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神宮外苑地区地区計画及び第5・7・18号明治公園に関する意見書


はじめに(意見募集及び説明会について)


都市計画法17条2項の規定に基づき、上記都市計画について意見書を提出する。
 具体的な中身に入る前に一言文句を言っておく。東京都は2016年5月31日に千駄ヶ谷区民会館集会室にて「神宮外苑地区に係る都市計画案の説明会」を開催した。会場の千駄ヶ谷区民会館は9時完全退出にも関わらず当初予定では終了時間を20時30分としていた(注1)東京都の説明後、質疑応答に移ったが、当初予定の20時30分では終わらず、会場からの時間延長の声を受け、質疑応答の時間を延長したものの、私も含め会場にはまだ多数の挙手があがっていた。それにも関わらず説明会を切り上げ、後日の説明会日程を取らず、当初の予定通りに説明会翌日から縦覧と意見書の提出を求めるやり方が正当なのか。

資料の概要説明で時間を取り質疑応答の時間を減らす手法も

 そもそも、都市計画法17条1項は「当該公告の日から二週間公衆の縦覧に供しなければならない。」としか定めておらず、説明会の翌日から公告しなければならないわけではない。
 現に都市計画法16条2項に基づいて行われたとされる「神宮外苑地区に係る都市計画の作成に向けた説明会」は4月18日に開催され、意見書の提出期間は21日間も期間を取っている。法律上の規定がないものは21日間も意見募集期間をとり、法的に規定されたものは、質問を途中で打ち切り2週間という縦覧期間を厳守する。公平なやり方であるとは言いがたい。しかも神宮外苑地区地区計画は日本体育協会・日本オリンピック委員会及び外苑ハウス管理組合から『東京都都市計画神宮外苑地区地区企画提案書』として新宿区・渋谷区・港区の3区を通じて東京都に提出されている以上、新宿区・渋谷区及び港区の三区ごとに説明会を行うべきである。

 神宮外苑地区に係る都市計画案の作成に向けた説明会で配布された資料1『神宮外苑地区地区計画の変更原案の概要等』によれば新宿区・渋谷区・港区の都市計画審議会を7月頃、東京都都市計画審議会を9月頃に開催し、都市計画決定告示を行う流れになっているが(注2)、新国立競技場の建設が遅れているのは後に詳しく述べるが土地面積の余裕が無く、法的規制が多い神宮外苑地区に、IOCの基準以上の収容人数八万人ものメインスタジアムを建設しようとし、コンサートなどでも使えるようにという考えで屋根をつけようなどと企んだ日本スポーツ振興センター(以下JSCと略)に主要な原因がある。しかもJSCは久米設計に依頼し耐震改修ですます計画を立てておきながら、耐震改修を取らない理由を説明せず、解体工事の際に談合を行い、『新国立競技場基本構想国際デザイン競技募集要項』の計画対象範囲や高さ制限を超えたザハ案を選ぶなど数多くの不手際を繰り返した。このようなJSCの不手際のつけをなぜ都民がかぶらなくてはならないのか。


『神宮外苑地区地区計画の変更原案の概要等』

 そもそも今回の神宮外苑地区地区計画はアンダーコントロールという事実とまったく違う発言を安倍晋三総理大臣がIOC総会という世界中が注目する場所で行い、プレゼンテーションの冒頭で高円宮久子氏がスピーチを行うという皇族の政治利用も行うなどのデタラメによってもたらされた結果である。このような経緯から今回の東京オリンピック招致は国策に準じる事業とも言えよう。そうであるならば広く国民や都民の声を聞く必要がある。それにも関わらずそのような努力をする気がまったく感じられない東京都に、意見書を出して都市計画審議会(以下都計審と略)でまともな議論が行われるのか。極めて疑問を感じるが意見書を提出する。

問題1(メインスタジアムをなぜ神宮外苑?)

 第1にメインスタジアムを神宮外苑地区に建設しなければならないのか不透明であることを指摘する。
 旧国立競技場は1958年に竣工され、1963年に増築された。そのため建築基準法48号第2種中高層住居専用地域にも関わらず「観覧場」として使用され、都市計画法58条第2種風致地区の面積を超過し、都市計画公園53条の都市計画公園の面積超過による建ぺい率違反、バックスタンド部分の都市計画法58条第2種風致地区及び都市計画法8条1項3号第2種高度地区の高さ制限違反。建築基準法56条2の日影規制違反、民法207条の土地所有権の範囲違反。等々の現行の法規制からみると違反のいわゆる既存不適格建造物であった。

 特に民法207条の土地所有権違反状態に関してJSCはその状態を解消するため、旧国立競技場の都道414号線角筈線にはみ出している部分に対し、JSCから東京都に対し道路占用許可申請書が出され、管轄の四谷警察署がJSCに対し道路使用許可が出されており、東京都もこれらの違法行為を追認していた責任がある。(注3)
 そうであるなら、東京都は旧国立競技場の改築ならとにかく、新規で新国立競技場を建設するならば、JSCに対し自分の所有地内に現行の法規制におさまるように新国立競技場を建設するように指導を行うのが行政手続き上、当然の行為であろう。


都道414号線角筈線にはみ出した国立競技場のスタンド部分に対して管轄の四谷警察署が出した道路占有許可書

 例証として特定非営利活動法人東京オリンピック・パラリンピック招致委員会(以後NPO法人東京オリンピック招致委員会と略)と東京都オリンピック・パラリンピック招致本部が編集し、NPO法人東京オリンピック委員会が発行した『2016年オリンピック・パラリンピック競技大会招致活動報告書』(2010)の36ページを引用する。

(引用開始)晴海、霞ヶ丘の両地区について、敷地面積、各種法規制、交通アクセス、後利用等の観点から検討したところ、平成19年(2007)年4月までに、霞ヶ丘地区でのオリンピックスタジアム整備は困難との結論に達した。この結果は同年5月22日、招致委員会理事会に諮り、オリンピックスタジアムを晴海地区に建設する計画とすることを決定した上、発表した。オリンピックスタジアムを晴海地区に建設するとした理由は、概ね以下の通りである。
・東京の新たな発展の可能性を有する臨海地域に位置
・水と緑の優れた景観を有し、東京の新しいランドマークとなる期待
・都市計画法等の規制が多い霞ヶ丘では不可能な、10万人規模のスタジアムや補助競技 場等の用地を確保可能
・選手村予定地の有明北地区から至近距離(引用終了)

 この記載からも神宮外苑地区は都市計画法などの規制が多く、用地確保が難しいことは分かっていた。しかも『2016年オリンピック・パラリンピック競技大会招致活動報告書』の作成委員会の委員長はNPO法人東京オリンピック招致委員会事務総長であった河野一郎氏である。自分が作成委員会の委員長としてこれらの文書作成に関わっておきながら上記記載を知らないわけがない。それなのになぜ神宮外苑地区に新国立競技場を建設するという計画をたてるのか。

 「ラグビーワールドカップ2019大会開催及び2020年東京五輪招致活動を目的とし、国立競技場の将来構想について審議するために設置」された国立競技場将来構想有識者会議(注4)の2012年3月6日第1回国立競技場将来構想有識者会議で当時のJSC理事長である河野一郎氏は以下のように発言した。引用する。


国立競技場将来構想有識者会議の委員名簿

(引用開始)規模については、8万人規模をスタートラインに。参考資料の「国立霞ヶ丘競技場の八万人規模ナショナルスタジアムへの再整備に向けて(決議)」を見ていただきたい。これが公に目にされている最近のものであり、これを根拠にしたい。(引用終了)

 この中に出てくる「国立霞ヶ丘競技場の八万人規模ナショナルスタジアムへの再整備に向けて(決議)」はラグビーワールドカップ2019日本大会成功議員連盟の決議であり、閣議決定でも無ければ国会決議でもない。なぜこのような議員連盟の決議に従わなければならないのか。その他にもJSC理事長の河野一郎氏は都民からみて許しがたい発言を行っている。引用する。

(引用開始)参考資料5 現在競技場の立ち位置が赤いところだが、8万人規模ということになると、左側の明治公園、右側の明治公園、青年館までが建設敷地となる。今後、具体的な行動が必要となる(引用終了)

 神宮外苑地区の敷地面積が足りないことはすでに2010年に発行された『2016年オリンピック・パラリンピック競技大会招致活動報告書』で示されている。河野一郎氏はその事実を知っていながら、8万規模のメインスタジアムを建設するため都立明治公園四季の庭、都立明治公園霞岳広場まで建設敷地にしようと企み、そのために具体的な行動まで示唆している。
 このようなJSCの横暴に対し、おかしいと東京都は言ったのか。議事録を見る限りそのような発言をみることはできない。第1回国立競技場将来構想有識者会議に出席した元東京都知事の石原慎太郎氏を百条委員会でも開催して問いただすべきだ。新国立競技場の建設予定地として都立明治公園という都有財産を提供するという無謀な計画に対し都知事の立場から反対意思を表明しなかったのだから。

 それどころか東京都は都立明治公園という都有財産を積極的に独立行政法人JSCに対し提供する形で議論を進めた節が窺える。2012年4月10日に開催された第1回国立競技場将来構想ワーキンググループ建築部会に安井順一技官(当時)が出席し発言している。その部分を引用する。

(引用開始)都市計画は東京都が決めるものと、区市町村が決めるものがある。今回は東京都が決められる再開発等促進区という手法。都市計画にかけて、段階的に計画が可能なようにしたい(引用終了)

 神宮外苑地区地区計画は面積上決定権者が区市町村ではなく東京都であることは分かるが、なぜ再開発促進区を利用した都市計画を利用するのか。観覧場を建設可能にし、日影規制を緩和、高度地区を緩和することが目的なら他の手段がある。なぜ用途地域を近隣商業地域以上に変更する方法や用途緩和型地区計画をかける方法にしないのか。再開発等促進区を定める地区計画を提案することで、関係地権者であるJCSや外苑ハウス管理組合が地区計画を提案する余地を残したとしか私には思えない。どういう理由で安井順一氏は再開発促進区を利用した都市計画の提案をしたのか。都計審で説明責任を果たせ。

 また、段階的に計画が可能というのは現在行われていることである。2012年にJSCが提案して2016年には外苑ハウスと地権者でもない公益財団法人日本体育協会と日本オリンピック委員会(以後JOCと略)が事業提案ができるようにするためか。このようなやり方が行政の取るべき手法なのか。この私の疑問に対しても都計審で審議を行え。
 安井順一氏の発言は他にも納得しがたいものがある。

(引用開始)大規模な施設が道路ギリギリに配置される計画は、なかなか厳しい。管理棟の上部にサブトラックが描かれているが、今決まっているのは2019年のラグビーワールドカップ。その時にはサブトラックはいらない。2020年にオリンピックが決たら、その時にはサブトラックは必要だが、必ずしも恒久的な施設である条件ではないので、サブトラックの場所を決めなくても都市計画を行うことは可能。(引用終了)

 上に書いたように旧国立競技場が既に都道414号線角筈線にはみ出している。サブトラックを常設するような敷地の余裕もない。これらは既に2016年東京オリンピック招致の時点で明らかではないか。だから神宮外苑地区に新国立競技場を作るのは無理と発言するのが東京都職員の役目なのにしない。おかしいでは無いか。

 その上、国立競技場将来構想有識者会議設置要綱は上記で示したように「ラグビーワールドカップ2019大会開催及び2020年東京五輪招致活動を目的とし、国立競技場の将来構想について審議するために設置」されている。従ってラグビーワールドカップ2019年のみ考え、2020年東京オリンピック開催については決定してから考えるかのような安井順一氏の発言は成り立たない。安井順一氏が何を考えてこれらの発言をしたのか、百条委員会でも設置して追及し、責任を取らせるべきだ。

 しかも、ラグビーワールドカップでもオリンピックでも収容人8万人が条件とされていない。そのことは2012年4月26日に開催された国立競技場将来構想ワーキンググループ施設利活用スポーツグループ部会の提出資料『3.競技場の規模等』(注5)でも示されている。神宮外苑地区は敷地面積に余裕が無い以上8万人規模のメインスタジアムを作りたいなら他の場所にしろと提案するのが東京都職員の役目であろう。


『3.競技場の規模等』オリンピック・パラリンピック競技大会のスタジアム基準は6万人と

 国立競技場有識者会議でそのような当たり前の発言を何一つせず、JSC理事長河野一郎氏と前東京都知事猪瀬直樹氏との間で締結された『神宮外苑地区地区計画の決定における企画提案書の提出に係る神宮外苑地区内の地権者の同意について(回答)』(注6)の「建設局が所管する公共敷地を新国立競技場等の敷地とする場合には、有償とする」という公文書で交わした約束の履行をJSCに求めず、都立明治公園という都市部にある貴重な都市公園の敷地を無償で貸与した東京都の行為は万死に値する。


『神宮外苑地区地区計画の決定における企画提案所の提出に係る神宮外苑地区内の地権者の同意について(回答)』建設局が所管する公共敷地を新国立競技場等の敷地とする場合には、有償と

 東京都が一般財団法人日本不動産鑑定に委託し、都立明治公園をJSCに貸した際、東京都が受け取る月額賃料は5530万円とされていた(注7)JSCと東京都との『一時使用のための土地の無償貸付契約書』は2016年1月27日に結ばれ、契約期間は2016年1月27に日から2017年1月16日までの一年間であり、2021年3月31日まで更新可能という形式になっている。従って最長の契約期間の62ヶ月で計算すると約34億2860万円の賃借料が東京都に入った計算になる。この約34億2860万の賃借料を東京都の職員全員で都民に対し弁償しろ。都の職員全体で弁償するのがイヤなら、この決定をした東京都知事の舛添要一氏に賠償させろ。


鑑定評価額には月額賃料55,330,000との記載あり

問題2(議論の前提となる資料の提出不十分)

 第2点として、必要な情報を出さずに小出しにする点を指摘する。第5・7・18号明治公園の都市計画公園の変更は2013年2月の都市計画審議会の資料に示されてはいた。その中で都立霞ヶ丘敷地と特別区道43-660号の上部及び都道418号北品川四谷線(以下外苑西通りと略)上部を公園として追加し、都立明治公園こもれび広場及び外苑西庭球場を公園から削除するという記載はある。追加部分の都立霞ヶ丘アパート敷地と特別区道43-660号は新国立競技場建設予定としてJSCに無償で賃貸した都立明治公園霞岳広場の代替地として、外苑西通りは都立明治公園四季の庭の代替地として利用するということは資料等から判断できた。

 しかしながら議論が足りない。都市計画公園であり総合公園である都立明治公園を立体公園化する自体、都計審以外の場所で議論の必要があったのではないか。また住生活基本法に基づく住生活基本計画(都道府県計画)の意味づけもある東京都住宅マスタープランで公営住宅建替事業に指定している霞ヶ丘地区を建て替えでなく、取り壊して公園にすることの是非も議論されるべきであった。なぜ、これらの点について議論しないのか。

 特に都立明治公園霞岳広場の代替地になる都立霞ヶ丘アパート住民に対して行った一連の行為は悪質である。東京都が都立霞ヶ丘アパート住民に対し説明会を行ったのは2012年8月26日である。この時点では東京都が2020年オリンピック開催都市に選ばれておらず、ラグビーワールドカップの開催による国立競技場の建て替えを理由にしている。(注8)しかしながら東京都が開催都市に選ばれたのは2015年であり、当時の説明会はどのような目的で開催されたのかまったく不明である。JSCが都立霞ヶ丘アパートの説明会を行ったのは2012年11月27日であり、これもJSCが新宿区・渋谷区・港区の三区を通じて都市計画の変更提案書を東京都に提出する前である。(注9)


東京都がオリンピック開催都市に選ばれていなかったので、ラグビーワールドカップの開催による国立競技場の拡大と建て替えを口実に


 東京都とJSCが都立霞ヶ丘アパート住民に対して行ったことは確定もしていない情報を知らせ、住民の不安感をあおって移転させたと思われ、このような手口はさながら地上げ屋まがいであると断罪する。
 都立霞ヶ丘アパート敷地に対してのデタラメは現在も続いている。2016年2月24日には東京都東部住宅建設事務所と大成建設が都営霞ヶ丘アパート敷地整備工事を特命随意契約で締結した。その中の『特命理由書』には以下の記載がある。(注10)

(引用開始)現在、都営霞ヶ丘アパートの敷地と隣接する土地(旧国立競技場敷地と明治公園)において、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のメインスタジアムとなる新国立競技場の整備事業が平成31年11月末の完成を目指して進められている。新国立競技場建設工事を円滑に進めるためには、作業ヤードの確保が必要不可欠であり、周囲に適当な用地がないことから、独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「JSC」という)から都営霞ヶ丘アパートの敷地を作業ヤードとして利用することを要請されており、都としても協力する必要がある(引用終了)

『特命理由書』

 神宮外苑地区が敷地面積の余裕が無いことは2016年の東京オリンピック招致時点ですでに明らかである。そこに建設を強行するJSCが無能であり、JSCの無能の計画になぜか東京都が従い、都民の共有財産であるはずの都立明治公園の霞岳広場と四季の庭を無償賃貸し、その代わりとして都立霞ヶ丘アパート住民に対し地上げ屋まがい行為を使って引っ越させ、公園にする予定が作業ヤード。しかも5月31日の神宮外苑地区に係る都市計画案の説明会ではオリンピック開催期間中はオリンピック組織委員会に貸す意向である旨も発言した。

 作業ヤードやオリンピック組織委員会に貸している期間の公園用地を東京都はどこと考えているのか。また明治神宮外苑地区は避難場所指定もされている。東日本大震災や熊本地震など全国各地で大災害が起きる可能性があり、東京都も例外ではない。新国立競技場建設による都市計画の変更をしなければオリンピック開催期間中の都立明治公園の面積減少という事態は起こりえなかったのだから、この点も都計審で審議する必要がある。

 関連して人工地盤の面積に関しても新国立競技場を設計する隈氏に確認し、人工地盤を減らさないように確約を求める必要がある。人工地盤はデザイン上の問題ではなく、都立明治公園霞岳広場及び四季の庭の代替公園用地として考えられている以上、予算その他の理由で面積の変更や縮小は許されない。建設のために人工地盤を減少するという建築家の自分勝手の事情が許されるのなら、賃借権という正当な権利がありながら東京都とJSCの地上げ屋まがい行為によって住み慣れた都営住宅から引っ越しを余儀なくされた都立霞ヶ丘アパート住民を現在地に戻すべきである。

 第5・7・18号明治公園の追加部分もおかしいが削除部分はもっとおかしい。都立霞ヶ丘アパート住民の代替地を用意せずに、引っ越し代や見舞金も支払わずに自分たちの代替地だけ用意するJSCの態度は無礼であるが、外苑西庭球場は日本青年館の代替施設建設用地とするために都市計画変更するというのは一応理解することができる。理解できないのは都立明治公園こもれび広場を公園から外す東京都の態度である。都立明治公園こもれび広場はそもそも新国立競技場の建設予定地ではない。しかも都立明治公園霞岳広場と四季の庭が新国立競技場の建設予定地になることにより都立公園の面積が減少する。そうであるならば都立明治公園こもれび広場は削除せずに第5・7・18号明治公園として確保しておくのが常識的と思われる。神宮外苑地区地区計画計画図2では歩行用通路や広場とされていたが、都立明治公園こもれび広場として歩行用通路や広場を使えば良いだけの話で、地域住民が犬の散歩させ、フライングディスクやスケートボードで遊ぶ人がいたり現実にも歩道様通路や広場として使われていて、削除する意味が分からなかった。

 その理由が今回の神宮外苑地区地区計画及び第5・7・18号明治公園の変更によってやっと分かった。
 いまだにオリンピック競技施設が変更されているのに都立代々木公園のみはハンドボール会場等で使用されることが確定されることにして『都市計画公園の事業化について(照会)』(注11)を出し、2015年11月30日に『都市計画公園の事業化について(回答)』(注12)をもらう。その翌日の12月1日に『都市計画公園・緑地の整備方針(改定)における「優先整備区域の拡大」について』(注13)で道路を挟んで使い勝手が良いとは思えない岸体育館部分を新規事業化区域に設定。12月22日に新規事業化区域に事務所を持つ公益財団法人から『新宿区霞ヶ丘町付近への移転について(要望)』(注14)が出て、2016年1月7日に東京都知事舛添要一名で『新宿区霞ヶ丘町付近への移転について(回答)』(注15)で、「仮換地予定地(別図)に移転を検討することについて、了承する」旨の回答を出すと。


代々木公園に隣接した岸記念体育館を神宮外苑に移転させたいという『新宿区霞ヶ丘町付近への移転について(要望)』


日本体育協会会長の要望を了承した『新宿区霞ヶ丘町付近への移転について(回答)』

 仮換地予定地については2015年6月1日に東京都知事舛添要一氏、JSC理事長河野一郎氏、外苑ハウス管理組合■の三者で『神宮外苑地区(a区域)まちづくり基本協定書』(注16)を結び協定対象区域とされた都立霞ヶ丘アパート、都立明治公園こもれび広場、外苑ハウス、外苑西庭球場の部分をどのように扱うか協議。11月17日に東京都都知事舛添要一氏と外苑ハウス管理組合■との間で『神宮外苑地区(a区域)土地区画整理事業に係る協定書』を締結。(注17)外苑ハウスのスタジアム通り部分と都立霞ヶ丘アパート境界部分を換地。外苑ハウスのスタジアム通り部分の道路部分が無くなる代わりに特別区道631号を域外設置して道路幅を拡幅。


『神宮外苑地区(a区域)町づくり基本協定書』黒塗りは2016年の意見書提出時のまま


『神宮外苑地区(a区域)土地区画整理事業に係る協定書』黒塗りは2016年の意見書提出時のまま

 このようにしてできた都立明治公園こもれび広場と旧外苑ハウスのスタジアム通り部分に日本体育協会が移転してきて日本体育協会・JOC新会館(仮称)を建設。地上14階地下1階高さ約60メートルの超高層ビルを建築する。スタジアム通りを換地した外苑ハウスの部分をA-5地区として新たに指定。建築物等の高さの最高限度を80メートルまで緩和。外苑ハウスは地上22階、地下2階高さ約80メートルの商業施設つき共同住宅を建築する予定である。

 これらの超高層ビル建設に合わせて神宮外苑地区地区計画の「土地利用の方針」や、「公共施設等の整備の方針」や「土地利用に関する基本方針」だとかの文言を変更すると。呆れてものが言えない。
 外苑ハウスのスタジアム通り部分と都立霞ヶ丘アパート境界部分の換地面積がいくらで、金銭がかかるかどうかも定かではない。都立公園こもれび広場と旧外苑ハウスのスタジアム通り部分は都有地であり、その場所に日本体育協会及びJOCが超高層ビルを建てるならば土地について売却なり、賃貸なりが必要と思われるがその額について公表しない。新国立競技場建設予定地として都立明治公園霞岳広場と四季の庭を無償賃貸した東京都がこの部分について金銭を取る保証はどこにもない。また新規事業化区域として指定した都立代々木公園と都立明治公園こもれび広場と旧外苑ハウスのスタジアム通り部分の土地価格についても明らかにされていない。これらから東京都が一方的に損をする可能性は否定出来ないと考える。

 最後に、都市計画公園に再開発促進区を利用した都市計画を当てはめたことで都市計画の精神は既にぼろぼろである。神宮外苑地区は明治天皇と昭憲皇太后の威徳を偲ぶために国民の勤労奉仕を元に建設されたという皇室にゆかりのある場所だったが、歴史的経緯などを軽視しても良い事態になっている。

 今回の神宮外苑地区地区計画及び第5・7・18号明治公園の変更案を認めるならば都市計画政策にとどめを刺す形になるだろう。2016年9月2日の第214回都計審でこの件が付議予定案件としてあがっている。東京都都市計画審議会の各委員はこのような提案者のみ恩恵を受け、都民の財産上の損失がおきかねない案件を認めるならば、歴史上の審判を受ける覚悟で審議に望んでいただきたい。
                                以上

(東京都都市計画審議会に対して2016年6月に出した意見書。
 本文はそのままだが、目次と見出しを追加した)

別紙 参考資料
注1『神宮外苑地区に係る都市計画案の説明会』
注2 『神宮外苑地区地区計画の変更原案の概要等』
注3 『道路申請書』
注4 『国立競技場将来構想有識者会議設置要綱』
注5 『3.競技場の規模等』
注6 『神宮外苑地区地区計画の決定における企画提案書の提出に係る神宮外苑地区内の地権者の同意について(回答)』
注7 『鑑定評価額』
注8 『国立競技場の建替に伴う移転について』
注9 『新国立競技場等建設整備計画の概要及び(仮称)神宮外苑地区地
区計画の提案について』
注10 『特命理由書』
注11 『都市計画公園の事業化について(照会)』
注12 『都市計画公園の事業化について(回答)』
注13 『都市計画公園・緑地の整備方針(改定)における「優先整備区域の拡大」について』
注14『新宿区霞ヶ丘町付近への移転について(要望)』
注15 『新宿区霞ヶ丘町付近への移転について(回答)』
注16 『神宮外苑地区(a区域)まちづくり基本協定書』
注17『神宮外苑地区(a区域)土地区画整理事業に係る協定書』

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