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最後の猫

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理科があまり得意な方ではなかったし
顕微鏡で見た染色された細胞の画像を見ても
先生の言っていることが正しいとかわかるわけではないが
ネットで見た悪性リンパ腫疑いの場合の画像とは違うように見える
ちらっと見ただけだがじっくり見たところでやっぱりわからないだろう
これでもし疑われるようなものが見つかっても
結局は麻酔をかけて組織を取って検査しないと確定はできない

許可が出たので食欲増進剤を使ってみる
この薬の主成分は抗うつ剤だが副作用として食欲増進がある
日本では未承認だがアメリカではちゃんと猫用の薬として
効果も認められて使われているものだ
抗うつ剤なので使うと過活動気味になることがあるとのこと
ほとんど階段の上り下りをしなくなっていたあの子が
するようになったのもこのせいで
多分痛みや息苦しさであまり眠れないのか鬱っぽいような
気力のなさが感じられるあの子の気持ちが
少しでも上向いてくれたらとも思っていた
食欲の方はほとんどあきらめていた
想定通りこの日は食欲は出なかったが
話したそうな甘える様子を見せてくれた

喉の奥の腫れは少し大きくなって赤くなってきた
自分の舌で傷つけるかもしれない
そうなるとちょっと大変と言われる
そこでまたこれが何なのかというところに行きつく
「鼻腔内腫瘍ではリンパ腫が一番多い
あとは腺癌や扁平上皮癌もあるらしい…」
何にしろ顔の変形や骨が溶けたり腫瘍が自壊したりという
飼い主としては見たくない考えたくない愛猫の苦しみと
向き合わねばならず
食べることも寝ることも息をすることすら出来なくなれば
安楽死を選択肢に入れなければならぬ日が来るかもしれない

安楽死については否定しない
その先に痛みと苦しみしかないならむしろ考えたいとすら思っていたが
思うことと実際自分が実行できるかは全然違っていて
どうしても、自分のエゴでしかないとわかっていても
どんな形でも生きていてほしいと考えてしまうんじゃないか?
嫌だ
失いたくない
自分の「もの」ではないのに
愛してるよと言いながら口だけなんじゃないかと自問自答

薬の効果はすぐに切れて今度は1階から動かなくなった
よろよろふらふらしてしっかり歩けず
何とか水だけは飲んでいるがほとんど寝ている様子がない
耳を触るとひんやりしていて
今まではずっと体温だけは平熱だったのが
下がってきているようだった


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