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ぼんやりと抱えた思いが夢であると気が付いた場所で

こんばんは。今日は未来の自分に残すように自分のことをつらつらと書いてみる。関係ないけれど、私は人の独白を読むのが好きなんだよね。

なぜ『こんばんは』なのかというと、私のいるところは夜の8時半。きっとこれを書き終えて、私がお風呂に入る頃には、日本は朝を迎えて丸ノ内線が人で膨らんでいるはず。

2週間以上前にロンドンに来た。
大学院生として日々がスタートし始めている。友達も思ったよりも順調にでき、私の周りにいる人たちが皆天使に見える。この人達が傷ついたり悲しくなるようなことが起きないで欲しいと常に思う。

さっきアボカドを切ろうとしたら、誤って指を切り、血が裂け目から押し寄せるように流れでた。思ったより深かったから、病院に行かなきゃいけないのかと焦ったけれど、ここはロンドンのフラットの密室で、私の隣にはアボカドしかいなかった。

心配事の9割は起こらない。
そう10分間言い聞かせて、手に当てていたガーゼをほどいてみたら、案の定血は止まっていた。

大学院に行きたいと強く思ったことはなかった。
ぼんやり、行けたらいいなと思ったのは、大学生の時に交換留学でイギリスに来た時だった。交換留学先の大学で、大学院生の友達がたくさんできた。その人達は最高にクールでかっこよくて、色んな出身地の人が英語を話し、未来のキャリアについて語っていた。

『あなたにとってイギリスは、東京みたいなものだよね』
そう母に言われたのは、大学3年生の終わりの頃だと思う。
母は、地方から上京して東京に来た。交換留学先の生活を楽しそうに語る私を見て、母は上京してきたばかりの自分の姿を重ねたのだろう。

『大学を卒業したら就職するよ』
そう母に宣言したのは、もう大学4年生の春だった。
本音を言うならば、つきたい仕事はなかった。でも嫌々言いながらも毎日働いている兄をみて、いつまでも甘えているわけにはいかないとぼんやりと思った。働くと言った時、母の安堵の顔を覚えている。
でも頭の片隅には、イギリスで見た大学院生の姿が常に住み着いていた。インターンもせずにバイトに明け暮れる日々の隙間時間は、夜間に働きながら通える大学院はないかとずっと指が探していた。

社会を知らないベイビーだった私は『とにかく定時に帰れる仕事に就く』ことを目標とした。余暇は自分の好きなことに費やしたい、そんなことを考えていた。
物事が変わり始めたのは、太陽が昇るようにゆっくりのようで、次の満月が現れるようにあっという間だった。

一番はコロナだ。
ちょうど就活期間にコロナはやって来た。
大学の友達が電話してきて、受けるつもりのないところを受けようよと私に誘ってきた。誘われたところは、明らかに多忙なところ。定時に帰れるなんて論外なところ。
変な話、記念受験のつもりだった。けれど結局、私は友達と一緒にその仕事に就いた。私はその友達が好きだったし、その友達が選ぶ未来をどこか当たり前のように自然に信じていた。

もうこのころには、大学院に行きたい、なんて気持ちは忘れ去っていた。コロナでどこにも行けない大学4年生の命を映画ばかり見て過ごしていた。

『大学院に行けるチャンスがある。しかも海外の大学院に』
そう気づいたのは、働き始めてすぐの時だった。気が付くのがいくら何でも遅すぎる。それでも、それを知った時、ごく当たり前のように自分は留学しようとぼんやりと思っていた。

忙しい仕事の合間に英語の勉強をした。大学院に行くには、会社からの許可をもらうための面接や、大学院受験もある。夜中の2時や3時まで勉強する日々が続いた。
みんなに『留学を目指すね』と高らかに宣言したことも、自分の中で固く決意したこともない。
ただ、行くことがあたり前とでもいうように、すっと自分の中で色んなことがスケジュールされていた。推薦を勝ち取り、大学院に受かるように、やらなければいけないことを淡々とこなしていた。(もちろん、仕事のストレスと英語の伸び悩みで、何度か発狂しそうにはなった)

そうして今、ロンドンにいる。20歳の時に見た、イギリスの大学院生と同じ立場になっている。
ぼんやりと抱えた思いがいつの間にか現実になっていた。
留学すること、それを夢と呼んだことはなかったけれど、大学時代の友達から『夢が叶ったってことだよね。おめでとう』と言われて、ああ、これは夢だったのだと気が付いた。

そうして、また今ぼんやりと思ったことがある。
たぶん、こいつもまた忘れられずに頭の片隅に住み着くんだろう。
そして流れるように生きて行く中で、この住み着いた”思い”があちこちで秘密裏に養分を拾い、いつか輝く海原を見つけたとき、それを目指してざぶんと飛び込んで行くのだろう。
そうして、たどり着いた海原に浮かぶ中で、『ああ、あれは夢だったんだ。これは夢が叶ったんだ』と思うに違いない。

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