最後の猫
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立ち上がっては転びを繰り返しながらも
あの子は少しでも楽になれそうな場所を求めて
ふらふらと動いていたが
階段の2段目に寝転んでいた時に様子がおかしくなった
手足を伸ばしたいような
走り出したいような
空を切るように動かしている
もしかしたらいわゆる痙攣じゃないのかとようやく理解すると
あの子は唸るような声をあげてからゆっくりと落ち着いてきて
また寝場所を求めてうろうろし始めた
本当に本当にもうその時が近いのだ
決めてはいてもやはり病院へ行くことに少し迷いはある
5分で行けるなら迷わないが車で30分かかる
通院時間がかかることは通院のハードルを上げてしまうが
それでも近いからと以前通っていた病院でひどい目にあっているので
遠くても信用できる病院の方がよかった
ぼんやりとコーヒーを飲みながら
もうお薬もごはんもないからね
こんなに可愛い、いい子だもん
何があっても愛してるからとなでながら話しかけていたけれど
あの子はただ辛そうでまた涙が出てしまう
どんなに辛くても当の猫の前では笑ってあげて
敏感な猫には飼い主の不安な気持ちが伝わってしまうからと
書かれたものを思い出したって
ずっと笑っていることは出来ない
手足がうまく曲げられないから
いつも使っているプラスチックのキャリーだと
楽な体勢になれないかと思い
使い勝手があまりよくなくてほとんど使っていなかった
ビニールのソフトキャリーを使うことにする
これだと横向きに寝たままキャリーに入っていける
動けないから車に乗せてからキャリーの上蓋を開けておき
すぐに様子が確認できるようにしてゆっくり運転で病院に向かう
開院の少し前に着いて
思ったより待合室が混んでいなくてほっとした
キャリーの中で横になっているあの子の鼻水を拭いてあげて
どのくらい待つことになるか考えていた
30分かからなそうだ
今までは待合室にいる時あの子はズーズー音を立てていたのに
今日はとても静かで
私は何度も呼吸しているのか確かめるためにキャリーを
覗きこんでは撫でていた
静かに横になっていたあの子がまた手足を動かし始めて
そっとしておいたほうがいいのかと上蓋を閉じてしばらく待つ
家にいた時と同じように小さく唸るような声を出した後
キャリーから動きが感じられなくなった
そっと蓋を開けて覗いてみるとあの子は開口呼吸をしていた
これまでどんなに鼻が苦しそうでも口呼吸をしているのは
見たことがなかった
とてもとても悪いんじゃないかとまた気が動転して
どうしたらいいのかわからなくなっていると
口を閉じ、治まっていたかに見えた手足をまた動かし始め
また唸るような声を出している
痙攣が治まったわけじゃなかった
痙攣発作の時間が長くなるのは良くないはず…
抱っこした方がいいのか
でも抱っこがそんなに好きな子じゃないから
暗くしてあげた方がいいのじゃないかと
撫でるのをやめてまた上蓋を閉じ
あの子の唸り声が治まるのを待って蓋を開けると
あの子はもう動かず、呼吸をしていないように見えた
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