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神宮外苑の伐採樹木4割削減報道は本当か?

ーマスコミがその根拠を資料から確認したならその旨を報道せよー

 2022年8月16日に東京都環境影響評価審議会第1部会が開催され、事業者側が提出した環境影響評価書案が了承された。そして当初の計画では971本の樹木を伐採する計画だったが、今回の計画では伐採する本数を4割ほど減らし556本とする考えを事業者が説明したことを受けて、伐採樹木4割削減を主題においた報道(注1)がなされているが、それは本当なのか。今回提出された環境影響評価書案は確認できていないが、東京都環境影響評価審議会第一部会に提出された補足資料①と②はプリントアウトが出来るようになった(注2)。それを元にマスコミ報道を検証してみる。

 全部の箇所を指摘するのは量も多く、私の手におえないので、神宮外苑の樹木と言えば誰しも想像出来るイチョウ並木の部分に絞って見る。青山二丁目交差点から絵画館前噴水広場に向けての4列のイチョウ並木は当初の計画でも今回の計画でも伐採や移植の対象ではない。伐採の対象とされていたのはイチョウ並木から秩父宮ラグビー場に向かうイチョウである。以下イチョウ兄弟木とする。

東京都環境影響評価審議会第一部会の補足資料②(注3)から該当箇所を確認する。

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まずは下に資料1-1-41-1と書かれた樹木配置図(現況)である。イチョウ兄弟木の所在箇所は右側テニス場北エリアと左側テニス場室内コート・御台場西エリアに囲まれた。紫色の丸の部分である。右肩の注2)には「詳細調査反映前の既存調査結果である」とあるが、凡例でわかるようにイチョウ兄弟木は全て伐採樹木とされていた。

 次に下に資料1-1-41-9と書かれたものを示す。

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右側の上から11番から19番、左側にうつって20番から28番までがイチョウ兄弟木である。色は伐採樹木の紫色のままである。21番の左に移植樹木の色とされる水色で示した樹木番号42の木がある以上、イチョウ兄弟木は伐採樹木であると考えるべきと思うが、左下に注として「太線の丸で示す樹木は移植を検討している樹木である」とされていることとの整合性がつかない。この矛盾について何の説明もない。

保存樹木、移植樹木、伐採樹木と分けた部分とその理由を説明した部分がないかと確認したら、左肩に既存樹木調査結果一覧と書かれた資料がそれに該当するらしいことが分かった。三番目として、イチョウ兄弟木に該当する部分を引用する。

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下に資料1-1-41-21、資料1-1-41-22、資料1-1-41-23と書かれたものが「神宮外苑周辺Bエリア」と書かれていることから該当すると判断できる。上記資料1-1-41-9の資料からイチョウ兄弟木の樹木番号は11から28番までであることが分かっている。資料1-1-41-21は樹木番号1から12、資料1-1-41-23は樹木番号22から35とイチョウ兄弟木ではないイチョウ並木のイチョウが含まれているが、保存樹木と伐採樹木の差を考える資料として貴重であろう。

 そして、この資料1-1-41-21、資料1-1-41-22、資料1-1-41-23を見ると面白いことに気づく。資料1-1-41-21、資料1-1-41-22、資料1-1-41-23に記載されたイチョウは全て保存の必要性は高になっている。それに対し移植についてはイチョウ兄弟木の11から28までは全て不可。イチョウ並木の1から10と、29から35は移植難と違いがある。距離的にさほど離れていない場所にあるイチョウなのにイチョウ並木のイチョウは移植難という評価であり、イチョウ兄弟木は移植不可。このような違いはどこにあるのか。

 備考を見るとイチョウ兄弟木は「幅1.5mの狭い植栽帯に根計充満」との記載が全て一致している。これが移植不可という判断の主要な要因であると考えられる。他に11、12、17、18には根鉢確保困難とある。なお、11、12は樹木評価はAであり、17は樹木評価B、18は樹木評価Aであり、根鉢確保困難と樹木評価が必ず一致するわけでもない。神宮外苑のシンボルであるイチョウ並木は保存すべきであると私も考えるが、実際保存するのは難しく伐採扱いにせざる得ないという事業者の当初の判断はこういう資料を見る限りではそれなりの根拠があると考える。

 それに対し今回の計画ではどのような結論とされているか。事業計画書案は公開されていないので、 補足資料①(注4)から推測する。4列のいちょう並木については資料1-1-16から資料1-1-19にて記載があるが、イチョウ兄弟木については、独立の記載はない。資料1-1-2に「2)詳細調査を踏まえた伐採本数の再検討について」という部分がある。

20220818_2)自然との触れ合い活動の場の持つ機能の変化の程度_PAGE0038

そこに、伐採の判断基準として以下の記述がある。引用する。

(引用開始)表8.30(2)において、現況建物等構造物解体に支障する樹木や計画建設物の建築に際し支障となる樹木のうち、以下のものは移植が難しいと樹木医が判断したため伐採としていた。①樹高や目通りが大きいもの(概ね樹高12m超の樹木)②根鉢の適切な確保が難しいと樹木が判断したもの(外観目視の精度で根本径5倍程度の根鉢が確保できないもの)③健全に活着することが望めないと樹木医が判断したもの(引用終了)

 先ほど示した既存樹木調査一覧のイチョウ兄弟木は上記条件の①②③のどれに該当し、伐採になったという理由は書かれていないので、私の推測になるが、樹高は記録された全ての樹木に書かれており、イチョウ兄弟木は全て樹高12mは超えていることになっているから、①の条件は全て満たしている。

 そして、樹木医の再診断については以下のように書かれている。引用する。

(引用開始)詳細調査の対象については、上記伐採対象のうち、①②を調査対象とし、現地において樹木医による診断を行った。①樹高や目通りが大きいもの(概ね樹高12m超の樹木)②根鉢の適切な確保が難しいと樹木が判断したもの(外観目視の精度で根本径5倍程度の根鉢が確保できないもの)

詳細調査の結果、樹木の生育状況や周辺状況などを現地にてきめ細かく把握したうえで樹木医が総合的に判断し、②については計測にて根本径4倍程度の根鉢が確保できるものを「伐採」から「移植可」とするなどした結果、「伐採」から「移植可」となったものが85本となった(表8.6-30(4)参照)。この結果、伐採本数は556本に減少し、このうち公園エリア内の伐採本数は407本になった(引用終了)

 上記で書いたようにイチョウ兄弟木は全て樹高12m超の樹木であるから①の条件に該当し、全て調査対象になることは理解出来るが、既存樹木調査結果一覧では木の規格として樹高、幹周、葉張しか記録されておらず、根本径が1本ごとに記録されているかどうかすら定かではない。従ってイチョウ兄弟木が根本径5倍や4倍に該当するかどうか、資料から判断することは出来ない。

 判断の前提となる基本的な資料が示されていないのに結論を出すことが正当な議論の進め方と言えるのか。

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そして図2.4ー5(3)保存、移植、伐採樹木の分布状況(建設前、詳細調査を反映)ではイチョウ兄弟木は全て移植可能木になった。「既存樹木調査結果一覧」で根鉢確保困難とされた樹木も移植可能になったのはどのような理由なのか。説明した資料はない。

 下に紹介したマスコミは、その根拠をきちんと確認したのだろうか。そして、その上で報道したのか。 

注1ー各マスコミ報道

朝日新聞『神宮外苑再開発、伐採樹木971→556本 事業者が計画案を修正』https://www.asahi.com/articles/ASQ8J6SXTQ8JUTIL00Z.html

毎日新聞『樹木伐採本数は4割減の556本に 神宮外苑再開発 事業者が方針』
https://mainichi.jp/articles/20220816/k00/00m/040/183000c

日本経済新聞『神宮外苑、樹木の伐採400本削減 再開発事業者が見直し』
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC164MW0W2A810C2000000/

東京新聞『神宮外苑 樹木の伐採 1000本から550本に削減 都審議会部会が再開発の環境影響評価案を了承』
https://www.tokyo-np.co.jp/article/196341

NHK 『明治神宮外苑再開発 樹木伐採 計画から4割減 事業者が考え示す』
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220816/k10013773791000.html

時事通信 『神宮再開発、伐採本数を4割削減 事業者が見直し―東京』
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022081600809&g=eco

テレビ朝日 『神宮外苑 伐採は900本→500本へ』
https://news.yahoo.co.jp/articles/a73fbd5855fc62d7fe625727fdad26ebd6ade8f4

注2ー8月16日の東京都環境影響評価審議会第一部会での結論前は以下の注意書きがあり、印刷やダウンロードは不可であった。第一部会でどのような結論が出ようが、事業者に著作権があることには変わりがないにも関わらず、印刷やダウンロードが可能になった理由については不明。

※事業者から提出された補足資料については、著作権の関係上、閲覧のみ可能です。印刷及びダウンロードを行うことはできません。

注3ー補足資料②の全文は下記にて

https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/basic/conference/assessment/environment_council/minute_R4/daiichibukai_R4.files/R4.8.16_1-5_357hosoku02.pdf

注4ー補足資料①の全文は下記にて

https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/basic/conference/assessment/environment_council/minute_R4/daiichibukai_R4.files/R4.8.16_1-5_357hosoku01.pdf

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