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黒江 真由は優秀なプロジェクトマネージャーだった

TV版 3期が始まってからというもの、何回同じ事聞くんだよ!?の嵐で視聴者の不評を買いまくっている黒江 真由。(2024/6/22現在 11話まで視聴済で、ママのトラウマは未回収の状態で執筆しています)

しかし、待って欲下さい!なぜ何回も同じ事を聞くという行為を悪いと思うのか?

ある日を境にママ擁護派に寝返った私が、本当はママは悪くないんだよという事を説明していきます。これを読み終わる頃には、きっとあなたもママ擁護派になっているはずです・・・多分。

まず、ママが久美子に何回も同じ事を聞いてくるのは事実です。
入部関連・オーディション関連で「私は止めた方が・・・」という趣旨の事を何回質問したか確認してみましょう。(これまとめるためにもう一回TV版 3期全部通して観たら普通に泣いたわ)

2話
「迷惑・・・じゃなければ」(転向直後、入部するか問われて)
「部のバランスとか崩れたりしないかなって」(久美子との階段)
5話
「そのオーディションって私もやるんですか?」(全体ミーティング)
「嫌って言うか、辞退出来ないのかな」(パート練習)
6話
「やっぱり私辞退した方が良いんじゃないかな?」(敵に塩の後)
8話
「やっぱり辞退しようか?オーディション」(脱衣所)
9話
「私ね、やっぱり変わった方が良いと思うの」(10回通しの後)
「久美子ちゃん。やっぱり・・・」(自販機前)
10話
言おうと近づくが奏が阻止
11話
「私やっぱりソリ辞退するね」(個人連)

計10回です。たしかに多かった・・・

間接的にそうとも取れる。という発言もいくつかありましたが、解釈で分かれますし、キリがないので明言だけをカウントしました。あ、10話での未遂も入れてしまいました。まぁいいか。

放送のたびに「またかよ」「何回同じ事聞くんだよ」の嵐でしたね。本当に。

しかし!私には分かります。
何回も同じ事を聞くという行為が、ママの優秀さを表しているのだという事が!

要件定義

ところで、あなたは下の絵を見た事がありますか?

顧客が本当に必要だったもの

これは、主にIT系の現場で起こりがちな、意志疎通の齟齬によって発生する悲劇を風刺した有名な絵です。

仕事を受注した際に、顧客と認識をしっかり合わせておかないと、
こういった悲劇が起こり、後々重大なトラブルに発展してしまいます。

このような事態を防ぐために、作業に着手する前の段階で顧客と認識を合わせて、内容を明文化する事を要件定義と言います。さらに要件が明文化された文書の事を要件定義書と言います。

これは超重要な工程で、命を懸けてココをしっかりやっておかないと、プロジェクト全体がとんでもない事になってしまいます。

とある会社の社長が「わが社のPR動画を作りたいんだよね~」という要望を外注に出したとします。

社長としては、ワシがカメラの前で5分ぐらい喋るから、適当に前後をカットして、たまにテロップが入ってれば良いな~ぐらいの感覚で言ったつもりなのに、外注は藤原竜也が出ているSKY株式会社の動画ぐらいのクオリティを求められていると思い込んでしまったとしたら・・・

どちらを想定するかによって、予算も納期も見積もりが全然違うものになってしまいます。認識合わせをしないまま外注が走り出してしまったら、もう惨状以外の未来が見えませんよね。

また、仕事を頼む側の偉い人というのは、えてして抽象的なイメージしか語らないものです。

・カッコイイ動画
・良い感じのサイト
・売れそうなデザイン

いい加減にしろやハゲ!と思わず叫びたくなりますよね。(叫ばんけど)

そんな抽象的なイメージを「こういう事ですか?」「例えばこんな形とか?」と具体的な言葉に落とし込む必要があります。そして、残念ながらその負担は受注側が負わなければならないとされているのが実情です。

プロジェクトマネージャー

どうですか?要件定義って超重要でしょう?

そして、この要件定義を担当するのが、プロジェクトマネージャーという肩書の人です。プロジェクトマネージャー(以下「PM」)はプロジェクトチームの責任者で、プロジェクトの最初から最後までを通して、全域を管理する超大変な仕事です。

何を納品すべきか?というのは、納期や予算に関わる最も重要な要素です。最も慎重に確実に行わなければならないので、PMの腕が試されます。

口頭で話し合いをした結果を文書化して持って行くと、「あ~、そうじゃないんだよね・・・」と言われてしまい、よくよく聴取しなおした結果ようやく真意が判明し、書類を作り直すハメになる。あるあるです。よくあります。

そして、双方が納得する要件定義書が完成するまで打ち合わせは続きます。認識が相違している危険性を孕んだままでは、怖くて動き出せないからです。

要件定義・PM・吹奏楽部・・・それぞれの関連性とは?

ママはPMだった

実はママはPMとして、北宇治に何を提供すべきかの要件定義をしようとしていたのです。

要件定義書出来ました!と提出しても、「う~ん、違うんだよな~」と突き返されるたびに「あれ?外した?」となって、その度要件定義をやり直し続けていたという事です。

「オーディション辞退しようか?」と何度も聞くので、同じ事を何度も聞いているように見えますが、それは、たまたま同じ言葉となって表れていただけで、実は聞いている内容は毎回違うのです。

高校3年生で転校してきたママは、今までの部のノリが分かりませんし、自分とパートがかぶる久美子の要望が見えていません。

分からないものは聞くしかない。という事で部員や久美子と要件定義の打ち合わせをして、何を提供して欲しいのか引き出そうとしますが、引き出したと思ったものが毎度ひっくり返されるので、何度もやり直しが発生してお互いに不信感が募るという悲劇が起こってしまいました。

終わらない要件定義地獄

同じ質問をするママの心中では一体何が起こっていたのか?ママの心の声を()で補足してみます。

(転校先の吹部のノリが分からないから不安だな~。よし、聞いてみよう。迷惑なら迷惑そうな空気だけでも出してくれ~)
2話
「迷惑・・・じゃなければ」(転向直後、入部するか問われて)
「部のバランスとか崩れたりしないかなって」(久美子との階段)
部員や久美子
「嫌がるとかそんな事ないよ!」「強豪校出身なんて心強い!」
(そうなんだ。良かった。とりあえず入部はしよう。でもオーディションからのトラブルは嫌だな・・・)

5話
「そのオーディションって私もやるんですか?」(全体ミーティング)
「嫌って言うか、辞退出来ないのかな」(パート練習)
麗奈
「オーディションやりまくるけど、これが実力主義です」
(ドライに割り切ってるんだ。じゃあオーディション勝ってしまってもトラブルは無さそうだな)

「クラとかバチバチなのに、『敵』に塩を送るなんて」
(敵!?やっぱり割り切ってないんだ。思ってたノリと違ったわ)

6話
「やっぱり私辞退した方が良いんじゃないかな?」(敵に塩の後)
久美子
「大丈夫だよ!北宇治は実力主義だから」
(久美子がそう言うなら信じてみるか)
~合宿開始~
(あれ?麗奈のソリに合わせて指で練習してる。実力主義は建前で本当はやっぱりソリ吹きたいんだ。思ってたノリと違ったわ)

8話
「やっぱり辞退しようか?オーディション」(脱衣所)
久美子
「昔大揉めしたけど今は実力主義が浸透してるよ」
(そうなのか。じゃあオーディション勝っても荒れないか)
~ソリ奪取~
ざわ…ざわ…
(死ぬほど荒れてる・・・思ってたノリと違ったわ)

9話
「私ね、やっぱり代わった方が良いと思うの」(10回通しの後)
「久美子ちゃん。やっぱり・・・」(自販機前)
久美子
「二度とそんな事言わないで!関西大会はちゃんと吹いて!」
(久美子がそう言うならやるか)
~合宿終了~
ざわ…ざわ…
(死ぬほど荒れてる・・・思ってたノリと違ったわ)

10話
言おうと近づくが奏が阻止
(本音を聞けてない気がするけど、次の全国大会で最後だ。空気的に皆久美子のソリを望んでるっぽいな。退くか)
11話
「私やっぱりソリ辞退するね」(個人連)

「この仕様でいきますよ。良いですね?」と何度も確認してるのに、いざ動き出そうとすると「何か違うんだよね~」とひっくり返され続け、気付けば全国大会はもう目の前・・・地獄です。

誰が悪いのか?

部が荒れるとか誰かに嫌な想いをさせるというのは、もちろんただの疑心暗鬼である可能性はあります。そんな事は百も承知だけど真偽を確かめずにはいられなかった。そんな事情があったのではないでしょうか。

自分の実力のせいで過去に部の空気をおかしくしたり、誰かを泣かせる結果になってしまい、それがトラウマとなっている。というのが無難な所でしょう。

となると、奏と同じですね。しかし、2人の再発防止策は異なります。奏の場合は、黙って身を引くという選択をしましたが、ママはきっちり要件定義をした上で、然るべき献身をしようとしたのです。

また誰かに嫌な想いをさせるのが嫌だったので、最もクリティカルなターゲットである久美子の真の望みはどちらなのかを引き出したかったのです。

A.実力主義を曲げてでもソリを吹きたい
B.自分が泣く事になっても実力主義を貫きたい

ママは、全国金常連の超強豪校出身であるだけでなく、マイユーフォを持っている事までバレています。

実力が推定されている以上、あからさまに下手に吹いてわざと落ちる事は無理があります。かといって全力を出してしまうと、実力主義が実は建前だった場合に久美子を殺す事になってしまう・・・行くも地獄戻るも地獄とはこの事です。

もうこれは正直に聞くしかない!
「オーディション辞退しようか?」
「ソリ吹きたい?」

なんて優秀なPMなんでしょう。煽りじゃなくてマジで涙が出ます。要件定義は本当に面倒なので、ある程度の所でなあなあで確定させてしまいたくなる所を、根気強く粘ります。正確な要件定義が出来るまで。

当然ですが、本作は主人公である久美子視点で描かれています。
目標を果たせなかった先輩達の屍の上に立ち、部長として、3年生として全国金を取りに行く総決算の物語。

そこに現れたラスボス黒江 真由。自信満々で嫌味な事を言ってくる大胆不敵で不気味な不穏因子として描かれています。得体の知れない嫌な奴に見えるように描写されてしまいましたが、これはもうママが被害者ですよ。

個人練スペースの相談や、たかが部活発言、忍び寄る足取り、オリジナル曲の事をずけずけと根掘り葉掘り聞いてくる態度。全てが叙述トリック的にホラーとして描写されていますが、久美子にはこう見えていたんだという主観を客観であるかのように見せられていた訳ですね。

ママは被害者だとすると、誰が加害者なのか?これはもう久美子としか言えません。うん、久美子が悪い。

部長という立場もありますし、実力主義でありたい・あって欲しいという想いは嘘ではないと思います。なので、100:0で久美子が悪いとまでは言えないのですが、久美子の方こそ疑心暗鬼にならずに「なんで何回も同じ事聞くの?過去に何かあった?」と軽く深掘りしてあげても良かったんじゃないかなと思います。

それを言うなら、ママの方こそトラウマを打ち明けてでも、本音を聞き出すべきだったんじゃないか?という考えもあります。しかし、事情を話したら話したで、久美子が忖度して身を引き、結果久美子が嫌な想いをする事にもなりかねません。部長であればこそ、やはり久美子が譲歩して話を聞いてあげるべきだったんじゃないかと思います。

打ち解けるための機会も提案されていたのに、何回か久美子から潰してますし。噛み合わない立場は悲劇を生みます。

ママとしては、久美子から「北宇治は実力主義だから負けたらしょうがないけど、麗奈とは3年間やってきた者同士の固い約束なんだよね~(チラッチラッ)」程度でも良いので、想いを聞き出す事が出来れば方針を確定出来た訳です。

もしくは、「完全実力主義だから、負けても絶対恨み言は言わない。全国金がかかってるから、むしろ手加減したら殺す」みたいな言質が取れれば、安心して久美子を殺す事が出来たのです。

実力者ゆえに、どっちつかずの状況が地獄に感じられたはずです。
空振りの要件定義の先には何が待っているのか・・・?




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