ヶ丘アパートの敷地部分を都立明治公園にしたら公営住宅建替事業は実施できません。にも拘わらず通常の都営住宅の建替え事業と同様の手続きしかしていない点は問題だと思います。今からでもお見舞金のたぐいを追加で払う気はありますか」だとか、「東京都が法的手続きを重視しているというなら神宮外苑地区地区計画決定後に神宮外苑の風致地区の区分変更の手続きをとるのが当たり前の行為だと思いますが、なぜ同時並行的に神宮外苑の風致地区の区分変更の手続きを進めていたのですか。同時並行的に神宮外苑の風致地区の区分変更を進めていた事実や予定区分範囲を都市計画審議会の資料として提供しなかった理由について説明ください」など、毎週金曜日に行われる都知事の定例記者会見で質問しないのでしょうか。

そして、S乙区域とされた都立明治公園こもれび広場及びJSCのテニスコート周辺は現在は何が建っていますか?

「JAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE」と「日本青年館」と。

JSC理事長と日本青年館理事長職代行常務理事が新宿区長に出した建築物許可申請書

最後に、神宮外苑の再開発を樹木伐採に問題を矮小化せず、神宮外苑地区の都市計画に関し、もっと関心と注目を寄せてください。

注1ー例えば『神宮外苑再開発をとめよう都議会議連に対し、都市計画変更による都立霞ヶ丘アパート取り壊し問題をアピールした』

https://note.com/kuropotokin/n/n278eea8865fc

注2-『明治神宮内外苑風致地区におけるS地域の指定及びこれに伴う審査基準の策定について(照会)』は全部で50枚、『明治神宮内外苑付近風致地区における区域区分の変更及びこれに伴う風致地区条例に基づく許可の審査基準の策定について』は全部で58枚ある上に、重複部分もあるのでこの場ですべて公開しません。悪しからず。

注3-公園緑地事務所は公園緑地・霊園・葬儀所の造成・整備・維持管理、史跡・名勝の保存、緑地保全を所管している。
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注4ー神宮外苑地区地区計画に関して再開発等促進区を使わなくても地区計画を変更する手法がある点については下記参照。

『新国立競技場建設計画について ー情報公開請求を使って行政の問題点を解明する①』

https://note.com/kuropotokin/n/nb7bf55fdc51c

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